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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
番外編 ~巡廻~

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42 随分と懐かしい記憶




「――っと、ここまで来りゃ、大丈夫だろ」

「……」




 繁華街から少し離れた所で、アルベドは風魔法を解除して、地面に足をつく。短い空中飛行だったなあ、何て名残惜しさも残しつつ、私はアルベドから距離をとってしまう。彼は、そんな私を見て、「だよな?」見たいな、さも、当然であるみたいな顔をしている。何というか、そんな切なそうな、諦めの滲み出た彼の顔を見て、ダメなこと、嫌なことをしているんじゃないかっていう、気持ちに駆られてしまうのは、きっと私だけだろう。




(不安、不安、不安……全てが、疑わしく見えて仕方ない)




 どうして、こんなマイナスの気持ちになっているんだろう。俯き気味に、それでいて、自分さえも信じられない最悪の思考になっている。久しぶりに、こんな気持ちになったなあ、なんてぼんやり思っている私もいるけれど、あの時よりももっと酷いような気がする。

 何でこうなったのとか、自分でも理解できないから、たちが悪い。




「エトワール」

「何……ああ、助けてくれてありがとう。アンタまで、敵だったらどうしようかと思った」




 いいや、まだ、敵か味方かも分からなくて、だからこうして、距離をとってしまうわけだが。

 心の中では、アルベドは敵じゃないっていっているし、そう信じている。でも、時々見せるあの冷たい目を思い出してしまうと、本当に信じて良いのかすら怪しくなってくる。元々、暗殺者だったし、そういう気? が出てしまうのかも知れないけれど。




(考えるだけ無駄なんだろうけど……深読みしすぎて、空まわっている感じもするし)




 冷静になれと、どれだけ心に言い聞かせても、聞いてくれなかった。思考と感情がバラバラに砕けている。ピースを繋げたいのに、上手く噛み合わない感じで、歯がゆさすら感じる。

 アルベドは、そんな私を見てか、はあ……と大きなため息をついた。




「何よ」

「いーや、別に。ほんと、変わっちまったというか。何というか」

「そもそも、私はアンタが味方なのか、敵なのか……未だに分からないんだけど?はっきりさせて欲しい。そして、私を安心させて欲しい」




 本音が零れる。


 安心させて欲しいなんて、何て傲慢なんだろうと。自分で言っていて、この言葉が正しいのか否か、分からなくなってきた。それでも、アルベドから答えを貰うことが出来れば、何かは変わる気がしたのだ。彼が私の欲しい答えをくれたら。




「まだ、そこにこだわってんのか」

「こだわるというか、安心できないの。さっきも、と言うか何回もいってるけど、私は今、アンタのことも、自分自身のことも信じられなくなってるの。災厄が過ぎ去ったっていうのに、このザマで、笑えてくる」

「笑えねえよ」

「兎に角、アンタが敵か味方かはっきりしないと、安心できない。あと、洗脳されているとか、記憶はあるのかとか」




 聞きたいことは、どんどん溢れてくる。一つに質問を絞れと言われたら、絶対に絞れないだろう。けれど、全部聞きたいのだ。あの空白の期間を埋めたい。そして、前の関係に戻りたいと、切に願っている。

 けれど、アルベドは、私をただじっと見ているだけ、何も答えてはくれなかった。それが、答えだというように。




「……ありがとう。もう大丈夫。助けてくれたのは、凄く嬉しかった。昔を思い出して、何だか舞い上がっていたかも」

「お前は」

「ヘウンデウン教が何をしようとしているのとか、私と同じ顔を持った少女が何かをしようとしているの……知ってるから。私は、それらの問題を解決するために動くだけ」




 アルベドは、力を貸してくれないだろうし、私は自力で、この問題を解決しないとと、と焦っていた。

 同じ顔の少女。エトワール・ヴィアラッテアのことだ。彼女は私に干渉してくる。夢の中で。私の身体を乗っ取るのが目的なのか、ただ陥れるだけが目的なのか、未だに分からない事だらけだ。謎が多いからこそ、解明しないとと、焦らされる。

 でも、何で焦っているのか、よく分からなくなってきた。


 私の為? リースのため? トワイライトの為? それとも、私が大好きな人達のため?


 何で、自分がこんなにも必死になっているかわらなかった。頑張っている理由が分からず、頑張ることが、一番辛いことだと、私は理解しているはずなのに。どうしてだろうか。




「なあ、エトワール。お前、辛くないか?」

「辛い?」




 口を開いたと思えば、アルベドは変なことを言うのだ。


 辛くないか?


