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140 わだかまりと誤解




「エトワール様も、苦労してきたんですね」

「いきなり何?ああ、さっきの、記憶、の……」




 会話がなくて不安になったのか、ルーメンさんは、先ほどは触れなかった私の過去について、ポツリと零した。まあ、会話がないのは、慎重に進まないと、足下とられそうだからっていう、緊張から何だけど。善意で触れなかったんだなあっていうのは、さっきの事で分かっているし、そう思うと、こっちが勝手に、ルーメンさんを分かった気になってしまっていたようなきもして悪いことしたな、とは思った。ルーメンさんは私の後ろをついてくるばかりで、とくに何かをいうこともなかったから、こちらからも話題を振って貰えて、嬉しいとは思う。




「エトワール様のこと、もしかしたら、誤解していたかもっておもって……だから、謝りたくて」

「何を誤解していたか知らないけど、私は気にしていないから、そこまで気にしないでいいと思う……って、私が言っていいのか分からないけど」




 今何を言っても何だか傷付けそうな気がして、私はそこまで強く何かを言うことは出来なかった。

 目的は同じで、ここから出られれば良いんだけど、その間、私達の間で会話がないっていうのもあれだなあ、なんて正直思っている。ルーメンさんがどうかは分からないけれど。




(誤解って何、誤解してたんだろう)




 気になる箇所はあって、ルーメンさんから見た私は、どんな風にうつっていたんだろうか。ルーメンさんは、私がリースの恋人だって知っていたし、私の前世も知っているわけで、エトワールは悪役だ、悪い奴だ、偽物聖女だとは多分思っていないだろうし、そんな人じゃないって分かってる。それでも、誤解という言葉が出たっていうことは、本当に何かしら誤解していて……でも、その後会の内容というのが私にはさっぱりだった。

 聞くのもアレかと思ったけれど、ここで聞かないのもまたあれな気がして、私はルーメンさんに尋ねてみた。




「……え、でも、気になって。その誤解って何だったんですか」

「遥輝が、独りよがりじゃなかったってこと。遥輝のこと誑かしたのはどんな女なんだって、はじめは思ってて、まあ、言葉は悪いって言う自覚はあるけど、そう」




と、ルーメンさんは歯切れ悪く言った。確かに今の言葉は、一瞬ドキッとしてしまった。誑かしたって、私が誑かせるわけもないのに。ルーメンさんの方が、よっぽど遥輝の魅力を知っていたはずなのだ。自分だって、遥輝と釣り合わないって思っていたし。


 少しだけ、胸がチクリとしたけど、配慮した上での言葉だって分かっていたから反論も何も言わなかった。




「遥輝の一方通行だったら可哀相だなってずっと思ってた。俺の大切な親友だから。親友には幸せになって欲しかった。だって、彼奴、人間不信じゃん。俺以外に友達いなくて、独りぼっちで。それは、俺のお節介かも知れないし、彼奴も喜んでたわけじゃないけどさ。それでも、俺の記憶見てくれたら分かると思うんだけど、俺にとって遥輝ってすっごく大事なんだ」




 そう、ルーメンさんはいいきると、息を吐いた。


 それも分かる。


 ルーメンさんの記憶を見て、遥輝が如何に大事かっていうのは分かったし、伝わってきた。大切で、ルーメンさんにとっても大切な親友で。勿論リースにとっても。掛け替えのない存在なのだろう。私と、リュシオルみたいな。言葉もいらない掛け替えのない関係。

 分かっているし、言いたいことも分かった。ルーメンさんが、リースの幸せを願う気持ちは、きっと、私がリュシオルの幸せを願う気持ちと同じだと。


 もし、私がルーメンさんと同じ立場だったら、その高校時代の私の態度を見て、引き剥がした方が幸せになるんじゃないかって思うのも当然だと。私が、付き合い始めて、この世界にきて本当の恋人になるまでの私の態度を見ていれば、むかつくというかイライラするのも分かる気がする。付合っているのに、全然振向かないというか、尽くさないというか。尽くすのが恋人の定義じゃないって言うのは分かるんだけど。それでも、尽くして貰っているのにそれに気づかないでいるっていうのは、あれなのかも知れないと。


