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43 魔力切れは時間の問題




「きゃ、きゃああ!?」

「ステラ様、あまり暴れないでください」

「と、とんでる……」

「風魔法ですね」




 いや、理解できる。さすがに、魔法の知識はそれなりにつけてきたつもりだし、これが風魔法によって飛んでいるということはすぐにでも理解した。けれど、そこじゃない。

 屋根の上を走り、追ってくるヘウンデウン教をかわしながら、ノチェは軽々と、屋根から屋根へと飛び移る。まるで、獣の芸当だ。




(というか、こんなの滅茶苦茶目立つのでは!?)




 私が、この作戦をとらなかった理由として、目立ってしまうからしなかったというのをあげておこう。屋根を走るなんて普通では考えられないし、目立ってしまうに決まっている。それも、あっちは攻撃だってしてくるし、目立たない方がおかしかった。まあ、それで、その方法は使わないようにしようって思っていたのだけれど……ノチェは、これしか方法がないと考えたのか、私を抱き上げて、今進行形で、屋根の上を走っている。




「る、ノチェ……」

「何ですか、ステラ様」

「これ、すっごく目立つんじゃない?その……ね……」

「ご安心を。透明化の魔法をかけております故、普通の人間には認識できないかと。魔力を持つ、貴族……アルベド様や、ブリリアント卿のような方じゃなければ気づくことはまずないでしょう」

「そ、そう……」

「何か、他に問題でもありますか?」

「カメレオンってこと?」




 透明化の魔法というか、背景と同じ色になるというか、原理が分からないが、思えば、自分の身体に何か魔法がかかっているような気もした。これが、ノチェのいっている魔法なのだろう。さすがというか、彼女もこんな魔法を使えるのかと感心してしまう。もっとノチェを知りたいという気持ちと共に、自分の頭があまり回らなかったことを恥じた。そんな方法があるのなら、それを取ってみるべきだったのではないかと。けれど、ノチェと合流できたことに、今は安堵し、逃げることを優先しなければ。


 ノチェは、私の体に何か魔法をかけているのか、重いと言った感じもなく、寧ろ、重力に逆らって動いているようにも思えた。アルベドにも以前、こんな風に抱きかかえられて、追っ手をかわしたことがあったなあ、なんて懐かしく思う。それを、ノチェが知っているわけもないだろうけれど、この方法は、レイ公爵家ではよくとられるのだろうか。




(そうだったとしたら、意味分かんないんだけどね!)




 ピンチになったら、屋根の上を走って逃げるって、かなり方法としてよろしくないというか、転移魔法ではなくて、物理的に移動? とか、思ってしまう。これが効率いいといわれたら、もう何も言えないのだけれど。

 ノチェの腕の中で、安堵していると、私達の身体をかするかのように、炎の槍が飛んでくる。彼らは、自分たちの姿がバレてもいいと思っているのか、ことを大きくしたいのか。どちらにせよ、追いかけながら、攻撃を仕掛けてきていた。




「……ッチ」

「ひいっ」




 ヒュンと飛んでくる槍は、ノチェの髪を課する。彼女の髪の毛がパラパラと宙を舞う。ノチェは、苛立ったように、舌打ちを鳴らして、手に集めた魔力を斧状に変化し彼らの攻撃をそれで弾いた。いくら、私の身体を軽くしているからといって、片手で私を抱えて、片手で斧を振り回すなんてどんな芸当かと。ノチェはかなりの手練れとみた。




「る、ノチェ!」

「何でしょうか、ステラ様。暫く、黙っていて貰えるとありがたいのですが……気が散るので」

「ひいっ、ごめんなさい!」




 何でこっちが謝らなければならないのか。いや、守ってくれているノチェに対して、こっちが悪いのはそうなんだけれど、私だって戦えるのに、と声を上げたかった。でも、彼女が、力を貸してくれといわないのは、別に相手が取るに足りないのと、私が目立ちたくない、事を荒立てたくないと思っているから、それを尊重してくれているのだと思う。

 ノチェの洞察力と、戦闘力に感銘を受けるほかない。

 でもこのままじゃ、ノチェも魔力が尽きてしまう。彼女の魔力がどの程度のものなのか予想はつかないけれど、私みたいに無限じゃないだろう。アルベドが、私につけてくれたメイドだから、強いって言うのも分かるんだけど。




