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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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34 sideリース




「ッチ……エトワールは何処に行った」

「殿下、あまり前に出て行かれると……って、聞けよ、遥輝!」




 エトワールは、先ほど俺達の中から抜けていった。風魔法を上手く活用した瞬間移動と言っても過言ではない。彼女の魔法のレベルがそこまで言っていたことに驚きを隠せなかったが、それ以上に、嫌な予感を感じて、俺は焦っていた。

 ここは戦場。焦りが敗者となり得る沼だというのに、焦る気持ちが抑えられなかった。

 エトワールは危機察知して、オレ達の仲から抜けていった。それが事実だ。

 最も、不味いと思ったのは、エトワールが抜け出す寸前に感じた嫌な気配。十中八九あの紅蓮の弟だろう。あいつの魔力だった。




(エトワールは、俺達が彼奴とぶつからないためにわざと?)




 エトワールだってバカじゃない。彼女も彼女なりに考えて行動している。それは分かっているのだが、やはり、彼女を一人にはしておけない。今すぐに彼女の元へ飛んでいきたい気持ちを抑えるほかなかった。

 数では有利だが、中々俺達を前に進ませてくれない敵に、イライラが募っていく。

 魔力が爆発しそうになるのを押さえるので必死だった。これをぶちまければ、周りに被害が出ることは容易に想像できる。

 初めて、戦場に送り込まれたとき、苦しさに、爆発させてしまったからだ。

 自分の魔力がどれだけ異常で、大きなものか理解しているからこそ、精神統一は必要なのだ。そう、俺にとっては。




「ルーメン、エトワールは」

「飛んで行ってしまったっきり……見失ったと」

「彼奴……一人で行動するなと行ったのに」

「それは、殿下もです」




と、ルーメンに釘を刺される。


 確かに、そうなるが、俺の場合まだ押さえている方だろう。エトワールもそうだと言えばそうなのだが。

 兎に角、ルーメンには今目の前のことに集中してくれと言われた。そうしないと、軍の士気が下がる。そして、指揮官である俺がその役割を放置すれば、数で有利とは言え、すぐに崩されてしまうだろう。




(動揺しているのは俺だけではないな)




 エトワールの護衛であるアルバも動揺していた。自分が守るべき主がいきなり消えてしまったのだから、それはもう取り乱すだろう。男女差別をするわけではないが、こういう時の動揺は女性の方があるのかも知れない。けれど、彼女とて騎士だ。感情に振り回されず戦ってくれている。だからこそ、俺はこの場を切り抜かなければならない。




(魔道士が多いからか……数で押しても、押し切れないのは) 




 俺達のじゃまをしているのは、ただの雑魚ではないのだ。魔道士、魔法に長けたものが多かった。ヘウンデウン教も、バカではないからか、足止めには、騎士や暗殺者よりも魔法に長けたものが有利だと思ったのだろう。そうすれば、数では負けても、浅緑は変わらないと。




(全然、ヘウンデウン教の情報がないから分からないが、闇魔法なら、光魔法をぶつければ良い)




 こちらにも、魔法に長けたものは大勢存在する。これが最終決戦だと、これまで鍛練を重ねてきたものも多い。それでも勝ちきれないのは、あちらも死ぬ気で向かってきているからだろう。

 本当に、命がかかっている。

 そう、実感するほどに、ピリピリとした空気が肌を伝って、俺の心臓を握りしめる。




「殿下」

「何だ、ルーメン」

「今、ブリリアント卿と、レイ卿がエトワール様を迎えに行ったそうです」

「それで?」

「それ以上は報告がありません。しかし、二人が抜けた以上、この戦いは過酷になるとかと……」

「まあ、そうだろうな。攻撃の要がいなくなったんだ。俺が、どうにかせざる終えないだろう」




 何故あの二人がいっぺんに? そんな疑問視か浮かんでこなかった。何故、二人も行く必要があったのだろうか。こちらとて、有利でも不利でも無い戦いに。だが、気を抜けば負けてしまうかも知れない戦いが目の前にあるのに。自分たちが戦力であるという自覚がないのか。




(それとも、二人がかりでなければ、あの紅蓮の弟が倒せないというのか)




 アルベド・レイの弟の強さは、この間身をもって知った。俺ではまだたどり着けていない所まであの弟は行っている。差と言えば、魔法に長けているか、長けていないかだろう。俺はどちらかと言えば、魔法は下手な方だ。だからこそ、差が出るのかも知れない。

 だが、それなら、彼奴を知っているアルベド・レイだけでよかったのではないか。何故、ブリリアント卿まで行ってしまったのか。




(まさか、一人だけじゃないというのか?)




