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161 変わらない彼ら




 見知った顔。すました顔。面白い玩具を見つけたと喜んでいそうな顔。胡散臭そうな顔。

 いや、後半は全部悪口だ。




「あ、アルベド……何でここに」

「何でって、招待されたからに決まってるだろ。まさか、エトワールがいるとは思わなかったがな」

「……何か、久しぶりに会うみたいな口利くけど、アンタ……えぇ……」




 紅蓮の髪はいつもより短く見えた。きったのかと思ったが、そうではなくて、高い位置でくくってお団子ポニーテールになっていたからだ。初めて見た。いや、似合っていないわけじゃないんだけど。そして、服装は正装なんだけど、真っ黒なんだよなあ……パーティー、結婚式 ……パーティーと思うと何だかちょっと違うような気がする。これもまた、似合っていないわけじゃないし、むしろにあっているけど、着てくる場が違うというか。

 アルベドは、いつもの調子でニヤニヤしていたが、その笑みの中に、寂しさというか安堵感らしきものが見て取れるような気がして、私は思わず目を擦ってしまった。




「目にゴミでも入ったか?」

「入ってないわよ。てか……アルベド」

「何だよ」

「あれから、心配とかした?」




 言葉が出てこずに、そんな言葉が思わず出てしまった。近くにいたブライトも、アルベドも目を丸くして私を見ていた。それから、何故か顔を見合わせて、もう一度瞬きをする。

 何だか私が変なことを言っている気分で、穴があったらはいりたくなった。でも、そんな私が変なことを言った、という感じじゃなくなって、アルベドは、ポンポンと私の頭を撫でた。




「心配しないわけねえだろうが。心配だった」

「じゃあ」

「おっと、いっておくが、皇宮に忍び込むなんて真似は出来ねえぜ。それに、お前が何処に転移したかもわかんねえのに追いかけられるわけねえだろう。まっ、大体予想はついていたが、まさか、皇宮で幽閉されているなんてな」




と、アルベドは、さもそれがあたり間だった、予想のうちだったといわんばかりに話した。まるで、その場にいてみていたかのように。




「あ、アンタ、監視してたってわけ!?」

「なわけねえだろ。さすがに、皇宮内に忍び込んで、監視魔法なんてつけられねえよ。どれだけ、がっちがちな警備か分からねえとはいわせねえからな。さすがの俺でも無理な者は無理だ」

「案外、アルベドならいけそうなんだけどねえ。そう思うでしょ、ブライト」

「え、僕ですか……レイ卿が…………はい」

「俺を見るな、ブライト・ブリリアント!」




 アルベドは、ブライトにそう噛みついた。いつもの調子で、何だか私も安心感を覚え思わず笑ってしまった。それを見て、ブライトもアルベドも、何故か嬉しそうに笑っていた。




「まあ、お前が元気そうでよかった。悪ぃな、会いに行くのが遅くなっちまって」

「あいにって、別に助けてとかいってないし。てか、アンタは、呼ばれてきたんでしょ。珍しくない?」

「珍しいってお前なあ……皇太子と、聖女の結婚式だぞ。さすがに、俺でも呼ばれる」

「ええ……」

「疑いの目を向けるな。一応、由緒正しき公爵家の人間なんだから」




と、アルベドにいわれ、久しぶりにアルベドの地位について思い出した。そう言えば、公爵家の公子だった。




「アルベドのお父さんは?」

「今は俺が、公爵だ」

「えっ、ラヴィと話し合ったの!?」

「元々俺がなるしかねえだろ。つか、前もいったが、彼奴に譲る気は毛頭なかった。それだけの話だ」




 そういって、アルベドは少し怒ったように目を細めた。知らない間に話が進んでいるような気がして、私は吃驚した。いや私が聞きそびれたとか、忘れていたからかも知れないけれど。でも、アルベドが公爵の座について、レイ公爵家は今後どうなっていくのだとか、ラヴァインはどうなるのだとか、気にならないわけなかった。と、聞きたい所なんだけど、聞いたところで私にとってメリットがあるのだとか、口を出せるわけでもないので、そこそこに情報を聞いたらそれ以上きくのはやめにしようと思った。

