番外編SSハロウィーン2023
10月31日今日はハロウィーンということで、番外編です。
現在本編のキャラと、今回の番外編のキャラは温度差激しいです。
温度差激しくて耐えられないという方には推奨しません。その場合、明日以降の話からお読みください。
本編と大きな関わりはありません(時系列も詳しくは決まっていませんが番外編~巡廻~の中盤あたりです)以下のことが大丈夫な方は、スクロールしてください。
「お姉様っ、ハロウィーンという文化についてご存じ?」
「え、まあ、もちろんだけど。どうしたのトワイライト?」
優雅な昼時、妹のトワイライトが目を輝かせてハロウィーンについて聞いてきたので、私はいきなりだな、とカップをソーサーにおいて彼女を見た。トワイライトは、興味津々といったように、星が目に浮かんでいる純白の瞳を私に向けている。そういえば、この世界にはハロウィーンという文化がなぜかあるんだよな、ということを思い出し、私は再度トワイライトを見た。彼女はこの世界に来てまだ日が浅い。といっても、数か月は一緒にいるし、ひょっとすると、一年近くになるかもしれない。まあ、それは置いておいて、彼女は前の世界で、行事という行事を楽しめずに生涯を終えた。今も、聖女という肩書に縛られ、自由ながらも不自由な生活を送っている。
そんな彼女が、天使の笑顔で私を見ているのだから、ハロウィーンくらいは、はっちゃけてもらいたいと思ったのだ。それに、たぶん、トワイライトは仮想が似合うし。
「あ、あの、お姉様。ハロウィーンというものが、どういうものかは、分からないんですけど、その、えっと、仮装というものをするらしいです。お菓子を、もらいに行く行事? なんですか?」
「ええっと、元は収穫祭で……この世界はどうかは分からないけれど、まあ、仮装をしてお菓子をもらいに行くのは間違ってないと思う。多分……」
「そうなんですね! 貴族も、仮装をするんでしょうか」
「さ、さあ。そこまでは……えっと。トワイライトは、その、ハロウィーンが楽しみなの?」
「はいっ」
「まぶしいっ」
思わず声が出てしまった。
ぱぁっ、と顔を明るくしたトワイライトは、本当に天使だった。聖女、聖女の笑みはこういうもののことをいうのよ! と知らしめるようなそんな笑顔を私は直視できなかった。トワイライトは、かわいらしく首をかしげているが、彼女は、自分の美しさに気づいていない。可愛さに気づいていない。トワイライトが仮装したらそれはもう、入れ食い状態!
(いけない、いけない……妹でどんな想像してんのよ)
トワイライトが可愛いのは今に始まったことじゃないし、トワイライトの可愛さを一番理解しているのは私。そんな優越感と、妹を自慢したいシスコン精神を胸に、ハロウィーンについて改めて考えてみる。
一応、この世界に存在するハロウィーンという文化。リュシオルが「そういえば、もうすぐ収穫祭ねえ」なんて言っていたことを思い出す。一応肩書は収穫祭。それに乗っかる形で、仮装だの、いたずらなどするよくわからない文化……現実世界だったら都内がごった返してしまう、陽キャの文化……アウトドア派で、オタクの私はハロウィーンといえば、限定イベント! という認識しかないけれど、陽キャの人たちからすれば仮装! イタズラ! お菓子! パーティー! なんだろう。縁のない行事だと思っていたけれど、この世界にゲームがない以上、そういう行事を楽しんでみてもいいかなあ、何ても思う。それに、トワイライトが楽しみにしているから。
「お姉様と、ふ、双子コーデをしてお祭りを回りたいんです」
「ん~~~~可愛すぎる。私もしたい!」
本当の妹だから、双子だし。でも、そんな可愛い妹から双子コーデなんていう言葉が飛び出して、私の心臓まで飛び出そうになった。平和になったからこそ、二人で遊びに行く、なんてこともできるようになった。
当日はもう、トワイライトと行くことが確定したな、と私からも一緒に行こうと約束しようとしたとき、お邪魔虫が現れた。
