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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
番外編 ~巡廻~

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53 sideトワイライト





「トワイライト様、助けてください。どうか、エトワール様を」




 そう言われて、私は目の前が真っ白になった気がした。

 息を切らし、私のお姉様を、おんぶしたグランツさんが、顔を白くして聖女殿に飛び込んできたときは、どうしたのかと驚きました。まず、グランツさんが目覚めていたことに対しての驚きも計り知れなかったです。私は、神殿に行っていたので、彼が脱走……と言うべきではないんでしょうけど、姿をくらましたと言うことはあとから小耳に挟んだので。そうなのか、と言う風にしか考えていませんでしたが。




(お姉様、どうして?)




 何があったの。お姉様は、何でこんなことになっているの? 


 焦りと、恐怖でぐちゃぐちゃになりそうな所を必死に抑えて、私は、取り敢えず、自分の部屋に引き入れた。少し、汚いその部屋は、お姉様が見たら、一緒にお片付けしてくれるかも知れないけれど。今はそんなこと言っている場合ではない。

 グランツさんや、お姉様の、様子を見て、これはただ事ではないと、聖女殿の使用人さん達は落ち着かない様子で、あれやこれやと動いてくれているようだった。私の部屋には、リュシオルさんが、真っ先に駆け込んできて、お姉様を見て顔を青くさせた。




「エトワール様!?」




 彼女は、凄い驚いていた。グランツさんは、無表情だったものの、焦っているというのが酷く伝わってきて胸が痛かった。

 耳に、「ブリリアント卿に連絡を入れます」と、彼を呼んできてくれるような声も聞え、私は、早くブライト様がこれば……と願うことしか出来ない。でも、本当に、まずは状況を整理しないと。




「グランツさん」

「はい」

「こんな状況下で言うのもあれですが、目覚めたんですね。良かったです」

「……っ、ありがとうございます」




 彼は、複雑そうに私に頭を下げ、お姉様に視線を落とした。お姉様は、魘されているように、苦しそうに声を漏らしていた。顔も青白くなっていて、額には大量の汗をふいている。




「俺の責任です。ある、魔道士にやられました」




 いつもなら、回りくどく言うようなグランツさんは、端的に伝えてくれた。彼の、変化に驚きつつも、私は、詳しく話して欲しいと、彼に要求しました。グランツさんは、分かったというように、小さく頷く。




(凄い、変わりようですね……何かあったのでしょうか)




 まあ、予想はついていますが……




「俺も、詳しく、名前は知らないのですが、ラアル・ギフトという闇魔法の家門の貴族が、エトワール様に、なんやかの魔法をかけたのかと。毒の魔法……と、言っていました」




と、グランツさんは、何処か曖昧に答えた。けれど、その通りで、彼は、詳しくは本当に知らないんだろう。




(私も始めて聞いた名前の貴族ですし……)




 光魔法の貴族達は、私に挨拶をしにきたことがありましたけど、やはり、闇魔法の貴族というのは、私達と相容れぬ存在と言われているからか、全く認識がなくて。

 それに、毒の魔法なんて始めて聞きました。




「毒の魔法……」

「五属性の魔法の延長線上にある魔法ですね。極めればつかえるようになります」

「そ、そうなんですね……」




 グランツさんは、付け加えるようにそう言うと、お姉様を再び見る。お姉様は、そのラアル・ギフトという貴族の魔法、毒魔法によっておかされているということでしょうか。グランツさんが助けてくださいといった理由、多分、私ならその毒をどうにか出来ると思ったからでしょう。

 お姉様から聞いていたグランツさんの魔法は、自分に向けられた攻撃魔法を切るものでしたから、仮に、空気感染する魔法だとしたら……対策のしようがなかったのかも知れません。私はそう分析し、お姉様を見る。苦しそうなお姉様。本当に放っておいたら、死んでしまいそうで、私は胸がキュッと締め付けられるような痛みに襲われた。お姉様……何で。




(私がここで狼狽えていても何も変わらない……です)




 お姉様が苦しんで、それでも、必死に息をしているのだから、私に出来ることは何でもやろうと思う。毒の魔法は、多分、光魔法ではなくて、水魔法の方が効果がある気がする。だから、私は、ブライト様が来るまでの時間稼ぎをしようと、運ばれてきた、お姉様の元へかけよる。

 皆が、心配し、見守る中、私は、お姉様の身体に手のひらを向けて、魔力を注ぎ込む。しっかりと、中和が出来るかどうかは分からないけれど、毒のまわりを遅くすることなら出来るだろうと、私は頑張った。

 でも、何でお姉様が、こんな目に遭わなければならないのか、私には分かりません。お姉様は何もしていないのに。




(矢っ張り、もう一人のエトワール……様が、関係しているのでしょうか)




