if 逆行したら今度は君の恋人(パートナー)になりたい
この話は『もしも』こういう形で巡ちゃん(エトワール)がアルベドと出会っていたらというifストーリーです。
此の世界では、”リース×エトワール”ではなく”アルベド×巡”になってます。
逆転生+逆行要素が含まれますのであらかじめご了承下さい。
番外編では中々アルベドが出てきませんが、もう少しで(多分)出てくるはずなので、気長に待っていただけると嬉しいです。
作者のアルベド不足解消のためだと思っていただけると……
因みに巡ちゃんの高校時代の制服とビジュアルは上記の画像の通りです。
※この物語は現在連載中の『召喚聖女(略)』のif逆行ストーリーになります。
※本編軸と関連するなら8章以降のお話です。
※本編には全く関係無い、「もしも」の世界のお話です。
※一万文字近くある特別回です。
以上の事が大丈夫な方はどうぞ。
本編とはまた違った物語をお楽しみいただけると嬉しいです。
◇◇◇◇
もし、世界が違ったら。
もし、過去に戻れるなら。
もしもがあったとき、そんな奇跡が起こったとき。
今度は――――
これは、紅蓮の彼が世界を変えて白い星の少女に会いにいくお話。
◇◇◇◇
私、天馬巡。大好きな乙女ゲームをしている最中に、不思議な光に包まれ、そのプレイしていたゲームの悪役聖女に転生してしまった。今は、エトワール・ヴィアラッテアとして攻略キャラを攻略中、そして世界を救う為に奮闘中なのである。
初めこそ、転生って本当にあるんだとか、悪役!? とか、恨んだり呪ったり、兎に角感情の起伏が激しかったけど(今も、性格的に冷静になれないところがあって、たまに発狂したりもするんだけど)、大分此の世界になれてきたのだ。もう、手で数えるのは難しいぐらい此の世界にいて、馴染んでしまっている。
今日だって、起きたらメイドで同じく転生者の親友、万場蛍ことリュシオルが起こしに来てくれて、温かい朝食が準備されているはず……そう思って目を覚ます。
「え……」
寝起き第一声でも、こんなにはっきりと言葉を発することが出来るのかと、自分でも驚くぐらい、「え」とはっきり出た。それはもう、こだまするぐらいに。
辺りを見渡せば、そこは、中世ヨーロッパ風の部屋ではなくて、洋式……ではあるものの、現代の日本を思わせる部屋が広がっていた。否、私の部屋である。
「どどど、どういうこと?」
私は昨日まで、あの乙女ゲームの世界にいて聖女殿っていう聖女が暮らすためだけに作られた貴族の家みたいなと頃にいて……
寝ぼけているからといって、これはない。と言いたかった。実を言うと、家が嫌いである。自分の家。誰もいなくて、挨拶も帰ってこなくて、無駄に広いくせに静かな家が大嫌いだった。家族という血のつながりがあるものの、全く家族らしいことをしない、したことがない、名ばかりの家族が暮らすためだけの箱。そう、私は小さい頃から認識していた。
そんな家に私はいたのだ。
「どういうこと、だって、私は……え、え、戻ってきた?それとも、これまでのことが夢?」
夢だったら随分と長い夢を見ていたものだと、言えるのだが、あれが夢だった、何てこと絶対にあって欲しくない。その一心で、私は首を横に振って何度も顔を叩いた。だが、これが夢だったとして、その夢から目覚めることはなかった。
絶望の二文字がこんなんにもはっきりと目の前に見えるのだから。
「嫌だ、あっちの世界に戻りたい……」
一気にブルーになって、頭を抱え込んだ。静かな部屋。温かい光だけが降り注ぐ何の変哲も無い、でもフィギュアとかポスターとかが貼ってあるオタク部屋。そこに私はいる。