「何々?エトワール、ハロウィーン楽しみにしてんの?」
「ら、ラヴィ……」
「うわっ、何そのいやそうな顔。傷つくなあ」
聖女殿の居候、ラヴァイン・レイ。兄のアルベドはどこに行ったのかいまだによくわかっていないけれど、こいつはずっとここに居座っている。公爵家の次男だから邪険に扱うこともできないし、何気に番犬代わりとして役に立っているため追い出すこともできない。ただ、いきなり現れて、しかも女の子のお茶会に乱入してくるのはどうかと思う。
確かに、あからさまに嫌な顔をしてしまったのは申し訳ないと思っているけれど、まず悪いのはこいつだと思う。
「何?」
「何って、ハロウィーンの話していたから。俺と回らない?」
「回らないわよ。というか、話を聞いていたならそんな発想にならないと思うけど?」
「トワイライト様~譲ってくださいよー」
「いやです。お姉様は誰にも渡しません」
バチバチと二人の間に火花が散る。私としても、トワイライトと回りたいんだけど、ラヴァインは言ったら聞かないし……だからといって、異色三人メンツで行くのも気が引ける。
(星流祭の時は、ほとんどの攻略キャラと回ったけれど……)
黄金と、紅蓮が頭の中でぶつかる。あの美しい星空を思い出す。
そんな感じで一人感傷に浸っていれば、バチバチとぶつかっていた火花が、こちらに飛んできた。
「じゃあさあ、トワイライト様。三人で回りましょうよーそれなら、文句ないでしょ?」
「文句ありまくりです!貴方がいると、落ち着きません」
「護衛は連れていくんでしょ?俺強いから大丈夫だって」
「意味が分かりません。お引き取りください。ね、お姉様!」
「え、あ、うん。トワイライトの言う通り……」
「エトワールは俺の味方してくれてもいいんじゃない?三人で回れば解決じゃん」
「だから、何でアンタが話を進めて……」
もう、ここまで来るとめんどくさくてどうでもよくなってきた。どうせ、ラヴァインは折れないし、トワイライトもおれないし……ならば、ラヴァインの思惑通りになるだろうけれど、三人で回った方が……
そう思っていると、ザク、ザク……と芝生を踏みしめ、こちらに向かってくる足音が聞こえた。ふっと顔を上げれば、そこにはまばゆい黄金がある。後ろから、追いかけるように灰色の髪、ルーメンさんが追いかけてくる。
「殿下っ」
「り、リース!?」
「邪魔したか?」
流し目。ルビーの瞳は、私を見ているけれど、どこか冷たかった。大方、後ろにいる紅蓮の弟のせいだろう。にじみ出る嫉妬は、私にはどうしようもなく、というか、その嫉妬不満アピールをしながら来ないでほしい。
(嬉しくないわけじゃないんだけど……ね)
晴れて恋人、婚約者になってからは、それはもう周りを囲みに囲みまくっているリース。対等でありたい、同じぐらい愛して、愛し合いたい、という思いもあって、一人突っ走らないでとは言っている。彼はそれを律儀に守って、抑えてくれてはいるのだが、それでも、溺愛っぷりが止まらない。嫌じゃないけれど、恥ずかしいし、一方通行のように見えてしまうから、なんだか癪。
好きだけど、どうやって伝えればいいか分からないっていうのもあるけれど。
「じゃ、邪魔じゃないけど。てか、何できたの?」
「婚約者に会いに来るのに理由がいるのか?」
「……らないけど! でも、一言ほしい。てか、ラヴィもそうだけど、今は姉妹の時間を楽しんでたのに」
「そうです! 殿下! お姉様と至福のラブラブ時間を過ごしていたのに!」
なんか余計な言葉が聞こえた気がする……と思いながらも、私の腕にしがみついてきたトワイライトをはがせるはずもなく、私は、彼女が腕にまとわりついた状態で、リースを見る。なんかやっぱり、不機嫌な顔をしている。
「ハロウィーン」
「皇太子様はお暇なんですか」
「……」
「…………」
「一緒に回りたいの?」
「ああ」
最初からそう言えばいいのに。いや、そういうつもり出来たんだろうけれど、私が遮ったからか。