 大体そんなところだろう。


 私だって反省しているし、今はあの時貰った愛をそのまま返せるかは分からないけれど自分のペースでリースに伝えていけたらなっとは思う。それを、ルーメンさんは私の記憶を見て納得したのだろう。でも、それはそれとして許さない的な。




「ルーメンさんのいいたいことは凄く分かる……し、私も反省している」

「いや、別に反省とか……俺は」

「ちゃんと愛してる。今すぐにでも会いたい」

「……」

「本当は、もっと話していたかったし、一緒にいたかった。でも、リースを巻き込みたくない……かといって、リースがトワイライトと結婚するって認めたくないけど、それをどうにも出来ない。私は今、私にしか出来ないことをするしかないんだって。だから、愛してないわけじゃないよ」

「そう……ですか」




 ルーメンさんは力なくいうと、足を止めた。 


 ルーメンさんもこの状況をどうにかしたいと思っている一人なのだろう。私だってどうにかしたい。でも、どうにも出来ない。エトワール・ヴィアラッテアが。またいつ、どんな攻撃を仕掛けてくるかも分からないんじゃ、どうしようもないのだ。狙いは私だって、それだけは分かっているんだけど。

 ルーメンさんは、納得せざるをえないというように首を横に振った。私はそんなルーメンさんを見つめていた。




「彼奴、愛されてないわけじゃないんだな。何か、俺の勘違いだった」

「……ルーメンさんが、勘違いするのも分からないでもない……よ。それに、私のせいだし」

「いいい、いや、エトワール様のせいじゃないって。彼奴が、ずっと暴走して、エトワール様のこと追いかけてたわけだし、そこまで気負いする必要ないから……って、俺が、させてるのか。ほんとごめん、天馬さん」




と、ルーメンさんは、灯華さんとルーメンさんが混ざったみたいな言い方で私に言ってきた。それが笑えて、私はプッと吹き出して彼を見る。彼は少し困ったように眉を曲げていた。彼は困り顔が似合うなあ、なんて趣味の悪いことを思いながら。




(そうだよ、私はリースのことを愛してる)




 愛情を貰った事がないから、愛の与え方を知らないだけ。リースだってきっとそうだ。ルーメンさんが、遥輝時代ずっと暴走していたっていっていたけど、彼も彼で、愛の伝え方が分からなかったんだって。そうして、自分なりに注げば注ぐほどいいみたいになっていたんじゃないかって。私はそう思ってるんだけど。

 私も、家庭の事情をここで出すのはいや何だけど、実際両親からの愛情を貰った事がなかったから、戸惑っていたのかも知れないと。だから、今も伝え方が分からない。

 でも、好きな気持ちは変わらない。




「ルーメンさん」

「何ですか、エトワール様」

「ここを脱出できたら、何だけど……また、伝えておいて欲しいんだ。リースに」




 私は、ルーメンさんに向かって言う。

 彼は、また困ったような表情で私を見ていた。それは、自分でいえっていうかなあ、何て何となくだけど想像は出来る。

 好きって伝えて嬉しいのは、喜んでくれるのは私がリースに言うからであって、ルーメンさんが私の言葉を代弁していうのは違うと。

 伝える方法がないから仕方ないって思って欲しいけど。




「リースにいって欲しいの。私も愛してるって。ずっと」

「……分かりました。でも、全部片付けて、ちゃんとエトワール様の口から言って下さいね?」

「分かってるって」




 にこりと笑えば、ルーメンさんもつられたように笑ってくれた。

 彼も、リースが欲しい言葉だって分かっているから、私の口からじゃなくても伝えてくれるだろう。そんな気がする。

 私はもう一度前を向き、一歩足を前に進めれば、張っていた緊張の糸がピンとまた真っ直ぐになった。先ほどの雰囲気を壊すようなネズミの煩わしい声が聞えたからだ。




「近い……ルーメンさん、くるよ」

「……っ」




 暗闇から先ほどのように無数のネズミが出現し、小さな赤い瞳を輝かせながらこちらに向かって突進してきた。




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