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104 野宿はいや!




 全ての行動には意味がある。ないのは、ただの自己満足。




(アルベドは、夢のために動いていた。そのやり方が、正しいか、正しくないかは置いておいて。彼の出来ることを行っていた)




 それは、賞賛されるべきことじゃないだろうか。やった事は、目を瞑るとして。最終的に、その殺された人達は、罪に問われるものだったかも知れないし、どっちにしろ、裁かれていたかも知れないと。そう思って、目を瞑る。

 肯定はしきれないけど、否定もしきれないから。

 彼の黒い手袋をギュッと握って、私は、アンタとおなだと間接的に伝える。アルベドが、どう受け取ったかは知らないけど、少なくとも私も、同罪だって、そう言いたかった。

 色々と犠牲にしてきた手。

 確かに、救えないのに救おうと無茶したときもあった。無謀すぎた。それが、私の罪なのかも知れない。

 今こうなっている原因もそれだって。




(いや、半分は、皇帝のせいかもだけどね!)




 あの、性格ひん曲がりすぎている皇帝のせいもあるとは思っている。でも、エトワール・ヴィアラッテアの居場所を、本意ではないとは言え、奪ってしまったことには変わりなくて、因果応報……? いや、もっと、酷いものが降り注いでいると考えれば。




「エトワール?」

「うわっ、何。いきなり話し掛けないでよ」

「いや、それは酷すぎねえか。ずっと、呼んでたんだが」

「え?そうだったのごめん」

「謝るなら、先に確認しろよ」




と、アルベドは、呆れたようにため息とついた。


 そんなに考え込んでいたんだ、と我ながら、変なところで集中するなあ、なんて思いながら、私は自分で風魔法を付与して、湖から、岸に戻る。ふわりと、風に銀色の髪が揺れた。




「アルベド」

「何だよ」

「何度も言うけど、ありがとう。私の味方でいてくれて。私の『旅』に付合ってくれるっていってくれて」

「ああ……」

「アンタがいなきゃ、矢っ張り折れてた」




 強がっているだけで、本当は弱い。何も出来ない。それは、一番自分が理解しているはずのものなのに。




(ダメだなあ……ほんと)




 強がりが、一番自分の首を絞めるものだって、今更ながらに気づいた。だからといって、皆に弱みを見せれば、その弱みが握られてしまうわけで。

 だから、信頼できる人が欲しい。それが、アルベドだったっていうだけの話。




「今更だ」

「ふーん、もしかして、ツンデレ?」

「はあ?」

「耳赤いけど、私にそう言われて、嬉しいんじゃないかなあって」

「自意識過剰だろ。つか、ちけえんだよ」

「さっきまで、自分から抱き寄せてきた人が何を言うの!」




 私が、そう言って、詰め寄れば、アルベドは、ジリジリと逃げいていく。自分から距離をつめるのは大丈夫で、人から距離をつめられるのはいやだって、どういうことなんだと言いたかったが、その気持ちは私にもよく分かるので、言わないことにした。

 けれど、耳まで真っ赤なアルベドを見ていると、何だか笑えてきて、それでいて彼らしい反応をしてくれて、安心する。この、安心の積み重ねで、私達の信頼は築けてきているんだと思う。




(さて、まあ、これからどうするかだけど)




 エトワール・ヴィアラッテアに会いに行くことは、自殺行為だし、かといって、彼女をどうにかしなければ、私はずっと逃亡生活。それに、アルベドをずっと付合わせるのは嫌だなあと思った。けれど、それしか方法は今のところなくて。




(もっと、私に力があれば良かったのかな……)




 エトワール・ヴィアラッテアを殺せるような、そんな勇気というか、覚悟があれば、こうなっていなかったかも知れない。でも、魂を殺すってどういうことなんだろうか。私が、エトワール・ヴィアラッテアに攻撃したら、私まで、また、攻撃を喰らってしまうのではないかと思った。そういう可能性を考えると、やはり何も出来なくなってしまう。

 アルベドがいるから孤独感はないけれど、皆にあいたいっていう気持ちは少なからずあるわけで。




「どうしたら、いいのかな……」

「取り敢えずは、逃げるしかねえよな。まあ、彼奴が、軍勢率いて、やってくるわけじゃねえだろうし、そこは安心しろよ」

「ぐ、軍勢……」

「あくまで、エトワール・ヴィアラッテアが狙ってんのは、お前の身体に入り込めるチャンスな訳だからな」

「つまり、私の心を弱らせることが、彼女が一番とってくるであろう行動ってこと?」

「そうなるな」




と、アルベドは、頷いてくれた。


 精神攻撃ばかりなのはそう言うことなのだ。私が、マイナスな感情になればなるほど、身体と、魂が分離して、その間につけ込んで張り込むことが出来るって言う、多分そう言うシステムなんだと思う。