リースは、少し傷ついたような顔をしていた。一緒に回りたいっていう気持ちは、リースが来てから膨れてきているけれど、最初に約束したトワイライト、流されてしまいそうになったラヴァイン、婚約者のリース。三人の願いをかなえる方法なんて思いつかない。私は一人しかいないわけだし。多分、ラヴァイン以外は、みんな二人きりで回りたいと思っているだろうし。
(うーん、めんどくさい)
思考を今すぐに放棄したかったし、この場から逃げたかった。ハロウィーンなんて、来年もあるんだし、誰かが譲ってくれてもいいのに、それをしようともしない。
そもそも、行事ごとがそこまで得意じゃないから、みんなでわらわら歩くのも嫌。誰か、この気持ちを察してくれる人はいないだろうか、とうつむいていたら、ルーメンさんが助け舟を出してくれる。
「聖女様……エトワール様が困っていますから、皆さんいったん落ち着いてください。ハロウィーン以外にも、様々な祭りが、ラスター帝国では行われますし、別にハロウィーンに限らず……ね」
「ルーメンさん!」
私は、思わず叫んでしまう。一気に、ルーメンさんに視線がいき、トワイライト、ラヴァイン、リースの的となってしまうルーメンさん。彼は、困ったように顔を固めていた。余計なことしちゃったなあ、かんはあったけれど、私も、三人に迫られて辛かったのだ。いや、でも結果的にルーメンさんが責められるようになってしまって申し訳ない。
この場をどう治めるべきか、私は悩んでいると、急にぐいっと腕を引かれてバランスを崩す。でも、倒れることはなくて、チューリップの匂いがする彼の腕の中に収まってしまう。
「ら、ラヴィ……」
「お姫様は、誘拐させていただきまーす」
「おい、待て、紅蓮の愚弟ッ」
リースが手を伸ばす前に、ラヴァインは転移魔法を唱え、すぐさまこの場を離脱する。勿論、それに巻き込まれて私も。
◇◇◇
「ちょっと、アンタ何やってんのか分かってるの!?」
「えーでも、エトワール困ってたじゃん」
「困ってないわよ。てか、困らせたのは、アンタ達だし……」
帝都の、暗い路地。転移したのは、何処かも分からない、そんな陰気くさい場所だった。闇魔法だから、日陰の方がいい……見たいな所はあるんだろうけれど、本当に誘拐というか、戦線離脱というか。やることがなあ~と、私は溜息が出る。帰ったら、リースに滅茶苦茶怒られそうだし、ラヴァインも聖女殿にとどまれるかどうかも怪しくなってきた。でも、大体此奴のせいなので、処罰を受けるのはラヴァインだけだろう。でも、ラヴァインは今や、聖女殿の用心棒だし、いて貰った方が心強いからなあ。
「今、エトワールが考えていること当ててあげよっか」
「何?」
「俺がいなくなったら困る」
「半分あたりで、半分不正解」
「半分あってるんだ。やっさしい」
「はあ……ほんと、お気楽ね」
ラヴァインは、キャッキャッと喜んでいる。それが、本心なのか、わざとなのか分からないけれど、面倒くさいことこの上なかった。鬱陶しい。
(本当に、リースにどんな顔して謝ればいいのよ)
もし、リースが婚約者が誘拐された! なんて騒ぎ立てていたら大事になるし、それこそ、本当に面倒くさいことになる。ラヴァインは後先考えずこんなことしたのかと睨めば、ん? というように首を傾げていた。やった事の重大さが分かっていないらしい。
「本当に、アンタ怖い……」
「まーエトワールが謝ってくれれば、皇太子殿下もそこまで怒らないんじゃない?」
「怒らないんじゃない?じゃないのよ。ほんと……てか、分かってて。もしかして、私を盾にしようとしてる?」
「してない、してない」
「目が泳いでいる」
「えー」
まるで子供の会話だ。ラヴァインは口笛を吹いて誤魔化そうとしている。でも、それが図星だって自白していて、私はまた溜息が出た。
「なんでこんなことしたの」
まるで、幼稚園児に問うようだった。
ラヴァインは、私の方を見て少しだけ肩をすくめる。
「独占したかった」
「は?」
「俺だってさあ、少しぐらいエトワールを独り占めさせて貰えてもよくない?」
