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106 ライフライン




「アルベド、見てみて、大量かも!」

「そんなに取ってどうすんだよ。食い意地凄えな」

「なっ」

「嘘だ、嘘。腐らねえうちに食べねえとな」




 くくくと喉を鳴らしながら笑った、アルベドに、私は、またげんこつ一発お見舞いしてやった。いてえ、何て声を出しつつも、別に、痛くないみたいな、笑顔で、私の攻撃を受けたアルベドは、この状況を心から楽しんでいるようだった。

 森の中には、様々な山菜やら、動物やらがいて、食べ物に困ることもなく、襲われる事なんてなかった。もう、キャンプを満喫している人になってしまっている。まるで、はじめから、自然の中で生活していたみたいに。




(って、違うのよ!)




 何も進んでいない。退化はしていないけど、文明的には退化してる? 何て、現状を広い視野で見たときに、これでいいのかと私は、その場で頭を抱えた。私も、この生活に慣れつつあって、人間の適応能力の高さを垣間見た。でも、これは違う気がするのだ。




(何も変わってないし、というか、このままじゃいけないでしょうが!)




 でも、だからといって、エトワール・ヴィアラッテアに会いに行くのは、自殺こういなわけだし、そこをどうにかしないことによっては何も始まらない。

 今の生活を楽しみつつ、あちらからで向いたときに、叩けば良いのか。それもまた違う気がして……

 魚がぴちぴちと跳ねるバケツを抱えながら私は唸る。




「ほんと、アンタには頭が上がらないわ」

「エトワールも、これまで、聖女殿で過ごしてた聖女だって思わないぐらいだぜ?俺の事ばかり言うけどよ」

「だって……アンタは、公爵家の跡取りで……貴族だから、こういう生活苦手なんじゃないかって、普通思っちゃうじゃん」

「まあ、俺は違ったってだけの話だ」




と、アルベドは、笑いながら、薪に火の魔法を放った。火の魔法があるから、火起こしなんて面倒な事はしなくて良い。魔法があったからこそ、今の生活が成り立っていると言って良い多だろう。どちらかが、使えなければ、かなり、この生活も厳しいものになっていたのではないかと。




(ほんとうに、魔法って便利……)




 魔法の、便利さに、委ねて、魔法を使い続けるのはしゃくというか、そう言うのはいけないって分かっているんだけど、便利故に依存性が高くて、使った方が良いみたいな……ネットが繋がっている環境なら、ネットで調べた方が早いみたいなそんな感じ。

 野宿とは言え、魔法に頼っているから、生活できているというのは、あながち間違いじゃないだろう。

 アルベドだって、きっとそう……




(いや、此奴の場合、分からないかも)




 何処で、身につけたか分からない、生活の知恵を使って、私を助けてくれている。この生活が続けられるのは、アルベドのおかげだ。




「アルベドって、何処にいても独りで生きていけそうよね……」

「そうだな」

「否定しないの?」

「そりゃあ、独りで生きてきたからな」

「……あ、ごめん」




 少しだけ、睨まれた気がして、私はすぐに謝った。反射的に頭が下がってしまって、彼の触れられたくないところに触れてしまったというのが、自分でも感覚的に分かってしまった。

 考えて発言しなきゃ傷付けるって言うのは分かっているのに。

 そこで、俯いていたら何にもならないと、私は、気を引き締め直すことにした。また、暗い顔をしていると言われたくないし。そんな風に私が、気持ちを切り替えれば、アルベドは怖い表情から一変して、にこりと笑っていた。




「でも、まあ、お前の思ってるとおりだな」

「なに……が?」

「魔法がなきゃ、生きていけねえって言うのも。あながち間違いじゃねえって話。俺達は、魔法が使えるから、便利だって思っているが、この魔法は殺しにも使える危険なものだ」

「わ、分かってるわよ。便利性ばかりに目がいっちゃうけど、勿論、危険なものだって承知の上よ。でも、なくなったらってかんがえると、矢っ張りちょっと……」




 電気がなくなったら、ライフラインが決壊するみたいなそんな話。

 魔法が、基盤になっているせいもあって、魔法がなくなったらと考えると、末恐ろしい。魔法が使えない人が殆どではあるというが、魔法で、補っているところ、それこそ、魔法石だって消失する可能性だってあるわけだから、消えて欲しくない。

 でも、魔法が火種を有無って言うのは、可笑しな話じゃなかった。




「アンタはさ、魔法がなくなったらどうなると思う?」

「唐突な質問だな。考えたことなかった」

「そうだよね……矢っ張り、私達の中で、魔法って言うのが、当たり前になってしまっているから、考えないよね」

「魔法がなくなる云々は考えたことねえが、野望はあるぜ」

「野望?」

「階級社会の破壊」

「はあ!?」




 ニヤリと口角を上げていったアルベドは、決して巫山戯ているとかそんなのではなくて、本気だった。本気で言っている。

 アルベドは、うーんと大きく背伸びをしながら、紅蓮の髪を揺らして、ただ前を見つめていた。野宿の拠点としている湖の畔、その湖を見つめ、それから、空を見上げた。青い空には鳥が二羽飛んでいる。




