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101 バカ




「アンタのその色、嫌いじゃなかったけど」

「ほんと、お前って、酷い奴だよなあ」




 その酷いは、そういう意味の酷いじゃないんだろうなあ、と感じながらも、私は何それ、という風にしか返せない。

 酷い奴と良いながら、顔は諦めが滲んでいて、アルベドこそ、変な奴という風に見えるんだけど。まあ、そんなことは口に出さずに、私は、じっと彼を見た。元に戻った、銀色の髪が揺れ、私は、前髪を直す。




「アンタは、これから、私の『旅』に付合ってくれるわけ?」

「そのつもりだったんだが……て、何でそんないやそうな顔すんだよ」

「だって、巻き込みたくはない……って、何度も言わせないでよ」

「俺は、俺がしたくてやってるんだから、巻き込むも何もねえだろ。意地っ張りが」




と、アルベドは、ムッと口を尖らせていった。


 意地っ張りと言うほど意地っ張りじゃないんだけど、と言い返したかったけど、その気持ちは嬉しくて、自分がしたくてやっているのなら、それは、止めるべきではないんだろうなとか、思ってしまっている。

 でも、私と一緒にいたら、命の保証はないし、危険な事には変わりなくて。




「まあ、でも、一つ忠告するなら、今のお前じゃ、彼奴には勝てないだろうな」

「彼奴って、もう一人の、エトワール・ヴィアラッテア……」

「そっ」




 アルベドはそう言うと、風魔法を使い、湖の上を歩いて行く。小さな波紋が、やがて大きくなっていって、アルベドがどんどん遠くへ行ってしまう。待って、と手を伸ばしたら、消えてしまいそうな、そんな儚さに、私は、言葉を失う。

 アルベドまで失ったら、どうなるんだろう。

 きっと、壊れてしまう。だから、だから、いやなんだ。




「勝てないって、なんで」

「少しの間だけ、彼奴の側にいたからなあ。まあ、それよりも、問題は同じ魂がそこにあるっていうことが問題だな」

「は?」

「まあ、実際は、違う魂だが、魂に刻まれている文字が同じっつうこと。視覚的に魂を捉えるのは無理だ。だが、真名は、多分、彼奴とお前は一緒だ」




 私は、元は、天馬巡なのに?


 魂が同じなわけないが、真名とやらが、一緒だから、同じ魂扱いされると言うことだろうか。そんな、オカルトじみた話、嫌だなあ何て感じながらも、アルベドの言うことだから、信じてみようと思った。

 まあ、要するに、同じ魂が二つ存在しているのは矢っ張り危険だと言うことだ。歴史とか、世界そのものを揺るがしかねないんだろうなって聞いてて思う。

 真名って言うのが多分、此の世界にきて、刻まれた私の名前的な奴なんだろう。どんなものかは、ちょっと予想できないし、見えないっていていたから、見る必要というか、そもそも見えないからあれなんだけど。




「同じ魂同士が衝突し合えば、お前が消えるから」

「ぴえっ」

「変な声出すなよ。本気で言ってんのに」




と、アルベドに、少し怒鳴られてしまう。


 でも、仕方ないじゃないか、本気でそんな声が出てしまったのだから。




(じゃあ、エトワール・ヴィアラッテアは、私の魂が消滅するまで待っているってこと……だよね)




 そうして自分の身体を取り戻す的な。

 直接ではなく、間接的に手を出してきているのは、そういう理由があったのかと、私は、アルベドの言葉を聞いて思った。だったとしたら、厄介だ。




(こっちから、近付いてみる?)




 それも、リスクが高すぎる。そんなリスク背負って、エトワール・ヴィアラッテアに会いにいけない。もっと、平和的交渉が出来れば良いんだけど、あっちは、私に対して、怒りというか、そういう不の感情しか抱いていないわけで。




「じゃあ、どうすれば良いのよ」

「だから、『旅』すんだろ?」

「……逃げ回るってこと?でも……」




 アルベドの言いたいことは分かる。勝てないなら、逃げ続ければ良いって。でも、それって、何の解決策にもなっていないし、逃げるだけじゃ、何も変わらないって分かっているから。それはしたくなかった。

