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154 嫌われている自覚




「たーいーくーつー!」




 部屋に閉じ込められて、かれこれ一日……いや、二日たったかも知れない。誰かとおしゃべりできるわけでもなく、ゲームができるわけでもない。何もできない部屋の中で私は退屈をもてあましていた。だって何もできないんだから。

 料理はたまに運ばれてくる程度で、エルが毎日私とおしゃべりしてくれるわけでもない。というか、エルが私のことを嫌いなので基本、私がいる部屋にはこない。基本一人。

 だから、私はひとりさみしく部屋にいるしかなかったのだ。




「ほんといやになっちゃうわよね……」




 扱いがひどいのは今に始まったことではなかったが、このように放置されるのは、胸が痛んだ。ここまでの扱いを受けるのは相当で、皇帝陛下が私を陥れようとしているのは誰が見てもわかることだった。私はそれに屈してはいけないと気持ちを強く持っているが、この状況が続いたらどうなるかわからない。でも、三日我慢すれば解放されるかもしれないし、というのはあって、そこまでは耐えようと思った。




「……」




 出される冷たいスープと固いパン。脱出しようと思っても、できない空間。息が詰まる孤独に私は打ちひしがれていた。なんでこんなことになったのか。

 そんなことを思っているとふと、あることが頭をよぎった。それは、エトワールが迎えた悲惨なエンディングの数々だ。




「そういえば確か、エトワールって……」




 ヒロインルートではいろんな死に方をした。なんで悪役に死に方がいろいろ用意されているのかわからなかったけれど、それも何かの手掛かりになりそうだった。嫌だったのが、今の状況と酷似していたから。

 でも、あれは、エトワールがトワイライトに手を出して、監獄に入れられて、それから民衆の前で処刑というエンディングだ。いつ見てもあれはリアルで頭に残っていた。断頭台に上って首が落とされる……そんなエンディング。




「まさか……ね」




 私はうっすらと笑いが漏れた。まさか、自分がそんなことにはならないだろうと。自分で自分の首をしてめているような、どこかフラグを立ててしまっているが、さすがにないだろうと思う。今思えば、エトワールは私の死んだ体で何をしようとしているのだろうか。死者蘇生は禁忌の魔法に値するし、そんな事すれば彼女もただでは済まされないだろう。

 そんなことを思っていると、やっぱりみんなの顔が浮かんできて、みんなに会いたいという気持ちが強くなってくる。会えないのに、会えるわけがないのに手を伸ばしたくなってしまうのだ。

 時間の感覚もわからなくなっていって、私は、ベッドの上で一人うずくまっていた。

 すると、とんとんと部屋を叩く音がして私は顔を開ける。入っていいなんて言っていないのに、エルが入ってきた。彼女は、オレンジ色の瞳を私に向けて、またさげすむような目で私を見ると、舌打ちをした。




「ひどいよ、エル。私のことなんだと思っているの」

「ただの監視対象ですが。それ以外何かあるんですか。私と貴方の関係はそうでしょう。何かほかに臨むものでもあるんですか」

「聞いた私がばかだった」




 エルの毒舌は今日も絶好調だった。私に対してだけこうなのか、それとも他の人に対してもこうなのか。もしそうだったとしたらやめた方がいいよ、何てアドバイスしたいけど、彼女がそれを聞くとは思えない。

 というか、なぜ彼女はここに来たのだろうか。


 エルは何も手に持っていなかった。まあ、鞭なんて持ってこられても困るんだけど、彼女の手には、私のご飯も何もなかった。何もないのに彼女が尋ねてくるのが珍しくて、私は首を傾げた。それが気持ち悪いというように、エルは眉間に眉を寄せる。そんなに嫌いなのに……まあ、皇帝の命令なら仕方がないのかもしれないけれど。




