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13 記憶の中で探す人は




「それで、何でついてくるんですか」

「ええっと、同じ家にすむもの同士、仲良くしたいなあ、なんて」

「……」

「無言で睨むのやめようよ。アンタより年上なんだけど」




 林を抜け、森の方までやってきた。グランツが一人になりたいらしく、出ていったので後を付けたら秒でバレ、今に至るというわけだ。別に気配を消してとかそこまで高度なことはしていないので、グランツにならすぐバレると思っていた。はじめは、ただ黙って睨むだけだったが、それがだんだん冷えていって、凡そ人間を見る目じゃない視線を向けてくるようになったので、これはまずいと思った。けれど、私だって、この機会を逃がすわけにはいかないのだ。




(やっぱり、マイナス……嫌い何だろうな……)




 人となれ合うのが嫌い、というのがひしひしと伝わってくる。そして、価値観のあわない人間は徹底的に自分の中から排除しているような感じだった。私もその中に入っているのだろう。それでも、しつこく付きまとえば何か変わるんじゃないかと私は思ってしまった。それがダメだったらしく、本当に心底嫌そうな目で見られてしまっている。




「あの、グランツ」

「何でついてくるんですか」

「それさっき聞いた」

「なれ合うつもりはないです。確かに、モアンさんに感謝しているのは同じだと思いますし、モアンさんには強く言えないですけど、貴方少し変わっているので」

「変わっているってよく言われる」

「……」

「悪い意味?」




 私がそう聞くと、グランツはそっぽを向いてしまった。ああ、これはそう言うことなんだな、と納得しながらも、私はめげずに話し掛け続けた。これしかない。まあ、嫌がられて、これ以上マイナスになっても嫌だけど、それでも、グランツとどうやって接して、好感度を上げたかと思い出せば、こういう地道に話しかけに行くことだった気がする。

 まあ、でも、エトワールだったときは、私が聖女という肩書きを持っていて、聖女の護衛になる事、貴族を見返すことを目的としていたグランツにとって都合のいい存在だったから、かも知れないけれど。だから、今の私は、何の関係もないただの人間で。同じ人に拾われただけの共通点を持つ人間で。




「はっきり言って迷惑です。今から、素振りをするのでついてこないで貰えますか」

「せっかくの休みなのに、鍛錬?凄いね」

「……分かってなくて言うのやめてください」

「……分かってないわけじゃないよ。教えて貰った事あるから」

「普通、女性は剣を持たないんですよ。貴族の令嬢ですら、剣を握ることを反対されるのに……平民が…………」




 そこまで言うと、グランツは俯いてしまう。自ら、平民と差別していることに気づいてしまったからだろうか。貴族の令嬢が剣を、というのはアルバのことかも知れない。どのタイミングで彼女と接点を持ったかは分からないけれど、似たもの、境遇が似たものだったのは彼らを引き合わせたものなのかも知れない。アルバとも、長らく話していないなあ、何て思った。彼女も私のことを忘れているだろう。




(アンタに教えて貰ったのよ。今でも、バカだって思ってるけど)




 グランツは覚えていないでしょうし、私だって剣を、って思い始めたのは、彼を攻略するためだった。また、自分の身を守るため。でも、それが彼の好感度を上げることになったし、彼の信頼を得る一つのきっかけになった。はじめこそ、利用していたけれど、彼に教えて貰った事は忘れていない。私のみになっている。




「兎に角、貴方には関係無いことです。俺は、一日でも早く立派な騎士にならないといけないんです。放っておいてください」

「手」

「は?」

「手、見せてみて」

「何故?」




 私が手を差し出すように言うと、グランツは戸惑ったように、眉を歪めた。何を言っているか分からないのは確かにそうである。でも、彼の手は、多分ボロボロだと思う。出会った時、一人、人一倍頑張って豆が摺り潰れても頑張っていた騎士だったから。彼の努力を私は知っているから。




