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10 リスタート




 落ちる!


 何て思った自分がバカみたいだった。




「わっ」

「喋ると、舌噛むぞ」




 窓から飛び降りて、ふわりと地面に着地したかと思えば、また浮遊する。目立つ髪の色と、長いマフラーをしているんだ。もし見つかったらどうしてくれるんだと思ったが、そこら辺もアルベドはしっかりしているんだろうと、私は何も言わなかった。いったとして、また怪しまれるだけだとも思ったし。

 それにしても、誘拐するってやることがぶっ飛びすぎじゃないかとも思った。これが、アルベド・レイなんだろうけど。




(記憶が無くても、変わらないっていうのは良いことかも知れないけど)




 寂しさもありながら、変わらない彼を見て、最初から最後までずっと彼はこんな感じだった、と安心感もある。けれど、何処の誰かも分からない私を持ち上げて誘拐するなんて頭が可笑しいと思う。




「何むすくれてんだよ」

「別に……大胆だと思って」

「大胆なのはお前の方だろう」




 転移魔法を使わず移動したのは、転移魔法が魔力の痕跡を残してしまうからだろう。しかし、ものの数分で、パーティー会場から抜け出すことが出来たのは、さすがアルベドだと思う。誰かに気付かれることもなく。本当に敵に回したくない男だと思う。

 ようやく、風魔法を解いて、湖のあるほとりへと降り立った。湖というか、池というか。森の中に下ろされた私は辺りを見渡した。ここは一体何処なんだろうと。




「追っ手は来ねえと思うぞ」

「そ、そんなの気にしていないし!」

「平民っつうなら、勝手にあの屋敷に侵入したってことで、見つかったら酷い目に遭うと思うけどな」

「……ま、まあ、そうかもだけど」

「なら、なんであそこに忍び込んだんだよ」




 アルベドは、首に手を回しながらそう聞いてきた。満月の瞳が私を射貫く。

 何でって、アルベドにあいに来たから。確かに、リスクはあるし、危険だって分かっていた。けれど、先を越されたくなかった。そんなことを言ったところで、彼に通じるかどうか分からないけれど。

 私が黙っていれば、アルベドは大きなため息をついた。




「聖女様にでも会いに来たのか?」

「はい?」

「聖女のパーティーだっただろ。まあ、俺は呼ばれていないんだがな。闇魔法の魔道士は、皇族に嫌われているしな」

「アンタも、不法侵入でしょ」

「まあそうだな」

「てか、公爵家なのに呼ばれないってどういうことよ」

「さあ」

「さあって」




 アルベドは少しうんざりしたように肩をすくめた。アルベドが聞きたいくらいだろう。でも、あのパーティーにはアルベドは呼ばれていなかったという事実が分かって、私はまた、光魔法と、闇魔法の差別について胸を痛める。いや、私が生きていた前の世界でもそれはなくならなかったし。それを埋めていきたいっていうのが、アルベドの理想で夢だったんだろうけど。




(でも、グランツみたいに、どうしても許せないっていう人もいるわけだし……)




 そこを埋めるのは、本当に難しいだろう。それを分かった上で、アルベドは成し遂げようとしていたのだ。私はそれを応援するといったし……

 そう、一人で考えて俯いていれば、ヌッと顔を近づけてきたアルベドの目とばっちりあってしまった。




「うわあああっ」

「んな、大きな声出すなよ。耳痛えな」

「え、だって距離、距離感。おかしい。アンタ、可笑しいんじゃないの!?」

「お前が、幾ら呼んでも返事しねえからだろ」

「ちょっと考え事してたからよ」

「俺が暗殺者だって知りながら、度胸あるな……」




 私は、シュパッと後ろに下がってアルベドを警戒した。悪い人じゃないって分かっていても、反射的に後ろに下がってしまうのは、防衛本能だろう。それは良いとしても、距離の詰め方が本当におかしいと思った。リースならまだしも……いや、リースもリースであれなんだけど。

 せっかく二人きりになれたというのに、何から話して良いか全然思いつかなかった。話したいことは一杯あるけれど、彼には記憶が無いわけで。でも、謝りたい気持ちはあって。アルベドとは、はじめから関係を構築するのは難しいとも思った。それでも良いんだけど、やっぱり積み上げてきたものがあるからこそ、思い出して欲しいという気持ちもある。




(てか、好感度出ないってどういうことよ……)




 まだ、ストーリーは始まっていない? 攻略キャラに接触すれば始まるものだと思っていたけれど、エトワールストーリーと、ヒロインストーリーが同時並行で進みながら、初代聖女ルートが進むのなら、そりゃもう、攻略キャラの奪い合いになるだろうと。

