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44 当たり前になってしまったもの




「アルベド」

「外出していけねえとは言ってねえが、黙っていくとはいい度胸じゃねえか」




 怒ってる? いや、この状況からしたら、怒っているのかも知れない。ヘウンデウン教の奴らは疲労していたし、私一人でも何とかなった。だから、加戦は必要なかったのに、彼はヘウンデウン教の残りの一人を殺した。殺す必要は感じなかったのに。

 アルベドは私を見ると、首を傾げる。彼にとって、これが当たり前になっているから、こんな態度をとれるのだろう。まあ、それはいい。




「ちゃんと出かけるっていうことは伝えてきた。それに、ノチェを連れているからそこまで心配することないんじゃない?」

「……お前に何かあったらどうする」

「私はそこまで弱くない」




 守られているばかりじゃいられないと思っているし、私だって戦えないわけじゃない。ノチェも連れているし。確かに、これといった理由なしに、出てきたのは不味かったかも知れないけれど、ここまで怒られるとは思っていなかった。

 第一に、アルベドこそ、何も言わずに出て行ってしまったではないか。まあ、それも、彼の当たり前なのかも知れないけれど。

 アルベドは、私とノチェを交互に見た。倒れているヘウンデウン教の男を見て、大きな舌打ちを鳴らす。なんで怒っているのか、未だに分からない。怒っている理由がもっとはっきりすれば、私も対処しやすいんだけど……




(――って、対処って何よ。別に、アルベドの機嫌を取ろうなんて思ってないんだけど!?)




 自分でも、なんて表現すれば良いか分からなくて、取り敢えず、アルベドが、ここに来た理由と、どうにか彼に許して貰うことだけ考えようと思った。それ以外考えている余裕はないから。




「怒ってるの?」

「あ?」

「いや、まあ、怒ってるんだと思うけれど。確かに、ヘウンデウン教に襲われたのは想定外。でも、私自身が襲われたわけじゃなくて」

「また、人助けか?」

「……そ、そうなるかも」

「……」

「何?」




 何か言いたげで、でもそれをグッと飲み込んでアルベドは、男に刺したナイフを引き抜いた。プシュっと男の身体から血が吹き出る。見たくないなと、私は視線を逸らした。もう死んでしまっている野田王が、情けも、同情もかけてあげられなかった。ヘウンデウン教だから、というのが理由になるかどうか分からないけれど、少なくとも、此奴らは、悪いことをしていて、罰を受けて当然だと。でも、死んでもいいかと聞かれたら、分からない。けれど、これから沢山の死者を出す……なんてことを考えたら、始末してもおかしくないのかもと。

 何を思えば良いか分からなくて、鼻腔をくすぐる鉄臭い匂いに私は皺を寄せるしかなかった。慣れるわけがない、この光景に、アルベドは感情が感じられない瞳でこちらに向かってくる。




「な、何?」

「どけ、そいつも殺す」

「は、はあ!?何で」

「ヘウンデウン教だからに決まってんだろう」

「ちょ、ちょっと待ってよ」




 私は、思わず止めてしまった。それをアルベドは、何故だと、訴えてくるようにこちらを見る。死んじゃえばいい人間なんていないだろう。アルベドも、今後のために、この気絶しているヘウンデウン教の男を殺そうとしている。理由は分からないでもない。

 けれど、私は目の前で人が死ぬところをみることができなかった。だから、止めてしまったのかも知れない。




「此奴らが何したか分かってんだろ?」

「わ、分かるけど……でも」

「ヘウンデウン教の目的は分かってんだ。殺しても問題ねえ」

「そういう問題じゃないでしょう!」




 私がそう言い返すと、後ろにいたノチェが私の肩を掴んだ。ふりふりと首を横に振る。ノチェの方が、アルベドと長い時間一緒にいるから、彼が言い出したら其れを曲げない性格だと分かっているのかも知れない。私達が、彼らを殺す事が出来なかったから、アルベドが殺す事になったのかもと。そう思うと、何だか情けないようにも思えてきた。

 他にも方法があるんじゃないかと。でも、アルベドの中で、悪人は殺すと決めているのかも知れない。なら、それを覆すことは出来ないのかも……




(それでいいの?)




