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06 他人の視点から見る攻略キャラ




「ステラ、こっち手伝ってくれないかい?」

「はーい、今いきます」




 元の世界に戻ってきて三日ほどが経った。人間の適応能力とは凄いもので、私は元から、モアンさんとシラソルの娘であったような、そんな生活をしている。帝都からそこまで離れていない位置に二人の家はあるし、そのおかげで買い物も帝都に行くことが出来る。視察、のつもりで私はいっているんだけど、何の収穫も今のところ得られていない。グランツは家に戻ってこないし、毎日平和に暮らしているだけ。何のために戻ってきたのか自分でも分からなくなってきた。

 第二の生を受けたんだから、今が幸せなんだからそれでいいんじゃないかとも思い始めたけれど、やっぱり奇跡的な接点があるからこそ、私は諦めきれなかった。どうにか、攻略キャラに会って記憶を取り戻して貰わないと。


 私は、布団中に取り込むのを手伝って、モアンさんの方を見た。モアンさんの笑顔はいつも通り輝いている。少しだけもやっとした気持ちが自分の中を駆け巡って、私は首を横に振った。この生活、嫌いじゃなかったから。

 母親と子供、という関係じゃないけれど、祖母と子供、みたいな関係だけど、前世でそんな経験がなかったからこそ、そういう温かい家庭というか、家族関係に憧れがあって、今の状況に戸惑いつつも喜んでいる自分がいて。複雑だった。


 嫌いじゃない、でも、世界を取り戻したらきっと……




「どうしたんだい、ステラ。またくらい顔してる」

「え、ああ、モアンさんの笑顔が眩しくて、ちょっと目を細めていただけですよ」

「そう?嬉しいこと言ってくれるね。でも、笑ってなくちゃ。幸せが逃げていっちゃうよ」

「それをいうなら、ため息をついたら、ですよ。でも、ありがとうございます。そうですよね、笑ってなくちゃ」




 ムリにでも。

 私は自分の口の端を指で押し上げた。それをみてモアンさんは笑っている。住まわせて貰っている以上迷惑はかけないと決めた。それは、心配させないっていうことも含んでいる。




「そうだ、あんたには関係無いかも知れないけどね。今度、聖女様の歓迎会?だったかな、皇宮でひらかれるらしいんだよ。まあ、貴族だけなんだけどね」

「え!」

「えって、まあ、私達にはあまり情報が入ってこないんだけどねえ。耳にした話だよ?」




と、モアンさんは不格好にウインクをした。




(少し、話とずれている?遅い?いや、あまり覚えていないからあれだけど……)




 本当に初期というか、此の世界にきてすぐの出来事だったから覚えていない。だって、歓迎会って結構早くあったはずなのだ。エトワール・ヴィアラッテアになったから、その予定が少し遅れているのだろうか。けれど、その情報を知ったところで何が出来ると……




「待って、私今、魔法使えるんだよね?」

「何か言ったかい?ステラ」

「いいえ、何も!あ、少し、出かけてきます!」

「ああ、いいけど。気をつけてね」




 私は、善は急げだと、モアンさんに行き先は伝えず家を飛び出した。そう言えば忘れていたことが一つあるのだ。

 少し行ったところに林があり、その奥に森が続いていた。私は森へ飛び込んで、周りに人がいないことを確認する。




「ふう、ここまで来れば安全ね」




 安全というか、人に見つからないというか。一応、モアンさんには私が魔法を使えることは言っていない。というか、まだこの身体になってから魔法を使ったことがなかった。だから、使えない、何てことになったら大変だと少しドキドキもしている。けれど、この身体は何て言ったって、聖女の、初代の聖女の身体だ。

 私は、取り敢えず自分を中心に魔力を集めてみた。すると、すうっと透き通った魔力が前戦を駆け抜けていく。エトワールの時と違う、本当にクリアな魔力。流れているんだけど、水のように更々している、なんとも言えない感覚だった。掴みづらいというか、魔力を感じているけど感じづらいみたいな。




「ん……」




 久しぶりだからか、それとも身体が違うからか、どうにも上手く扱えそうになかった。身体が違うと、やはり魔力の流れが違うのだろうか。

 でも、この身体、全然疲れない……

 気疲れというものはするけれど、魔力を集める際に、余分に抜けいてく感じも、ムリに力まなくても良くて、何というか自然体でいられた。エトワールの時はもっと魔力がそこにあるという意識を持って魔法を操っていたような気がするから……




「これが、初代聖女の魔力……」




 エトワールとは違う、透明な光。手のひらに集まったのは透けている光だった。そこにあるんだけど、反射して見えるときと見えないときがあるみたいな。兎に角不思議な魔力だった。試しに、火の魔法、水の魔法、木の魔法、風の魔法、土の魔法、と順番に試してやってみたが、どれも少ない魔力で扱うことが出来た。威力はここでは試せなかったが、魔力の揺れも感じず、一定に保っていられた。やっぱり感覚が違うと掴みづらくはあったけれど、この身体はあたりだと思った。

 一体、エトワールと何が違うというのだろうか。




「多分、これトワイライトも違うのよね。やっぱり、身体によって魔力が違う?」




 私には理解が出来なかった。あれだけ長い時間あの世界にいたけれど、魔法の仕組みについてはまだ分からないところが多くて、もっとブライトやアルベドに聞いておくべきだったと後悔した。自分で調べようにも、モアンさんの家にあるわけがないし、かといって貴族じゃなきゃ普通は魔法が使えないわけだし。