こんな所でくよくよしていても仕方がないし、夢じゃないとしたなら、私は大学に行かないといけないのかも知れない。取り敢えずは、時刻を確認する。今が何年で、何月で……肌寒いから、秋か冬ぐらいかな何ては思っているけれど。そんなことを考えながら、充電器に刺さったままのスマホをたぐり寄せて画面を立ち上げる。パッと白い光が起きた手の眼に入り込んできて、思わず目を細めた。
「……勘弁して」
そして、スマホを確認した後、いやあ……な空気が、最悪の空気に変わる。もう、そう言うしかない。私の語彙力ではこれが限界。
(何でこうなったとか、全く分からないし、昨日だって何もなくて普通に寝た。これが、混沌の介入とかそう言うのだったら、あれかも知れないけれど、混沌にも会ってなくて……)
色々思考を巡らしてはみてみた物の、原因がさっぱり分からない状態だった。
まず、言えることは、私は現代に戻ってきてしまった。
そして、その現代もかなり時間を遡って高校二年生の時に戻ってきてしまったのだ。
中身は、大学生成人している女性。もう、高校生の服なんて着たらコスプレになってしまう。スマホのカメラ機能を使って、自分の顔を見てみれば、あの綺麗な銀髪じゃなくて、黒が身で、胸ぐらいまでのぼさぼさの髪の自分が映っていた。でも、一つ変わったことと言えば、黒い瞳のはずなのに、私の瞳はエトワールと同じ、夕焼け色だったのだ。
全く理解できない。
もう一度、寝てそれから考えようとしたとき、下から私の名前を呼ぶ声が聞えた。親じゃないってすぐ分かったのは、聞き慣れた大好きな声だったから。
「巡―むかえに来たわよ」
私の親友、万場蛍の声。彼女は、どうだろうか。彼女も一緒に戻されたんじゃないだろうか、と私はパジャマのまま下に降りる。蛍を出迎えるために、扉を開ければ、家に上がってきた蛍が目を丸くした。
「何で貴方まだパジャマなの?」
「リュシオル、聞いて。私、此の世界に戻ってきちゃって、原因が分からなくて、それで、今、どうしたら良いか……!」
そう言って、私が切羽詰まったように言えば、蛍の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えた。どうやら、彼女はリュシオルになった蛍ではなくて、リュシオルに転生する前の蛍。まあ、高校二年生の万場蛍だった。つまり、エトワールの私を知らない親友と言うことである。
ああ、これじゃあ、話が通じないわけだ。
そして、私だけが、此の世界に戻ってきた。タイムスリップ、逆行とか言う奴なのかも知れない。
(この状態で、落ち着けって言う方が無理なのよ……)
頭が痛い。蛍は、私が通っていた高校白瑛高校の制服を着ているし、今から学校に行きますって言うオーラが出ていた。だから、パジャマのままの私を見て不思議そうな、焦った顔をしている。遅刻なんて言語道断って感じなのかも知れない。
蛍は、頭を抱える私に「体調悪い?」と聞いてきたが、私は何て答えるべきか分からなかった。私の中身は、大学生で乙女ゲームの世界に転生して未来からやってきて……そんな話通じるわけがなかった。それに、あの乙女ゲームはまだリリースされていないだろうし。
私が、此の世界に適応するしか無いと思った。ぐだぐだ言ったところで、今の蛍には伝わらないだろうし、こんなの数分で伝えられるわけがない。私が、いつも通りにすればそう、すむ話なのである。
「ご、ごめん。昨日遅くまでゲームしてて」
「だから、あれ程夜更かしはダメだっていったじゃない。もう、早く準備して?ご飯は食べた?遅刻するわよ」