「アンタの手が心配」

「だから」

「だって、騎士なんでしょ?ずっと素振りして、汚してるかも知れない」

「当然でしょ。強くなければ騎士でない。正しくなければ騎士じゃないんですから……それに、見せたところで何も出来ないでしょ」

「あ……」

「あって、何ですか」




 私はそこまで言われて気がついた。確かに、今の私は魔法が使えることを話していない。それに、平民が魔法を使えたらまた怪しまれるかも知れない。ただでさえ、既にグランツはエトワール・ヴィアラッテアと接触しているだろうに。

 私が黙っていれば、グランツは怪しそうにじっと見つめてくる。




「く、薬とか塗るから」

「結構です」

「でも、悪化したら不味いじゃん。痛みがある状態で、剣を振ったら、二度と剣を振れなくなるかも」

「そんなわけないでしょう」

「かも知れないって、可能性の話してるの!ほんとアンタは頑固よね……」

「……」

「…………」




 グランツが頑固で意地っ張りで、負けず嫌いなことも知っている。対等の立場で接したらこんなにもそれが色濃く出ているんだと分かった。私の視点から、アルベドに対しての怒りを見ていたけれど、この視点で見たら、また違う景色が見えるんじゃないかとも思ってしまった。

 グランツはサッと手を引っ込めてしまった。




「何の好奇心かは知りませんけど、本当に迷惑です。さっきも言ったように、俺は強くならなくちゃいけないんです」

「誰のために?」

「え……」

「何のために強くならなくちゃいけないの?」

「それ……は……何で」




 私がそう質問すると、グランツは片手で頭を抑えた。質問の意味が分からないような、また矛盾点を見つけたようなその様子に、私は彼の好感度を見る。ザザッとノイズがかり、マイナスと%が揺れる。本来の好感度……それが見える可能性があるかも知れないと思った。




(押したらいけるかも知れないけれど、苦しませたくない)




 好感度が低い状態で、下手に記憶を思い出させるのは危険かも知れない。グランツは、汗を浮べながら、頭を抱え込んでいた。




「なんで……誰の、ために……つよく……」

「グランツ! グランツ・グロリアス!」

「……ッ」

「ごめん、変な質問して。その、答えにくいなら、答えなくて良いから」

「は、はい……いや、はあ」




 一瞬だけ敬語が混ざった気がして、私は瞬きをした。やっぱり、記憶が書き換えられているだけで、消えているわけではないと。そんな希望が見えた気がした。けれど、記憶を取り戻すのは大変そうだと、それがひしひしと伝わってくる。

 グランツのガラス玉の瞳が私を捕らえていた。何かを探すような、そんな目に、私は少しだけ嬉しくなった。きっと、探してくれているんだろうなって、それが私かも知れないって。自意識過剰かも知れないけれど。




「頑張っているから、その応援したかったの」

「そう、ですか……別に、応援して貰わなくても」

「勝手にしてるだけだから。それに、グランツは、すっごく格好いい騎士になると思う。ううん、凄く強くて頼りになって……そんな護衛騎士に」

「……っ」

「グランツ?」

「……何でもありません」




 グランツはそう言ってまた視線を逸らしてしまった。何か言いたいことがあるなら言えば良いのに、そう思っていると、茂みの奥がガサガサと揺れた。もしかして、またあの視線? と思ったが、かすかに魔力を感じる。グランツもそれに気づいたらしく、手にしていた木剣を構えた。さ、がさ、がさがさがさ、と、茂みは大きく揺れ、その奥から大きな狐が飛び出した。毛皮のまわりには赤黒い炎のようなものを纏った狐が。

 魔物!? そう、反応が送れると、サッとグランツが私の前に立ちふさがった。




「逃げてください。ステラ。危険なので」

「でも……」




 キュウゥゥウウウウッ、と狐が吠え、あたりは一気に闇に染まっていった。





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