 その質問に、どう返すべきか、考える。辛いかといわれれば、辛い。悪夢のせいで熟睡できないし、何もかもが疑わしくなって仕方がない。そして、誰にも頼れない……頼ろうという気になれないもどかしさや苦しさ。そんな、辛さから解放されたいって言う気持ちはあった。でも、いったところでどうなるという話なのだ。




「辛いっていったら何かが変わるの?」

「変わるかも知れねえじゃねえか」

「知れないじゃ、ダメなの。変わるなら、変わるなら、そりゃ、助けて欲しいに決まってる。でも、これは私の問題だって……私が、そう決めたから」




 私が頑張るのは、私の問題で。頼りたいけど、頼らないのは、巻き込みたくないし、それでまた、理解されないとか、分からないとかいわれて拒絶とか、そういう目で見られるのが嫌で。




(ダメだ、またマイナスになっている)




 誰かに嫌われているわけじゃないし、誰かに罵倒されたわけじゃない。この世界にきた当時の、辛さとはまた違うものが、私を襲って蝕んでいた。誰かの問題じゃなくて、明らかに私の問題。私のまわりで起こってしまっている問題なのだ。中心は私。

 アルベドは、一歩、また一歩と私に近づいてきた。殺されるんじゃって、身体が強ばってしまう。以前なら、そんなことなかったのに。




(いいや、一回あったかも。アルベドが血だらけになって、近付いてきたとき。あの時、凄く怖いって思っちゃった)




 もの凄い昔の記憶に感じる。一年経ったか、経っていないか。この世界にきて随分時間が経つが、もうこの世界にきて何日、と数えるのをやめてしまってからかなりの時間が経つ。だから、実際、どれくらいの時間ここにいるか分からないのだ。

 でも、ここに来て、めまぐるしい時間の中で、確かなものを手に入れてきた。それが、今、崩壊しそうで怖いのだ。

 だから、壁を作ってしまっているのかも知れない。この積み上げてきた時間を失いたくないから。




「何で逃げるんだよ」

「逃げてない」

「いや、逃げてるだろ。俺が近付くたび、一歩後ろに下がるじゃねえか。それを、逃げてるっていわず、何て言うんだよ」




と、アルベドは目を細めて言う。


 逃げている、と言われれば、確かに逃げている。誰がどう見ても、そう見えてしまうだろう。でも、意地を張って、違うって私は言ってしまう。口に出してしまう。タダノ強がりで、こんなの何の意味も持たないのに。

 そうしているうちに、壁際まで追い詰められた。人が通らないわけじゃない。ローブを被っているとはいえ、脱げば、その銀髪が露わになる。銀髪の少女なんて、私ぐらいしかいないから、通行人の目にとまってしまうだろう。そして、私を壁際まで追い詰めた人間は、闇魔法の家門、公爵家の公子である、アルベドだ。彼もまた、目立つ容姿で、その紅蓮の髪は誰もが羨むほど美しい。つやつやとしていて、風がふけば仄かに揺れる。前と違うといえば、頭の上で結んでいたのに対し、今は、うなじらへんで結んでいる、と言うことだろうか。前のポニーテールの方が好きだったのになあ、何て私は思ってしまう。そういえば、アルベドは、髪の毛を人前でおろすのが嫌いだった、と言うことも思い出した。理由は分からないけれど。髪の毛をおろすタイミングなんて、風呂上がりとか……しかない気がするし、もしかしたら、アルベドにとって、髪を下ろすということは、プライベートな時間を意味するのかも知れない。だからこそ、人前で髪を下ろすことになれていないというか、恥ずかしさを感じるというか。


 そんな感情が、彼にあるかは定かではないけれど。




「まあ、これで、逃げられねえけどな」

「……」

「俺の事、怖いのか?」




 前にも聞かれた台詞。あの時、私は何て言ったっけ? 単純に、純粋に「怖い」と言った気がする。デジャブだなあ、何て思いながらも、私は嘘を交えでいう。




「怖くない」




 また、強がりだったかも。

 アルベドは、眉をひそめ、口を曲げた。それから、頭を乱暴にかきむしって、私に、その満月の瞳を向けた。彼の目は、夜空を照らす美しい満月だった。一切の曇りはない。再会したときは、確かに、濁っていたはずなのに。




(じゃあ、洗脳が解けたってこと?)




 証拠としては、やや不十分だと思う。けれど、その線もあるな、と私は少しだけ、緊張がほどけたような気がした。

 味方かも知れない、という安心感が生れる。




「本当に怖くないのか?」

「しつこいわね」

「前は、俺の事怖いって言ったくせに」

「……それは、そりゃ。あの時は血なんて見慣れてなかったし、だから……その」




 今、慣れたかと聞かれれば、今だって痛いのも血が流れているのも嫌だ。兎に角、グロテスクなものに対して耐性がない。


 だから、怖い。


 けれど、その怖さも、アルベドがどうにかしてくれていたから。彼は、極力私に汚いものを見せないようにしてくれた。それを思い出して、心が温かくなったのだ。




「なあ、エトワール、少しだけ、俺の話を聞いてくれないか?」

「アルベドの、話?」

「そうだ、エトワール――」




 そう、アルベドが言いかけた時、私とアルベドの間を風魔法のようなものが通り抜けた。




「……ッ」

「――れろ、離れろ……エトワールから離れろッ!」




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