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145 隠し部屋





「つまり、戻ってきちゃったってことですよね」

「ほんと、どうなってんだよ、ここぉ……」




 ルーメンさんもさすがに疲れたのかその場にへたり込んでしまった。私は、自分のために頑張ってくれたルーメンさんを見ながら、先に見える仄かな明りに手を伸ばす。砂漠で見る蜃気楼みたいなものなのだろうか。あそこがゴールだと思わせて、実はゴールじゃないとか?

 色んなことが考えられたがまず、分かることと言えば、私達は皇宮から出られないと言うことだろう。取り敢えずは、地下道からじゃ外に出られないと。一体どんな魔法を使ったらそうなるのか聞きたいが、それも出来ずにいる。




「ルーメンさん、ありがとうございます」

「いいや、役に立てなかったから、そんな感謝の言葉なんて」

「だって、ルーメンさんも疲れているのに、私の為に走ってくれたみたいじゃないですか」




 ルーメンさんの額には汗が浮かんでおり、息も荒かった。もう少しでゴールだからと無理して走った人みたいな感じがする。ルーメンさんは汗を拭いながら、少しだけ俯いて、それから、またあの光を見た。




「閉じ込められてるってことだよな……エトワール様」

「そう言うことでしょうね。ほんと、どうなってるのか……」




 ルーメンさんは、光に包まれた後、また暗闇に戻ってきてしまったらしい。おかしいと思って走れば、私の後ろに出たと。自分は曲がってもいなければ、後ろに下がっているような意識もなかったと。ルーメンさんは、頭が可笑しくなると、汗ばんだ髪をかきむしっていた。




「これからどうするんですか。エトワール様」

「ルーメンさんでも、外に出られないってことは、今皇宮にいる人達は全員外に出られないってこと……なのかな」

「さあ……一度、俺が上に戻ってみてもいいですけど、どうしますか?」

「帰り道分かるの?」




 儀式場から結構な距離を歩いたはずだ。だから、戻るにもかなり体力がいると思う。そして、外に出てからも、皇宮は広いわけだし、出口というか、皇宮の敷地外に出るのも時間がかかると思う。そこまで、ルーメンさんを使えないと。

 私は、少し悩みどうするのが一番いいか考えた。確かに、私が上に上がるより、ルーメンさんが先に出て、皇宮の外に出れるか否か試した方がいいだろう。でも、地下道から出られるのか。また、地下道から出たら戻ってこれないんじゃないかと、色んな考えが浮かんでしまい、彼を一人でいかせるのも、私がここで一人で待つのも危険なんじゃないかと思った。

 それに、ルーメンさんがそんなボロボロの状態で出ていったら怪しまれるというか、リースも心配するというか。




(ここは、二人で行った方がいいかもしれない……)




 危険であることには変わりないし、見つかるリスクもあるけれど。

 変身魔法を舌として、皇宮には、それなりの魔道士がいるだろう。その人達を欺けるとは考えられない。だから、周りを確認しつつ行動しなければならないのだが。




「ここにいても、どうしようもないと思うから、私も上に行く」

「ほ、本気で言っているんですか!?危ないですよ、まだ誰が味方で、地上だってどんな魔法がかけられているのかも分からないわけですし」

「でも、ここで別れて、ルーメンさんと離ればなれになる方が危なくない?」

「そうですけど……」

「どうせ、地下道にいても、脱出できないことが分かったんだし、私も、上のルートを使っていく方がいい気がする……っていっても、きっと、上にいっても、私が皇宮から出ることは出来ないと思うけど」

「どういうことですか?」




 ルーメンさんは、不思議そうに聞き返してきた。


 これは、私の予想に過ぎないけれど、ここから私を出さないために魔法がかけられているとする。地下道を使っても、皇宮の外からでも、きっと同じ地点に戻されるんだろう。なんで、それがルーメンさんにも作用しているのか分からないけれど、ここに私が転移させられた時点でおかしかった。きっと、私を皇宮に閉じ込めるために、ここに転移させたのだと。

 ルーメンさんの偽物で私達の注意を引きつけて、それから私達をここに転移して。

 ルーメンさんは、地上に戻れば多分皇宮の外には出られると思う。でも、私は違う気がするのだ。どんな魔法がかかっているかは、知らないけれど、どんな原理なのかも分からないけれど。

 皇宮全体に、私を外に出さないための魔法がかけられているんじゃないかと。




(じゃあ、その魔道士は何処にいる?)