 色々な憶測、想像が頭をよぎっていく。その間にも飛んでくる魔法を剣で弾きながら、俺はあの二人がエトワールを連れて帰ってきてくれることを願っていた。

 嫌な予感はする。胸騒ぎもする。

 エトワールが、わざわざ出て行った理由とも関係しているように。




(攻撃がやんだ?)




 そうしているうちに、ピタリと攻撃がやんだのだ。

 目の前にいたヘウンデウン教の信者達は、サッとその身を翻して王宮の方へ走っていく。まるで、目的を達成したと言わんばかりに。

 騎士達は、今がチャンスだと言わんばかりに、追っていく。




「待て、深追いするな!」




 俺の制止で止ったものもいたが、止らなかったものもいた。確かに、目の前の敵を逃がすほど、優しくはないし、捕まえて捕虜にすれば、彼奴らの作戦を聞き出せるかも知れない。だが、それだけではいけない気がした。




(彼奴らは、口を割らないだろう。それに、この撤収は――――)




「殿下、どうしますか」

「そうだな、ルーメン。取り敢えず、エトワールがどうなったかだけ……」




 ルーメンが話し掛けてきたその瞬間だった、ヒュン……と目の前を黒い影が通り抜け、目の前の建物に激突したのだ。大きな音と、砂埃を舞あげて。




(何だ、敵襲か?)




 それにしては、大胆すぎるな、と思いつつ目を凝らして見れば、砂埃の中からよろりとした足取りで誰かが立ち上がった。見覚えのある紅蓮に、俺は眉間に皺を寄せる。




「アルベド・レイ……」




 何故、彼奴が?


 疑問が頭をよぎる。アルベド・レイは、ラヴァインを追っていたのじゃ無いか。エトワールは? どうした?




(待て待て……エトワールがいないと言うことは、まさか)




「おい、アルベド・レイ!」

「――――ってろ」

「は?」




 血を吐き出しながら、アルベド・レイは立ち上がって、俺ではなく目の前の敵を見た。俺達軍の目の前に現われたのは、ラヴァイン・レイ。余裕そうに笑ったその男は、アルベド・レイを見下ろした。




「はは、兄さんってその程度だったんだ」

「うっせえよ。調子乗るな。愚弟が」




 目の前で起こっている出来事が整理できなかった。




(アルベド・レイがおされている?そんなことあるのか?だって、此奴は強いはずじゃ……)




 俺も認める強者だ。


 だが、そんな男が弟に押されている。それは、誰が見ても分かった。ボロボロな身体のアルベド・レイを見れば、誰もが。


 絶望的だと。




「どうした、アルベド・レイ」

「ああ?皇太子殿下か……悪ぃな、エトワールは攫われちまったよ」

「はあ?」




 何を言っているんだ此奴は。


 今すぐ胸倉を掴んで殴って吐かせたい衝動に駆られたが、ルーメンにそれを止められた。止めないでくれと握った拳が、爪が食い込んで滲んでいることが分かった。

 だが、此奴の言った言葉を聞いて、ぷちんと切れてはいけない線が切れかけていたのだ。切れていたかも知れないが。




「どういうことだ、アルベド・レイ。エトワールが……エトワールが攫われたと?貴様は!」

「押さえてください、皇太子殿下」




 そういったのは、ルーメンではなく、ブリリアント卿だった。いつ戻ってきたのか、彼の身体も傷だらけで、痛々しい赤が流れている。

 彼も何があったのだろうか。見たところ、ラヴァイン・レイに傷付けられたような傷ではなかった。ナイフの先が……ではなくて、剣で切りつけられたような傷。




(何が起ってるんだ?)




 アルベド・レイも、ブリリアント卿も押されている。きっとそれは、この紅蓮の弟一人がやったわけではないだろう。




「状況を説明しろ、ブリリアント卿」

「……レイ卿が言っていることは本当です。エトワール様は攫われました」

「……ッ!」

「――――ですが、彼女が望んだことです」

「エトワールが俺達を裏切ったと言いたいのか!」




 我慢できずに、傷だらけのブリリアント卿に掴み掛かってしまった。グッと力を入れると、彼の傷口が開く。

 ブリリアント卿は俺の事など気にしていないように小さく首を横に振る。




「違います。エトワール様の作戦です。彼女は自分で決着を付けに行こうとしているんです」

「何だと?」

「詳しく説明したいですが……それよりも、ここを抜けるのが最優先だと思います」




 一気に、王宮まで攻め込みましょう。


 そう、ブリリアント卿はそのアメジストの瞳を輝かせて俺に言った。





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