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37 まず話し合うこと




 混沌の権能といえば、災厄の促進、いるだけで、人の感情が爆発するほど嫌な方向に増幅させられるというもの。後は、魔物の活性化か。

 ファウダーは、権能が奪われたというようにいった。ということは、やはりファウダーは今現在、不完全な姿なのだろう。だから、感情的というか……いや、これは、自意識過剰になりそうだけれど、私と関わったからで。それは、置いておいても、今のファウダーに災厄をどうこうできるほどの力はないというのだ。

 本当のストーリーでいえば、エトワール・ヴィアラッテアは、ファウダーの力を取り込んでラスボスになる。今まさに、原作通りだというのだろうか。




(分からないけれど……本当にその状態で、愛されたいって思うって異常すぎる……)




 エトワール・ヴィアラッテアは何を考えてこんなことをしているのか。やはり、ヘウンデウン教と繋がっているということは、世界を滅ぼそうとしている? もう、これ以上滅茶苦茶にしたところで何もならないっていうのに。




「分からない……」

「巡?」

「あっ、えっと、ファウダー。その、巡っていうのやめて欲しいなって思って」

「なんで、巡は巡でしょ?」

「まあ、そうなんだけど」




 キョトンとした顔で言われたので、こちらも反応に困ってしまった。巡というのは、前世の私の名前で、今世の私じゃない。かといって、エトワールの名前は、彼女が全て持って言ったに等しいし。私の名前じゃない。だからといって、巡と呼ばれるのも、と思ってしまうのだ。

 ファウダーの目を見ていると、吸い込まれそうになるので、一旦落ち着いてから、目線を合わせてみる。ルクスや、ルフレ立ち寄りも背が低くて、子供だって分かる。本当にまだ幼くて、中身が彼じゃなかったら、私と話すのも怖いと思うくらいだろう。




「今の私は、ステラって言うの」

「ステラ?」

「星みたいに綺麗っていわれて。そういう意味がこもってるんだって」

「いい名前」

「でしょ?」




と、私が言えば、ファウダーはうんと頷いた。素直でいいなあと、あの双子を比べてしまう。そうえいば、あの双子も今どうしているのだろうか。聖女には、かなり興味を持っていたし、あいたいっていってきたのは確かあっち側だった。だったら、エトワール・ヴィアラッテアを家に招いて、それを使用した彼女に魅せられてしまっているだろうか。あの双子とは、そこまで大きな接点はなかったとは言え、彼らも、私の敵になってしまったらと考えると恐ろしい。




「ステラはこれからどうするの?」

「ファウダーが協力してくれるっていったの、凄く嬉しいんだけど、私の身分は平民だし、頑張れば、皆の記憶が取り戻せることは分かってる。だから、頑張って関わっていってみようとは思うんだけどね」

「身分……そっか……それは、大きな課題かも知れないね」

「でも、アルベドと今度、フィーバス卿の元に行ってみようって話しになって。あわよくば、とか色々考えているから、そこの所は大丈夫」

「ぼくに手伝えることありそう?」

「うーん、そうだねえ……」




 キラキラと目を輝かせてくるので、これもまた困ってしまった。もしかしたら、ファウダー絡みで、ブライトと、とも思ったけれど、リスクが高い。外堀を埋めて、ゆっくり着実に、エトワール・ヴィアラッテアに近付かなければならない。けれど、時間をかけてしまったら、彼らの記憶は薄れていくばかりなのではないかと。非常に難しい問題なのだ。




「今のところは大丈夫。でも、しっかり気持ちは受け取ってるから!」

「うん、ステラ」

「ファウダーの方は大丈夫なの?だって、一応、ブライトには、混沌だってバレているわけだし……その、もし、仮にエトワール・ヴィアラッテアが、混沌を倒して、さらに自分の名声を広めようって思っているなら、その身を隠すとか」

「大丈夫、だと思う」




 ファウダーは少し眉を下げる。自分の存在が、人に害をなす、それを分かっているからこその反応だという風に見えた。私も言わなきゃよかったと思ったけれど、もう口にしてしまったのだから取り返しがつかない。

 ここで下手に、違うの! とか、叫んだら、彼をまた傷つけるだけだと思ったから。




「ぼくは、大丈夫。それに、話してみたいんだ。ブライト・ブリリアントと」

「ブライトと?」

「うん。この世界は、どうなるか分からない。でも、ステラがしたいようにすればいいと思う。だけど、少しだけ、話してみたい。あの世界で、話せなかったこと。兄弟だから……そう思っていないかも知れないけれど」




 不安げながらもそういって、ファウダーははにかんだ。その笑顔が可愛くて、私は思わず抱きしめてしまう。こんな思いをしていること、ブライトは知らないだろう。彼は、今、エトワール・ヴィアラッテアに夢中だから。弟のことは、ただの仇という風にしか思っていないかも知れない。けれど、そうだったとしても……




「私も、協力する。私が、したかったことと、一緒だから」

「ステラがしたかったこと?」

「うん。世界が元に戻ったらい見ないかも知れないけれど、あの世界で出来てしまった多くの後悔を、この世界では消したいなって。傲慢すぎるかもだけど」

「ううん、ステラらしくていいと思う」




と、ファウダーはにこりと笑った。彼がこんな風に笑えるようになったことに、私も悦びを感じつつ、自分で自分のやることを増やしているんじゃないかと、不安にもなってきた。声に出していうことは良いけれど、それが全部出来るとは限らないわけだし。


 そんな風に、不安を抱えていれば、ファウダーは、何か気づいたように私の顔をじっと見てきた。何かついているのかと思って首を傾げれば、ファウダーは小さな口を開く。




「そう言えば、アルベド・レイは覚えているの?」

「覚えているって、前の世界のこと?」

「うん」

「まあ、何でか分からないけれど、覚えていたみたいで。その理由は全く教えてくれないんだけど……」

「……」

「ファウダー?」




 ファウダーは何か考え込むように俯いた。彼は、理由を知っているかも知れないと思ったが、下手に聞くのも悪いと思って口を噤む。ファウダーは結局教えてくれることもなく、話を変えた。




「世界には、沢山のほころびが出来ていると思う。だから、そのほころびをたたければ、前の世界の記憶が流れ込んでくると思う」

「こうかん……じゃなくて、何かきっかけがあればいいってこと?」

「うん。言葉に出してみるとか、面と向かって話してみるとか」

「あ、ああ……」




 それをやってみて、ERROR表示が出たんだよなあ、とはいえず、目をそらす。さすがの、ファウダーといえど、ERROR表示については分からないだろう。




「まあ、兎も角、色々試してみることだと思う。こうして、また会えるか分からないけれど、ぼくはステラの味方だから!」

「ありがとう、ファウダー」




 私はそういって彼の頭を撫でようとしたとき、こちらにタッタッタと向かってくる足音に気がついた。ここは、ファウダーが結界魔法を這ってくれて、はいってこれないはずなのだが。




「長い時間、魔法を使うことは出来ないんだ」

「さ、先にいってよ!」

「ごめん。不完全で、それも子供の身体だから。上手く扱えなくって」

「そ、そうなの……じゃなくて!」




 だれが、近付いてくるか分からない。私は、思わずファウダーを庇うように、前に出て、その足音に耳を傾けた。すると、暗い路地の方から、白い布がひらりと舞う。そして、ハッハと、息を切らした男の人が私達の前に現われた。漆黒の髪に、アメジストの瞳を持つ、魔法侯爵……




「ブライト……?」



 彼のアメジストの瞳は私を捉えると、少しだけすぼめられ、眉間に皺を寄せた。




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