 エトワール・ヴィアラッテアだった場合、どうしようもない。私をここに閉じ込めた理由は、リースと、トワイライトの結婚式を私に見せつけるため? 三日間、私をここから出さないつもりだろうか。そうして、絶望させると。

 それか若しくは、皇帝に見つけさせ、私を見せしめに殺すのかも知れない。

 考えられる理由はその二つぐらいだろう。でも、どっちにしろ、私はここから出ることが出来ない。ならば、上に戻って、どうにか匿って貰うしかない。単純に、地下道にいるのがいやだっていう理由もあるけれど。




「色々理由はあるけど、ここにいるのは耐えられないし、ルーメンさんだってそうでしょ?」

「そう……ですけど」

「じゃあ、上に行くしかないんじゃない?」




 私がそう言うと、ルーメンさんは黙り込んでしまった。

 何か考えがあるのかと顔を覗けば、ルーメンさんは、ハッと何かを思い出したように顔を上げた。




「隠し部屋があります」

「隠し部屋?」




 とても、ときめくワードをルーメンさんがいい、私は目を輝かせて彼を見た。彼は、期待に応えられないというような顔で私を見つめ返したが、気を取り直し、話を始めた。




「遥輝……殿下が俺に教えてくれた部屋です。隠し部屋というか、殿下が一人になりたいときに使いたい部屋。皇宮にあって、皇宮にない部屋です」

「何それ、存在しないってこと?」




 若しくは、魔法で、空間を切り取ったものなのかも。あの肉塊や、人工的魔物のように変化する空間的な。

 ルーメンさんは、説明が難しそうに、頭をかく。




「まあ、ええっと、そこに繋がる扉があって。あそこの所有者しか、そこは開けられないんです。あそこなら、安全かも……ですけど」

「また、歯切れ悪いけど、問題があるの?」

「入ることは出来るけど、出ることが出来ない……」

「はい!?」




 じゃあ、どうやって、リースは出入りしているんだと、私は彼を睨み付けた。その睨みがかなりキツかったようで、ルーメンさんは顔を引きつらせた。私も早とちりしすぎているのかも知れないけれど。




「リースが許可した人間しか入れないんですよ。だから、俺と多分、エトワール様は入れると思うけど、出るときは、リースがいないとでられないって言うか。まあ、そういう鍵があるって言うか……いってみればわかるし、リースにエトワール様がその部屋に入ったって俺が教えればいい話なんですけど」

「……じゃあそうしてよ」

「はい」

「…………つまり、神殿の女神の庭園みたいな空間ってことね」




 私がそう言うと、ルーメンさんはコクリと頷いた。


 女神の庭園も許可された均か入れない空間だったから、それの皇宮……リースバージョンと言うことなのだろう。本当に、魔法って不思議である。

 ルーメンさんは、説明をし終わると、殺鼠食いどうしようというように、詠唱を唱え始めた。すると、灰色の光が私達を包み込む。転移魔法ってつかえるっけ? と思ったが、皇宮内であれば、使えるのだろうと、そこまで考えないようにした。そうして、自分の輪郭が薄れ始め、私は、転移でよわないようにと意識をしっかりと持ち、ルーメンさんの肩に手を置いた。




(その、隠し部屋に……リースがいたら、いいな、とか。少し思っちゃうんだけど)




 期待しないでおこうと思いながらも、彼に会いたい気持ちはあっって、私は転移の瞬間、あの眩い黄金を瞼に思い浮かべていた。





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