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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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40 あったかも知れない世界




 ピピピピ……


 聞き慣れた機械音が耳を貫いて、私はゆっくりと瞼を開いた。




「……え、朝」




 長いこと夢を見ていたような感覚に、私はぼんやりとする頭をたたき起こす。




(あれ、何でここ?)




 見慣れた私の部屋に、見慣れたパジャマを着ている私。どうも記憶が曖昧だ。

 思い出そうとしても、それ以上前のことは思い出せない。ただ、夢を見ていた。そんな気分だった。

 起きないと、と本能的に身体を起こしてみれば、トントンと部屋をノックする音が響く。




「誰?」




 この時間、親は出勤しているはずなのだ。だから、家には私一人。強盗だったとしたら、ノックする必要ないし……そんな風に身構えていれば、私と似たような声で、私の名前を誰かが呼んだ。




「巡、巡お姉ちゃん」

「え?」




 扉の向こう側にいる誰かが私の名前を呼んだ。可愛らしい声、天使みたいな声。そんな風に思っていれば、扉が開かれる。私の意思なんて関係無い。ノックした意味はあったのだろうかと。

 そうして、開かれた扉の向こうに立っていたのは、可愛らしいお人形のようなこだった。でも、どことなく私と似ている。雰囲気が。




「えっと、どちら様?」

「お姉ちゃんまだ寝ぼけてるの?私だよ。廻。もしかして、記憶喪失?」

「記憶喪失?」




 いや、それはアンタの方でしょ。と、近付いてきた少女に向かって思う。服は、私が高校時代の時の物だった。お姉ちゃんと言ったから、彼女は妹なんだろう。けれど、私に妹だなんて……

 そう私が思った瞬間、頭にズキンと痛みが走った。




(ん……何これ、頭、割れそうに痛い)




 それ以上何も考えるなと言われているように、私が彼女を拒もうと、私に妹なんていないなんて考えよう物なら、締め付けるように痛みが走る。

 まるで、受け入れろと言わんばかりに。




「お姉ちゃん?」

「廻……」

「うん。どうしたの?」

「記憶喪失って言ったから……でも、私、アンタのこと……」

「記憶喪失じゃないよね?昨日、寝る前まで一緒にいたし、学校でも一緒にいること多いから、そんなことなかった思うんだけど……頭ぶつけたとかもなかったはずだし……」




と、廻と名乗る私の妹は、可笑しそうに首を傾げた。


 私の妹という割には、私より可愛くて、その小さな口から発せられる言葉は、どことなく綺麗で鈴のように美しかった。




「ねえ、確認したいんだけど。アンタ……廻と私って姉妹って事でオッケー?」

「何言ってるのお姉ちゃん。そうだよ。私と巡お姉ちゃんは姉妹。それも、双子の」




 そう、廻は言って頬を膨らませた。やはり記憶にない。

 でも、そうだと受け入れるしか無いと思った。頭痛が酷いから。

 私は、兎に角まだ寝ぼけている頭に廻という妹の存在をたたき込んで今度こそベッドから降りた。廻はいつもと違うだろう私の様子に酷く驚いて、不安そうなかおをしていた。そんな顔しないで欲しいのにな、と無意識に伸びていた手は、廻の頭を撫でる。

 彼女のふわふわとした髪の毛は撫で心地がよくて、私はつい長い間撫でてしまった。




「あ、ごめん」

「ううん、嬉しくて。お姉ちゃんに頭撫でられるの嬉しい」

「そ、そう……」




 この年になって頭を撫でられるのが嬉しいなんて、可愛いこだなあ何て何処か他人事のように思った。妹が喜んでくれるなら別にいいかという気持ちもあったけれど、何だかこんな日常を夢見ていたのかも知れないと思う。


 さっきまで、見てたゆめって何だっけ。


 そう、自分に問い返した。けれど、覚めたら夢の事なんて忘れるから、そこまで気にしなくて言いようにも感じた。




(何か忘れている気がする……)




 これが、日常で、普通なんだと受け入れるには違う気がして、でも受け入れざる終えない現状で。これ以上考えても仕方ないかと、私は考えることを放棄した。




「フフ」

「何笑ってるの、廻」

「ううん。お姉ちゃんは今日も可愛いなって」

「可愛いって……アンタの方が可愛いじゃん」

「じゃあ、二人とも可愛いって事だね。だって、私達は双子だもん」




と、廻は嬉しそうに笑っていた。天使のような笑顔を見て、ドキリとする。


 以前もこんな風に微笑まれたことがあるような、複雑な気持ちだった。未だに、彼女が本当に双子の妹なのか怪しいと、自分のスペックと照らし合わせながら考える。でも、長いことこんな風に暮らしてきたんだし、違和感はないはずだよね、と言い聞かせる。




「お姉ちゃん、学校遅刻しちゃうよ」

「学校?大学のこと?」

「ええ、私達まだ高校生だよ。高校二年生。寝ぼけすぎだって」




 廻はまたぷくぅと頬を膨らませた。




(え、そうだっけ。私ってまだ高校二年生?)




