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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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32 計画通りに





(いやいや、まあ、でしょうね……)




 目の前に現われた、亜麻色の髪を持つ元護衛騎士が現われても私の心は揺れはしなかった。何となく、彼の魔力を少しだけ察知できたから。ラヴァインが言っていた言葉も気になったし、それが大体あっていたと言うことで。




「グランツさん……」




 グランツがあちら側にいることに驚いたのは、ブライトだった。ブライトも予想はついていたが、まさか本当に……といった感じの顔をグランツに向けていた。グランツの翡翠の瞳は完全に光を失っている。




(闇落ち展開ってこういうことを言うのね)




 目には何が映っているのだろうか。アルベドへの復讐心? それとも、どす黒い執着?

 何でもいいけど、話が通じそうにないことは確かだった。嫌な空気が森の中に流れ始める。数ではこちらが押しているけれど、グランツはユニーク魔法を使える。魔法を斬ることができる魔法は、こちらにとっては不利。

 リースの、全て無効化する最強の剣なるものがあれば別なのだろうけれど……




(さて、どうするかなあ……)




 狙いは私だ。私が逃げれば良いのかも知れないが、この二人から逃げるなんて至難の業だろう。私だって出来る自信がない。

 かといって、ここで五人がぶつかって、応援を呼ばれてしまえばそれまでだ。私は、周りの事を考えてこの行動をとったというのに。全て読まれていたとでも言うのだろうか。




(頭がいい人はいるけれど、そこまで読める?ゲームだから、何でもありなの?)




 ゲームとか、アニメとか二次元ではたまにあり得ない言動をする人がいる。考え方が人間じゃないって突っ込みたくなるような。それが、現実で起こされたとき、やはり現実味が帯びていなくて、こちらの頭では考えられなくなるのだ。

 まあ、リース……もといい遥輝も似たようなバグったスペックを持っていたけれど。

 睨み合ったまま動かない彼ら。それはこちらも言えることだけど。



(話し合いでどうにかなるみたいな雰囲気じゃないのよ)




 攻略キャラだから、話し合えば攻略で着るみたいな雰囲気では絶対にない。殺伐とし過ぎている。息をするのが辛いぐらいだった。




「グランツさん、エトワール様を裏切っていたんですね」

「勘違いしないで頂きたいです。ブリリアント卿……俺は裏切ったわけではありません」




 バチバチと火花が散っているのは、ブライトとグランツだった。普段温厚なブライトがあんな風に話し掛けているのは意外だが、それにしてもグランツの気味が悪いほど落ち着いた声はどういうことなのだろうか。

 見た目は操られてます。という感じなのに、そこにしっかり意思があるようで、闇落ちという意外言いようがない。

 何でこんなことになったんだろう。




「どう考えても裏切り行為じゃないですか。それに、貴方がそちら側にいると……」

「戦力が偏るとでも言いたいんですか。ブリリアント卿」

「……くっ」




 ブライトは、グランツを仲間というよりかは戦力の一部として考えているようだった。それをずばりとグランツが言い当てる。さすがのブライトもそこまで非道ではないし、私もブライトと同じようにグランツがこちら側にいてくれると大いに助かるとは思っている。だって、彼のユニーク魔法はこの戦いで必要になってくるから。




「エトワール様……」

「ブライト、大丈夫。私は大丈夫だし……あっちが勝手に決めたことだから、私が呼び止めなかったのもいけなかったかもだし」




 言い訳ばかりが口に出る。


 でも、結局の所、そこまで心にダメージが入っていなかった。少し前までは、凄く苦しかったのに、いざ目の前にしてみると、不思議と苛立ちが起こらなかった。そういうものと、受け入れている自分がいたからだ。




(矢っ張り、私って冷たい人間?)




 そう思ってしまうほどに、自分の心は凪いでいたのだ。

 それを感じ取ってか、グランツは少しだけ眉を動かした。私に興味を持たれていないことにたいして腹を立てているのかも知れないと思ったが、表情があまり外に出ないから何を思っているのか正直分からない。

 けれど、彼は彼の意思で私の元を離れた。それだけは分かる。




「それよりも、この二人を相手すること考えよう。だって、二人は攻略キ……じゃなくて、強いんだし、私達三人いてもどうなるか分からないから」

「おいおい、エトワール。俺が負けるって言いたいのか?」

「何よ。そんなこと言ってないし。と言うか、アンタのその自身は何処からやってくるの?」




 がしっと頭を捕まれてワシャワシャと髪の毛を掻き乱されながら、私はアルベドを睨み付けた。アルベドは、先ほどと違って気を張っているような感じがして、言葉とは違い、余裕が全然あります。という感じではなかった。彼とて、本気の二人とぶつかるのは嫌なのだろう。強くても、強者と当たればそれなりに気を引き締めるという奴だ。




