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49 養子にしてください!




(全く理解できないって!そりゃそうかも知れないけれど、そんな顔していわなくても!)




 理解できない以前に、興味ないし、お前喋るな、みたいな感じで見てくるフィーバス卿を心から怖いと思った。人にこんな感情向けられるんだと、ラヴァインの一番ヤバかった時期とはまた違う、恐ろしさを感じた。ようやく、というか、さっきもそうだったけど、一段と、アルベドとブライトが怖いなあといっていた理由が分かった。この人は、人に興味を持っていないのかも知れない。そんな気さえした。

 ともかく、この人、多分私に興味ないんだ、ということだけ分かって、私はどうアプローチするべきか迷った。アプローチしたところで、どうにもならないんだろうけれど、興味をひかせることをいわなければならない。

 でも、一番忘れちゃいけないのは、この人の養子になるかも知れないってこと。やっていける気がしない。無理、怖い、寒い! その感情が渦巻いて仕方がない。けれど、前より災厄の影響らしい影響は受けていないように感じたから、これも前の世界の効果か、それとも、私がファウダーという存在を理解したからこうなっているのか。そこもよく分からない。でも、自分で勝手に落ち込んで立ち上がってと出来るなら、もう怖いことない。ないけれど、これは別……




「まさかとは思うが、アルベド・レイ。養子の話は、これのことか」

「だから、これとか言うのやめて貰っていいですかね。俺の連れに」

「連れか……随分と愉快な連れだな」

「だから――この、老害」

「何か言ったか、アルベド・レイ」




 いや、聞えているんだろう。さすがに、耳は遠くないと思う。けれど、そんなことを言ったら、氷付けにされる未来しかみえないので、私は何も言わないし、いえない。アルベドが、どうにか話を前に進めようとしているのだけは分かったけれど、それも上手くいっていないようだった。

 フィーバス卿の周りを取り囲む魔力は、膨大で、そして冷たく痛かった。雹が身体に突き刺さるような感じ。氷柱とかも……




「養子の話は却下だ」

「はあ!?まだ、何も言ってねえだろうが!」

「私の妻は早くに死んだ。世継ぎも残さずな……それから、後妻の話も、側室の話も出たが、俺は全部断った。何故だか分かるか?」

「……」

「妻を愛していたからだ。例え、子供をなせない身体だったとしても、俺は妻を愛していた」

「テメェの昔話は聞きたくねえよ」

「今更、養子などいらぬ」




と、フィーバス卿は吐き捨てた。


 でも、分からないでもなかった。けれど、同情することも、簡単に分かります、なんていうことも出来ないと思った。フィーバス卿を取り囲むその魔力と、空気感は、そこからきているのかも知れないと思った。アルベドも、思いきったことをしたものだけれど、それしか、フィーバス卿と繋がる方法がなかったのだろう。アルベドも攻められない。

 けれど、フィーバス卿がこんなんじゃ話は進まないと思った。




「それに――アルベド・レイも分かっているだろう。フィーバスの名を得たものは、この地に縛られると。養子にとってやってもいいが、それは、この地に縛られることになるんだぞ。さすがに、その話はしただろうな」

「した……が」

「したが、何だ?そこまで考えていなったと言うのか。話にならないな」




 そういって、フィーバス卿は屋敷に戻っていこうとした。アルベドは、引き止めようとしたが、フィーバス卿は足を止めなかった。確かに、フィーバス卿のいうとおり、そして、説明してくれたことが正しいのであれば、フィーバス家にその身を置くことになれば、それも、養子……娘としてはいることになれば、私はステラ・フィーバスとして、フィーバス卿が受けた祝福という名の呪いを受け継ぐことになる。ということは、魔力が永続的に……苦しいと、アルベドはいっていた。それはもう深刻そうに。今もフィーバス卿はそれに耐えていると。それにしても、何も感じない顔をしているけれど。




(……私も、覚悟。その覚悟は出来ていなかったかも)




 養子になることばかりしか頭になかった。でも、呪いを受け継ぐことになり、縛られることになるということまでは、考えが及ばなかった。もしかしたら、フィーバス卿は、私をそれから遠ざけるために? いや、そこまであの人が考えたりしないだろう。見る限り、私に何の興味もないように思える。




