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92 独裁者




「まだ言うか」

「何度でも言います。認めて貰えるまで」

「ふんっ、どうやって誑かしたかは知らないが、それは嘘だ」

「何故、そう言いきれるのですか」

「認めないからだ」 




 どんな独裁者よ。


 呆れてものも言えない。いっても、この人に耳はついていないと思った。呆れるだけの騒ぎじゃないと。

 まあ、もう、認めて貰おうなんて思わないけど。どうせ、認める気はないってはじめから、顔に書いてあるから。

 何を言っても無駄だって分かっている。でも、吐き出すだけはさせて欲しかった。そうじゃないと、もうやっていけそうにない。




「陛下に認めて貰えずとも、私達は愛し合っているのです。それに、聖女であれば、当然の権利ではないのですか」




 皇太子と、聖女をはじめからくっつける算段だったのなら、私でも良いのでは? という、卑怯に感じつつも、そう言ってやれば、黙るだろうって思って私は言ってやった。折れるわけにはいかない。

 私がそう言うと、陛下の眉に深い皺が刻まれる。




「偽物が何を言う」

「偽物ではないです。災厄を打ち払い、混沌を倒したのは私です」

「災厄を打ち払い、混沌を倒したのはトワイライトという聖女だ。貴様ではない。貴様の、妄想で、聖女を汚すな」

「私が、聖女じゃないと、仰るのですか」

「ああ、そうだ。貴様は、聖女を名乗っているだけの偽物だ。聖女を名乗るのですら、罪に問われるというのに、そんなことも知らぬのか。恥を知れ」




と、圧をかけられる。


 そんなの始めて聞いた。というか、今作った見たいな事だと思った。だって、聖女を名乗るって、召喚されなきゃそれは聖女じゃないわけだし、皆が聖女召喚には立ち会っているというか、顔を知っているから、それはあり得ないだろう。聖女を名乗るって、変装をしていなければ、そもそも名乗ってもバレるだろうって。

 矛盾はあった。でも、それが絶対権力だと言わんばかりに、振りかざしてくるものだから、私は何も言えない。呆れてものが言えなかった。よく、この人が、この帝国を治めていたんだって思うぐらい、言葉にするのもあれだけどヤバかった。色んな意味で。

 こんな人と、話すだけ無駄だと思ったが、このまま、引き下がったら、負けだと思い、私は続けた。




「ならば、私は何だというのですか」

「混沌の破片から出来た不純物だろう。この帝国に存在してはいけない存在だ。今すぐに、取り払いたいところだが、息子にかけた魔法を解くまでは、いて貰わなければならない。まあ、それが、離れればとける、魔法というのであれば、そうした方が早いだろう」




と、またも、変なことを言われる。


 つまり、何が何でも認めなくて、私を追い出したいわけだ。

 もう、それでもいいと思った。けれど、それだと、リースを置いていくことになる。この、最低な皇帝陛下の下で彼はずっと苦しめられることになる。それも嫌だ。でも、私は、この人と対峙してしまった以上、もう後戻りは出来ないのだろう。




(混沌のこと……ファウダーのこともよく知らないで、本当に、むかつく)




 混沌は不純物じゃない。そもそも、人間がいるからこそ生れた存在で、彼自身は愛されたいだけだった。いや、そんな感情も持っていないかもだけど、誰かに話を聞いて欲しかった、弱い存在だ。触れたら壊れてしまいそうなほど、沢山の人間の感情を抱え込んだ、そんな繊細な存在で。

 よっぽど、皇帝陛下の方が、クズだと思う。




「貴様が、何度も繰り返している、愚息との婚約の話だが、その婚約は破棄だ。勿論、正式な手続きも何も踏んでいないだろうから、破棄も何もないだろうが。この場で、婚約破棄を言い渡そう。この場を持って、貴様は、一生愚息との婚約、結婚は出来ぬ」

「……」




 そんな、口頭で言ったこと、ひっくり返せるわよ。法律がない限り。

 なんて、私は、突きつけられても渚央、強気でいた。この人さえ、どうにか出来れば、後はどうとでもなると思った。まあ、どうにも出来ないのは、この人を見て思っているんだけど。




「じゃあ、誰なら、婚約を許すんですか。認めるんですか。リースが……殿下がそもそも認めないんじゃないですか」

「皇位を引き継ぐまでは、彼奴は私のものだ。子供が決められまい」

「子供って、彼は成人しています。アンタの許可なんてなくても、物事を考えられるんです。そんなことも、分からないんですか」




 皇帝陛下に無礼な口を利くな、とヤジが飛んでくる。皇帝陛下が神だとでも言わんばかりに、騎士達は口々に罵倒するので、私は外野には黙っていて欲しかった。

 すると、ふと、耳から彼らの声が聞えなくなる。周りを見渡せば、まだ騎士達は何かをいっているようだったが、その言葉は私の耳には聞えてこなかった。陛下の声は聞えるのに、何故だろうと思っていれば、隣にいたラヴァインがウィンクをする。




