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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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31 殺し愛を




(矢っ張り此の男だ……)




「アンタ、ストーカーが過ぎるのよ」

「エトワールが、俺に気づいてくれて嬉しいよ。俺の事意識してくれた?」

「……」




 ここで、アルベドみたいなこと言うんだね、とか言ったらキレられそうだったから言わなかったけれど、その言い回しも嫌みったらしい言い方もアルベドに似ていた。さすがは兄弟だと思った。互いに比べられたくないだろうけれど。




(軍から離れちゃったけど、リース怒って……ますよね、絶対。怒ってる!)




 リースには何も言わず離れてきちゃったけれど、後々考えたら、ヤバいことしたという自覚はあった。けれど、今更戻れないし、この男をどうにかするまで戻れそうになかった。

 ラヴァインを一人で相手できる感じはしないけれど。

 かすかに感じる違う魔力に集中しながら、私はラヴァインから目を離さなかった。彼も気づいているかも知れないけれど。




(ただ、軍から離れることが出来たのは正解だったかも)




 ラヴァインを相手に出来るのはあの軍の中でも少数しかいないだろうし、何より攻略キャラ達に体力を消費させたくなかった。幾ら、攻略キャラ補正がかかっているとしても、彼らは人間で、疲れるんだから。




「何か考え事?エトワール」

「そりゃあ、考えるでしょ。アンタを倒すために」

「俺を倒すって、強気だね。何か策があるの?」




 策が無いから考えているんだけど……そう思いながらも、私はラヴァインを見ていた。見たところ、他の人がいる感じはしないし、彼一人……みたいだた。

 だけど、ラヴァインは一人でもかなり強いし、言ってしまえば攻略キャラ。こんな最低な攻略キャラがいていいのだろうかと思うほどに。




(本当にエトワールストーリーって何が起るか分からない)




 ただ、この男と結ばれたいかと言われればノーと応えるだけ。ラヴァインよりアルベドの方がよっぽどマシなのだ。




「まあ、お喋りも楽しいけど。俺も上から言われてるんだよね。エトワールを無傷で連れて帰れって。ああ、気を失わせるのはノーカンだけど」




と、ぶりっこのようにウィンクをする。


 気を失わせるのは果たして無傷なのだろうか。考えても仕方がないことだが、そんな風になりたくない。だが、ラヴァインが目的をいってくれてよかった。彼があのまま軍に攻撃を仕掛けていたら、怪我人が沢山出ただろうし、私だけが狙いなら、私が軍から外れればよかっただけだし。

 そこは凄く感謝している。




(一応、嫌な人達でも命があるわけだし……ゲームならモブだって切り捨てちゃうところを、切り捨てられないって感じで……)




 ゲームだけど、今の私のリアルでもある。だから、幾ら自分に嫌なことを言った相手だったとしても、死んでしまえなんては思わない。勿論、虐めを受けていたときも、その主犯格達が酷い目に遭えなんて思わなかった。そこまで酷い人間ではない。

 ラヴァインと見つめ合えば、狂気に染まったその黄金の瞳に私が映される。彼が私に何を思っているか分からなかった。ただの興味、好奇心。それで、私にストーキングして。

 あったときからそうだったけれど、ラヴァインといい、アルベドといい、訳が分からない。




(そんなこと考えている暇を与えてくれなさそうだけど)




「エトワールの頭じゃ、きっと考えられないでしょ。降参した方が身のためだよ。俺も、君を傷付けたいわけじゃないし」

「どの口が」

「傷付けるなら、兄さんの前の方が面白いじゃん。あと、皇太子殿下とか?」




 くすくすと笑ったらヴァインは、まるで子供がイタズラを考えるときの顔をしていた。無邪気に、本当に悪気無く。でも、言っていることは最低だった。




(アルベドに恨みでもあるの?仲悪いようには見えなかったけど……)




 アルベドは、嫌いと言いながらも弟だから情けをかけているところはあった。けれど、殺意を抱いていたのは確か。ラヴァインだって、アルベドに気持ちの悪い狂愛と呼ばざる終えない感情を向けていたし。

 この二人についてはあまり深く考えたくないけれど。

 思考が最低だと言うことだけは分かる。




「本当は、上の命令に従うのが正しい事なんだろうけど。生憎、俺は従うのが好きじゃない。後ね、聖女と一回本気でぶつかってみたかったとも思ってたんだよ。だからね、エトワール……俺に付合ってよ。本気でぶつかってどっちが強いか!」




 そう言い終わるのが先か、ラヴァインは私に向かって走ってきた。両手にはナイフ。目は狂気が渦巻いている。頭の片隅で予想していたこと。




(このいかれゲーム!本気で殺しに来る攻略キャラが何処にいるのよ!)




