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34 これはゲームじゃないから




『お前は誰だ?俺の知っているエトワールは此奴一人だ』

『エトワール様の名前を気安く呼ばないで下さい。貴方なんて、エトワール様の足下にも及ばない』

『エトワール様は、僕を救って下さいました。彼女は僕の救世主なんです』

『貴方は、本物の聖女様じゃない』




 一斉に責め立てられて、私は逃げ出したい気持ちで一杯になる。聖女じゃないって言われるのも慣れているはずなのに、その言葉がグッと胸に刺さって抜けることはなかった。痛い、痛すぎる。私が何をしたっていうのか。そう叫びたかったけれど、全て泡になってその場に消えていく。私の言葉なんて届かないんだと絶望して。





「――テラ様、ステラ様!」

「……はっ、あ、あ、……の、ちぇ。ノチェ?」

「はい。ノチェです。大丈夫ですか、ステラ様……」




 目を覚ますと、そこには、この世の終わりとでも言わんばかりのノチェの顔があった。彼女は、珍しくその瞳を潤ませて、私が目を覚ましたことを、何よりも喜んでいるようだった。一体何があったのかと首を傾げれば、まだじーんと痛い頭が、動かすなと命令してくるようで、私は身体を起こすことが出来なかった。




「ノチェ、ごめん、何があったの?」

「朝食の後、ステラ様が倒れて、主治医を呼べと、アルベド様が慌ててとんできて。医者には診て貰ったのですが、なんともないと言われて。それで、ステラ様は、丸一日寝ておられました」

「そ、そう……」




 言われると、壮大な、と私は、自分の身に起きたことなのだが、全く実感がなくて、ゾッとした。倒れた記憶もあったし、抱き留められた感覚もあった。けれど、その後はすっかりと抜け落ちている。気を失っていたから仕方がないことなんだろうけれど、あまりにも……




(あの、ERROR表示……侮れない……というか、怖すぎ)




 パソコンがウイルスに感染しました、みたいなあの警告と似ている感じがして、あれが、目の前で起こって何が何だか分からなかった。出てきた理由も分かったけれど、それがまるで本当のゲームのようだったから。この世界がゲームの世界なんだって知らしてくるようで、私はそれに対して違うと言いたかった。ゲームだけれど、この世界で、ここで生きているから。

 まあ、ERRORにたいして何を言っても無駄だって分かっているから言わないし、アルベドも、ノチェもその事については何も知らないだろう。彼らは、ここで生きている人なのだから。私だけが、この世界がゲームの世界だと知っている。今となっては、ここが現実なのだけど。




(じゃなくて!というかERRORで倒れましたなんていえないから、どう言い訳すればいいんだろう……)




 そう、そこが問題なのだ。さすがに、ゲームだっていえないし、だからといっていきなり倒れたら、料理に何かはいっていたのではないかと、疑われそうだし、それはそれで可哀相で……




「ノチェ、アルベドは何処にいるの?」

「アルベド様は、今公爵邸を留守にしております」

「何処かに行ったってこと?」

「はい。でも、場所は分かりません。いつも、大体何も言わずに飛び出していくので」

「そ、そうなんだ……アルベドらしいと言えばらしいけど」

「困りますよね」




と、ノチェはため息をついた。まあ、使用人からしたらたまったものじゃないだろう。アルベドが幾ら人を信じていないからといって、これはあんまりすぎると思う。私だったら嫌だし、不安になるのは誰だってそうだと思うし。




(でも、それができないんだよね……) 




 まき戻る前の世界でも、そこは解消されなかった。過去に刻まれたものはどうしても彼の足枷になって、足枷になるくらいなら、信じるという気持ちもなくそうと思ったのではないかと。




「何処に行ったとか、心当たりない?」

「ないですね。いつも、突拍子なので」

「ええっと、朝食のとき何があったかとは聞いたりした?」




 そう私が聞くと、ノチェの目線がふらあっと横にずれた。これは、知っているなと思って問い詰めれば、ノチェはすぐに白状した。




「ラヴァイン様が現われたんですよね」

「そう!ラヴァインがあらわれて!」

「ステラ様は、ラヴァイン様ともお知り合いなのですか?」




 ノチェは、また不思議そうに私の方を見る。ますます私の存在が得体の知れないものになっていく感があって、私としても、どうにかしなければと思った。ラヴァインとかは、最終的に思い出してくれればどうにかなるけれど、ノチェはまず私と前の世界で接点がないわけだし。




(あ……でも、世界を元通りにしたら、ノチェとの関係は?)