と、変わらない様子でいってくれる彼女。蛍の性格は、あの世界に行っても何も変わらなかったし、今まで通りの彼女だった。そこは、救いだ。ただ、記憶が無いだけで。
(記憶が無いというよりかは、私が記憶がありまくるって言う方が正しいのか)
もう、何が何だか分からないけれど、取り敢えず考えるのはやめよう。
私はそう考えて、リュシオル……蛍に手を出した。
「何?」
「え、着替えさせてくれるんじゃないの?」
そう、いつものテンションで……というか、それが当たり前になりすぎて、そう言ってしまって、蛍は怪訝そうに「それぐらい自分でしなさいよ。高校生でしょ」といってため息をついた。
◇◇◇◇
つまり、この時、高校二年生の冬か秋か……その境目ぐらいのこの時期、まだ私は遥輝に告白されていないと言うことである。此の世界にいつまでいることになるか分からないけれど、未来を変えるのは何だかいけないような気がした。まあ、私というイレギュラーが混ざっている時点で、未来が少しずつ狂っている可能性は現時点であるわけだが。
「巡、本当に大丈夫?」
「え、何で」
「もう、すっごい怖い顔してる。初めて見るかも……あー違うな。推しが出なくて、課金に手を出そうとしている顔」
「どんな顔!?」
蛍にそう言われ、普通そんな課金をするか迷っているとき、自分の顔を鏡で見ないでしょ、と思うけれど、第三者視点からはそう見えているようで、そんな風に見えていたらしい蛍は、心配そうにしていた。まあ、私の課金する額ってかなりだから、やめときなよ、的な意味だろうけど。
(そうじゃないんだよな……ごめん、蛍)
別に嘘をついているわけとか、騙しているわけじゃないんだけど、どうにも罪悪感という物が芽生えてくるわけで、私は心の中で何度も謝り倒した。
そうして、教室内を見渡して、あの頃と何も変わっていないんだと言うことにほっとしている自分がいた。見慣れた景色。蛍がいなかったら高校時代ぼっち確定、のくせに遥輝という恋人が出来ていたかも知れない(失礼極まりない話なのだが)。
それは、そうと。何だかいつもより教室内がざわついている。何かあるのかと、目の前にいる蛍に聞こうとすれば、ちょうどホームルームの始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。一斉にバタバタと自分の席に戻っていくクラスメイト。若い部類に入る担任の先生が教室に入ってくる。いつもよりビシッと決まっているのは気のせいだろうか。
「えー今日は、予告していたとおり、転校生が」
「転校生?」
そんなの聞いていない。「はいってきなさい」と、私の頭が追いつかないうちに話は進んでいく。
(待って、これって、ここって私の知っている世界じゃない?パラレルワールド?え?)
頭はさらに追いつかなくなっていく。だって、そんな突発的クエスト的な、そんなもの私が高校時代になかったのだから。転校生というワードに引っ張られすぎて、皆の転校生という珍しいものにわくわくするとかそういう気持ちがなかった。いや、別に昔の私でも転校生が来るんだへー、それより今月のイベントなんだろう的な感じですませていただろう。でも、今回すませられないのは、私が逆行してきているからである。
此の世界は、パラレルワールドなのかもと、思えるぐらいに。
近くて、ヒソヒソと「ドイツ系アメリカ人だって」とか聞えてきて、益々パニックになる。何それ、留学生的な? このタイミングで? とか、もう本当にパニックだった。それを気づいたのか、蛍が「本当に大丈夫?保健室に行く?」とか振返って聞いてくるもんだから、私は首を横に振ることしか出来なかった。
もう、いい。知らない。
