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12 態度の悪さ




「……んん~まだ眠い、もうちょっと……」




 寝返りを打つ。昨日もまた悶々と考えていたら、寝れなくて、まあ実際はその後寝落ちてしまったんだけど、そのせいか、かなり眠かった。別に決まりも何もないんだから、好きなだけ寝ておけばいいと言われればそうなのだが、何か忘れているような気がした。

 もう一度、ごろんと寝転がれば、目の前に影が落ちた。朝だから、明るいんだけど、そこだけ真っ暗みたいな……私が半分目を開けば、誰かがそこに立っているような気配がした。寝ぼけているのかと思って瞬きしようとした瞬間、男の声が降ってきた。




「誰ですか」

「ん~誰?」




 ヒュッと、何かが目の前に振りかざされ、私は慌てて飛び起き、ベッドから落ちた。そしてそのまま反射的に、壁際によってしまう。




「……」

「……っぶない……え、え、え」

「…………」




 まだぼやけている視界の中、その人をはっきり見た。剣……ではないけれど、棒のようなものを私に向けている男の姿。何度も見た、まだ幼さの残る彼が、そこにいた。亜麻色の、ガラス玉みたいな瞳をした……




「グランツ……」

「俺の名前、なんで……」




 色々と聞きたいことは一杯だったが、下から、ドタドタと足音が聞え、モアンさんが部屋に入ってきた。




「ステラ、もの凄い音が聞えたけど大丈夫かい?」

「は、はい、何とか」

「モアンさん?」




 グランツ・グロリアス。

 グランツは、モアンさんが入ってくると、手に持っていた棒のようなものを置き、私とモアンさんを交互に見た。まあ、確かに、家に知らない人がいると思うと、警戒というか、不思議がるのは仕方がないことだと思った。それにしても、物騒で……

 私は、すっかり目が覚めてしまって、あらんだ呼吸を整えていた。だって、あのままじゃ殺されていたかも知れないから。

 殺意は感じられなかったけれど、もし、普通に当たっていたら……と考えると末恐ろしい。グランツってこんな感じだったっけ? と、少し疑問には思ったが、此の男、であったその日に私の木剣をとばしてきた男だから、何も不思議がること何てなかった。これが普通……なんて言いたくはないんだけど。




「ちょっとグランツ、まさか、あんた、ステラが寝ている部屋に入ったのかい?」




 モアンさんは、グランツの肩を掴んで揺さぶった。グランツはわけが分からないように、ただ揺さぶられているだけで、でも、その瞳はこちらを見ていた。じっとお、何かを考えるように、品定めするように。

 私はそんな瞳を見つめながら、ふと彼の頭の好感度を見た。彼の好感度はしっかり表示されていたが、マイナス5だったのだ。




(ええっ、待って、待って、なんでマイナスなのよ!?)




 もしかして、勝手に部屋で寝ていたからだろうか。もしかして、潔癖症? というか、この部屋はもうすっかり自分のものだと思っていたけれど、もしかして……

 私はそう思って、モアンさんの方を見た。彼女と目が合って、私は、苦笑いを浮べる。




「も、もしかしてモアンさん、ここってグランツの部屋だったりしますか?」

「ああそうだよ。うちも広くないからねえ。使っていない部屋は、有効活用しないと」

「ええ……」




 モアンさんは何も間違っていないだろう、といわんばかりに笑顔を浮べていた。まあ、間違っていないのだろうが、戻ってきて欲しいと願いながら、息子の部屋を他人に……娘に譲るって何だかなあと思った。それにしても、この部屋は本当に殺風景で、この部屋を使っていいと言われてから、何も買い足していないから、ものも増えていない。本当にはじめは、ただ使っていない部屋だとばかり思っていたのだけれど……




(まさか、グランツの部屋だったなんて……)




 あり得ない話ではない。グランツらしいと言えばグランツらしい。だって何もないから。グランツの性格から考えて、散財するようなタイプでもないし、何かを飾っておきたいとか思うタイプでもないだろう。この殺風景が彼の心そのものを表しているんじゃないかと思った。それにしても、グランツの部屋だと分かった瞬間、本当に寂しい人だと改めて思った。この時は、アルベドへの怒りで埋め尽くされていただろうから。