 どういった仕組みか分からないし、どうすればいいか全く分からなかった。好感度が見えるのは嫌だなあと昔は思っていたけれど、今は好感度見せて欲しい! という気持ちが強い。




「んで、お前は家何処なんだよ」

「家、何処って、なんで」

「こんな夜に、一人で帰らせられねえだろうが。つか、マジで何であそこに忍び込んでたかはわかんねえけど……金品でも盗むつもりだったのか?」

「まさか」




 私は全力で否定した。そんなものに興味はない。宝石と、推しのグッズだったら推しのグッズを買うような私が、金品に目が眩むわけがないのだ。今もモアンさんの家でそれなりの暮らしはしているし、お金が必要なわけじゃない。お金があったところで、リースたちに会えるようになるかといったら違うから。お金が何かを解決してくれることは、そんなにないと思っている。

 それにしても、送っていってくれるなんて優しいなあ、と感心しつつ、此奴に家を教えたらどうなる買っていうのもあっていうことが出来なかった。私が、あたふたしていれば、またアルベドは大きなため息をついた。




「俺も暇じゃねえんだけど」

「わ、分かってるんだけどね」

「何を分かってるっていうんだよ」

「いやあ……そのお……」




 またつい、口を出してしまって睨まれてしまった。何度失敗すれば気が済むんだと、彼と出会ったときに落ち着いて「アルベド」と口にしてしまったときと同じではないかと思った。でも今回は、先ほどと違って、少し苛立った様子のアルベド。暇じゃないって、確か、この時はラヴァインのこともあったし、まだまだ命を狙われている立場だったなあなんても思い出した。パーティーで殺した貴族のことについてはそこまで後始末がーとかはないんだろうけれど、忙しいことには変わりないだろう。暇じゃないって言うのはあながち間違いじゃない。




「い、忙しそうだっていうの伝わってくるので!」

「はあ……?」

「あ、あ、と一人で帰れるのでご心配なく。忙しい、アルベドさんは、忙しくして貰って……」




(何いってんの私!?)




 思わず変な言葉が口に出て、慌てて塞いだが遅かった。アルベドの頭の上にクエスチョンマ―クが浮いているな、と感じながら、変な汗が伝っていく。好感度が見えないから、わたしのこの行動が彼にはどんな風に見えているのか分からない。それが怖くて仕方がなかった。




「ここ何処か分かってんのか」

「分かりません」

「はあ……それで、よく一人で帰られるっていったな……転移魔法が使えるわけでもあるまいし」

「転移魔法!確かに」




 いや、使おうと思えば使えるのかも知れないが、アルベドにそれをバラしてしまってもいいのだろうかとも思った。私がまた一人で慌てていると、アルベドはふいっと顔を逸らした。池に浮かんでいる月でも見ているのだろう。




「どうしたの?」

「いや……何だか、懐かしいなって思ってな」

「なつか……もしかして、記憶が!?」

「ああ?」

「何でもありません」




 ドスのきいた声で返されてしまったため、私は首を横に振って否定した。仲良くない時点のアルベドは、結構距離があるというか、人を寄せ付けていないというか。よく、彼と仲良くなれたなあ、なんて自分で感心する。アルベドはその後じっと私を見た後、その身体を翻した。紅蓮の髪が風に揺れる。




「まあ、俺もさっき言ったとおり暇じゃないんで。一人で帰れるなら一人で帰りな、お嬢さん」

「おじょ……一応、名前あるんだけど」

「名前?」

「そんな、驚くこと?」




 アルベドが動きを止め、私の方を少しだけ見たので、何かあるのかな? と期待してしまった。ここで、エトワールといいたいところだったけど、グッと堪えた。今の私の名前じゃない。モアンさんに貰った名前。




「ステラ」

「ステラ?」

「うん、私の名前」

「………………ステラ、か」

「何?」

「いいや、何も。んじゃあ、ステラ。もうあうことはねえと思うが、気をつけて帰れよ」

「もうあうことはないって、会えるわよ。きっと」

「ああ?」

「会える。会いに行く」




 私がそう言うと、アルベドは、眉間に皺を寄せた。何処か悲しそうに瞳を揺らし、小さく舌打ちを鳴らす。




「んなわけねえよ……俺の知っている彼奴は死んだんだ」

「え?」




 じゃあな、といって一歩踏み出すと、アルベドの足下に紅蓮の魔方陣が浮かび上がった。私はすぐさま追いかけようとしたけれど、彼は瞬く間に消えてしまった。何て言ったのか、聞きたかったのに。

 伸ばした手は届かず、代わりに私の前に見慣れたウィンドウがあらわれた。




【初代聖女ストーリーが始まったよ! 攻略キャラの好感度を上げて、記憶を取り戻そう!】





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