(……呪い、辛いし、痛いだろうし、縛られるって……永遠に。でも――)




 こんな考えじゃいけないって分かっているけれど、世界が元通りに戻れば、私はエトワール・ヴィアラッテアの身体に戻ることになる。そうしたら、私はその呪いから外れることになるだろう。そんな、チートな抜け道があるから、私は何処か、軽く考えていたのかも知れない。実際、そうだと思うから。

 ならば、呪いなんて怖くないと。今はそれを受け入れてもいいと……そうでなければ、ここで、話は終わってしまう。

 立ち去ろうとするフィーバス卿に、私は一歩前に出て叫んだ。




「あの、フィーバス卿!」

「何だ、まだ何か――」

「私、その呪い、引き受けます。フィーバス卿が自由に外に出られるよう、私がその呪いを肩代わりします」

「貴様に何が出来ると……理解できるというのだ」




 足を止める。フィーバス卿は、背中を見せたまま、そう口にした。まだ、その声は揺らいでいない。意思が硬いと見て取れる。

 何も出来ないかも知れないし、何も理解できていないかも知れない。フィーバス卿は、もしかしたらそこまで見抜いているのかも知れないと。でも、本当にここで終わってしまったら、ここまで来た意味がない。自分でも最低だと分かっているし、それってリセットできるから軽く考えているんじゃないかと言われたら、それまでの話になる。アルベドも分かっているのだろう。だから、彼の頭の中に、私がこの地に縛られるということがなかった。

 アルベドが、また珍しく私を不安そうに見ていた。思えば、私が変なことをするのはいつもの事で、珍しくないかも知れないけれど。




「まだ、フィーバス卿のこと知らないので、理解できません。貴方の、苦しみも、辛さも。妻のことも何も知りません。だから、私はあえて、何も知らない上でいいます。貴方の養子になりたいです。ならせてください」

「は?」

「ぷっ……」




 間抜けな、「は?」を発したのは、フィーバス卿で、堪えきれないと笑い出したのはアルベドだった。私も、真剣に言ったつもりだったのだが、ここに来てようやく羞恥心と、自分が絶対可笑しいことを言ったと自覚し、一気に顔の温度が上がっていく。馬鹿馬鹿馬鹿、と心の中でもう一人の私が叫んでいる。




(何!?養子になりたいって何!?アンタが選べる立場じゃないじゃない、ステラ――ッ!)




 前言撤回出来るだろうか。いや、ここまで来たら無理だろう、と私が、あわわ、と口を開いていると、それまで背中を見せていたフィーバス卿が振返り、私の方にやってきた。我に返って、背筋が伸びる。先ほどの冷たさは無いものの、威圧感は消えていない。いや、それは、元々の表情もあるんだろうけれど。

 私の前まで来ると、フィーバス卿はぬんっと私を見下ろし、眉間に皺を寄せる。まだ、何かご不満な点でもあるのだろうか。いや、殺されるかも知れない、とガタガタと震えていれば、フィーバス卿は、深すぎるため息をついた。




「はああぁ~~~~」

「ひぃっ、あああ、あのっ。え?」

「は?」




 バサッと何かが私の頭にかけられる。驚いたのは、私だけじゃなくて、アルベドもで、後からフィーバス卿が自分の上着を私にかけたことを理解した。何故、何故!? と、あたふたしていれば、またフィーバス卿は私達に背中を向ける。




「…………ここは寒い。一旦中に入ってから話を聞いてやる」




 そう言うと、ぶっきらぼうに扉を、ドタン、バンと閉めてフィーバス卿は立ち去ってしまった。嵐が通り過ぎた、屋敷の前で、私とアルベドは顔を見合わせることしか出来ない。温かさが戻ってきて、私は、かけられた上着が熱いくらいだった。




「もう、寒くないんだけど……」

「んじゃ、いらねえな」




と、アルベドはがさつにはぎ取って、脇に挟んだ。さすがに、それは……と思いながら、何も言えず、取り敢えず待たせたらまた何を言われるか分かったもんじゃないので、フィーバス卿の屋敷に入ることにした。


 本当に、冬の終わりかけのような寒さに戻ったのは意外で、風も少しだけ温かいような気がした。





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