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116 見たことのある光景に




 真っ暗。




(当たり前か……)




 もう慣れてしまった。慣れというものは本当に恐ろしいものだと思う。




「怖がらないんだな」

「うーん、怖いけど、慣れたというか、まあ、こんな感じだよねって……んーでも、ベタベタしてるかも」

「まあ、はらんなかだしな」




 歩くたびに、べちゃべちゃいうのは、何か、モグラの腹の中に居るって感じがしなかった。何か別のもののよな……そんな。

 アルベドは慣れた足取りで、モグラの腹の中を進んでいく。私は、その紅蓮を見失わないように追いかけていく。

 前にも入った肉塊の体内だったり、リースが暴走したときに占領された皇宮だったり、後はヤバい神父の教会だったりもこんな感じだった。中が、入るたびに変わるというか、内部にも明確な意思があるようなそんな感じ。

 上手く表せないけれど、誰かが悪意を持ってねじ曲げた空間といったら正しいか。




「アンタも、慣れてるのね」

「まあ、これくらいはよくあんだろ」

「……アンタも知ってるの?魔物を作るとか、肉塊を作ったこととか……」




 アルベドは、一瞬足を止めた。

 以前にも話してくれていた気がしたけれど、もう一回聞きたくなったのだ。彼は、それを見て、どう思ったのか。私じゃ耐えられないけれど、それが普通という人もいるだろうから。




「狂ってると思うぜ」

「……っ」

「俺も、別に見て、きもちわりいとは思うが、エトワールほど、拒絶反応は起きねえな。ただ、人として、それが正しいかどうかは別だ。それは、俺も否定している」

「慣れって怖い……って話?」

「そういうこった。だから、エトワール……お前は、そんな風になるんじゃねえぞ」

「ならないわよ」




 私が、そう返せば、アルベドは安心したように笑った。その笑顔の意味が少し分からなくて、問いただそうとしたが、私が話し掛ける前に歩いて行ってしまう。

 アルベドは、汚い世界を見てきた。だからこそ、変えたいっていう思いも誰よりも強いし、自分の中にこうしたいという思い、夢があるからこそ、動けているんだと思う。一度、挫折というか、地獄を見たからこそ、彼は強いんだろう。

 だから、根拠を持って言える。明確な意思を持って。




「ほんと、つくづく、アンタが味方でよかったって思っている」

「今更だな」

「アンタが敵だったら……って、考えたりしたけどさ。アンタの、夢を聞いてから、アンタは絶対私の敵にならないなって思ったの」

「根拠は?俺が、お前の思想と相反していたら、俺は迷わず、エトワールを殺したかも知れないのに?」

「そうかも知れないけど……でも、何だろう。ほら、アルベドって、悪人を殺す、暗殺者だから。私は、その……」




 自分で自分を悪くないって言うのは、何だか恥ずかしいし、それいってもいいのかなって思うんだけど、私は悪人ではないと思うから。そうだったとしたら、アルベドの抹殺対象からは、外れるわけで。

 私が、言葉を濁らせると、アルベドは、少しだけ、ふんっと鼻を鳴らして、頭をかいていた。




「俺もそうだが、お前も大概だよな。信じると決めた奴にはめっぽう弱い」




 アルベドはそう吐き捨てて、もう一度足を止めた。

 何かと思って覗いてみれば、目の前に心臓のようなものがドクンドクンと脈打っていた。以前、あの肉塊の中で見たものにそっくりだ。




「……っ」

「その反応を見るに、前にも一度見たことがあるンだろ?」

「で、でも、なんで?」

「こりゃあ、ヘウンデウン教がからんでるっつうことで間違いねえな。つか、あの研究終わってなかったのかよ。それも、さらに技術を高めやがって。誰が、手を貸してるんだか」

「……じゃあ、モグラじゃなくて、これは……うっ」




 私は思わず、口を押さえた。

 嘔吐いて、顔が上げられなかった。


 あの肉塊は、人の成れの果てだといった。けれど、確かに今回この魔物は、モグラだった。じゃあ、どういう経緯でモグラになったのか。もう、色々考え出したらまとまらないし、分からないけれど。この魔物は以前、人間だったかも知れないと、そう言うことなのだと。

 アルベドのいうとおり、ヘウンデウン教が絡んでいるとみて、まず良いだろう。けれど、気になるのは誰がこの実験をしているか。そして、何故この怪物を作り続けていたかということ。

 それに、その魔物が、そこら辺を徘徊しているなんて考えられない。それって、恐ろしいことだから。




(ヒカリや、ルクス、ルフレをおっていたのは偶然?まさか、仕込まれた……)