そう割り切ってしまえればよかったのだが、教室に入ってきた人物を見て、さらに私の目玉は飛び出て、脳みそが頭から脱走するような感覚に陥った。
忘れもしないし、脳裏に焼き付いて離れないその色が、私の目には毒だった。それでも、目が離せなかったのは、出会った時から彼を美しい、綺麗な物と認識していたからだろう。
自己紹介なんて、右から左へと流れていく。何を言ったとか、何が好きだとか、どこから来たとか、把握できずにいた。でも、その名前を聞いて、いや、見ただけで他人のそら似とは言えないほど似ていた訳だし……だから、その名前を聞いたとき、何でここに彼がいるのか、全く理解できなかったのだ。
「アルベド・レイだ。よろしく」
そう言って笑った、紅蓮と、確かに目が合ったのだ。
その目が、やっと見つけたと言わんばかりに、私を見るものだから、ヒュッと喉が鳴った。
◇◇◇◇
顔が良い。そりゃそうだろ、だって乙女ゲームの攻略キャラだもん。
声が良い。そりゃそうだろ、だって乙女ゲームの攻略キャラだもん。
身長が高い。そりゃそうだろ、だって乙女ゲームの攻略キャラだもん。
最悪なことに、アルベドという他人のそら似であって欲しい男は、私の後ろに席に座ることになった。そして、休み時間にはいれば、男女構わず、珍しい転校生と言うことで、彼の机の廻に集まることになった。高校生らしく、趣味は? とか、英語もドイツ語も喋れるの? とかもう質問攻めになっていた。私には関係無いことだけど、後ろから聞える声も、そのトーンとか何もかも、アルベドだった。
他人のそら似じゃない。絶対にアルベド。そう確信できるぐらいには。
(何で此奴がここにいるの?)
疑問で埋め尽くされていく。彼も転生? いやいや、可笑しいでしょ。どういうこと。もう、キャパオーバーだ。それでも、もしアルベドが私のことを覚えていて、私と同じ状況だったとしたら、何だか嬉しいし心強い気がした。気がしただけ、アルベドの性格を知っているから、頼ったところで馬鹿にされるかも知れないけど。
(にしても、他の人と喋ってるのに、私に視線が刺さってるんだけど)
後ろで質問に丁寧に答えているはずのアルベドの視線はずっと前の席に座っている私に向けられているわけで。もう、きっと覚えているんじゃないかと思えるぐらいのものだった。
「巡、大丈夫?」
「ごめん、本当に心配させてる。でも、違うの」
「まあ、いきなり転校生来たわけだしね」
「え、りゅ……蛍は知らなかったの?」
「あーえっと、担任が話してるとき、聞いてなかったかも」
と、蛍は目線を逸らしながらいった。蛍らしい。多分、私も同じことしてたト思うけど。何て思いつつ、私は苦笑いした。
「それで、巡も気になるの?あの転校生のこと」
「何で?」
「だって、興味持ってる感じがして。いつもの巡と違う顔してたって言うか」
「そんな顔してた?」
「うん」
と、親友は頷く。蛍が言うなら、そうだろう。と言うか、私も明らかに動揺しているし、蛍が気付かないわけないかと、私は自分に言い聞かせる。
「まあ、見た目悪くないし、というか格好いいし……二次元から出てきたみたいな容姿だよね。アルベド君」
「アルベド君……」
滅茶苦茶聞き慣れない言葉を聞いた気がして、思わず復唱してしまった。だって、リュシオルだったときは、レイ卿とか、皆もアルベド・レイって呼んでいたし(何でフルネームなのかは知らないけど、その方が言いやすいからとか?)、アルベド君なんてなんかゾワッとする。
それに、本来であれば、アルベドはエトワールよりも年上な気がするんだけど。
(というか、というか。あのなっがい紅蓮のポニーテールとか、校則違反じゃん!)
