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95 勝手な男



「アルベド?」



 違う。

 首を振る。もう一度目を開けば、見えたはずの、鮮明な紅蓮は、少しだけ陰りを見せている。見間違いだったのだろうか。




「あ、ラヴィ……」

「何さ、その顔。鳩が豆鉄砲を食ったような、顔して。酷いなあ。俺の事忘れちゃったの?」

「ラヴァイン・レイ」

「うん、レイ公爵家の次男。ラヴァイン・レイ」

「何で」

「何でって。別に、俺は聖女殿に入り浸っていただけで、退居届けとかもいらないし、元々、あそこに住んでいた人間じゃないからね。」

「じゃなくて」

「何でついてきたかってこと?」

「うん」

「てか、アルベドって言いかけた?」

「え……あ、うん」




 アンタの髪色って、そこまで綺麗じゃないじゃん。って、そう、言いかけそうになった。比べるなって言われそうだし、義兄弟っていう関係でもないから、なんで若干の髪色の違いがあるのか分からない。けど、ラヴァインの髪色は、アルベドよりもくすんでいる。それだけは、覚えている。アルベドの髪色があまりにも鮮やかだから。

 だからこそ、見間違い? でも、私が、アルベドの髪色と、ラヴァインの髪色を間違えるわけがないし……違和感。




「……で、えっと、なんで」

「理由必要?」

「知りたいに、決まってるでしょ……」




 それ、それが聞きたいの、と私が距離を取れば、距離を取ったことに関して、ガッカリしたように、ラヴァインは肩をすくめる。

 何で彼はここにいるのか。そう言えば、私を送り出すとき、いなかったなあ、何てことぼんやりと思い出していた。まあ、そんなことはどうでも良くて、追いかけてきたということなのか。

 私に関わるって、これからかなり、肩身の狭い思いをする事になるんだけど。

 いや、闇魔法の家門だし、元からそうなのかもだけど。なんて、失礼なことを思いながら、私は信じられないと首を横に振る。




「話し聞いてたの?」

「うん、聞いてたよ」

「じゃあ、何で、何でついてきたの。アンタまで、巻き込むつもりないけど」

「じゃあ、何処に泊るのさ」

「何処でも良いでしょ。アンタには関係無いわよ。やめてよ」

「縋る対象がいること?」

「……っ」




 飛んできた、鋭い言葉に対し、私は絶句する。

 私の心を抉るような言葉を言うから、私は、思いっきりラヴァインの胸をなぐってしまった。彼は、それを避けるでなく、受け止めて阿呆みたいに「うぐっ」なんて、痛そうな声を漏らす。良ければ良いのに、何で受け止めたのか。




「良いじゃん、縋っても」

「ダメ。私がいるから、皆不幸になる」

「いつから、そんなマイナス思考になったの?エトワールってそうだった?」

「アンタが一番知ってるじゃん。私が、マイナス思考だってこと。アンタ、前に私に直接いったじゃん、覚えてるんだからね」

「そうだね」

「じゃあ、言わないで。マイナス思考になって何が悪いの?もう、こんなの、仕方ないじゃん。なって、仕方ない」

「確かにね。でも、災厄のせいには出来ないよ」

「するつもり何てない」




 別に言い訳をしたいわけでも何でもない。なのに、ラヴァインはそんなことを言ってくる。これ以上、私を追い詰めて楽しいだろうか。彼の真意が分からなかった。

 私に関わったら、不幸になる。それは、そうでしょ、分かるでしょ、って私は言ったんだけど、ラヴァインは理解してくれなかった。

 縋っても良いって、縋りたくない、巻き込みたくないって思っているのに。




「じゃあ、こういうのはどう?俺が勝手についてきているって考えるの」

「そんなの」

「空気だって思えばいいわけじゃん。ほら」

「ほら、じゃないのよ……ほんとに、最悪。アンタ、アルベドみたい」

「血が繋がってるから」

「正論は聞いてないのよ」




 心配するような笑みも、同情の表情も、いらない。それに縋ってしまいそうになるから、やめて欲しかった。

 何で、彼はついてきたんだろうか。あのまま残ってくれていれば良いのに、公爵邸に戻れば良いのに、何で私についてきた? もしかして、ラヴァインも居場所がない? 何て思ってしまった。失礼すぎる。私と一緒じゃないのに。




「アンタは何したいの」

「エトワールの隣にいたい」

「だから、不幸になるわよ。死ぬかも知れない」

「死んでも良いじゃん」

「良くないでしょ。私がよくない。アンタが死んだら、私、アルベドに顔向けできない」

「別にしなくていいじゃん」

「何で」




 一方通行だった。どちらも、譲れないものがあって、言い合っているだけで、話が進んでいかない。本当はついてきてくれて、嬉しかったとか、そう言うのを言いたかった。でも、縋ったら、また、エトワール・ヴィアラッテアが、何かするかも知れない。その時、私は、対処できる力が今ないから。そのまま、ラヴァインを失ってしまうかも知れないって。

 はじめこそ、敵だったけど、彼のことしって、彼のことも大事になってからは、同じぐらい、生きて欲しくて、大事で、大切で。だからこそ、彼も本当は飛び火して欲しくなかった。