「ステラ様、一旦降ります。やはり、彼奴らは、正面からぶっつぶさないとダメみたいです」

「今、凄い言葉聞えたんだけど――ってひゃああああ!?」




 ひゅんと、いきなり屋根から飛び降り、シュタッと綺麗な音を立てて着地する。ノチェ自身何処も怪我していないようで安心したが、ヘウンデウン教の奴らも続けて降りてくる。

 彼らも披露しているのか、肩が上下している。体力勝負に持ち越せば、勝てたかも知れないが、ノチェのこともあって、私は不安だった。

 ノチェを見れば、涼しい顔をしていたが、少し魔力が乱れている。このまま使い続ければ、魔力枯渇で倒れてしまうだろう。そんなことあってはいけない、と私はノチェに声をかける。




「後は、私がやるから、その、ノチェは」

「ステラ様は、自分の手を汚したくないでしょう?」

「え……」

「主の手を汚させるなんて、私には考えられません。アルベド様から、貴方様を守るよう命じられたので。本当は、あのまま逃げ切ることが出来ればよかったのですが、私の力不足です」




と、ノチェは謝る。ふと、彼女の手を見ると、ポタリポタリと血が流れていた。彼らの攻撃を喰らったのか、若しくは、斧を握っていたせいで、豆が潰れたのか……とか。色々考えられたが、彼女が万全じゃないことを私はすぐに見抜いた。あっちも消耗しているけれど、一対二で戦うのはリスキーだと。


 確かに、手は汚したくないし、さっきの事で、私のことを理解してくれたものだと思っていたのだけど……




「ノチェ。大丈夫……下がって」

「ですが、ステラ様」

「ノチェだって、そんな状態じゃ戦えないでしょ?」




 私だって怖いし、戦うのは嫌だ。極力避けたい。殺そうとも思っていないし、ただ、相手が諦めて逃げてくれるのを期待している。主の手を煩わせたくないというノチェの気持ちは凄く伝わってきた。でも、私だって、自分のメイドの手を煩わせたくない。その気持ちは一緒なのだろう。




「今度は、私が相手する」

「ハッ、貴様が相手をするだと?」

「先ほど守られていたくせに、何が出来るというのだ」

「私の魔力気づいていないの?それとも、それすら感知できないような、ポンコツ?」

「何?」




 ギロリと睨み付けられる。彼らだって消耗していて、立っているのもやっとだろう。彼らは、自分の身を隠しながら、そして、風魔法と、火の魔法、三つ以上も使って私達を追いかけてきた。先ほどの狂犬のこともあって、彼らはかなり魔力を消費しているようにも思えた。疲労しているノチェなら勝てると思ったのだろうか。けれど、私が出てきた瞬間、彼らの顔は一変した。逃げればいいのに、プライドが邪魔してか、それとも、教団の信念からか……一歩も引いてくれなかった。面倒くさいなあ、と思いながら、私は両手に光の剣を生成した。二つ同時に作ったことはなかったが、こっちの方がバランスがとれて楽だった。




(まだまだ、魔法に不慣れってことよね……)




 魔法のことを知っているなんてこれでよく言えたものだと思った。何も知らない。だから、ノチェの魔法を見て驚いてしまった。

 私が臨戦態勢に入ったことで、あっちも本気を出さなければと思ったのか、各自真っ黒い槍を生成し、その矛先を私に向けた。あっちも、私がひいてくれるのを待っていたみたいだ。




「今すぐその剣を下ろせ。痛い目に遭いたくなければな」

「そっちこそ、もう魔力切れるんじゃないの?だから、私脅そうとしている。でも、そんな脅し効かないから」

「……クソっ」




 やけくそ、とでもいわんばかりに一人が地面を蹴って、その槍を突き刺す。私はそれをひらりとかわし、柄で男のうなじをこついた。すると、男はいとも簡単にその場に倒れ、カランカランと槍が音を立ててそれからまもなくして消えた。




「これでも、まだやる?」

「ハッ、今のはまぐ――ぐっ」

「え?」




 もう一人の男は、焦りを隠すように大口を叩いたが、その次の瞬間、彼の胸が真っ赤に染まった。左胸のあたりから、ナイフのような先端が顔を出し、男は、その場に倒れる。じわじわと、地面に血の海が出来ていく。




「――ったく、俺は外出を許可した覚えはねえが?」

「ある、べど……」




 靴を鳴らし、闇からあらわれたのは、黒いフードを被った紅蓮の男、アルベド・レイだった。彼は、少し機嫌悪そうに満月の瞳を細めて、私を睨み付けた。





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