蛍の言うとおり、二次元から飛び出してきたような……は、まんまそれ。本当に、二次元からそのまま飛び出してきたんだろうけど、現実であの長さ……あ、いやでもあっちの世界にいて、あっちも現実だったわけだし。でも、兎に角日本でこの色でこの長さが受け入れられる物なんだと言うことに驚いた。皆、髪の毛が綺麗だねとはいっているけれど。
「はあ……」
「浮かない顔してるわね。今日は早く寝るのよ」
「うん、そうする」
寝たら、あっちの世界に戻ってますようにって願掛けする。と、心の中で言いながら、私は刺さったままの視線を無視して、午前の授業を受けきった。
◇◇◇◇
「天馬巡」
「は、はい!」
午前の授業が終わってすぐに、私の名前を呼んで教室に入ってきたその人物に、身体がかたまった。反射的に、久しぶりに呼ばれるからか、それとも、この時の私がその人物を警戒していたからか分からないけれど、心臓が飛び出そうだった。無関心だったと思っていたけれど、この頃の私は、既に遥輝のこと何かしら思っていたんじゃないかと思うぐらいに、身体が反応している。
はい、つまり朝霧遥輝が登場した訳で。
教室に入ってくるなり、黄色い歓声が飛ぶ。そんなの、アニメでしか見たこと無い。学園の王子様的存在……と言えば、良いのだが、遥輝が誰にでも愛想を振りまく人間でない事は知っているので、王子様と言うより、孤高の存在、だから女子の人気が高いと言えば良いだろうか。まあ、どっちでもいいんだけど、そんな遥輝が、私の前にやってくる。
「あ、朝霧君じゃん。巡、また指名されてる」
「ちょ、ちょっと、蛍」
ぐりぐりと私の背中を押してくる蛍。もう、公認されているというか、まだこの時点では付合っていないわけだし、一方的な興味という風にしか捉えていなかったけど……それでも、後からわかった話、あの世界に行って分かったけど、この時点から遥輝は私のことを好きだったみたいで。
(……複雑)
「あーえっと、遥輝」
「……ッ」
私がそういえば、遥輝の瞳孔が開いた。何で、そんな顔するのだとか、思ったけれど、理由はすぐに分かった。
「天馬巡……俺の事、今なんて……遥輝?」
「え、遥輝だよね。遥輝は遥輝」
私がそう繰り返せば、遥輝は倒れそうな勢いで、机に手をついた。
(ああ、そうかこの時の私まだ朝霧遥輝とかいってたんだっけ。だから、遥輝も天馬巡ってフルネームで……合わせる必要ないのに)
まあ、それは置いておいて、いきなり好きな人に名前を呼ばれた男子のリアクションが見えたわけで、私はどう対応して良いものか悩んだ。私は、この時の遥輝の弱さとか、あの世界で嫌と言うほど見てきたし、どれだけ好きだったか知っているからか、何だか小さい遥輝を見ているようで楽しい……と言うのもあった。人の心が、自分の心が筒抜けなんてアいては思っていないだろうから。何だかそれはもう訳無く思う。
「そ、そうか。俺も巡ってよんでいいか」
「お好きにどうぞ」
「……」
「何?」
「いや、そんな一日で人って変わるものなのか?」
と、核心を突いてくるような事を言う遥輝。相変わらず鋭い、良い感しているなあ何てぼんやり思いつつ、どう誤魔化すべきかと迷っていたら、後ろからスッと腰を抱かれる。
「……ふげ」
「変な声だなあ。エトワール」
そう、聞き慣れた声が耳元で聞えたため、思わず身震いした。これは、単なる反射で、防衛反応のような物だ。
「エトワール……巡は、そんな名前じゃないぞ」
突っかかったのは、遥輝で、遥輝の瞳には、確かに私の後ろにいるあの紅蓮が映っていた。
紅蓮……アルベドは勝ち誇ったような笑みを浮べて、遥輝を見ているようで、遥輝は不快だというように顔をしかめている。その姿が、リースと重なって、何となく寂しい思いになるのは何でだろうか。
「あの、アルベド……くん、私エトワールじゃないんだけど」
「エトワールは、エトワールだろ」