 体幹ではもう大学二年生かと思っていた。成人して、好きな漫画買ったり、コラボカフェなんか行ったり……




(う……ん、何か違和感)




 拭いきれずにいる違和感。モヤモヤとしている。

 そんな私を見てか、廻は私の手を掴んだ。




「何してるのお姉ちゃん。遅刻しちゃうって」

「あ、ああ……うん。でも、何かまだ夢見ている感じで……大切なこと忘れている気がして」

「大切な事って?」

「大切なこと……大切なこと……何だけど、それが思い出せないって言ってるの」

「じゃあ、その程度のことなんだよ」




と、廻は言う。


 確かに廻の言うとおり、思い出せないほどのことなら大切なことじゃないのかも知れない。でも仮に私が記憶喪失だったとしたら、忘れていても仕方のないようなことかも知れない。けれど、無理に思い出したら、また先ほどの頭痛のような物が襲うかもと。

 私が暗い顔をしていると、廻はまた心配そうに私の顔を除いた。




「あ、ごめん。そうだね。うん。廻の言う通りかも」

「そうだよ。お姉ちゃん。お姉ちゃんは私だけ見てれば良いの」

「え?」

「お姉ちゃん、いこう」




と、廻は私の手を引いた。


 まだ、身支度調えていないからと足を止めれば「そうだった、パジャマじゃいけないもんね」と廻は笑う。そして、朝食も食べてないよね、何て言って下へ降りて言ってしまった。慌ただしい妹。そういう所は私に似ているなと感じた。私も、そそっかしいから。




「ふう……静かになった」




 私自身、推しの事になると今の彼女以上に煩くなるから、廻のこと言えたことじゃないし、煩いとか言える立場じゃないけれど、嵐が去ったように部屋は静まりかえっていた。

 頭のぼんやりもだんだんと消えていく。




「高校二年生か……」




 意識を戻して、外を見れば雪がちらついていた。今季節は冬なのだと分かる。昨日も同じ景色を見たはずなのに、随分と懐かしいように思える。




(結局何の夢見ていたんだろう……)




 思い出したくても思い出せない夢。

 夢は夢のはずなのに、どうしても思い出したかった。けれど、頭にもやがかかって思い出せずにいる。




「まあ、良いか……」




 所詮は夢だから。


と、私は割り切って制服に着替える。随分と昔に着たようなその制服は、今の私にはあっていないような気がする。

 そうして私は、テーブルの上に置かれた充電器が刺さったままのスマホを手にとって鞄に突っ込んだ。通知は切っておいたから、学校で鳴るなんてこと無いだろう。




「今って、何のイベントがやってるんだっけ?」




 大容量のスマホには、沢山のソシャゲが入っている。イベントが重なることも多くて、今何のイベントがやっているからすら思い出せなかった。大体、この曜日に……と決まっているところが多いため、忘れるはずもないのだが。




(それすら忘れてる……これって病院行った方がいいやつかなあ……)




 昨日前での記憶が無い。でも、確かにここで生活していたという記憶はある。双子の妹だと言った廻。そして、高校二年生の私。何だか出来すぎた夢を見ている気がした。

 先ほどまで見ていた夢が現実で、こちらが偽物……夢のようなそんな感覚。

 そんなことないのにね、と自分に言ってみるものの、心の中の自分は首を縦に振ってくれなかった。




「はあ……」




 思わず出た溜息は、静かな部屋に溶け込んでいく。

 早く下に行かないといけないのに、学校に行く気力が湧かなかった。今何時で、何曜日で何日で……それすらも記憶にない。

 私には大事なものがあって、そのために戦っていたはず……なのに。




「……」




 ゲームじゃあるまいし。

 転生とか、転移とか……あるわけないのに。




「馬鹿馬鹿しいな。ゲームのやりすぎかな」




 あったらいいなとは思いつつ、あるわけないと私は思う。だったら、こんな気持ちにならなくても良いのに。




(こんな気持ち?)




 開いた口をギュッと閉じる。

 こんな気持ちとは、どんな気持ちなのか。自分で思っていて可笑しいなと私は思う。

 矢っ張り、まだ夢の中に居る気分だ。




「……私は――――」




 私は、身支度を調え電気を消すと、自分の部屋を出て廻が待つリビングへと向かった。





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