「私が嫌いなのに、よく来てくれるね。もしかして、お話ししに来てくれたの?」

「頭お花畑ですね。そんなわけないじゃないですか。死んでいないか確認しに来ただけですよ」

「それは、どうも」

「……」

「何?」

「嫌われている自覚を持ったらどうですか」




と、エルは吐き捨てた。


 嫌われる自覚を持つとはどういうことだろうか。嫌われているのは今に始まったことじゃないし、それがエルが初めてというわけでもない。だから彼女の言っていることが少し理解できなかった。

 エルが言いたいことは何なのか。




「嫌われて自覚って何?嫌われているのは今に始まったことじゃないし、もう慣れているというか」

「それが慣れている顔なんですか」

「……慣れたくはないよ?でも、こういう扱いというか、エルみたいにあからさまに嫌だって顔されたことこれが初めてじゃないから」

「貴方は」




 エルはそこで言葉を区切った。


 何かを言いたげに、でもかみつぶして。言わないでおこうと決めたように下を向いた。

 いいたければ、言えばいいのに、と私は思ってしまったが、彼女が言う義理も何もないのだろう。だから、聞かないけれど。そんな風に、私たちの間に微妙な空気が流れ始めて、私はこれはまずいと思った。空気を悪くしてしまった自覚があって、なんだかこっちまで嫌な気持になってしまったからだ。こんなこと言うつもりじゃなかったのにって、後悔しつつも、彼女に何て言葉を書けたらいいかわからなかった。だから、話を振ってみようと思ったけれど、彼女の方から口を開いた。




「嫌われていて、いやじゃないの?」

「嫌じゃないのって……そりゃあ、いやだよ。嫌なことばっかり。理不尽だと思う」

「なら、なんでそれをぶつけたりしないの。嫌だって、声を上げればいいじゃない。貴方はそれを何でしないの」




と、エルはなんだか泣きそうになりながら言っていた。


 私のことが好きなのかな? 何て、自意識過剰に思ったりもしたけど、彼女が言いたいのはそうじゃないんだろうなって汲み取って、私は視線を漂わす。

 慣れているわけじゃないし、こんな扱いされたくないって本心では思っている。受け入れたわけじゃない。でも、仕方ないって思ってしまっている自分もいるわけで。それを、エルに理解してもらおうと思うけど、それを押し付けるわけにもいかないって。




「エルは、私と同じ立場だったらだうなの?」

「質問を質問で返さないでください。こちらが聞いているんです。貴方はそれに応えればいい話」

「ひどいなあ、私の話も聞いてよ」

「貴方と話すことは何もないんですよ」




 そう言ってまた顔をそらしてしまう。嫌われているなあ、なんて思いながらも、私は、エルが私に興味を持ってくれたんじゃないかって少しうれしくなってしまった。彼女の生い立ちは知らないけれど、私の言葉で何か変わってくれるならとか思ってしまう。

 私が誰かを変えるような言葉を言えるかどうかは別として。それでも、彼女に私のことを知ってもらえたらなって思ってもいて。

 少し、ついポロリと漏らしてしまった。




「何かにぶつかりたいことはあるよ。当たってしまいたいこともあるかな……でも、私は暴力は向いていないし、そういうタイプじゃないと思う」

「……」

「エルに、私がどんな風に見えているか知らないけど、貴方が思っているよりはましな人間だと自分のことは思っているから」

「そう……あっそう」




 エルは、つまらなそうに言った。何処か寂し気で、悔し気な顔だったような気がした。なんでそんな顔をするのか、覗こうとすれば、彼女は起こったように部屋を出ていってしまった。何がしたかったんだろう、と思ったが、誰とも話せない時間が長かったため、嫌味を言われても気にならなくなってしまった。感覚がマヒしていると言えばそうなるんだろうけど。



 あと一日……いや、二日かよくわからないけど、そしたら、私はここから解放されるのだろうか。そんなことを思いながら、私は窓の方に行き、まだ明るい空を見て、星を探すことにした。明るくても見える、明るさに負けないまぶしい星を見つけようと、空を眺めた。




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