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03 親切心




 祝福。


 女神に送り出され、私はあの一瞬で色んなことを考えていた。

 本当に攻略キャラたちを助けられるのか。エトワール・ヴィアラッテアにどう向き合えばいいのか。そこら辺をしっかりと考えずに見切り発車してしまったような気がする。このままいけるのかどうか。

 誰も私を覚えていない世界で、きっと初代の聖女ってことは身寄りもなくて、住む場所も……色々考えていると、確かにエクストラモードで、生計を立てることから考えないといけないんじゃないかと思った。あれだけ啖呵切ってきたけれど、今になってとても不安になってきた。やっていけるのかなって。

 何処か心の中で、あの紅蓮が助けてくれる、何て思ってしまっていた。あんな別れかたしたのに、助けてくれるも何もないだろうに。




「ん……」




 温かな何かが自分の上に乗っかっている気がした。目が覚めると、そこは何処かも分からない寝室で、私はベッドの上で寝ていたのだ。何処にとばされるかなんて想像していなかったから、もしかして森の中だったり? 何て思ったけど、さすがにそこまで鬼畜ではなかった。

 といってもここが何処か分からないからあれなんだけど。




「手、ついてる。よし、首も……」




 普通はついていないとおかしいのだが、それでも自分の首がきりおとされたあの瞬間を嫌でも覚えているので確認してしまう。真っ白な手は、もしかしたらトワイライトの肌よりもしろいんじゃないかと思ってしまった。彼女も凄く白かったから。

 そんな風に自分の姿についてどんなものなのかと確認するために立ち上がれば、ブチッと何かが抜ける音がした。




「いっっった!」




 髪の毛が抜けたような音。私が振返ってみれば、引きずるぐらいの髪の毛が伸びていた。真っ白な……いや、銀髪の髪の毛。




「え、え、え、え、もしかして?」




 もしかして、またエトワール・ヴィアラッテア? いや、そんなはずはないと思うけれど、冬華さんは、初代の聖女と言っていた。初代の聖女だからてっきり金髪だと思っていたんだけど。




(初代の聖女なのに、なんで銀髪なの?エトワールが銀髪だったからその名残?)




 よく分からない。でも、聖女じゃないって名乗れば、銀髪も別に差別の対象になったりしないだろうと思った。もう、あんな悲しい思いはしたくないと。

 それにしても長い髪の毛を引きずって歩くのは疲れてしまう。何処かできって短くしたいのだが、まずはここがどこだか確認する必要があるわけで。

 生憎部屋の中に鏡がなかったので、私は、窓の方に歩み寄って、その窓に映る自分の姿を確認した。可愛らしい美少女がそこに映っている。それこそ、女神みたいな容姿で、トワイライトの可愛さとか、エトワールの美しさをたして二で割ったようなそんな容姿をしていた。そして、瞳の色は透明に近い白。ますます混乱してきた。




「え、だって、初代の聖女の身体なんだから、金髪で、白い瞳……のはずなんだけど、何このちぐはぐ!?」




 トワイライトとエトワールが混ざったような色をしていて、正直吃驚した。なんでこの色なのか、初代の聖女は元々こうだったのとか色々考えることがあって頭が痛くなった。まあ、もう聖女じゃないんだから、どんな色をしていても関係無いとは思うのだが、それでも、初代の聖女の身体です、といわれて貰った身体が何とも自分の想像していた聖女の姿と違うから驚きを隠せない。

 そんな風に、私が一人パニックを起こしていれば、廊下の方から不規則なリズムで、部屋に近付いてくる足音が聞えた。

 もしかして、ここは誰かの家なのでは? など、私は少し身構えてしまった。さすがに、勝手に家にはいって寝ていた、見たいな設定はないと思うんだけど、それでも、これまで嫌われてきた経験があるからこそ、警戒してしまう。




「……っ」




 ぎぃ、っと鈍い音を立てて開かれた扉の向こうにいたのは、老いたおばあさんだった。七十代くらいのおばあさんは、私を見ると、目をぱちくりとさせた。やっぱり、私はこの家に不法侵入って言う形で転生してしまったのかと。




「ええっと、違うんです。これは、えっと」

「よかったわあ、目覚めたのね」




 おばあさんは私を見ると、にっこりと笑った。孫を見るようなそんな目に、私は安堵感を覚える。どうやら、私のことを悪者だと思っていないようだった。おばあさんは部屋に入ってくるなり、その手に持っていたお盆を机において、私にベッドに座るよう促した。

