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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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48 果てしなく続く虚構



 両親に愛されたかった時期が私にはあった。


 でも、私は愛して貰えなかった。物心ついたときには既に、両親は私に対して冷たく当たっていた。その理由が分からなくて一人からまわっていたけれど、今その理由がようやく分かって、何処か安心している自分がいたのだ。




「廻、私の為にありがとう」




 その言葉だけは伝えなければと思った。その言葉を彼女は聞きたかっただろうから。別に、それで救われるわけじゃないかも知れないけれど。そんな言葉で救われるのなら、此の世界の皆救われているようなものだけど。私は、彼女にこの言葉を伝えることが歩み寄る一歩だと思った。

 私は、人と関わるのが苦手で、口下手で、こんな言葉で良いのか分からないけれど。

 目の前の妹は、ふわりと笑ってから、その大きな瞳から大粒の涙をこぼした。宝石みたいにキラキラと輝くそれを見ていると、彼女は救われたんじゃ無いかと思った。

 濁りのない、純粋な涙を見て、私の言葉は、行動は間違っていなかったんだと。そう思えた。




「お姉ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃなくていい。ありがとうとか、そっちの方が嬉しいかな」




 謝られても……謝ることがないわけじゃないけれど、そんな言葉より、ありがとうって言われる方が嬉しいと言えば、トワイライトはすぐにその言葉を口にした。

 彼女が悪いわけじゃない。彼女の弱った心につけ込んだ混沌が悪いのだと。私は彼女を抱きしめながら思った。

 でも、何処か引っかかる部分もあって、本当に混沌『だけ』が悪いのだろうか。




(……何かモヤモヤするな)





「エトワール、よかったな」

「ああ、うん。ありがとう。リース……というか、リースはどこまで詠んでいたの?」




 私は問うた。


 リースは、私と両親の関係を知っていた。そして、私の妹だとトワイライトの正体を言い当てた。それだけでも凄いのに、まだ他にも隠している情報があるのではないかと疑ってしまう。彼が頭が良いのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかったのだ。

 リースは肩をすくめながら、真っ直ぐと私を見た。綺麗な、ルビーの瞳を見ていると、心が洗われるようだった。熱く、ドクンと心臓が打って。





「詠んでいたわけじゃない。それに、先ほど言ったように、お前の両親と俺の母親がそういう関係だったと言うことや、母親の束縛から逃げ出したくて、色々調べるうちに分かってしまったことだからな。まあ、お前には悪いと思ったが」




と、リースは言うと目を伏せた。


 まあ、勝手に人のことこそこそ調べるのはよくないことだとは思う。けれど、知っていたからこそ、何処か配慮してくれたり、気にかけてくれていたんだと思うと、一概に悪いとは言えない。それは別として、ストーカーみたいで怖いとは思うけど。




「……」

「どうした、エトワール」

「ううん。これで、トワイライトは救われたんだよね」




 腕の中で、まだ泣いているトワイライトを撫でながらぽつりと零す。

 トワイライトは完全に元の光を、輝きを取り戻した。一度死んだかと思われた美しい星が息を吹き返したかのように。元の清い彼女に戻ったわけだが。

 混沌が、彼女を唆して彼女の心に闇の音を植え付けて。その根が、種が彼女の中から抜けていったのは確かだったが、まだ、混沌を倒しきれていないのではないかと。




(いいや、倒しきれていないんだと思う。だって、トワイライトは確かに洗脳されていたけれど、混沌の器になったわけじゃないし)




 トワイライトがもし、混沌に全てを乗っ取られていたとしたら、今彼女が光落ちするのは不自然なのだ。だからこそ、まだ根源である混沌は生きているのだと。

 しかし、辺りを見渡しても、白い空間。混沌が何処かに潜んでいる気配はなかった。

 混沌と言えど、人の形をとっているわけで、まあ、多少なり、人智を越えているし、理の外れている存在ではあるのだけど、この空間にぬっとはいってこれるものなのだろうか。というか、この空間はトワイライトの精神世界で、トワイライトが創り出した幻の世界な訳で。




「トワイライト、ここから出る方法は分かる?」

「おねえちゃ……お姉様」




 トワイライトは顔を上げて、目にたまった涙を拭った。そうしてから、辺りを見渡した後、静かに首を横に振る。

 彼女が想像した世界とは言え、混沌の力を借りていたのだ。そして、精神世界というのなら、彼女が通常の状態に戻った今、崩れるはずなのだが。一向に崩れる気配のない真っ白な空間は、叫んでもその声が吸収されるばかりだった。