 だから、私が完全に折れたとき、それは、彼女に身体を明け渡してもいいと言っているようなものだと。

 私に出来ることは、強い心を持つことなんだろうけど、人間って、誰もが鋼のメンタルなわけじゃないし、そもそも、そんなメンタルの人は存在しないと思う。挫折したからこそ、だんだん蓄積された、精神が、堅くなっていっただけなような気がするから。私は、そんな強くない。




「まあ、深く考えてもしかたねえことだ。なるように成るだろ」

「そんな、適当に言わないでよ。命がかかってるんだから」

「俺が、守るから大丈夫だろ」

「だから」

「そう言うことだ。巻き込むとか、そんなこと思わなくていいって言ってんだよ。俺がやりたくてやってること。さっきも言っただろう。エトワール、優しいだけじゃ何にも出来ねえぞ」

「……う」

「俺は、その優しさは嫌いじゃねえけどな」

「ほんと、飴と鞭」




 照れ隠しを入れないで、話が、ややこしくなるから、と私は、アルベドを睨み付ける。勿論、こんな睨みが、彼の何かを動かすことになる訳もなくて、アルベドは、フッと笑うと、私の頭を乱暴に撫でた。




「でも、このままずっと野宿って訳ではないでしょう?」

「俺は、良いけどな。慣れてるし。つか、寝れねえから」

「私は寝たいの!つかれたじゃん。今日、色々あって。まさか、今日追い出されるなんて思っていなかったし……こんな所で安心して寝られるわけ?逆に、狙われそうじゃない?動物とか、あと、あと、暗殺者とか」

「いねえよ」

「なんで言い切れるのよ」




 野宿をしないといけない理由はあるけれど、それでも、野宿なんてしたことない……事もないけど、いやなのは確実だった。けれど、アルベドはそんなの全然平気だという。そもそも、不眠症だし、色々あって、アルベドは夜も眠れないしなんだけど……そういう問題じゃない。

 私が、抗議の声を上げれば、アルベドは、めんどく下げに、顔を歪めた。

 後、正直、危険の方が多いと思う。もし、皇帝が、何かてを出してきていたら、エトワール・ヴィアラッテアが、睡眠というものを奪いに来て、精神的に追い詰められたらとか、色々想像が働いてしまうから。




「大丈夫だから、安心しろ。ここらに、魔力も気配も何も感じねえからよ。だから、俺が起きてるっていっただろ」

「アルベドの疲れはどうやって取るのよ!」




 ただでさえ、変身魔法なんてもの使って、ラヴァインに化けていたって言うのに、どれだけ、魔力が残っているのか、計り知れなかった。

 つかれてないという、そんなこと無いでしょう。だって、アルベドだって人間何だか。




「ほら、こいよ」

「な、何」

「膝枕」

「はあ!?それで、寝ろって!?」

「じゃあ、石でも枕にして寝るって言うのかよ」

「発想が、ヤバいのよ。そんな、頭ぶつけている人にしか見えないんだけど!?」




 アルベドの会話でつかれてしまうなあ、と思った。でも、楽しくないわけじゃないし、寧ろ、心が紛らわせられて良いんだけど。

 私は、ポンポンと、膝を叩いている、アルベドのほういすっとよって、彼の膝の上に頭を下ろした。少し堅いけれど、安定している膝だと思う。男の人の太ももって言う感じがする。

 そんな私を上から見下ろして、アルベドは、ふわりと、首に巻いていたマフラーをかける。




「そこまでしなくても良いって。アンタが、寒いじゃない」

「お前が、風邪ひいた方が困るんだよ。いいから、寝ろ」




と、ぶっきらぼうに言うアルベド。本当に調子が狂うな、ってアルベドを見れば、矢っ張りほんの少し、耳が赤くなってたような気がした。

恥ずかしいなら、かっこつけなければ良いのに。


 でも、その優しさが、私は好きだ。




「おやすみ」

「ああ、お休み。エトワール」




 おやすみと、言われた瞬間、一気に押し寄せてきた、睡魔に私は引っ張られるようにして、目を閉じた。そんな、私が、意識を夢の中におとしてから、アルベドはぼそりと呟いていた。




「ほんと、無防備だな。お前は」




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