「意味分かんない」
「確かに、皇太子殿下の婚約者かも知れないけどさ。エトワールって凄いモテるから」
「モテないし、やめて」
非リアで、オタクですけど? 何て言っても、ラヴァインには伝わらないだろう。でも、私とモテるという単語はどうしても繋がらない。私がギッと睨めば、ラヴァインは「あー怖い」なんて軽口を叩く。
「まあ、そう言うことなんだよ」
「どういうことよ」
「俺も、誰かと祭りまわってみたい。それこそ、好きな人と祭りまわれたらすっごく楽しいと思わない?」
「……それは、分からないでもない」
「でしょ?」
と、誘導尋問のように言ってくる。
言われればそうだけれど、やり方がエグいだけ。これも、言ったとしてもラヴァインは納得しないだろう。彼はそうやって生きてきたから。
(略奪とか、強奪とか……ラヴァインは、そうやって好きなものを手に入れてきたのかも知れない)
弱肉強食。力で全て奪ってきたラヴァインはこうするしか、方法を知らないんだと思う。だから、こんな幼稚な真似を……
可哀相とか、そんな言葉言われたくないだろうから、私は口を閉じる。可哀相なんかじゃない。そんなの、ラヴァインを否定するようだったから。
「それで、私とハロウィーンをまわりたいわけ」
「勿論」
「じゃあ、リースと、トワイライトも一緒でいい?」
「へ?」
「へって……あの二人も一緒にまわりたいっていってるの。私は嫌だけど」
「二人とまわるのが?」
「違う!ああ、もうじゃなくて……私には、誰か一人って選べない。勿論、婚約者はリースだけどね。でも、三人とも私の大切な人なの。だから、一人選べって言われたら選べないってこと」
「優し過ぎない?」
なんて、ラヴァインは言う。でも、その顔は苦笑していて、半分諦めているようだった。そして、もう一度「優し過ぎるよ」と、消えそうな声で言う。
「何?アンタ、泣きそうなの?」
「なわけないじゃん!俺が泣く?ないない」
「じゃあ、なんで顔みせないわけ?」
「見せたくないからでーす」
ラヴァインはそう言って私に背を向けた。まあ、早く戻らないと、このままだと誘拐犯にされてしまいそうだけれど。
私はそう思って、ラヴァインに手を差し伸べる。ハロウィーンは明日だったかな。町の雰囲気もそれっぽくなってきているし、明日だろう、多分。行事ごとは得意じゃなかったから、覚えていないけれど、三人まわりたいというのなら、一緒にまわればいい。
ラヴァインは私の手を見て、ん? と首を傾げる。
「何?」
「帰るの。アンタの転移魔法使って」
「えーびっくりした。このまま駆け落ちしようとかいってくれるのかと思った」
「なわけないし。ごちゃごちゃ言ってないで。今なら、多分……多分!許して貰えるかなあ」
「ええ、皇太子殿下に俺殺されちゃわない?」
「分かってて、やったんでしょうが。ほら、早く」
「はいはい、お姫様の言うとおりに」
諦めたように、でもさっきよりも清々しい顔で、ラヴァインは私の手を取る。足下に、アルベドと同じ紅蓮の魔方陣が浮かび、輪郭が薄れていく。転移する最後、ラヴァインは私をグッと自分の方に引き寄せた。
「やっぱり好きだなあ、エトワールのこと」
「あっそう。私は普通」
「大切って言ってくれたのに?」
「大切の普通」
「何それっ」
弾むような声でラヴァインが笑う。こうして見ると、幼さも感じて、その幼さが危なっかしくて目が離せない。アルベドと似ているようで、似ていない。そんな風に消えかかる輪郭を見つめていれば、ラヴァインの耳が真っ赤になっていることに気づいた。
「あっ……」
「何?」
「ううん、何でも」
何だ、撤回。アルベドと似ている。
顔に出ないけれど、恥ずかしいとき耳が赤くなる癖は一緒だなあ、なんて思いながら私たちは転移する。聖女殿に戻ると、これまた真っ赤なかおをしたリースと泣きそうなトワイライトが出迎え、こっぴどく叱られ、四人+グランツとアルバ、ルーメンさんでハロウィーンをまわることになったのはまた別のお話。