「か、階級社会の崩壊って、それ……それって、国家転覆ってこと?」

「まあ、大きく言えばな」

「反逆者じゃん……」

「そう言うなって。そんな、ひくことか?」

「い、いや……平和的じゃないなあって思って」

「革命を起こすまでは、平和的じゃねえだろうよ。でも、革命を起こしてみろ。階級社会を崩壊させれば、搾取される人間はいなくなる。平らになれば、貧しい人間や、ひいきされている人間が明るみに出る。辛い生活の奴らが表にたてるチャンスだろう」

「それまた、夢物語ね」

「叶えるさ」

「……きっと、なくならないわよ」




 私がそう言えば、アルベドは「そうかもな」と、以外にも、その言葉を肯定した。彼も分かっているのだろう。けれど、ただの夢物語じゃないって、そう顔に書いてある。もしかしたら、やり遂げてしまうかも知れない。そんな気もしたのだ。

 だが、今の言葉を、リースや、皇帝陛下の部下、騎士団の人間がきいていたらどうだろうか。絶対に、閉め出されるに決まっている。それこそ、国家転覆を狙っているといわれてもおかしくないと。




「それに……」

「それに?」

「今の皇帝陛下のやり方は私も嫌いだけど、誰かが、象徴とか……まとめる人がいないと、社会って成り立っていかないのよ。それこそ、世界を全て滅ぼして、一から文明を築きあげたとしても。助け合いだけで生きていくには無理がある。だから、王とか、主格とか、上に立つ人間がいるんじゃ無い?勿論、その人間が腐っていれば、皆腐っていくけれど」

「エトワールの言うとおりだな。階級社会をなくしたところで、またいずれ復活するだろうな。階級を作ることで、まとまるっていうのもあるし、仕方ねえことだろうけどよ」

「アンタの夢を否定するわけじゃない。肯定してる」

「ありがとよ、エトワール」

「無茶して、死なないか心配」

「それは、こっちの台詞だ」




 なんて、アルベドは言って、私の頭を撫でた。癖にでもなっているのだろうか。




(アルベドの言っていることは分かる。でも、誰かが、上に立って指揮をしなきゃ、まとまらない。それこそ、矢っ張り、武力争いで、勝ち残った強者だけが全てで……上に立ちたいが溜めに争いが起きる……)




 負の連鎖というのは止らない。人間が、思考し、欲のある生き物だからこそ、これは断ち切れないのだ。

 アルベドが、まず成し遂げたいのは、光魔法と、闇魔法の格差だろう。ここがなくならない限り、貴族社会が崩壊することはまずない。一般市民でさえ、光魔法なら、闇魔法を酷く嫌いっているという現状なのだから。




(嫌われ者の偽物聖女と、異端児の公子か……)




 酷い組み合わせだと思う。


 けれど、だからこそ、理解し合えたんじゃないかなって今になって思うけど。




「私といて、アンタの願いは叶えられるの?」

「どーだろうな。前もいったが、俺が一緒にいたいからいるだけだろ。お前の隣に。気にすんなよ」

「アンタの夢の妨げにならない?」




 やりたいことを優先してやれば良いのに、って、私は背中を押したかった。私に残された唯一の希望が、アルベドなら、私はその希望をあるべき場所に送り届けてあげたかった。そんな、大それたこと出来ないかもだけど。

 私がそう言えば、何を言うんだと言わんばかりに、アルベドは、私の顔を両側から挟み込んだ。




「な、なにふんのよ」

「俺の夢には、理解者が必要だ」

「その、理解者を増やしていくんでしょうが。アンタの声に耳を傾けてくれる人、アンタの力で増やしていくんでしょ?」

「分かってないなあ、エトワールは」




と、アルベドは、ため息をつく。


 それから、私の頬を何度かもみほぐした後、パッと手を離した。




「俺が、まず、第一の理解者を手放したらどうするんだよ。エトワール、お前は、俺の希望なんだ。唯一の理解者だ」

「へ……」

「人生のパートナーを手放してたまるかよ。ようやく、お前の隣があいたんだ。お前にとって最悪な状況を俺は利用している。酷い奴だろ。そう思え。そしたら、お前の、気が楽になるだろ?」

「はっ、意味分かんない」




 でも、確かに、パートナーではあるかも。人生のって、そんな大きなものでは無いかもだけど。




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