 追い出された私でも、まだ出来ることがあるんじゃないかって、淡い期待があるから。そんな、もの捨ててしまえば楽なのに。

 捨てれないのは、ただの強がりだ。良い方法じゃない。




「もう、守るべきモンは何もねえだろ」

「何もないって……私は……っ」

「強がるなよ。あっちには、優秀な奴らがいっぱいいるんだ。どうにかしてくれるだろ。今は、自分の身の安全を確保しろ」

「でも、エトワール・ヴィアラッテアは、凄い魔力を持っているんでしょ?」

「だが、お前しか狙わねえ」

「そんな保証、何処にもないじゃない」

「じゃあ、彼奴らの元に戻るか?」




と、アルベドは、少しきつい言い方で言う。


 私は、言葉を返すことができなかった。

 戻ったところで、迷惑をかけるだけだし、エトワール・ヴィアラッテアの息がかかっているかも知れないとはいえ、普通に、皇帝陛下云々の問題で、しめだされそうで。

 なら、どうすれば良いのか。アルベドの言ったとおり、逃げれば良いのかと。




「…………」

「まあ、今すぐに決めろっつってるわけじゃねえ。エトワールが考えれば良いだけの問題だ。一つじゃねえだろうしな、答えは」

「……分かってるけど」




 私の凝り固まった考えじゃ、どうしようもないってことが突きつけられた気がして、私は、辛かった。こんなに柔軟に考えられなかった人間だったかな、なんて。よっぽど、辛くて、かたまってしまっているんだなと思ってしまった。

 冷静になりきれていない。

 アルベドがいてくれたから、まだマシなだけで、一人で突っ走っていたら、きっと失敗しただろうって。




「ありがと」

「唐突だな。俺は何もしてねえよ、ただ助言しただけだ」

「それが、嬉しいの。ほんと、バカみたいだよね。私」

「バカは、バカだな」

「ひ、酷い!そこは、違うって言うんじゃないの!?なんで、バカって肯定してんのよ!」

「おい、そのままこっち来んなよ!?」




 バカって言った、アルベドを一発殴りたくて、私はずんずんと、湖の法によってくる。波紋が一気に広がって、アルベドはこっちに来るなと、両手を振る。確かにこのままじゃ濡れるかも知れないと。

 それでも、私は止らないと歩けば、アルベドは、はあ……~~~~と大きなため息をついた後、私に風魔法を付与した。




「感情のまま動くなよ」

「アンタのこと殴りたかったから」

「どーぞ、どーぞ。殴りたきゃ」




 出来るモンならな、と私を真正面から抱きしめて、その場でくるくると回った。受け止められた反動で私は何も出来なくなって、彼の胸に顔を埋めることしか出来なかった。若干宙に浮いている身体。そして、チューリップの香りに、私は包まれる。

 久しぶりの人の温もりに、私は、また泣きそうになってしまった。




「殴らねえの?」

「殴れないって分かってるくせに、聞かないでよ。バカ」

「はいはい、俺もバカだよ。相当、バカだ」




 なんて、アルベドは返した。

 バカじゃない。アルベドは全然バカじゃない。私の為に動いてくれた人に対して、バカなんて言えなかった。

 確かに、私の為って言っても、私と一緒にいたら、危険だって、それを分かっていて一緒に行動するとか言いだしたのは、バカかも知れないけれど、彼の優しさだって分かっているから。




「バカ」

「ああ、そうだな」




(違う……バカなのは、私)




 本当の意味で、明日の暮らしも分からなくなっちゃって。でも、隣にいてくれる人がいて。その人に縋ってしまいそうになって。その人は、強い自分を持っているから、私が縋っても、強いままでいてくれる。

 結局、救われないと生きていけないんだなって。




「話がそれちまったが」

「うん、何よ」

「うんなのか、何なのか、どっちなんだよ……まあ、いいけどな。俺の話し聞いてくれるか?」

「アルベドの話?珍しくない?」




 抱きしめられたまま、満月に照らされ、私は、彼を見た。燦々と輝くその黄金の瞳を見て、私はその奥にまた、小さな星を見つけた気がする。希望の。

 珍しいか? と、アルベドは聞いた後、らしくない、みたいな感じで、頬をかいて、ポツリと零した。




「俺の夢の話」




 そう言った、アルベドは、何処か幼くて、泣きそうな子供に見えた。




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