 感情面で色々思われるのは仕方がないと思っている。でも、まさか本気で殺しに来るとは想わないだろう。一応、乙女ゲームなのだから。

 私は咄嗟に光の剣を使ってラヴァインの攻撃を弾いた。よくあの一瞬で判断できたと自分を誉めたいぐらいに。しかし、追撃と言わんばかりに二撃目が繰り出される。先ほどよりも早い。




「……ッ!」

「守ってばかりじゃ、俺の事殺せないよ」

「別に、アンタのこと私……殺そうと何て、思ってない」

「聖女だから?」

「違うわよッ!」




 もう一度、力で押し切って私は剣を振るう。自分が持てる質量にしているが、相手にとっては重量攻撃になる。どれだけ焦っていても、不安な状況でも、イメージは途切れさせないようにと心に刻んだ。

 アルベドに教えて貰った事を実践できている。適応能力はかなりあると自信がある。

 ラヴァインの攻撃についていけるのはそれだけじゃないけれど。




(何回か、戦っているところ目にしたからかな……ラヴァインの攻撃が、多少は読める……!)




 ありがたいことだ。一度見た攻撃を忘れないなんて、まるで物語の主人公のようだと思う。其れを私は出来ているのだ。絶対に前世では発揮されなかった能力だ。そもそも、エトワールの身体が運動音痴じゃないからかも知れないけれど。

 カキンとラヴァインのナイフを弾く。ラヴァインのナイフは宙を舞い、地面に突き刺さった。




(あと一本)




「へえ、誰から教わったの?」

「何のこと?」

「戦い方。エトワールって、戦うのいやです~、地が怖い~ていうタイプだと思ってたから意外。でも、殺しに来ないのはあまり好きじゃない」

「アンタの好みなんて聞いてないわよ!」




 ラヴァインは、これでもかというくらい煽ってくる。でも、そんな煽りも挑発も気にしない。




(殺しに来ないって、普通はそうでしょ!?)




 命がかかっていたら別なのかも知れない。という線は置いておいて、殺し合いするヒロインと攻略キャラとか嫌でしょ。そんな乙女ゲーム。




「ああ、もうしつこい!アンタ、魔法以外も出来たのね!」

「そりゃあ、兄さんに勝つためには色々やるでしょ。手は抜いたりしないよ?」

「そんなに、ブラコンなら、アルベドと戦ってなさいよ!」




 私に構わずに!


 そう私は叫んでラヴァインに攻撃を仕掛ける。しかし、上手いこと交わされてしまい、地面に光の剣が刺さりパラパラと粒子になって消えてしまう。




(しまった……!)




 イメージがそこで途切れる。このままじゃダメだと、次の攻撃をとかけだしてくるラヴァインが見えた。このままでは……




(ま、って……殺されるんじゃ……)




 目の前に迫ったナイフに私は動けずにいた。動かないとやられると分かっていても、それがスローモーションに見えてしまったから。

 動けと身体に言っても動いてはくれない。




「やば……」

「……だから、一人で行動すんなっつったろ!」




 カキンと金属音が鳴る。顔を上げればそこにはあの長い紅蓮がたなびいていた。




「アルベド」

「たっく、お前一人でラヴァインに勝てるとでも思ってたのか、ああ?」




 凄い怒っているのだけは分かった。けれど、助けに来てくれたんだという安心感からか、腰が抜けそうになった。

 死が間近に迫っていたけれど、私は何故か動けなかった。そのままでもいいと思ってしまったから? 違う。一度、そんなような体験をしたことがある気がしたからだ。




(デジャブ?)




 今そんなことは関係無いけれど、少しだけ引っかかることがあったのだ。その事に、アルベドは気づいている様子もなくて「立てるか」と私に聞いてくる。私は彼の肩を借りながら立ち上がってラヴァインと向き合った。

 ラヴァインは楽しそうに、でも怒ったような表情を私に向けていた。




「兄さん一人だったら、面白かったけど、そっちの黒髪もいるんじゃあねえ」

「え……」

「エトワール様は渡しませんから」




 そう言って、スッと私の横に立ったのは、ブライトだった。何故彼がここにいるのか不思議だったが、聖女が奪われてはいけないと、軍のことはリースに放ってきたのだろうか。




「ブライト」

「驚きました。勝手な行動しないでくださいね。エトワール様」

「え、ああ……うん」




 怒られた。ブライトは真面目に私を見てそう言った。彼が真面目じゃなかったとき何てなかったけれど。

 そんなことを思いながら、私はラヴァインに向きなおる。彼は、クスリと笑った。この人数じゃ、さすがに勝ち目ないだろうと思うけれど。




「何が可笑しいのよ」

「言ったじゃん。これは、上の命令だって、何としてでもエトワールを連れて帰るようにって。だから……」




と、ラヴァインが言うと、後ろの茂みが揺れる。


 その暗い森の中から現われた人物に私は目を見開いた。

 ドッドッと、心臓が煩い。




(どうして?)




 そこに現われたのは、私の元護衛――――




「久しぶりです。エトワール様」

「グランツ……」





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