 浮かぶのは、私と同じ髪色のエトワール・ヴィアラッテア。ここまでするの? 何て思うけど、彼女の腹の底が見えない以上、彼女を疑うのが一番だろう。




「まあ、此奴を壊せば、全て解決すんだからとっとと……ッ」

「アルベド!?」




 アルベドが一歩踏み出すと、心臓のような物体が大きく脈打ち、暗闇から、ヒルのようなものがあらわれた。アルベドはそれを、振り払ったが、真っ二つにされたそのヒルは、一つ一つが新たな個体となって襲い掛かってきた。分裂。




「モグラの腹のなかだしな、ミミズぐらいいるだろう」

「み、ミミズって、分裂しないわよ!?」




 そんな、プラナリアみたいな……

 でも、魔法でおかしくなっているのなら、ミミズだろうが何だろうが、それに似た生き物であれば、分裂してしまうのかも知れない。よく分からないけれど。




(じゃあ、一発で倒さなきゃ無限にわいて出てくるってこと!?)




 そんなの最悪!


 やはり、あの核を守る為に、体内は変化し続けるのだろう。暗闇からは、無数の赤黒いヒルやらミミズやらが這い出てきて、私達に向かってくる。動きこそ遅いが、そのぶよぶよとした身体は、変則的に動き、的が定まらなかった。




「これじゃあ、近づけねえなッ」




 アルベドは、風魔法を駆使し、一気に吹き飛ばすが、無限にわいて出てくるヒルには、あまり効果がないようだった。

 私は、火の魔法で焼いてみるが、やはり、量が多すぎる。

 核には近づけない。こちらが一方的に、魔力を消費するばかりだ。

 良い方法はないかと探してみるが、無限にわいて襲い掛かってくる、ヒルを前に、私達が出来ることは、自分の身を守るだけだった。

 そんな風に、襲い掛かってくるヒルを相手にしていると、後ろから、びたんっと音を立てて跳ね上がったヒルが、私の右肩に吸い付いた。




「あぁッ!」

「エトワール」

「こんのっ!」




 顔よりも大きいヒルに血を吸われたら、一発で血抜きされてしまうのではないかと、私は必死にそのヒルを振り払った。ヒルはべしゃりと、地面に落ちて、また私に向かってきた。魔力消費にはなるが、これ以上近付かれたくないという恐怖からきた感情が爆発し、火の魔法で、辺り一面を焼き尽くす。




「エトワール大丈夫か!」

「あ、アルベド。うん、大丈夫……だと、思う……?」




 血を吸われたような感覚はなかった。だが、クラリと視界が歪んで、思わずその場で片足をついてしまう。




「……ッチ。彼奴らが吸ったのは魔力か」

「え、へ?」




 アルベドは、私がヒルに吸い付かれ場所に触れながら、思い詰めたように、顔を歪めた。

 確かに、吸い付かれた一瞬、血ではないけれど、体内から、何かが引き抜かれるようなそんな感覚に恐れた。あれが、魔力だったとしたら……




「他に、痛むところはないか?」

「う、うん……でも、ここで立ち止まってたらまたやられる」

「ああ、分かってる。だが、お前が、火の魔法で追い払ってくれたおかげで、彼奴らは近付いてこれないみたいだ」




 ほら見て見ろよ、とアルベドは顎をクイッと向けた。確かに、焼け野原になったそこは、ヒルがいる様子はない。ぼうぼうと燃える火に、ヒルは近付こうとしなかった。




「もしかしたら、火に弱い?」

「かもな……だが、核にたどり着けるまでの道がねえ」

「ま、まあ……大事なところは隠すものよね……」




 先ほど見えていた核は、ヒルが覆い隠してしまい、とてもじゃないが、近づけないし、容易に破壊できないようになっていた。ヒルに気づかれる前に、攻撃できたら良かったんだけど、そうはいかないだろう。いつも、こんな感じだから。




「じゃあ、火の魔法で振り払いつつ、核に近付くって感じ?」

「それが一番だろうな。だけどよ、エトワール、魔力は残ってんのかよ」

「大丈夫よ。私聖女だし」

「信用ならねえな」




 どれだけ、魔力を吸い取られたかは、分からないけれど、また立ち上がれるし、枯渇はしないだろう。枯渇する=命に関わるから。そこら辺は、ちゃんとしているし。




(けど、近づけたとしても、あのヒルのバリケードを突破できるか分からない……)




 魔力を大量にぶち込めばいけそうだが、核もそれなりに堅いだろうし……




「アルベド?」

「近付いてから考えようぜ」




 すくりと立ち上がったアルベドは、何か策があるというように、ニヤリと笑い、私に背中を向けた。




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