 私がそんな風に視線を落とせば、グランツが私の方までやってきて顔を覗かせた。




「ひぇっ」

「いきなり変な声出さないで下さい。吃驚するので」

「普通吃驚するでしょ。てか、まだ寝起きなの、顔見ないで」

「それで、貴方誰なんですか」

「ねえ、話し聞いてた……って。ほんと唐突」




 モアンさんに助け船を出して貰うかと思ったけれど、彼女はポカンと口を開けていた。多分だけど、モアンさんが買い物に行っている途中にでもグランツが帰ってきたんだろう。で、何かしらグランツは書き置きしていたか、それでモアンさんはグランツが帰ってきたということを知ったのだろう。でなければ、モアンさんが私のことを紹介してくれているはずなのだ。いや、うっかり紹介し忘れたって言う可能性も考えられなくはないけれど。




(でも、どっちにしろ、滅茶苦茶怪しまれているんですけど!?)




 モアンさんのお人好しは、グランツも分かっているだろう。だから、何でまた……思っているかもしれないし、まあ色々思うところはあると思う。グランツの事だし、とても警戒しているに違いない。でなければ、こんな冷たい目を向けられている理由が分からないからだ。




(……いや、グランツだし)




 グランツと別れたのは、結構前のこと。前の世界では、早いうちに、彼にトワイライトの護衛を任せた。最後にであったのは、あのパーティーか。最後は何も彼に言えなかったなあ、なんて思って、また会えたのを嬉しく思うと同時に、であった当初の冷たさを肌で感じて、少し悲しかった。アルベドとはまた違った悲しさだし、彼の、明らかに人を避けている、壁を作っているというのが分かってしまって尚更辛かった。彼もよく、あんな風に懐いてくれるようになったと。




(今は、エトワール・ヴィアラッテアの護衛でもしてるのかなあ……)




「それで、貴方は誰なんですか」

「ちょっと、グランツ。ステラが困っているじゃないか」

「モアンさん……もしかして、また人助けを?」

「人助けしちゃいけない理由でもあるのかい。あんただって、私が育てたようなもんじゃないか」

「……」




 モアンさんのその言葉に、さすがのグランツも何も言い返せないようだった。ここで言い返していたら、恩を仇で返すことになっただろう。それに、グランツも少なからず、モアンさんに感謝しているはずなのだ。

 グランツはまた、私とモアンさんを交互に見る。確かに、何の説明もなしに、自分の部屋で他人が寝ていると思ったら、不快に思うだろう。私だったら悲鳴を上げるだけじゃすまないと思う。その気持ちはよく分かったので、私はあたまをさげた。




「ごめんなさい。自己紹介、するべきだったよね」

「……」

「私、ステラって言うの。モアンさんに助けてもらって、今はここに住ませてもらってる。ここが、アンタの部屋だって知らなかったの、ごめんなさい」

「……別に、ええ、そう言うことだったんですか」




 グランツは、呆れたようにため息をついた。その素っ気ないというか、関心のない態度に私は内心ぴきぴききれそうになっていた。多分、今の私は年下に見られているのだろう。じゃなくても、グランツより目下の人間とでも思っているのかも知れない。だから、こんな態度なんだろう。もし私が、素敵なドレスを着て、身なりを整えていたら、もう少し、態度は違ったかも知れない。別にいいけれど、態度がすぐ出てしまうタイプなんだって初めて知った。新たな一面だったけど、別に知らなくても、知りたくもなかった。




(我慢よ、私。好感度を上げることに集中しなきゃ)




「もし、あれだったら出ていくけど」

「ステラ何言ってんのさ。ねえ、大丈夫だよね、グランツ」

「…………別に、はい。大丈夫です、けど」

「ほら」

「いや、モアンさん、それた文大丈夫じゃないです」




 態度の悪さというか、冷たさに私は顔が歪んでいた気がした。前の世界であったときよりも印象が悪すぎる。




(もしかして、平民のことも、そこまで好きじゃない?)




 第二王子だから、もしかしたら……何てのも考えた。でも、それだけじゃないような気がして、彼の少し寂しげな、何処か遠くを、違う誰かを見ているような瞳を見て私はそう思った。アルベドもそうだったけど、変に巻き戻した世界だから、何処かしら歪みがあるのかも知れないと、希望のようなものが一瞬だけ、見え、私はマイナスのグランツの好感度を上げるため、彼が帰るまで距離を縮めようと心に誓った。




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