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62 全てを凍らせる魔法




(馬鹿馬鹿、寒すぎる!)




 怒っているのは分かった。フィーバス卿は怒ったら、炎じゃなくて冷たくなるのだと。馬鹿な事を言っていないで、火の魔法で自分を暖めればいいのに、かじかんできて魔法を発動できなかった。夕方に言われたことを忘れたのかと、冷静さを取り戻し、自分に火の魔法を付与した後、私は、目の前で武器を構える三人のヘウンデウン教の信者を見た。黒服、目深に被ったローブと、マスク。顔が判別できなかったが、彼らの持っているナイフの形状に見覚えがあった。彼らが握っているその柄の部分にあの家紋があれば、私の予想は当たっていることになる。考えたくもないけれど。

 フィーバス卿は、私の事なんて気にせず、暗殺者たちに近付いていく。

 本当にどこから入ったのか分からないし、今の今まで魔力を感じなかったのだから、凄い。でも、彼奴らから漂う魔力はそこまで大きくなく、かすかに他の人間の魔力を感じることから、自分たちで、隠れみの魔法を付与したのではないと言うことが分かる。




(協力者は大体分かるけど、魔力が違う。でも、この魔力って、確か……)




 いや、当たっていて欲しくないというか、彼奴とか思い出したくない。でも、どうなのだろうか。彼だったら、時間がまき戻ったとき、その影響を受けないのかも知れない。人智を越えた存在であれば、時間の影響は。




「貴様たち、一体何処から侵入した」

「……」

「答える気はないか。だが、貴様たちの悪行は知っている。生かす気はない」

「お、お父様、何も殺すことは!」

「ステラ、ここは、戦場だと思え。その優しさは不要だ」




と、私の言葉をばっさり切り捨てられる。優しいのがいいって言ったじゃん、意味分からない! 心の中でそう叫びつつも、確かに、フィーバス卿のいっていることは、この場では正しいのかも知れないと思った。


 ヘウンデウン教が、これまで何をしてきたか知っているから。肉塊……人工的な魔物を作る実験、村の人を虐殺……他にも言いたくないような悪事を色々してきたと思う。その活動がいつからか分からないけれど、混沌を崇拝していたというのなら、歴史の長い教団なのだろう。となると、彼らの悪行はここ数年に留まらず、もっと昔から――




(でも、殺すって、そこまで……)




 悪人は殺す、そんな変わった暗殺者がいたこと。改心したけれどいかれっぷりは変わらない元ヘウンデウン教幹部のことも。知っているから。だから、だったら、あの二人も殺されるんじゃないかって思ってしまう。フィーバス卿が、何処まで知っているか分からないし、別に、アルベドには悪い感情を抱いていないようだったけど、ラヴァインにはどうか分からないし。

 でも、ここを血の海にかえるのはちょっと違う気がする。




「おおお、お父様。でも、ここを血の海に返るのはちょっと……と思いませんか!?」

「掃除をすれば良いだけの話だろう。此奴らを生かして、他に被害が出たらどうする。俺を……ここを狙ってきたところを見ると、街の奴らには手を出していないように見えるが」

「た、確かに、被害が出たらあれですもんね……」

「分かったなら下がっていろ。これくらいすぐに片付けられる」




 確かにそうですね。フィーバス卿お強いですもんね。

 戦ったところはみたことがないし、どちらかといったら防御魔法に優れているから、防御で、盾とか壁とかで押し潰すのか、それとも氷付けにするのか、とか色んな想像が膨らんでくるが、やっぱり、殺す事にはためらいがないみたいだった。

 光魔法の貴族なのに、といういい方は好きじゃないし、いいたくないが、血の気が盛んというか、大切なものを守る為には致し方ないという精神なのだろうか。きっぱり割り切っているところは、嫌いじゃないのだが。




(それでも、目の前で殺人が行われるのを見て見ぬフリをするの?)




