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65 年頃の娘




 ヘウンデウン教に対する警戒は、私が思っていた以上に凄まじく、いかに、ヘウンデウン教という混沌を信仰する集団が嫌われているか分かった。

 部屋を移動するのは面倒くさいなあ、と思っていたところ、書斎で話を聞くことになり、私はフィーバス卿の前に座った。隣に座らないのか、みたいな顔をされたが、さすがにそれは恥ずかしくて出来なかった。




「それで、ヘウンデウン教のこと……この間の件について、何か分かったことがあるんですか」

「ああ。今回の襲撃を指示したのはラヴァイン・レイで間違いないだろう。わざと、家紋が彫られているナイフを使ったのは、見せつけるために違いない」

「はい」

「ステラは、本当に、ラヴァイン・レイと接点がないのか?」

「へ!?」




 思わず、声が裏返ってしまい、いけないいけないと取り繕う。しかし、フィーバス卿には通じなかったようで、もの凄い形相で睨まれてしまった。ここは腹をくくるしかないと、正直に話してみることにする。




「知っているというか、一度、アルベドの公爵邸にいるときに襲撃に遭いまして。その時、私が余計なことをして、逆上させたというか」

「じゃあ、これは単なる戯れに過ぎなかったんだろうな」

「た、戯れって。辺境伯の首を狙っていたんじゃないですか!?」




 私が前のめりになって聞くと、フィーバス卿は首を横に振った。

 もしかして、私がここにいるのを知っていて奇襲したとしたら、何処から情報が漏れたのか気になるところだ。それに、ラヴァインにそこまで執着されるようなことはしていない。好感度もマイナスだった気がするし、私のことを気に掛けるというか、そういう余裕が、果たしてラヴァインにはあるのか。

 私の知っているラヴァイン・レイという男は、災厄の時は本当にイタズラが好きで、でもそのイタズラがいきすぎていて、人の死を何とも思わない男だったけれど。災厄の後は、元からそう言う性格で、人殺しは何とも思わないけれど、ちょっと寂しそうというか、弟属性が強い男だったなあという印象で。災厄の時は、やはり、不野感情が増幅されるからか、皆おかしくなっていたんだろう。ラヴァインもその一人だったというわけだ。

 そして、今その状況だと。




(というか、戯れで、私を襲ってくるってどういうことよ!?悪意ありすぎない!?)




「わ、私が狙われていたと」

「まあ、これは予想に過ぎないがな。だが、ラヴァイン・レイという男は、そもそも人に感心を持たない人間だ。兄と似ているといえば良いか。だが、一度目をつけられると厄介な男には変わりない」

「は、はあ……」

「だが、ステラから、ラヴァイン・レイの魔力は感じなかった。追跡魔法が掛けられている千は薄い」

「じゃ、じゃあ、なんで……仮に私を狙っていたとして、どうしてその情報が?」




 本当に不思議である。そもそも、辺境伯領にヘウンデウン教の奴らが潜入できているという時点で、かなりイレギュラーなのである。それにくわえて、私がここにいるという情報が漏れているというのも。誰かが漏らしたとしか考えられない。




「どうやって、ヘウンデウン教の奴らは、ここに忍び込んだんでしょうか」

「それなんだが、少し結界に穴があったようだ。だが、そんな穴が開いていれば、気付かないはずがない。俺はすぐにでも修正しただろう」

「習性が追いつかなかったのと、気づくのが遅れたと?」

「それもあるが、何と言えば良いか」




と、フィーバス卿は悩んでいるようだった。フィーバス卿にも、説明がつかないことなのだろう。だから、上手く伝えられないと。




(フィーバス卿が気づかないって相当よね。でも、ラヴァインの魔力は気づくだろうし、追跡魔法もなくて……防御魔法に特化したフィーバス卿の魔力感知に引っかからない……)




 ふと、頭の隅にある人物の顔が横切った。あり得なくはない話。そして、ラヴァインとも繋がりがあるであろう人物。しかし、そいつが私を狙ってくる理由も分からない。それこそ、そいつの戯れか。

 でも、何にしても、エトワール・ヴィアラッテアが関与している感じではないので、そこは安心だった。私の存在を知られ得るのも、時間の問題かも知れないが、視察隊とか送ってきていない時点で、私への興味はないと考えられる。




