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159 ブライトから見るフィーバス卿について




(やっっっっっば、恥ずかしすぎでしょ)




 私は誤魔化したくてお腹に手を当てたが、ぐるぐるとお腹が鳴っている。多分これは聞えないだろうけれど、先ほどから美味しい匂いが鼻孔をくすぐって食欲をそそられる。三日もまともに食べていないから、一段と料理がキラキラと輝いて見えるのだ。そりゃ、結婚式の、それも皇太子と聖女の結婚式に出される料理。貴族が食べる料理なのだから、手を抜いているはずがないのだ。私が食べていたのは失敗したか、乾燥させすぎた固いパンと、残った汁みたいなスープだったし。

 自分で何もいらないからといったのに、これは失態過ぎる。恥ずかしすぎる。

 ポカンとブライトも私の方を見ているし、丸くなった目は付与府よと他の方向に向いて、頬をかいている。凄く気まずかった。




「何か取ってきましょうか?」

「いいいい、いや、いいです。大丈夫です。というか、目立ちたくもないし、ブライトをパシらせたいわけじゃないから。ほんと大丈夫だから!」




 私は何とか大丈夫だからという意思を伝えたかったがテンパってしまって上手く伝えることが出来なかった。それを、ブライトはうんうんと聞いてくれていたから、余計恥ずかしかった。でも、いつも通りの私だな、という風にも思えて、知っている人と会話すると落ち着くんだ、と心の平穏を一時的に取り戻していた。




(こんなことで、平穏とかどれだけこれまでがハードだったのよ)




 自分は大丈夫だと思っていたけれど、エルの言葉にかなり苦しんでいたのかも知れない。時々優しい一面は見せたものの、自分に敵意しかない子だったから、一緒にいて苦しかったのかもと。別にエルが陽キャ、というわけじゃないんだけど、私とは多分あわないタイプだろうし、だからこそ彼女の言葉一つ一つに引っかかってしまうのかも。いつも、人の顔色を伺って生きてきたからこそ、初めて嫌い、をぶつけられた気がして、辛かった。それを、ブライトに言えるはずもなく、私も視線を漂わせることしか出来なかった。

 まだ、リースとトワイライトは着ていないみたいで、貴族たちは、各々話したいことを話しているようだった。主役がいたら、もっと盛り上がるんだろうけど。




「あの、エトワール様、つかぬ事をお聞きしますが、最近食事をまともにとってないのでは?」

「え、え、あ……う、ううん!大丈夫、とっているから!」

「ですが、顔色が悪いように思えます。風の噂で聞きましたが、もしかして、ここ数日ずっと幽閉されていたとか」

「ひっ、そ、そんなわけないよ」




 多分これはごまかせないなあ、と思いつつも、私は、心配かけたくなくてどうにかごまかそうと必死だった。でも、必死に取り繕えば取り繕うほどボロが出てきて滅茶苦茶だった。多分、ブライトは気づいていて、私が落ち着くのを待っているのだろう。もうこれなら話してしまっても良いのかも知れないと。




(でも、いつ知ったの?)




 誰かがこんな情報を流したとしか言えないのだが、こんな情報を流して何になるというのだろうか。別に、私を捕らえたからさらし首にする、とかでもないのに。貴族は噂が好きだと言えば、それまでになるのだが、わざわざいう必要があるのかと。

 リースに聞いた、ということも考えられるが、リースにそんな暇はないだろうし、ブライトも警戒されていてこういう場でしか皇宮に入れないだろう。そもそも、皇宮には簡単に出入りできないのだ。

 まあ、何故知っていたかは置いておいて、心配してくれたのだから、まずは真実を伝えるべきだろう。




「う……そう、なの」

「……レイ卿とお一緒だと聞いていましたが、別れてしまったのですか?」

「ううん、辺境伯の元に行こうってなって、その領地でリースとあったら、いきなり魔方陣が展開されて皇宮にとばされて。脱出を試みようとしたんだけど、地下道には人工的魔物がいて……でも、結局皇宮からは出られなくて。皇帝に見つかったって感じ」