 ヘウンデウン教が……この三人が何をやったか知らない。私達を殺したら、街の人も殺すかも知れない。そんな想像だって出来る。可能性があるのなら、潰すべきだと思う。街の人の為にも。フィーバス卿の判断は何も間違っていない。彼も、きっと戦場を経験しているからこそ、情けは必要ないと思っているのだ。

 私には到底理解できないし、人殺しがダメだってことしかわからないけれど……だったら、死刑は人殺しだからダメかと言われたら、それはまた別問題になってくるし。

 ここは、フィーバス卿に任せてもいいのだろうか。いや、でも……




「あの、氷付けにするとかどうですか」

「氷付けだと」

「は、はい。カチコチに凍らせておけば、多分何もしないですし!ああと、お父様の魔力なら、破られることもないかなあと」

「ステラは怖いことを言うな」

「こ、怖いですか?」

「生き埋めと同じだろう。氷付けなど」

「い、生き埋め!?」




 そんな怖いことを言ったつもりじゃなかった。よくフィクションで見る氷付けをイメージしたのだが、違うらしい。氷付けにされたら動けなくなって、死ぬこともないし、そのまま冷凍保存……みたいなイメージだったのだが、違うみたいだ。フィーバス卿は、もの凄くどん引きしている。私が想像する氷付けとは違うらしい。




「極寒の地に裸で投げ込まれるようなものだ。拷問と一緒だな。だんだんと酸素が失われていき、身体の感覚がなくなっていく。だが、動くことも助けを叫ぶことも出来ない、オブジェと化して、死んだことすら気づかない。まあ、死体処理は楽だな。そのまま砕けばいい」

「……わ、私そんな想像でいってませんが!?」

「ステラのいう、氷付けはそうだ。一度やった事があるが、場所は取るな。まあ、氷付けにしたことも忘れてしまったがな。使用人が砕いて掃除してくれたらしいが……」

「ひえっ……」




 淡々と言ってのけるフィーバス卿の方がホラーだった。矢っ張りそうだ、私の想像していた氷付けと違った。確かに、拷問だろう。フィーバス卿がいったことが正しいなら。ちらりと、暗殺者たちの方を見れば彼らは震えていた。自分たちが、氷付けにされることを想像したのだろう。震えているところを見ると、何だか可愛く見えてくるが、全然可愛くない、多分厳つい男たちなので、このまま倒してしまうと、何だか吹っ切れた。




「捕らえるとかはしないんですか」

「捕らえてどうする。此奴らは、情報なんて吐きやしない。吐いたところで、たいした情報など持っていないだろう。幹部の情報の一つや二つ吐いてくれれば変わるが、やはり吐いたところでな……」

「幹部……」

「幹部は四人だ」




と、フィーバス卿はいう。四人ということは、ラヴァインと、ラアル・ギフトと、ブライトのお父さん……あと一人ということだろうか。思った以上に知っている人ばかりというのが恐ろしいが、数が分かっているだけでもたいした情報だろう。まあ、フィーバス卿が、その全員を把握しているかどうかは分からないが。




(聞かれても、答えるつもりないんだけどね……)




「ステラ、もういいか?」

「ええっと、何が」

「彼奴らを生かしていても何のメリットもない。だからここで殺す」




 フィーバス卿は優しく私を後ろに退けると、何の防御もなしに暗殺者の方へ歩み寄っていく。暗殺者たちも、警戒してナイフを構えるが、フィーバス卿が何かを呟いた瞬間、苦しみだし、悶え、その場に倒れた。皆同じように痙攣のような、そんな動きを見せて。

 本当に一瞬だった、血を吐くことも、氷付けにされることもなく。一体何をやったのか。私の目では追えなかった。いや、何かをしたというよりは、多分……




「お、お父様、今のは何を?」

「ユニーク魔法だ」

「ユニーク魔法」

「俺のユニーク魔法……相手の心臓を凍らせる魔法。内側から凍らせ死に至らせる魔法だ」

「凍らせ……死に至らせる」




 彼があまりにもあっさりというもので、私は理解するのに時間がかかってしまった。そんな、恐ろしいユニーク魔法があるのかと、何の代償もなしに、一気に三人も。彼らが死んだのは、フィーバス卿のユニーク魔法のせいだと。




「……」

「ステラ、怖いか」




と、フィーバス卿は、真意の分からない透明な青い瞳で私を見つめてきた。





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