 お姉様が、実際、私に何があった、何が起きている、と言うことは話してくれていない。私を巻き込まないための配慮なんでしょうが、私は、それを聞いてしまった。聞いてしまったからには、もう人ごとだと思えなくなってしまったのです。

 お姉様が優しくて、強くて、私の事を思ってくれているって分かっていても。私は、お姉様のために出来ることをしたい。お姉様の役に立ちたいのです。

 お姉様はきっと、今、誰のことも信じられずに、一人もがき苦しんでいるはず。だからこそ、私が力になれたらって……




(それさえ、拒まれているのは、お姉様が追い詰められているからでしょう)




 お姉様の記憶を見て、お姉様が一番辛かったとき、そして、二度目に辛いお思いをしたときのことを思いだした。お姉様は、人に言わないところがある。全部、ため込んで、それで、自分の中で勝手に解決したように思い込んでいるだけ。

 何も解決していないし、ずっとずっと、辛いまま、暗い海の底で酸素を無くしたのにも気づかず藻掻いているようなものだった。まだ、自分は動けるとそう思って。動けないほど、追い詰められていることに、気がつかないままで。




「お姉様、お願いです。目を開けて」




 はあ、はあ……と苦しそうな息づかいが聞えるだけで、お姉様は、その目を開くことはありませんでした。もっと、と私は魔力を注いでみますが、光魔法と毒魔法は相性があまり良くないように思う。このまま、ずっと魔力を注ぐことなんて出来ないし……かといって、少しでも、毒の進行を遅らせないと……

 そう思っていると、扉が開き、黒髪の美青年が、部屋に入ってくる。




「遅れてすみません。エトワール様は今……」

「ブライト様!」




 入ってきたのは、ブライト・ブリリアント様。彼は、水魔法を操る魔道士だし、彼が来たなら、もう大丈夫だと、私はふらりと、足下がふらついてしまった。そんな私を、グランツさんが抱きしめてくれて、倒れることなく、私は、彼に感謝をのべる。




「ありがとうございます。グランツさん」

「いえ。ここまで、ありがとうございました。トワイライト様。貴方がいなければ、エトワール様は」




 まだ助かったとは言えないから、その言葉は、本当にお姉様が助かってから言って欲しいところだけれど、彼のことを考えると、私は言葉を飲み込むことしか出来なかったのです。

 それにしても、グランツさんの変わり様はいったい……

 私がちらりと、ブライト様を見れば、ブライト様は、エトワール様の容態と、何故こうなったかの経緯をきき、すぐに治療を始めた。回復魔法では、毒の進行を遅らせることしか出来ず、やはり、水の魔法が一番効果的なのだとか。そもそもが、毒の魔法というのが珍しいらしく、どんな魔道士であれ、中和をするのにも、時間がかかるのだとか。




(……そんな、魔道士がいるんですね) 




 毒の魔法を使う魔道士が、敵にいる。そう考えるだけで、危険な香りがぷんぷんしました。そんな人達と戦っていくことになるのかと。お姉様は、それすらも一人で背負おうとしていたのかと……




「……」

「トワイライト様?」

「すみません、グランツさん。少し、外の風に当たってきますね」




 私はそう言って、グランツさんの胸を優しく押して、部屋を出た。本当なら、お姉様が目覚めるまで側にいてあげたいと思ったけれど、何となく嫌な予感というか、胸騒ぎがしたので。

 といっても、これは私の本当に感というか、何というかで。




(……私が持っている情報なんて、少ないですし……お姉様の、役に立てるかは分かりませんし)




 かつて、此の世界にくるまでの経緯。此の世界で女神と信仰されている存在とはまた違う女神の存在。私とお姉様、そして、皇太子殿下と、リュシオルさん、ルーメン様は、こっちの人間ではない……もしかしたら、一気にこちらの世界に押し寄せすぎて、誰も想像しなかった、穴が空いてしまっているのかも知れません。

 私は、そう考えながら、いつの間にか、神殿の近くまで来ていた。

 何故か、風が酷く吹き付けて、黒い雲が空を覆い始める。もしかしたら、雨が降るかも知れない、そう思って引き返そうと思えば、ふわりと、花のにおいが鼻孔をかすめた。しかし、その良い花の匂いも、いつしか腐臭を放ち、目の前が真っ黒い花弁で一杯になる。


 黒い薔薇の花弁、黒い百合の花弁。




「トワイライト・カファス……此の世界で愛される、聖女。だったかしら」

「……っ、貴方は」




 振返れば、そこには真っ白い天使のような少女がいた。私に優しく微笑み、それから、その夕焼けの瞳を向ける。私のよく知った顔、先ほどまで、青白くなっていた彼女。




「お姉様?」

「ええ、そうよ。トワイライト。貴方の、だーいすきな、お姉ちゃんよ」

「……」




 そう言ってフフフ、と笑ったお姉様は、今までに無いくらい、不気味に口を歪めた。





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