 アルベドも、ブライトも家の当主になって忙しいだろうし、私に構っている暇なんてないのかも知れない。けれど、彼らは私を気遣って話してくれて……

 アルベドが無事だったのもそうだが、皆変わりないようで安心した。まあ、私がいないところで、彼らが何かが変わるわけもないのかも知れないけれど。




「ところで、ラヴィは?」

「さあな、何処で何やってんだろうな」

「ひ、酷くない!?ラヴィが、逃がしてくれて、フィーバス卿の元に行こうとしたら、リースに会って、それでここに転移しちゃったわけ何だけど。あの後何も連絡とってなかったの!?三日も何してたの!?」

「お、おい……それはねえだろ。三日も何してたのかって……俺も俺で忙しいんだよ。お前は罠にかかって皇宮までとんじまうしさ。一旦、公爵家にもどって体制整えたり、皇太子殿下と聖女様の結婚式に供えたり……な?俺も忙しいだろ?」

「何、その仕方ないだろ、みたいないい方」

「事実だろ」




 アルベドはそう言うと、呆れたというように肩をすくめた。確かにいっていることはごもっともで、大変だったんだろうなというのは伝わってきた。だからといって、実の弟のことはどうでもイイみたいな態度はいただけない。ラヴァインのことを心配していないわけではないのだろうが、彼よりも他のことを優先していたと。




(いや、それが正しいんだろうけどね!?)




 ラヴァインだって子供じゃないし、自分の事は自分で出来るだろう。それに、そもそもに公爵家に帰ってこない問題児だから、心配のしの字もいらないのかも知れないが。どうなったか気になるじゃんか、と私はアルベドを見た。




「死んではいないだろうな」

「不謹慎な……それでも、お兄ちゃんなの?」

「お兄ちゃんって……兄ではあるがな。彼奴のことは、そこまで心配しなくていいだろ」

「でも、今日のパーティーにはきていないんでしょ?」

「招待されたのは俺だけだからな」

「え?」




 そう言うとアルベドはそんなことも知らないのか、と満月の瞳に私を映した。何も知らないし、知るわけがないのに。

 でも、アルベドのいい方から察するに、闇魔法の貴族は、そもそも呼ばれない、ということなのだろう。どんな風に招待状を出しているか知らないけれど、帝国内でも権力を持つ、公爵家を呼ばないなんてこと……




「いつも通り、あの皇太子殿下からの招待状だ。んじゃなきゃ、俺はこの場にいねえだろうよ」

「リース……から」

「大方、エトワールを連れ出せか、守れ、見たいなのだろうな。招待状が来たのも、ギリギリだったからな。相当追い詰められているのかもな」

「……招待状ないと、やっぱり入れないの?」

「当たり前だぞ。皇宮に無断では入れねえよ。招待状がなきゃ入れねえよ、今回みたいなパーティーには。で、皇太子殿下からきた招待状で中に入ったわけだ。まあ、居心地は最悪だけどな」




と、アルベドは少し苛立ったようにいった。まあ、彼も彼で私やブライトみたいな立場なのだろう。闇魔法の人間を嫌う人達は何万といる。殆どの貴族がそうなのだろう。闇魔法の奴らは敵、みたいな風習というか考えがあるから。それを根本的に崩したいと思っているのがアルベドで。




「でも、お前が無事でよかった」

「ある……べど」




 無事だったのか、と聞かれたら、無事なのか自分でもよく分からなくなるけれど、この時は、そういっておくのが飯野かもと、私は無事だった、ありがとう、とだけ伝えた。それを多分真剣にはとってくれなかっただろうが、アルベドは「そうか」と微笑んでくれた。

 私も、彼が無事でよかったと心の底から思っている。何事もなかったようで……


 でも、本当に自分を心配してくれる人がいる、けれど、その人たちは私がいなくても普通に生活が出来ている、ということを感じると、私がいなくても、と思ってしまって、ダメだなあ、と私は、人だかりの中心にいる眩い黄金を思い浮かべながら思った。




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