「余計な邪魔が入らないようにって」

「……あり、がと」




 ラヴァインの魔法化って、ようやく思考が追いついて、私は彼に感謝を述べた。これなら、嫌な気持ちに……なるけど、ならなくてすむなあって、馬鹿な事を思いながら、私は、もう一度、陛下を見る。

 この堅物は、対処しきれない。




「それに、愚息は、トワイライト聖女と婚約が決まっている。それはもう、帝国民、周知の事実だ」

「なん、ですって……」




 その後も、続くように陛下が何かをいっていたが、私の耳は、右から左へとそれが流れていった。魔法で聞えないんじゃなくて、もう意味が分からないって、頭がフリーズしてしまって。




(トワイライトと?周知の事実?)




 きっと、トワイライトとリースが結婚するなら、皆喜んで手を叩くだろう。祝福の声を上げるだろう。でも、私だったら……




(違う、そうじゃなくて)




「今日、それを公表した」

「待って……待ってください。それ、それは、トワイライトと、殿下……殿下は眠っているんですよ」

「そんなものは関係無い。私が、この帝国のルールだ。そうやって、この国を支配してきた」

「……イカれてる」




 もう、ダメだ。この人。独裁者の次元を越えている。

 何で本当にこんな人が、指示されているのか、崇拝みたいなことされているのか分からなかった。こんなの、リースと比べるまでもない、同じ土俵にすらいない。早く、リースに皇位を譲って隠居……隠居する前に、死ねとすら思ったけど……リースに皇位を譲らないのは、帝国民が、あまりリースをよく思っていないのは、皇帝陛下の方のやり方を気に入っているからだろうか。確かに、武力や、圧制とか、軍事国家と言わしめるほどの国だし、そのおかげで、大きな戦争もなくて、平和に暮らせている社会。それでいいって、今のままでいいっていう人は一定数いるだろう。自分たちが支配されていることにも気づかないくらいには、平和ボケしているというか。それは、皇帝陛下あっての幸せだと思っている人がいるのだと。


 一種の洗脳だ。


 きっと、この顔は、帝国民にはみせていないのだろうけど。こんなの、知られたらおじゃんじゃん、って。

 それよりも、トワイライトはこのことを知っているのだろうかと。彼女の、妹の意思も確認してあげたかった。いや、絶対何で? って真っ先に言うだろうし、拒絶するだろうけど。

 本来のストーリーだったら、あり得たかもだけど。




「彼女たちの意思は、関係無いんですか」

「聖女と、皇太子が結ばれれば国は安定する。未来永劫な」

「聖女は、役目を果たしたら消えるそうじゃないですか。はじめから、それを知っていてこんなことを」

「こんなことを、だと?自分の立場もわきまえない女だな。偽者め。これまで、良いように動いていたから、目を瞑っていたというのに……心の広い私も、もう我慢が出来ない」




(心が広い?本気で言っているの?)




 口に出したかったが、グッと唇を噛んで耐えた。火種はこれ以上作っちゃダメだと。聞えないだけで、騎士達は、私の言葉を拾って、きっとブーイングをいってる。

 もう、ダメかも知れない。

 ここまで頑張ってきたけど、もう、今回のことで全て打ち砕かれた。心は、大丈夫、折れてない。でも、従わざるをえないかも知れないと。




(これも、エトワール・ヴィアラッテアが、仕組んだこと?)




 わからない。でも、その可能性は大いにあり得る。だって、この皇帝、私以外なら、コロッと態度変えそうだし。耳を傾けそうだし。この性格を知っていたら、エトワール・ヴィアラッテアなら、簡単に操れるだろうから。




(ダメだ、全部、無駄じゃん……)




 どうにかしようって走ってきた。

 何処から始まって、幸せを掴んで、また巻き込まれて。全部それが無駄だって否定された感じで、酷く心が痛かった。

 折れないのは、何でかなって思ったけど、きっと隣にラヴァインがいるからかな。どうしてかな、彼のこと、重なっちゃうんだよね。今どこにいるのかも分からない紅蓮の彼に。




(なわけ、ないのに……)




「エトワール・ヴィアラッテ」

「……」




 陛下の声が響く。もう、何を言われても驚かない自信があった。




「今日をもって、聖女殿から退去。護衛も、本物の聖女に返すこと。そして、今後一切、我々、愚息含め近付くことを禁ずる。以上だ、出ていけ」




 残酷な言葉は、これでもかというくらい、私の心を抉った。





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