 困ったなあ、なんて思っていれば、がさがさっと茂みが揺れた気がした。もしかして、誰かいる? と、思わず光魔法で作ったナイフが飛び出し、揺れた茂みの地面に突き刺さった。けれど、そこには誰もいない。気配が全くしなかった。けれど、確かにそこに誰かいた気がしたのだ。動物かとも思ったけれど、それなら悲鳴の一つあげそうだし。




「誰かに見られてた?」




 また、不注意。そんなことを思いながら、私はその茂みの法によってみた。けれど、誰もいない。いた痕跡がなかった。魔力の痕跡もぱったりと消えている。不気味に思い、私は取り敢えず家に帰ることにした。魔法のテストも出来たし、初代の聖女の身体は、魔力が無限らしくて、疲れはするけど、魔力の枯渇で死ぬことはないと。それだけでもありがたいことだった。




「ステラ、もう良かったのかい?随分と早かったじゃないか。何をしてきたんだい?」

「ええっと、森の方に」

「森!?最近、あそこに魔物がでるって噂がね……あまりいくんじゃないよ。今は、災厄で世の中物騒なんだから」

「え、魔物……魔物ですか」

「私達は、武器も持たないし、魔法も使えないんだから。魔物に会っても抵抗する術がないだろう」

「た、確かに」




 魔法が使えます、何て言ったらどんな反応をするんだろうか。気になったが、あまり言わないようにと口を閉じる。いって、今の関係が崩れたら怖いし、魔法を使えるって、結構気味悪がられるというか、不思議だし、何かと色々言われそうだし。

 魔法は便利だけど便利故の弱点というか、嫌われる要素があるわけで。私は、取り敢えず、何も言わずにモアンさんの夕食の準備を手伝った。その間に、もう少しだけ、グランツについて踏み込んでみようと思った。




「あの、ほんとーに度々申し訳ないんですけど、グランツ……さんってモアンさん達にとって、どんな存在だったんですか」

「グランツかい?本当にステラは、グランツの事が気になるんだねえ」

「まあ……」

「難しいこだったよ。でも、物わかりのいい子だった。こっちは、家族として接してきたけど、何処か他人行儀というか、家族になりきれていないような、壁を作られているというか。まあ、何だろうね。きっと、苦しい事があったんじゃないかなあ。それを、私達は崩せずにいた。感謝はしてくれていたと思うよ。家事も手伝ってくれていたし」

「そうなんですね」




 私は皿を並べながら答える。

 まあ、グランツだし、というのが私の中の答えなんだけど、家族のように接してきたモアンさんと、何処か壁をつくって他人のように接するグランツ。モアンさん達の心情を考えるとちょっと辛いだろうなと思った。でも、そんなグランツに家族として接してきて。




「嫌だとか、思わないんですか。その、恩を仇で……ってわけじゃないですけど、何か、そのつめたいっていうの」

「色々あるんじゃないかな。自分のことを語らない子だったからね。いつもガラス玉のような瞳をして、何処を見ているか分からなかった……」

「……」

「子供だけどちょっぴり恐怖を感じたときもあった。底知れぬ殺意があるような。子供が抱く感情じゃないってその時は見間違いだって思ったんだけどねえ」




 アルベドに対しての感情……か。闇魔法の魔道士に対しての感情……




「でも、あの子なりに色々伝えてくれていたんだよ。それこそ、今よりも災厄の影響がなかったとき、お花を摘んできてくれたりね。きっと、愛情の返し方が分からなかったんじゃないかな。愛をもらったことがないような子供だったんじゃって……グランツは、ここに来る前のこと何も話してくれなかったしね」

「……愛を」




 アルベドの話を思い出した。誰にも愛されない第二王子。それが、グランツ・グロリアス。孤独の騎士……

 誰から見てもそうみえたんだ、と私は手が止ってしまった。それでも、自分に優しくしてくれようとした人に愛を伝えようと、グランツは……

 そんなグランツの幼心が、内に秘めている優しさが無理矢理ねじ曲げられて、エトワール・ヴィアラッテアを好きになるように操られていたら……それを考えるだけで恐ろしかった。




「ありがとうございます。話してくれて……ますます会ってみたくなりました」

「ステラみたいな優しいことあったら、グランツも何か変わるんじゃないかなあって思うよ。まあ、聖女様に今はぞっこんかも知れないけど」

「……っ。そうですね」




 わざとじゃないのは分かっていても、ちくっときてしまった。私は平常心、平常心と落ち着かせて、皿を並べ終わり息を吐いた。色んな人の視点から見る攻略キャラ。攻略キャラといっても、そこに生きているわけだし、そこに人生がある。攻略をする側だけど、そこの所もしっかり考えないとな、と私は改めて思った。もっと話を聞きたいところだけど、完全に他人というような関係なので、これ以上聞けないなあ、と私は与えられた自分の部屋に戻ってベッドに飛び込んだ。久しぶりに魔力を使ったからか身体が重い気がする。うとうととし始めれば、すぐに私は夢の中に落ちた。





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