話通じていないのか。それとも、アルベドの目には、私があの銀髪で真っ白なエトワールに見えているというのか。
ちらりと振返れば、彼の満月の瞳と目が合った。その目には、しっかりと天馬巡が映っている。でも、その人身は、天馬巡の黒い瞳は、あのエトワールと同じ夕焼け色な訳で。それで、私をエトワールといっているのだろうかと。
「エトワールって、人違いじゃ……」
「いいや、お前は、エトワールだろ。その瞳、夕焼けみたいで綺麗だし。それに、エトワールって星って意味だろ?お前が輝いているって言ってんだよ」
と、何とも臭い台詞を吐いて、まわりがキャーキャー言っているのなんてお構いなしに、私とアルベドの世界を作ろうとしていた。それを、目の前の遥輝が許すわけもなく……
「離れろ。お前が誰だか知らないが、初対面の奴に、こんなことされて、巡が可哀相だろ」
「遥輝……」
「初対面かどうかは、後から聞くとして。エトワールは借りてくからな」
「うわっ、ちょっと……!」
ぐわんと視界が歪んだかと思えば、いつの間にかアルベドにお姫様抱っこされていて、さらに外野がキャーと叫ぶ物だから、もう耳を塞いでおいた方が良いんじゃないかと、私はされるがままになっていた。こんなに目立ちたくない。過去の私だったら発狂して二人とも叩いているだろう。
そうして、何処に向かうのか、アルベドは私を抱きしめたまま、教室の扉の前でピタリと立ち止まる。
「残念だったな、皇太子殿下。今度は俺がエトワールの恋人になる番だ」
何を言ったのか、それが英語ではない何語かで言ったので、理解できなかったが、私の耳には、遥輝のチッとした大きな舌打ちが聞えてきたのは確かだった。
◇◇◇◇
この学校、実は屋上が立ち入り禁止ではないのである。
施錠もされていなければ、簡単に立入ることが出来る屋上に私達はいた。高い柵はのぼっても登り切れないようなもので、頑丈且つ点検もされていて、ここから飛び降りる……人はいないから、危険じゃないから立ち入り禁止じゃない……とかそういうものなんだろう。
まあ、それはいいとして、でも人気は無いわけで、ここには私とアルベドだけ。アルベドは、はいってこれないように、扉を押さえている。だから、私もここから逃げられないし、誰も屋上には入って来れない。そんな状況。
「何……こんな所まで連れてきて」
「単刀直入に聞くが、覚ええてるだろ。俺の事無視するな」
「人違……」
「朝霧遥輝、彼奴が皇太子殿下なんだろ。ネットって奴で調べたぞ、こういうの『てんせい』って言うんだろ、あと『ぎゃっこう』だったか」
アルベドの口から、ネットとか、転生、逆行なんて言葉聞く何て思いもしなかった。何で、此奴は平然な顔でそんなことを言うのだろうかと。でも、アルベドなりに、此の世界にきて苦労して、それでこの結論にいたったというならそれは誉めるべき所なんじゃないかと。私も、転生して苦労したわけだし、アルベドもまあ苦労するよなあ……なんて。
「それを聞いてどうするの?」
「どうも。でも、俺といる方が今のお前にとってベストなんじゃないかって提案してんだよ」
「脅し?」
「何で、これが脅しに聞えるんだよ」
はあ……とため息をつかれて、ため息をつきたいのはこっちだと。でも、この言い方からするに、アルベドは全部覚えているんだろうなって、確かに安心感はあった。何も知らない、というかこっちが知りすぎている遥輝よりも、何というか、私を知っているアルベドの方が、今は良いというか。
「皇太子殿下は、クラスも違うし、何も覚えていないんだろ?なら、俺を頼れば良い」
「多分、頼りたくなるのはアンタの方だと思う」
日本語とか、此の世界の文化とかからして。
でも、アルベドの事だから、そういうのすぐにマスターしてしまうんじゃ無いかなとかも思っていたりした。