 世界を巻き戻すと言うことがどういうことか、未だ少し実感がなくて、でも、元通りになるって言うことは、今の関係はなくなってしまうかも知れないわけで。




「ステラ様、どうしたんですか?」

「あっ、えっと、ラヴァインとの関係ね!ええっとね、アルベドに聞いたの。弟がいるって。大変だって」

「大変……まあ、そうかも知れませんが」

「悪い人じゃないんだよ!ラヴァインは!」

「はい」




 変に取り繕ったせいで、ますます不信の目を向けられる私。どうしたものかと思って、取り敢えず身体を起こそうと思った瞬間、ぐう、とお腹が鳴ってしまった。恥ずかしい。絶対聞かれたと思ってノチェを見れば、ノチェはプッと噴き出して、いつも通りの顔に戻った。




「い、今笑ったよね?」

「笑っていません」

「そのいい方、絶対笑った!あーもう、恥ずかしい。お腹空いていたの」

「朝食お持ちしましょうか?」

「一人で食べるの寂しいから、ノチェも一緒に食べる」

「そんな、子供みたいな……何でもありません」

「今、子供みたいなって聞えたからね?ちゃんと聞いたからね?」




 ノチェは逃げるように、では準備しますねーと出て行ってしまった。あっ、といったときにはもう遅くてそこにはノチェはいない。逃げ足が速すぎる! と、私は呆気にとられる。ノチェもノチェで不思議な力を持っていそうだなあ、なんて考えながら、私は一人ベッドで膝を抱えた。

 久しぶりに会ったラヴァインに対して何も言えなかったあ。はじめから、記憶が無いと分かっていたから、あんな態度を取ってしまったのかもしない。彼が、前の世界で、ヘウンデウン教に属していたときどんな風だったかなんて考えれば分かったのに、挑発するような真似をして。好感度もマイナスだし、いいスタートとはいえない。でも、はじめから、ラヴァインが攻略キャラとしているのは何だか新鮮だった。




(というか、アルベド本当に何処に行ったのよ)




 私を助けてくれたのまでは覚えているけれど、起きたらいなくて、何処かに行っていて、もしかして、ラヴァインを追いかけた? と思ったけれど、何だかそれはしっくりこないから違うのだろう。何か用事があって出ていったに違いないけれど。

 そう思っていると、トントンとノチェが部屋をノックする。彼女が持ってきたのは、昨日食べたサンドイッチだった。美味しかったから、また食べたいなあと思っていたところだった。




「朝食は、これでよろしかったでしょうか」

「ノチェもしかして、エスパー?」

「エスパーとやらが何かは分かりませんが、アルベド様が、美味しそうに食べていたと行っていたので」

「アルベドって、もしかして、ノチェに何でもかんでも話したりする?」

「……」

「また視線逸らした!」




 これは、何か繋がりがありそうだと思ったけれど、そこに関しては、口を開いてはくれないだろう。あくまで、アルベドから言い渡された職業というか、役職だから。私の侍女けん、護衛は。まあ、別にアルベドにバレてダメなことはないし、アルベドもそれで安心できるならいいと私は思うことにした。

 サンドイッチにかぶりついて、美味しい! なんてホッペタを触りながら、私はこれからの計画を立てる。フィーバス卿の元にはその内行くことになるだろう。何を話せば良いかとか全然決められないけれど、なるように成れとしか思わない。アルベドに、貴族のマナー作法を教えて欲しいからって言ったら先生をつけて貰えそうだけれど、一応基本的なことは頭に入っている。今以上にとなった時は、そりゃ必要かも知れないけれど。




(一回、帝都の方にいってみる?それは、ちょっとリスクが高い……かな?)




 他の攻略キャラ、リースは皇太子だからそうそうお目にかかれないだろうし、ならば、ブライトや、ルクス、ルフレあたりは……




(って、彼らも貴族だしそこら辺を歩いているわけないよね)




 けれど、行動しなければはじまらない。私はそう思って、サンドイッチを詰め込んでノチェの方を見た。




「どうしました?ステラ様」

「アルベドに内緒で、帝都に行きたい。だから、ついてきて欲しいの」




 ノチェは、少し嫌そうに顔をしかめた後、いつもの感情の読めない顔で「今すぐ準備します」と言って頭を下げた。




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