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165 苦労人と、善人




(どういうこと?前に話してくれた、グランツの過去は嘘だったってこと?)




 アルベドから聞いたグランツの過去とか、ブライトから教えて貰った断片的なこととか全部が嘘だったということなのだろうか。いや、嘘を織り交ぜながら教えたのだろう。でも、何故隠す必要があったのか。グランツが生きやすいようにするため? その他に何かある?

 記憶を改ざんする魔法はグレーだ。禁忌の魔法の、死者蘇生、時を操る、悪魔召喚に続く禁忌の魔法に近い魔法。記憶を弄るものや、人の心を操るものなどは基本的にグレーだし、使う側も、かけられた側も危険だと聞いたことがある。それを、幼いグランツにアルベドがかけていたというのなら……どちらもまだ成人を迎えていないからだっただろうに。グランツへの配慮とか、アルベドだって幾ら魔力があってもそんなこと。


 私には分からない事情があったのだろう。私が口を挟むことじゃないのかも知れないけれど。と、私は黙って聞いていることにした。何も言えないから。それに、何も分からないから。

 グランツは、質問を質問で返されたことに少々腹を立てた様子でアルベドを見ていた。でも、自分が答えないと話が進まないと、嫌々ながらに口を開いた。




「気づいたのはつい最近です。エトワール様の護衛になってすぐ、貴方の元を訪れたでしょう。あの時までは、貴方のことが憎かった。闇魔法の人間は皆ヘウンデウン教みたいな奴らばかりだと思っていた。未だにその考え方は変わらない。だけど、貴方と関わり、一時期エトワール様を裏切ってヘウンデウン教の幹部として動いていたとき気づいたんです。ラジエルダ王国に行く機会があったので。そこで……」




と、グランツは言葉を句切った。


 今のところ、彼の中に燃えたぎっているアルベドへの殺意は消えていないようだった。これからその殺意が消えるのだろうか、とも考えたが、これはきっとグランツが闇魔法の人間に対しての認識を改めない限り変わらないだろう。アルベドが悪さをしていなかったとしても、グランツにとってヘウンデウン教、闇魔法の人間が自国を襲い乗っ取ったのは事実だから。消えない過去だから。




「ふーん、それで思いだしたって言うのか」

「……別にいいでしょう。何で思い出すかは……それで、教えて下さい。俺の記憶を書き換えた本当の理由を」

「記憶が違うということしか知らねえっていうわけか。まあ、気持ち悪いよな」




 アルベドは譫言のようにそういって、顎に手をやって考えた。私もこれ以上引き延ばされても嫌だなあと思いながらも、何も言えないので黙っていることしか出来なかった。兎に角、アルベドの答えを待つしかない。




(でも、記憶を書き換える魔法ってグレーなんだよね。そこまでリスクを背負って魔法をかけた理由が、アルベドにはあるって事なんだよね)




 見知らぬ相手に対してそんな魔法をかけることは出来るのか。もしかしたら、幼い頃から、アルベドとグランツは接点があって、とか? と色々思ったが、その伏はなさそうだった。だって、どんなに昔から顔を合わせていたとしても、根本的に性格があわないと思ったから。




「アルベド・レイ」

「教えるっつったから、教えるに決まってんだろ。そう、急かすなよ。時間はたっぷりあるだろ?」

「今日が何の日か知っているんですか。皇太子殿下と、トワイライト様の結婚パーティーですが。貴方と喋っている時間は無いです」

「お前からふっかけてきたのに、酷えな。まあ、お前が時間がないっつぅなら教えてやるよ。お前の兄と、王妃をころしたのは俺で間違いねえ」

「……」

「だが理由はちょっと違うな。お前の記憶では、俺が一方的にころしたって事になってんだろ?」

「……お母様が、ヘウンデウン教と繋がっていて、その罪を償うために自殺しようとしていた。それに、巻き込まれそうだったから、ころした……と、そう言うところでしょう。けれど、その記憶は違う……と、俺は思っています」