「後、そのエトワールとか皇太子殿下とかやめて。可笑しい人に思われるわよ。此の世界で、私は天馬巡だし、リースは、朝霧遥輝なの」
「ふーん」
「何でそんなに興味なさげなのよ!」
「だって、エトワールも巡もお前だろ?」
と、至極当たり前のように言うアルベド。話が通じると思ったが通じていないようで、頭が痛かった。
(確かに、エトワールも、巡もそうだけどさ)
同一人物であることには代わりにない。確かに、アルベドの言うとおりである。
「それで、アンタは私に突っかかってきて何がしたいの。確かに、覚えているのは私だけだし、蛍とか、後灯華さんとか、遥輝とかは覚えていなくて……」
「そうだな。何がしたいって言われれば、何がしたいわけでもないなあ」
「……」
「強いて言うなら、お前が欲しい?」
「は?」
突拍子もなく、そんなことを言うので、顎が外れそうなぐらいに「は?」と言ってしまった。それを見て、アルベドが間抜け面。とか言うので、キレそうになる。でも、キレたところで、何もならないし、今、此奴もそうだけど魔法は使えないわけだから、抵抗の術がない。男女の力差は誰が見ても明白だから。
私は一旦落ち着いて、アルベドを見る。何で此奴はこんなに余裕そうなのだろうか。私なんて転生したばかりは情緒のジェットコースターに乗っていたというのに。これが、アルベドと私の差だというのだろうか。
(阿呆らし……)
「まあ、私に関わるのは良いけれど、大人しくしておいてよね。目立ちたくないし」
「そう……だな」
「何、いきなり」
アルベドの顔を見れば、何処か寂しげに私を見ているのが分かった。何でそんな風に見るのか、聞きたかったが口が開かない。一歩、また一歩と近付いてくるので、私は思わず後ずらしてしまう。
もしかしたら、このアルベド……私の知っているアルベドじゃないかも知れないと。
「ねえ、アルベド。アルベドって、アルベドだよね」
「何だ、その意味の分かんねぇ質問。俺は、俺だろ」
「そう、だよね……変なこと聞いたかも。でも、私の知るアルベドじゃ無いような気がして」
「確かに、お前の知らない部分はあるかもな、だって――――」
そういった瞬間、ドンと屋上の扉が開いた。見てみれば、そこには息を切らした遥輝が立っていた。後ろには、灯華さんがいる。
「ちょ、遥輝、お前扉壊したら弁償……」
「おい、そこの紅蓮野郎」
汚い言葉、と思いつつも、遥輝の必死な赤い瞳と目が合った。その姿が、リースに重なる。アルベドの言葉を借りるのであれば、遥輝もリースも同じである。
「往生際が悪いなあ、皇太子殿下。だから言っただろ?」
そう言って、アルベドは私の顎を掴んだ。この時の私は、まだキスなんてしてない。
温かい物が唇に触れた気がした。
「今回は俺が、エトワールの恋人になるっていっただろ。あんな悔しい思いをするのはもうごめんだ。俺は、お前から奪いにいく」
アルベドはそう、宣言した。
(何それ、あんな悔しい思いって……)
唇が離れる瞬間、絶望顔の遥輝と、勝ち誇った笑みを浮べるアルベドの二人の顔が見えた。両極端。遥輝は拳を強く握っている。
アルベドは、私を見てニヤリと笑う。
「エトワール。お前は、俺のものになれよ」
――――逆行したら今度は君の恋人になりたい。
修羅場は始まったばかりである。
※補足…
・巡ちゃん(エトワール)はエンディングをむかえていない状態で現代に記憶を有したまま戻ってきた。
・アルベド、本編完結後の世界から転生してきた(なので、リースとエトワールが結ばれていることを知っている&未来を変えたい)
・遥輝、まだ巡ちゃんに告白していない状態。アルベドの事を警戒している。
アルベドが片思いを成就させるための世界と思っていただければ幸いです。
また、感想などの反応があればアルベドとエトワールの物語を書きたいです。番外編での活躍をお楽しみに!
長々と付合って頂きありがとうございました。また、番外編に戻ります。