「お父様にも分からない事ってあるんですね」

「……うっ」

「お父様?」

「申し訳ない。話そうと思っていたのに、説明が上手く出来ずに」

「いいえ、お父様も、混乱しているでしょうから!だって、前例がないことなんですよね。その、辺境伯領を覆っている結界に穴が開くとか、暗殺者が屋敷に潜入するとか」

「ああ……」

「災厄のこともありますし、その、気になさらず。まあ、今回の襲撃は私も驚きましたけど、なんともなかったですし。それに、追跡魔法がないってことは、まあ……その」




 よくはない。だって、居場所はバレているだろうから。でも、今以上に結界を強くするだろうし、そこは問題ないだろう。アルベドが戻ってこないことと、ラヴァインが首謀者だったことに、何か関わりがあるのだろうか。彼らが手を組んでいるとも考えられない。この時点の彼らの仲が最悪なことは私が一番知っているから。




「ステラ、すまない」

「全然大丈夫ですから!それに、ラヴィのこれは、今に始まったことでは……」

「今、何て言った」

「え、えっと」

「まさか、ラヴァイン・レイのことが好きだとはいわないな」

「へえ!?」




 いきなり、お父様がそんなことを言うので、椅子をガタンと後ろに倒してしまった。確かに愛称で呼んだけれど、それが好きとどう結びつくのか私には理解できなかった。でも、フィーバス卿の顔は怒っているような、そんな風に見える。




「ええっと、好き、って何の話ですか」

「愛称で呼ぶということは、それなりに好意があるということではないのか」

「あ、あっちが勝手に呼べっていったから……あ!」

「何だ」

「い、いえ……違います。あーえっと」




 前の世界に記憶と、今の世界の記憶が混ざって頭がこんがらがった。確かに、愛称で呼べっていいだしたのは、前の世界で、今の世界では、そもそも私とラヴァインは接点が限り無くなくて、そんな親しい間柄じゃなくて。

 だからこそ、フィーバス卿に突っ込まれてしまったのだ。私が、前提に、襲撃を受けたことと、知り合い? なのかな、みたいな感じに説明したから。だから――




(ばーか、何言ってるの私!?こんな誤解生むみたいな!?)




 どうにか、訂正しようと、あたふたしていれば、フィーバス卿は、ものすっっっごい、大きなため息をついた。ああ、また、またやらかした! と、私が、フィーバス卿の顔を恐る恐る見れば、彼は、頭が痛いというように額に手をついてもう一度、ため息をついた。




「ラヴァイン・レイはやめておけ」

「ええと、ええっと、何がでしょうか」

「お前には釣り合わん」

「な、何がですか」

「あの男との婚約も、結婚も俺は許さん」

「んんん?」 




 フィーバス卿は何を言っているのだろうか。理解できずに首を傾げていれば、フィーバス卿の透明な青い瞳と目が合った。もしかして、ラヴァインのことを、私が好きだと勘違いしているのだろうか。とんだ勘違いである。そんなわけがない。




「ああ、あのえっと、私、別にラヴィ……ラヴァインのことそういう目で見ているんじゃなくてですね。そんな婚約とか結婚とか!私が好きなのは――」

「好きなのは、何だ。誰なんだ」

「あ……え、いや、何でもないです」




 勢いでいってしまいそうだった口を閉じて、私は俯いた。さすがに、皇太子……リースのことが好きなんて、ここでは言えない。もしかしたら、フィーバス卿はリースには既に聖女という婚約者がいてな、とか諭されてしまうかも知れない。それだけは、苦しくなるから、私は言わないでおこうと思った。それに、その、貴族って婚約とか、愛とか恋とかに首突っ込んでくるものなのかなあとか、色々思ったりして。

 でも、父親が、娘の婚約者とか、愛とか恋とか気になっても仕方ないというか。それが普通なのかも知れないけれど。




「好きな人、今のところ、いませんから。それに、私、養子ですから、そんな自分勝手に婚約者とか見つけること出来ないでしょうし。気にしないでください」

「ステラ……」

「お父様」

「すまない、言い過ぎたな」

「い、いえ!そ、そりゃ、気になりますよね!娘のことですから!」

「そうだな」

「はい」

「もしよければ、婚約者、探すの手伝うぞ」

「はい?」

「ステラも、そうだな……年頃の女性だからな、そういうのに興味があってもおかしくない。娘が出来たと言うのに、すぐに結婚とは」

「あ、あのお父様」

「ステラ、好きな人が出来たら、俺に、お父さんに一度会わせなさい。婚約はそれからだ」




と、フィーバス卿は熱く滾った瞳で私を見るとそう言った。




(だから、違うんだってばあ!)





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