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103 誰かがやらなきゃ




「あのねえ、笑い事じゃないのよ!」

「悪ぃ、悪ぃ、確かにそうだったな」

「そうだったな、じゃないのよ。ほんと、アンタって……」




 本当に笑い事じゃない。人殺しておいて、笑っている此奴は矢っ張り異常者だって思う。

 世界平和云々より、まずそっちを見直して欲しいと思った。




(でも、殺しているのは皆悪い人なんだよね……)




 そこが、アルベドの難しいところで、殺しちゃいけないんだけど、殺されないといけないような……いやそんな人はいないんだけど、罰せられた方が良いような人をアルベドは殺しているのだ。勿論、依頼を受けてなんだろうけど。でも、アルベドって、そう言うのを淡々とこなしてしまうから、そこは怖いというか。

 本当に今でも、出会った時の衝撃を忘れられない。

 リュシオルに忠告されたくせに、一人で行動して出くわしてしまった私があれだけど。名前を知っている身として、言わない方が良い、言わない方が良い、頭の中で言っていたくせに、初対面で「アルベド」って呼んじゃって、まあそこから、面白い女判定されたから、あの場は行かして貰えたんだけど。




(私悪くないよね!?)




 初対面で殺されかけて、それから、面白い女判定されて、今にいたるけど。本当にどうしてこうなったって言うくらい、アルベドとの仲は続いている。多分、リースに続いて、長い方だとは思う。 

 いきなり木剣を飛ばしてきた騎士とか、理由は会ったと言え、いきなり手を叩いてきた侯爵とかいたけど。矢っ張り、アルベドとの出会いは忘れられないというか。




(皆、乙女ゲームの攻略キャラって感じで出てきてくれなかったから!もう、そこは、最悪すぎたのよね)




 原点に戻る。


 大好きな乙女ゲームの世界に転生!? でも、私悪役聖女に転生しちゃった!? 一年以内に攻略しなきゃヒロインが来て、ラスボス化!? いけない、いけない! じゃあ、大好きな推しを攻略しますか……『元彼』! 

 思えば、全然乙女ゲーム出来ていないのだ。分岐によって変わる選択肢とか、未来とか、そんなものは存在しなくて、当たって砕けろ。四番目の選択肢をずっと選んできたような感じだった。自動入力みたいな。

 元々、悪役のストーリーだったからこそ、こんな変なルートになってしまったのかも知れないし、勝手に隠しキャラ(ラヴァイン)まで、出てきちゃったしで、全然キュンキュンした思い出がない。ハラハラはずっとしているけど。それは、乙女ゲームじゃなくてホラーゲームなのよ……


 まあ、悪い思いでばかりじゃなくて、今になってみれば、それも全て良い思い出なんだけど。




「出会った時から、面白い奴だっては思ってたけど、ほんとに、面白いよな。エトワールは」

「誉めてるの?貶してるの?」




 アルベドは答えなかった。

 貶しているって言う意味が含まれていたらどうしようって思ったけど、元々そう言う人間が私なんだし、と捉えることにして、話を戻すことにした。

 で、何の話をしていたかは、あまり覚えていない。




「誉めるとか以前に、俺は好きだぜって言う話し。素直じゃないところあるよなあ。素直になれよ。さっきまで素直だっただろ?」




と、アルベドは、ニヤニヤしながらいってきた。


 それが、少しカチンときて、私は、殴ってやりたい気持ちになったが、抑える。

 アルベドは、よくある「面白え女」っていう役なんだろうなとか、客観的に見てしまって、まあ、そうか、なんて、自分の中で結論を出してしまう。よくあるって、変な言い方だけど、現実世界で、面白え女された私は何を思えば良いのだろうか。




(まあ、興味持ってくれたってことは、嬉しいんだけどさ……)




「って、話それたじゃない。アンタが、暗殺者として動いていたわけ、それを知りたかったんだけど?」

「ああ、そうだったな。で?知って、お前に得があるのか?」

「得……というか、世界平和目指してんのに、何でかなって思っただけで……それって、良いのかなって。とか」

「エトワールは、血を見るのが苦手だからなあ」

「普通苦手よ!だって、普通に生活してたら、流れない訳じゃん。血とか……いや、怪我はするけど、命の危機にさらされることって、まずないかなって……いや、これを普通にしちゃいけないのかもだけどね」




 普通は、その人にとって普通じゃ無いかもだし、あまり強く言えないなあ、何て思いながら、私はアルベドを見た。彼の顔は自信たっぷりげで、何を聞いても反論できますが? 何て風に見えてしまう。

 でも、考えれば可笑しな話じゃないかなあって、普通は思うんだけど。

 私が、教えろと、目で訴えれば、アルベドはフッと笑って、私の頭を撫でた。くしゃくしゃと、乱暴に、それでも何処か優しさを感じるその手に、私は、すっかり身を委ねてしまっていた。アルベドの撫で方は、何というか、言語化できないからあれだけど、アルベドらしい撫で方というか。




「アンタ、人撫でるの慣れてるの」

「何だそりゃ。変な質問過ぎやしねえか」

「変な質問だって、自分で分かってるけど。その、撫でて、安心させ秘訣とか、コツとかあるのかなあ……とか」

「別に。エトワールの頭が撫でやすいから撫でてるだけだし?つか、他の奴の頭なんて撫でねえよ」




と、アルベドはパッと手を離してしまった。もう少し撫でてくれていても良かったのに、何て思ってしまって、私はいけないと、首を横に振る。




(私は、リース一筋なんだから!)