と、グランツはいった。深刻そうな顔だった。結局どんな記憶であっても、いや、記憶を書き換えたということは、植え付けられた記憶よりも酷いものだったのだろう。私も以前、アルベドにそう教えられていたから。何故、グランツの母親と兄を殺したのか、その理由を教えて貰った事があった。あの時から嘘をついていたというのか、と私は相変わらずのアルベドにちょっと恐ろしさも覚えていた。何故黙っている必要があったのか。これ以上辛いことが、グランツのみに起きていたから、ということしか考えられないけれど。




「アルベド」

「何だよ、エトワール」

「私にも嘘ついていたってこと?」

「まあ、そうなるな」




 アルベドはそう言ってのけた。別に悪いことをした自覚というか、意識がないというように。アルベドからしたらそうなのだろうけど、嘘をつかれていた、というのは何とも嫌な気持ちになる訳で。

 気を紛らわせるために、ブライトに私はこっそりと聞いてみた。彼は、中立の立場だというように私と一緒で黙っていたが、私が話し掛ければすぐに応答してくれた。




「ブライトは、知っていたの?」

「いえ。記憶を書き換えられている、ということを実際グランツさんの口から聞いたのはこれが初めてですが、何となくそう言うきはしてました。記憶を取り戻す魔法はあるのか、と聞かれたことがあったので。何か、深刻な問題があるのではないかと。ですが、このことだったとは思わず」

「そう……でも、そんな相談をされていたのね」

「僕が、口が堅いと思っているんでしょうね」




 なんて、ブライトは苦笑いしていた。どっちの意味なんだと思って彼を見れば、ブライトは眉を下げていた。確かに、ブライトは口が堅そうだし、外部に漏らさなさそうだけど、そのせいで、色んな人から色んなことを聞かされて一杯一杯になっていたらと思うと、それはそれで可哀相なところではある。

 誰にでも優しいっていうのは、ある意味誰にも興味がないみたいなことなのかも知れない。攻略キャラの中では一番優しそうではあるけれど、それ故に苦労人であることには間違いない。




「グランツさんはあまり、多くを語らない人なので。相談はされましたが、一人で解決しようとしているんでしょうね。僕の周りは、そう言う人が多いので」

「えっ、相談されるだけされて、後は自分でやるって言われてたの!?何それ、可哀相」

「は……はは……」




 ブライトは先ほどよりも引きつって笑っていた。苦労人過ぎる!

 そんなブライトに自分も頼っていたことは事実なので、それ以上私は彼に可哀相だの、苦労人だのいわないようにと口を閉じた。その間に話が進んでいたようで、アルベドとグランツは互いに視線をぶつけ合いながら、アルベドは口を開いた。




「記憶を取り戻して、どうする気だよ」

「別にどうもしませんが。ただ、偽りの記憶を信じたまま生きるのが辛くなったんです。俺も変わらないといけないと思って……貴方が、ただの快楽で人を殺していないことは分かりました。でも、人殺しになれている貴方の事は好きになれない。闇魔法の人間を俺は一生許さないと思います。貴方が善人であっても」

「そうか」




 アルベドは少し悲しそうなかおをしていた。それがグランツに伝わったかどうかは別として、アルベドは唇を指でなぞる。

 アルベドがいい人間だったとして、いや、いい人間だけど、ラジエルダ王国、自国を滅ぼしたのはヘウンデウン教、闇魔法の人間だから、グランツがずっと闇魔法の人間に対して殺意を持ち続けていくのは変わらないだろう。けれど、アルベドへの気持ちが変わるなら、この二人が共闘すればさらにいいんじゃないかとも思ったりして。




「光魔法の人間が必ずしも全員、善人じゃねえぞ。お前の周りが恵まれていた、そういう人間の集まりだっただけだ。いや…………違うな。少なくとも、お前がラジエルダ王国で生き、第二王子として生活していたときは、お前の周りには善人はいなかった。お前は愛されていなかった……っていったらグランツ・グロリアス、お前はそれを受け入れられるか?」




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