(本気でやり合うことになるか……それとも、私をラジエルダ王国のトワイライトの元に転移させるか……この戦いはあの二人にとっていらないものも当然だから)




 ラヴァインとグランツの目的は分かっている。だからこそ、注意すべきは彼らの動き。私は、自分の身を守らなければと思った。




「不安か?」

「何?話し掛けてこないで」

「不安そうな顔してんだよ。お前……大丈夫だ。俺が守ってやる」

「うわ~アルベドに似合わない言葉トップ3くらいに入る」

「馬鹿にしてんのか?」

「いや、事実だもん」




 私がそう言うと、ピクリとアルベドは眉を動かした。煽ったわけじゃないけれど、完全に相手には煽ったという風に捉えられるだろう。私はどうでも良いけれど。

 まあ、アルベドが守ってやると言った言葉には嘘偽りないだろうし、嫌じゃないと言えば嫌じゃない。ただ、私はとある策を考えたから、その言葉には乗れなかった。




「ブライト」

「何ですか、エトワール様」

「私にいい案があるの。だから、私にかけて欲しい」

「何を?」

「兎に角、これが成功したら……その実行中、リース……殿下の顔が怖くなるかもだけどそこはどうにか機嫌を取って欲しい」




 そこまで言うと、ブライトは私の意図を掴んだようで、もの凄く胃が痛そうな顔をしていた。本当に申し訳なく思うけれど、ここでむやみやたらに魔力を消費するよりかはよっぽど言い策だと思う。

 それに、私は彼女と話すべきだと思うし。




(この作戦は成功するだろうけど……問題はその後よね)




 色々考えるべき事はあるけれど、まずこの二人をどうにかすることだ。やっつけるとまでは行かなくても、どうにか分散させないと。




「ブライトは、グランツをお願い。アルベドはラヴァインを……私はアルベドについていく」

「おい、良いのかよ。ブリリアント卿を彼奴につかせて。そんなの……」

「分かってる。いいから、アルベドは黙って。私のさっき言ったことお思い出して」

「……ッチ、りょーかい」




 アルベドは、先ほどのブライトとの会話を聞いていたので、説明する手間が省けた。目の前にいる二人は何を話し合っているんだというように私達を見つめる。今回は、彼らの目的を達成させてあげようと思う。それが、私にとって必要なことだから。

 私はそう考えながら、走り出した。ラヴァインとグランツは私を追いかけてくる。




「グランツさん、貴方の相手は僕です」

「ブリリアント卿……」




 ブライトがグランツの足止めをする。グランツは、私の背中を見つめながら小さく舌打ちをした。アルベドの言うとおり、グランツをブライトに止めて貰うということは難しいことだし、そもそも、魔法無効化の相手に魔道士をぶつけている時点でお察しくださいという感じだ。それでも、ブライトは、私の作戦が成功することを信じて彼を止めてくれる。ブライトなら大丈夫だと確信はある。でも、ブライトにグランツが容赦しなかったら? そう考えることも出来たが、私は立ち止まっているわけにはいかなかった。




「追いかけっこ?面白いこと考えるね。エトワール」

「ラヴァイン」

「よそ見すんなよ。お前の相手は俺だ!」

「ッチ、兄さん。邪魔なんだよ」




 走っている私を後ろから襲うラヴァイン。それを止めるアルベド。両者は互角といった感じにナイフを向け合っている。互いに、風魔法で身体能力を強化しているのだと分かった。

 アルベドが一歩リードしている感じだったが、ラヴァインの顔にはまだ余裕があった。




「何で邪魔するの、兄さん」

「そりゃあ、お前の邪魔はたくさんしたいからな。俺のこと、これまで沢山邪魔してきた仕返しだよ!」

「……ッ」



 アルベドが、ラヴァインの攻撃を弾いた。ラヴァインは後ろへ飛び、何やら詠唱を唱える。その隙を突いてアルベドがラヴァインに向かっていく。

 しかし、その詠唱は、アルベドに向けてではなく私に向けてものだった。




「……魔方陣、転移魔法」




 足下に出来たのは転移魔法だった。赤黒い血のような魔方陣。私は動こうとしたが、泥濘んだ地面に足を取られて動けない。アルベドは、すぐさまこちらに向かって走り出した。しかし、間に合わない。私の身体は光に包まれる。




「エトワール!」




 伸ばされた手に私は少しだけ手を伸ばした。

 転移の瞬間見えたアルベドの顔は「計画通りだな」と笑っていた。


 そう、計画通りなのだ――――





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