「そうでしたか」




 ブライトは何かを考え込むような仕草を見せ唸っていた。何か打開策を立ててくれるかも知れないと思ったが、私だけにかけられているのか、皇宮全体にかけられているのか分からない、皇宮から出られないこの魔法をブライトがとけるかと言われたら微妙である。闇魔法を覗けば、ブライトの家が一番魔力と、魔法の知識があるのだが。




「で、でも、このパーティーが終わったら解放されるかもだし、大丈夫だって」

「僕はそうは思いませんが」

「……うっ、でも……分かってるけど」




 ブライトに現実を突きつけられて、私は返す言葉もなかった。だってその通りだったから。このパーティーが終わったからと言って私が解放されるかもどうか分からない。でも、何も言われていないから顔も見たくないというのならここから解放して欲しい気もする。エトワール・ヴィアラッテアが、私を絶望させるために、リースとトワイライトの結婚式を見せているのなら、もう意味がないからやめて欲しい。いや、心にダメージはくるんだけど、もう仕方ないって割り切っている部分もあるし。さすがにずっと彼らを見ていると辛くはなるけれど。




「そう言えば、何故、フィーバス卿の元に?」

「ああ、えっと、アルベドがフィーバス卿に協力を仰ごうっていっていて」

「そうなんですね。レイ卿が……彼の考えそうなことです」

「アルベドの考えること分かるの?」

「いえ、そう言うわけではなくて……一応、フィーバス卿は帝国内でも強い力を持っていますし、それでいて中立の立場をとっているんです。ですが、不正や権力を行使した政策は嫌う。差別も嫌う人なので、状況を話せば仲間に引き入れることは出来るでしょう」

「そ、そう」




 そこまできいていなかったから、ますます顔も知らない名前だけのフィーバス卿の解像度が上がる。中立の立場なんだ、と聞いて思ったが、アルベドのいい方からして、今の皇帝が嫌いで仲が悪いとか何とか。人によって見方が違うのかな、と思いつつも、今どこにも属していないというのなら、中立とも言えるかも知れないと思った。




「そ、それで、フィーバス卿は今日のパーティーにはきていないの?」

「そのようですね……僕もあまり喋ったことがないので。魔法についての研究報告などは送りあっているのですが、実際あったことは一度しか」

「どんな人だった?」

「どんな人物か、ですか……そうですね、難しい人だと思いますよ。後は、凍てつくようなオーラを放っています」

「え、ブライトでも怖いと思ったりするの?」

「怖いとまでは言いませんが……見方によっては怖いかも?いえ、このいい方はあれですね。厳格な方で、少しのミスも許さないそんな人です。でも、考え方は柔軟で、自分の中に頑固たるものもある強い人ですよ」




と、ブライトは尊敬しているとでも言わんばかりにいった。それは、昔、ブライトが彼の父親を語るときにいった顔と似ていて、ブライトの中で第二の父親とでも思っているのだろう。それほど凄い人、益々会いたくなったが、今日のパーティーには出席していないと。


 帝国の大きなイベントであるはずなのに、招待状が届いていないということはないだろうし、立場的に。じゃあ、届いていたのにもかかわらず出席しないという結論を出したということだろうか。

 だったら、アルベドはどうなのだろうか。彼も出席していないということもあり得るのでは? と、私が思っていると、本日の主役たちが会場入りしたようで、騒がしかった会場も一気に静かに鳴り、祝福の拍手が送られた。私達は後ろにいたため、彼らの姿は見れなかったが、そのまばゆさと、あの時見た、光の花びらがそこら中を舞い始め、彼らの存在を感じていた。




「皇太子殿下と、聖女に祝福を」




 そんな声がかかったと同時に乾杯、と皆がグラスを掲げていた。ブライトはその様子をただ傍観するようにみ、ちらりと私の方を見た。




「エトワール様」

「何、ブライト」

「……いえ、何でもありません。気にしないでください」



 何か言いたげにブライトはふわりと微笑むと、皆と同じように、主役の彼らに祝福を贈った。




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