 私は自分に問いかけた。それを許容していいのか。止めなくていいのか。




「待ってアルベド」

「まだ何かあるのかよ」

「確かに、ヘウンデウン教の目的は分かる。悪いことしていた奴らだって分かる。でも、アルベドが殺さなくてもいいんじゃない?」

「法がさばくっていうのか?」

「まあ、そうかも……じゃなくて。それもあるけど、法で裁かれるべき何だろうけれど!そうじゃなくて……その、エトワール・ヴィアラッテアについて知っているかも知れないし、ヘウンデウン教を捕まえるのって難しいなら、そういう使い道もあるんじゃないかなって」

「ふーん」

「ふーんって」




 アルベドは、私を上から下へと見ると、クスリと笑った。まるで、新しいおもちゃでも発見したような子供の目。少し、その無邪気さというか、好奇心の見える目を見て、ゾッとしてしまう。そういうタイプだと分かっていても、何だか、それが不気味に見えてしまうから。




「つまりは、拷問して、情報を吐き出させるってことだな?」

「ちょちょちょ、私、そこまで言ってないし!?」

「いや~ステラも結構な策略家だなあ。そんなことを考えてるなんて思わなかったぜ」

「……もう、そういうのじゃないし!」




 私がどうにか弁解しようとすれば、アルベドは、私の頭をポンと撫でた。何処か、私をいたわるような手つきに、私は思わず顔を上げる。するとそこには、何だかちょっぴり悲しそうなアルベドの顔があった。黒いフード付きのローブを脱いだ彼の髪の毛は少し乱れていて所々、あっちにこっちに髪の毛が跳ねている。紅蓮の髪が乱れている、だけではなくて、何だかその髪の毛が張り付いているようにも思え、急いでここに来たのかも知れない、なんて考えも浮かんできた。

 アルベドが、ずっと私に追跡魔法をかけているとは思わないけれど、でも、その類いの魔法をかけていたとして、いきなり路地裏、屋根の上、路地裏と移動したら驚いたに違いない。何かあったのだろうと、急いでここまで来てくれたとしたら。私は、結構きつい言葉を彼にかけてしまったのではないかと。

 今更謝ってもあれかも知れないけれど。




「アルベド、何か……ごめん」

「お前が謝ることねえだろう。俺に、人殺しを普通と思うなって言いたいんだろ?」

「そ、そうだけど……え、でも……アンタの当たり前とか、アンタのこととか考えずの発言だったかもとか、思って」

「……お前、前もいってたよな」

「前?」

「結構前」




と、アルベドは答える。そんなこと言った覚えがないのだが、アルベドの顔を見れば、それは嘘じゃないと分かる。確かに、私がずっとアルベドに抱いている思いだから。アルベドが幾ら闇魔法の家門で、人殺しが慣れていたとしても、それになれすぎないで欲しいって。


 それをアルベドは理解してくれていた。

 少し温かい気持ちになって、気を緩めれば、足下で倒れていたヘウンデウン教の男が立ち上がった。瞬間魔力が集まり、男の身体が光り出す。それはまるで、自爆するかのようだった。




「ステラ様お下がりください」




 ノチェが咄嗟に私を守る。だが、アルベドはその場を動かず、懐からナイフを取りだした。チカチカと光り出す男は、もはや人間のように思えなかった。いつ爆発するか分からない。




「くた、ばれ……」

「くたばるのは、テメェの方だ。能無しが」




 そう、冷たく吐き捨てる。男が爆発するよりも先に、アルベドのナイフが、男を貫いた。そして、集まった魔力は霧散し、その場に消え、彼が絶命したことを同時に私達に教えてきた。




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