05 好感度70%
「う、嘘だと言って」
私はその場で崩れ落ちた。
まだ、信じられない。自分がエトワールだったと言うこと以上に、この目の前にいる私の最推しリース・グリューエンの中身が元彼だなんて。
「ひ、人違いじゃないでしょうか……」
「何を言う。お前は、天馬巡だろ?」
「……違う」
「二次元オタクで、高校時代教室の隅で発狂して職員室に連行された天馬巡だろ?」
「掘り起こさないでよ! 違うッ!」
私は、必死に否定した。
しかし、リースが口を開けば開くほど彼の中身が元彼だと言うことがあきらかになり私の頭は真っ白になっていった。
こんなことってある!? 召喚され、転生し……それだけでもあり得ない事なのに、さらにあり得ないのは最推しの中身が元彼だったこと。一ヶ月前に別れた元彼の朝霧遥輝だったこと!
私がそう、床に手をついて嘆いていると無情にも機械音と共に私の目の前にシステムウィンドウらしきものが現われた。
【偽りの聖女エトワール・ヴィアラッテアのストーリーが始まったよ。攻略キャラの好感度を上げよう!】
(うわ――――!? 何で今なの!? タイミング悪すぎない!? 悪意ある、絶対悪意ある!)
私は、心の中で叫んだ。
そうして、ウィンドウが消えると私の近くでまた似たような機械音が鳴り響く。恐る恐る顔を上げると、リースの頭上に高感度らしき数字が浮かんでいた。
このゲームのシステム上、攻略キャラの頭上には好感度が数値で表示されるのだ。
ゲームでは、これを非表示にも出来たので気になった場合はきっとこの世界でも消せるはず。と、私は一応リースの好感度をチェックすることにした。
「んぎゃあぁええッ!?」
思わず悲鳴を上げてしまった。
私の叫び声に驚いたリースは、ビクッと肩を震わせてから心配そうな顔つきでこちらを見た。
そして、彼は私の視線を辿ると自分の頭の上の方に目を向ける。彼には見えていないだろうが私にはリースの好感度がはっきりと見える。
それは、恐ろしい数値だった。
(好感度70%ってどういうことよ!?)
彼の頭上の好感度は確かに70という数字が表示されていた。ゼロが一個多いのではないかと何度も目を擦ったが、やはり70と表示されている。
(いや、おかしいでしょ! 好感度70%ってどういうこと!? ゲーム始まったばっかりだよ? 一番攻略難易度高いはずのリースが初期地点で70ってどういうこと!? それに、これハードモード! 私、悪女!)
私は、心の中だけでツッコミを入れた。
元彼補正って奴か……
「元彼補正って何よ!」
「どうした、いきなり声を上げて」
リースが不思議そうに首を傾げた。私は、ハッとして慌てて口を閉じる。
いけない、つい心の声が出てしまっていた。危ない、気をつけなければ。いや、既に手遅れかも知れないが。
私は、リースもといい元彼を見た。中身が元彼だと判明したが、やはりその姿は私の理想の皇子様リース・グリューエンその人なのだ。
くそぉ……何で、元彼がリースなのよ。いや、反対か。リースの中身が元彼なのよ。
「俺と再会できて嬉しいんだろ」
「なわけないでしょ。自惚れないで! というか、アンタとは終わったのよ」
「お前の好きなキャラだろ。喜べば良いじゃないか」
リースは、さも当たり前のように言った。
キラキラとパーティクルが周りに飛ぶような笑顔を私に向けリースは微笑んでいた。
――――違う、だからそうじゃない。