 推しとしてじゃなくて、恋人として。

 アルベドは、相棒として、その撫で方が、落ち着くっていっただけで、それが、恋愛的な意味じゃないことは、アルベドにも分かって欲しい。彼が、そういう勘違いをする人間じゃないって分かっているから、そこまで心配はないけれど。これが、グランツとかだったら、またヤンデレになっちゃうなあ、何てぼんやり思っていた。

 グランツは、多分、一番攻略キャラの中でヤンデレだから。




「何よ、ニヤニヤして」

「いや?俺は、勘違いしねえよって。エトワールが、すぐに男を誑かしても、俺は、勘違いしねえよって話」

「た、誑かしてないわよ!」

「どうだか。それで、どれだけの奴がお前の周りに集まったと思ってんだよ」




と、私には、身に覚えのないことを言われてしまって、私は抗議の声を上げた。


 勝手に、そんな、私のことを魔性の女にして! 元々陰キャオタクだったんだから、何も出来る訳無いでしょうが!

 まあ、そんなこと言ったところで、伝わるはずもないので(オタクなんて、此の世界に用語として存在しないだろうし)私は、言いたい気持ちをまた抑えて、ぐぬぬっと唸った。それを見て、アルベドが、プッと笑うので、本当に腹が立つ。




「まあ、エトワールは魅力的だからな。勘違いする野郎が出てきてもおかしくねえよ」

「魅力的じゃないわよ。魅力的なのは、私の妹のトワイライトで」

「お前が、可愛がりすぎている、妹のことか」

「そうよ!てか、普通でしょ。妹のこと可愛がるの」

「そういうものか?」




 まあ、アンタは、ラヴァインだから、可愛がるって言うのはないかも知れないけどね、と私は、頬を膨らませば、何故か、不機嫌そうに、アルベドは「あっそ」と突き放した。何か、しゃくに障ることでもあったのかと思ったが、私はそれ以上追求しなかった。


 でも、今の反応を見る限り、アルベドは、トワイライトに何も感情を抱いていないようだった。仮にも、彼女がヒロインで、私が悪役なのに、こんなことってあり得るのだろうか、と私は思ってしまう。それは、私が、本来のエトワール・ヴィアラッテアじゃないからだろうか。物語を崩してしまったからだろうか。

 理由は分からないけれど、ヒロインに魅了されない攻略キャラを見ていて、何だかなあ、という気持ちにはなってしまう。矢っ張り、ヒロインを争奪する攻略キャラを見ているのは面白い。でも、私自身がそれで悪役とか、当て馬になりたいわけではない。


 複雑だけど、トワイライトがモテないのも、うーんって頭が痛くなってしまう。彼女には幸せになって欲しいわけだし。




「てか、本当に話それまくってるのよ!わざと?わざとなんでしょ」

「何のことだか」

「だから、とぼけないで。アンタの夢と、やっていることが、ちぐはぐだっていってんの」

「そりゃ、綺麗な世界に、汚え奴らはいらねえだろ」

「分からないわけじゃないけど……それを、アンタが奴必要あったかっていう話」

「誰かが、やらねえと、誰もやらねえだろ?汚れ仕事は、任せとけって思ってるし。何よりも、そういうやり方しか、闇魔法の奴らはわからねえんだよ。話せば分かるとか、そういう次元じゃねえ。それこそ、きれい事だ。綺麗な、世界が出来れば、俺はそこから、身を引くつもりだ」




と、アルベドは、端的に話、自分の髪に触れた。


 それは、アルベドが、本当にやらないといけない事だったのかと。私はそう思ってしまうけど。




(誰かがやらなきゃ、いけないって、そんな掃除みたいな……だって、アルベドは、好きでやっているわけじゃないんでしょ?)




 そう、信じたい。アルベドが、そうやらないとと思って、進んでやって、それが快楽になっていたらと思うと怖い。アルベドが、思っていること全て、理解できるわけじゃないから。だからこそ、彼がどんな思いで、人ごろをしに手を染めてきたかだけ……いや、知ったところで、背負えきれるものじゃないと、私はそっとはなれた。

 これだけはぐらかしたってことは、きっと、聞かれたくなったことだろうし。私も踏み込み過ぎちゃったかなって思って、彼を見た。

 ばっちりと、彼の満月の瞳と目が合って、彼は、ふわりと微笑んだ。




「エトワールは、綺麗なままでいろよ」

「……アルベド」




 それは、無理だよ。


 何度も飲み込まざるを得なかった言葉。

 私は、綺麗じゃない。何処か、人に対して、冷たくて、無知なせいで、周りを巻き込む。それが、綺麗と言えるのだろうか。

 アルベドに差し出された手を、私は、戸惑いながらとって、その血を、血で洗い、私は、彼をゆっくりと見上げた。




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