「……」

「すみません、お姉様。力になれなくて」

「ううん。いいの……でも、混沌の手の中だとか考えると怖くて……混沌の気配はしないのに」

「そう、ですよね……私の精神世界なら、もう現実世界に戻っても可笑しくないのに」




と、トワイライトは顔をしかめた。


 リースも辺りを見渡してみているが、めぼしい何かがあるわけではなく、白い立方体が浮いているばかりだった。この精神世界から抜け出したら、現実世界に戻れるわけだけど、その現実世界が今どうなっているかも分からない。




「抜け出す方法を取り敢えず見つけないとだね」

「そうですよね。お姉様。私も頑張ります」




 トワイライトは私の手を取りながらゆっくりと立ち上がった。ここで、抱き合っていても仕方ない。けれど、幾ら歩いたところで、同じ景色が続くばかりだった。一面真っ白。先ほどの階段もなくなって、果てしなく城が続いていた。




「……」

「どうしたの?トワイライト」

「いえ……私が、此の世界に来る前にいた空間もこんな感じだったんです」




と、トワイライトは、不安がるように言った。


 確かに、こんな真っ白な空間にずっと居たら精神が可笑しくなってしまうだろう。私も、何だか変な気持ちになってくる。某都市伝説の何億年ボタンみたいな、そんな感じなのだろうか。

 ずっと此の世界に……と考えたら、確かにホラーだ。

 幸い、今この空間には三人いるのだが。




「そういえば、リュシオルはどうなったの?」




 私は、親友のことがふと気になって聞いた。


 トワイライトは「お姉様を飲み込んでからは、何も」と、自分が何も彼女に危害を加えていないことを話した。そこで、いきなり口を挟んできたリースが、リュシオルは城の外に避難させたと言っていた。リースは一応、魔道具を持っていて、それで転移させたのだとか。だけど、その転移先が選べなかったため、どうなっているかは分からないとか、もの凄く不安になるようなことを言ってきた。




「……リュシオルの為にも早く戻らなくちゃ」




 もし、彼女が襲われたりしていたら、そう考えたらいてもたってもいられなくて。私は、歩くスピードを速めた。でも、何処まで行っても白、白、白で。




(ああ、もう。どうなってるの?)




 この空間を作り出したのは……出したというか、この白い空間になる前の精神世界は、トワイライトの物で、彼女の意識が完全に覚醒しきった今、精神世界から出られるはずなのに、出られない。トワイライトも、訳が分からないと混乱している状況。リースも私も、どうやれば出られるのか分からない。

 混沌の気配は感じずとも、混沌が関与しているのではないかとすら思えてくる。




「ねえ、トワイライト。混沌と一緒にいたんだよね」

「は、はい……一時期は。えっと、疑っているんですか?」

「いいや、そうじゃなくて!そうじゃなくて、混沌ってどんな物なのかなあって……あはは」




 彼女の地雷を踏みそうになって私は、慌てて訂正した。彼女を疑っているわけじゃないと、必死に否定しながら、トワイライトを見る。

 トワイライトは、悲しそうな顔になりながらも、そうですね……と話してくれる。

 彼女は、混沌の手に堕ちてから、私を捉えて二人きりの世界を創造しようと企てていた。私を虐めた物を全て排除して、幸せが続く世界を。その時、混沌に思考を操られていたというよりかは、自分の欲が増幅していって歯止めが利かなかったとか。

 混沌は、洗脳はする物の、混沌自身に意思があるという感じではなく、その人の醜い部分を膨らましていくという感じの物らしい。

 実体はあるが、全く人間らしい思考をしていない。複数の人間が合わさったような、気味の悪い存在だとか。今になって、正常な精神状態になってから、トワイライトはそれに気づいたと。




(人間じゃない……のよねえ……実体がなくて、人の醜い感情……)




 もしかして――――




と、私はとある考えが頭の中に浮かんできた。


 いや、でも、それが正解とは限らないし、そんなことが通用するなら初めからそうしているとも、考える。けれど、これが通用するのであれば……


 コポ……と、足下で水の音がした。

 ハッと視線を下に向ければ、自分の足が、地面にめり込んでいたのだ。沼、沈んでいく感じ。また、これかと思いながら足を引っこ抜こうとしたが、下から引っ張られる感じで私は舌打ちを鳴らす。




(ううん、これがラストチャンスかも)




「お姉様!」

「エトワール!」




 二人は私の腕を掴んだが、下から引っ張る力は強く、私は溺れていくように沈んでいくのだ。身体も重くて、思考も鈍くなっていく。混沌に引っ張られているんじゃないかとすら。

 私は、意識が途切れる前に、二人に向かって叫んだ。




「大丈夫!私は大丈夫だから、心配しないで!」




 そう言った途端、二人の腕から力が抜けて、私は完全に引きずりおろされた。

 またも真っ暗な何も見えない世界に。どんどんと沈んでいく。




(大丈夫、きっと、大丈夫よ)




『聖女様』




 目を開いていても、何も見えない暗闇の中で、助けを求めるような、悲しい子供の声が響いた。







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