 何が何だか分からない状態で、私はおばあさんの方をチラチラと見る。おばあさんはそんな視線のことを鬱陶しく思わず、何度もよかったわあ、と呟いていた。




「えっと、ここは」

「私の家だよ。貴方が、路地裏で倒れていたもんだから、連れてきたのよ」

「そ、そうだったんですね」




 おばあさんは、私に痛いところは無いか、身体は大丈夫かなど聞いてくれた。倒れていた、という記憶は無いし、目が覚めたらここにいたから、多分スタート地点はここであっていると思う。にしても、どんな転生の仕方なんだとツッコミを入れたくなった。

 おばあさんのしわしわな手に触られて、少しくすぐったくも、その温もりに何だか癒やされた。優しく介抱してくれるその手にうるっとも来てしまう。私がもし、エトワール・ヴィアラッテアだったら。伝説とは違う聖女の姿をしていたら。きっと受け入れてくれなかっただろう。そんな気がするのだ。

 私が、もし今自分が聖女だと言ったら、きっとおばあさんは優しくしてくれないんだろうなとか思って。




(そもそも、聖女を名乗るのが罪なんだっけ……)




 よく分からない罪だと、私は今更ながらに思った。

 まあそんなことは置いておいて、どうしてここにいるのだとか、ここは何処なんだとか、色々情報を集めなければと思った。じゃなきゃ、ここに還ってきた意味がない。




「えっと、ここって、ラスター帝国……であっていますか。帝国内」

「貴方、記憶が無いの?」

「え……ええっと」

「すっごく綺麗じゃない。もしかして、女神様じゃないかって、夫も言っていたんだけどね」

「め、女神、私が!?」




 そんなこと始めていわれた。いいや、初めてじゃない。いつか誰かにエトワール・ヴィアラッテアの姿で言われた気がした。女神と同じ容姿だと。

 おばあさんは不思議そうに私を見ていた。質問を質問で返されたような気がしたが、それは仕方ない。私も、いきなり聞いてしまったから。で、記憶が無いのか、あるのか、そういうのも自分で設定しないといけないのかと、私は悩む。正直に話したところで、ただの一般人。そして、このおばあさんすら巻き込む可能性があるなら、変なことは言えないだろうと。




「なんで倒れていたかは知らないけど、行く宛てがないなら、ここに住めばいいよ」

「え?」




 私は言われたことが理解できなかった。話が唐突すぎる。

 私は、誰かも分からない人間で、そんな怪しさ満点の私に、宛てがないならここに住めばいいとおばあさんは言うのだ。普通ならその善意を受け取れば良いだけの話なのだろうが、まき戻る前の世界で色々あったせいで、人を信じれなくなっている。自分自身、おばあさんのことすら疑っている自覚はあった。本当は、そのままおばあさんの思いを受け取りたいのに、私には其れができない。




「そんな、迷惑ですから」

「迷惑じゃないよ。ちょうど、最近、一緒に暮らしていた息子が騎士になるって、出て行ってしまったからね。寂しくて」

「き、騎士ですか……息子さん?」




 おばあさんは、自分の話に興味を持ってくれたことが嬉しかったのか、にこりと笑った。

 おばあさんの身なりは、どう見ても貴族じゃない、平民だ。なのに、息子が騎士に、と何だかおかしいような気がした。此の世界、というか、ラスター帝国の騎士は殆どが貴族で構成されている。平民は貴族に虐げられているというか、見下されているというか。だから、平民の騎士は私が知る限り一人しかいない。




(いや、そんなはずないじゃん……だって……)




 少しだけ、可能性が……とひらめいたが、さすがに違うだろうと、私は否定する。そんな奇跡があるわけないと。女神は、自分の力で、冬華さんも自分の力でどうにかしないといけないって言っていたのに。

 拾ってくれたおばあさんが、まさかそんな……



「あの、自分のこと、まだ何も自己紹介できていないんですけど、その息子さん……の名前って」

「息子の名前かい?息子って言っても、息子じゃなくてねえ……何て言えばいいか」

「教えて下さい。もしかしたら、その人のこと知っているかも知れないので」



 私がそう言って詰め寄ると、おばあさんは少し驚いたように目を丸くさせた後、その息子の名前を口にした。



「グランツだよ。グランツ・グロリアス」





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