「旅の話し聞いたのって、そう言うことなんでしょ。もしかしたら、こうなるかも知れないって予見していたから。いったじゃん、俺も世界回ってみたいって」

「それと、これとは違うの」

「ついてきて欲しかったんじゃない?」

「……」

「だから、いった。誰かに縋りたかった、助けて欲しかったんじゃないかって。だって、エトワールのそれは、強がりだから」




 そう、指摘されてしまって、何も言い返す事が出来なかった。

 確かに、強がりで、私は弱いままだ。本当は心細くて、誰かにいて欲しくて。でも、いてくれない。いちゃいけない、巻き込むことになるからって。

 マイナス思考になるのも許して欲しい。誰のためか分からないけれど、強がりだって言うのは分かっていた。

 本当は、皆と一緒にいたかった、リースが目覚めるまであそこにいたかった。大丈夫だったって、生きていて良かったって、リースに言いたかった。それも叶わない。引き裂かれて。

 許したくなかった、受け入れたくなかった。でも、でもでも!




「泣きたいなら、泣けば良いじゃん」

「アンタの前では泣きたくない」

「じゃあ、誰の前なら泣けるんだよ」

「誰……誰の前だったら………………」




 誰の前だったら、泣ける? そんなの、分からなかった。でも、頭の中に浮かんだのは、あの鮮明な紅蓮で、彼が、何もいっていないのに抱きしめてくるような光景が頭に浮かんだ。

 リースじゃなかったのは、リースに負い目を感じているからとか、恋人に慰めて欲しいわけじゃなかったから。リースが好きじゃないとかそう言うのではなくて、恋人だからこそ、泣けないというか、こんなことで泣くんじゃなくて、泣くならうれし泣きとか、感情を、虚優出来るときに泣きたかった。一方的な、感情の押しつけじゃなくて、もっと互いに理解し合える感情について。


 だから。




「………………………………アルベド」

「アルベド?」

「アルベドの前だったら、泣いてたかも」

「それは、大層な。でも、何で、兄さん」

「分かんないよ」

「分かんないって、エトワールがいったんじゃん。何で、俺じゃなくて、兄さんなの?」




 俺じゃダメか、とラヴァインは聞いてきた。ダメとかそう言うんじゃなくて、彼への信頼がカンストしているというか、はじめから、彼とは同じ孤独を抱えていたからと言うか。

 言語化しづらいけれど、同じ孤独の中に居たから。

 彼なら、同情とかそう言うのは抱かずに、抱いたとしても、私の心を抉らないような慰め方をしてくれる、受け止めてくれるんじゃないかっていう、絶対的自信があったからかな。

 何でか分からないけど。

 ラヴァインの顔を見れば、少し、不満そうに、頬を膨らましていた。




「俺じゃ、ダメ?」

「ダメとかはいっていない。でも、泣けないんだから、泣けない」

「あっそ」

「優しいのか、優しくないのかどっちかにして。アンタは結局何なの」

「何って、エトワールを一人にしたくないから、追いかけてきた、ただのラヴァイン・レイだけど」

「ただの、ラヴァイン・レイ、って、ただのじゃないのよ」




 もう、最悪だ。


 全て置いてきたはずなのに、勝手についてきた。そんなに私のことが好きなのかとかいってしまいそうになる。別にそれを利用しようとか考えはしないけれど。でも、この勝手さが、ずっと……

 何をいっても、帰ってくれそうになくて、私は大きなため息をつく。そのため息を聞いて、また彼はムッと頬を膨らました。だから、何でそんな子供っぽいのかと。




「ダメなの、エトワール?」

「ダメって、別に……アンタは、何で、私に……いや、いいや」

「さっきも言ったけど、俺は、あそこの住民じゃないし、エトワールがいたから、あそこに入り浸っていただけで、エトワールがいないなら、あそこに用はないんだよ。別に、公爵邸に戻ろうとも思っていないし」

「じゃあ、アンタの居場所は?」

「ないんじゃない?エトワールと同じで」 




と、彼は軽く言う。本当に意味が分からない。アンタには、家があるでしょう、といってやりたかったが、戻ろうとも思っていないと言うことを聞いて、何か引っかかりを覚えてしまう。まあ、家出少年だったわけだし、仕方がないのかも知れないけど。




「…………勝手にすれば」

「勝手に?じゃあ、ついてく」

「口に出していったら、あまり、意味がないと思うんだけど」

「いいの、いいの。じゃあ、エトワール、俺と旅しようよ」

「……だから、何で。てか、さっき空気で良いとかいってたじゃない。あれどういうこと!?」

「そんなこと言った?」




 なんて、ケロッとした顔で言われて、もうこれは救いようがないと、私は諦める。まあ、一人ぐらい……巻き込まれても、ラヴァインだし、どうにかなるかも、なんてまた、甘い考えを抱いてしまう。

 結局の所、一人は嫌だって、宣言しているようなものだった。

 私は、もう一度、勝手にして、といって再び歩き出す。その後を、追いかけるように、ラヴァインは「待ってよ」なんて声を弾ませながらついてきた。




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― 新着の感想 ―
[一言] み、見間違い!?私も一瞬アルベドかと思った…まぁ、ラヴァインも好きだしいいんですけどね!というか、アルベドのターンもうすぐで出てくるのか。楽しみです!
2023/07/06 20:43 退会済み
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