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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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28 つかの間の休息とこれからの作戦




 船は先ほどから揺れていた。




「エトワール様、何か飲み物でも取ってきましょうか?」

「え、ああ、うん。大丈夫だよ。アルバ。ありがとう」




 返事になっていないような言葉を返して、私はじっと窓の外を見つめていた。船の中には休めるスペースがあったが、全員は入りきらない。リースと聖女である私は豪華な部屋に……とはなっているのだけれど、リースはこれからの作戦を練り直すために別室に。私は、よく休むようにと一人部屋で外を眺めていた。

 レヴィアタンを倒してから一層嵐が強くなって、吹き付ける風も、降り出した雨も激しくなっていった。レヴィアタンとの激突によって船もバランスが悪くなっているのかも知れない。元々かかっていた魔法が剥がれてきた証拠かも知れない。




(この嵐は、混沌を倒すまで終わらないんだろうな……)




 こんな激しくて痛々しい雨は見たこと無かった。通り雨ならこんな感じかなあなんて思ったけれど、あれよりも酷い。耳にこびりつく波と雨の音。遠くて雷雨がうなり声を上げえている。

 もう戻れないんだなと実感する。




(魔力は少し休んだだけでもかなり戻ってきたし、このまま行けば到着するまでに魔力が完全回復しそう)




 体力がついたかと言われればそうじゃないとはっきり言ってしまうけれど、それでも魔力のコントロールが上手くなった気がする。それは、あの北の洞くつに行く前、一度魔力を暴走させてからだ。

 リュシオルが殺されてしまうかも知れない。そんな恐怖から、怒りから魔力が暴走した。あの時は、自分で自分が恐ろしくなるぐらいに、魔力がコントロール出来なかった。でも今は、自分の意思で、感情を抑えながら魔力を使うことが出来る。

 こうなってくると、聖女らしくなったかな、何て自分で自分を誉めてしまう。




(まあ、周りの評価はよくないみたいだけど……)




 先ほど通りかかった騎士達が「聖女がもっと早く来ていれば」とか「聖女が倒せるなら、聖女だけ前戦に出しておけばよかったんじゃないか」なんて話しているのを聞いてしまって、矢っ張り人は自分の事しか考えていないんだなあと落胆した。

 それを聞いたアルバが、殴りかかりに生きそうだったのを止める方が大変だったけれど。自分の主を馬鹿にされて怒らない騎士はいないのかも知れないけれど。

 さすがに頭にきたが、私はそんな影口もどうでも良いかと流してしまった。今はそんなことに感情を揺さぶられている場合ではないのだ。




「アルバ」

「はい、何でしょうか。エトワール様」

「この雨はいつ止むかなあ……」




 止まない雨はないとか言うけれど、一向にやむ気配がない。寧ろ酷くなる一方で、ラジエルダ王国に着いたとき、どんな状態になっているか想像できなかった。

 アルバは外を見ながら「そうですねえ」と、言葉を濁す。私を元気づける言葉を探しているのかも知れないし、何も言えないと口を閉じてしまうかも知れない。

 彼女と手不安なのだ。

 この嵐が、私達の不安をさらに煽る。




「不安にさせたいわけじゃないのですが、やはり、混沌を倒したとき……でしょうか。それはもう、綺麗な青空に、きっと大きな虹が架かるに違いありません」

「そう、だよね」

「ごめんなさい。こんなことしか言えずに……」




と、アルバは下を向いてしまった。自分の騎士に何て顔させているんだと、私は慌てて「大丈夫。ありがとう」と言葉を並べる。咄嗟に言い言葉が思いつかず、誰でも言えるような言葉をかけてしまった。こんな時、いつもの私なら、もっと上手く言えるはずなのに。


 取り繕うのが下手なわけじゃない。取り繕って生きてきた。息を殺して生きてきた。でも、何故だろうか。




(凪いでいる……何か、どうでも良いみたいに。凄く感じの悪い人に見えちゃう……)




 先ほどから、自分の心は、驚くぐらい静かだった。嵐の前の静けさじゃなくて、本当にどうでも良いみたいに。他の人なんて……と冷たい感情が胸にあった。混沌や、災厄のせいだと言えてしまえば良いのだが、それを理由にしたくない。

 けれど、それを理由にしないと、この冷たさは異常だと思う。




「そうだよね。倒したら、綺麗な空見えるよね。私頑張る」

「エトワール様、そんな無理しなくても大丈夫ですから。私が」

「ううん。アルバのせいじゃない!皆不安だし、それは一緒だと思う!」




 私は元気づけるためにそう口にする。自分を元気づけるため、アルバを元気づけるため、どちらかは分からなかったけど。

 そんなことをしていると、トントンと部屋をノックする音が聞えた。




「はい」

「エトワール、俺だ」

「リース!?」




 部屋の外から聞えてきたのは、リースの声だった。アルバが先に立って、私に目配せし、部屋の扉を開ける。すると、マントを脱いだリースが立っていた。その後ろにはルーメンさんがいる。

 作戦会議が終わったのだろうか。少し疲れた顔に、黄金の髪の毛先が白く輝いていた。まだ、覚醒の効果が残っていることを示している。




「どうしたの?」

「顔を見ておこうと思ってな……というのを理由にすると、ここに来させては貰えなかっただろう。訪ねた理由は、ラジエルダ王国に着いてからの事についてだ」




と、リースは面倒くさそうに言った。


 初めの言葉が本心なんだろうが、そうはいってられないのが現状。

 ルーメンさんは「全くです」と呆れたように呟くと扉を閉めた。アルバは、一歩引いて私の後ろに戻り後ろで手を組む。




「そういえば、リース体調は?」

「俺か?俺は別に大丈夫だぞ。あれぐらいの戦いこれまでに何度も戦場で……」




 そこまで言って、リースは思い出したくもないと首を振って口を閉じる。血なまぐさい話を聞かせるべきじゃないと思ったのか。それとも、たんに彼自身が思い出したくなかったのか。どちらかは分からないが、リースはそれ以上何も言わなかった。

 遥輝が、リースに転生して、慣れないながらに戦場に引っ張り出されて、人を殺して……そう考えると、彼のメンタルは相当なものだと思った。傷ついていないわけじゃないだろうけど、前を向けるメンタルが凄い。もう、すり減らしすぎているかも知れないけれど。




「まあ、俺の話は置いておいて……ああ、お前が聞きたいのは、覚醒のことか」

「うん、それ。まだ、効果が続いているんだなあって思って」

「お前の魔力を、ずっと感じているぞ。温かい……おかげで、傷の治りも早いしな」

「それは、初耳かも」




 聖女の魔力は、他の魔法より治癒に長けているのは知っていたが、まさか、覚醒すると傷の治りも早くなるなんて驚きだった。言うなれば、自動回復みたいな。どれだけ便利なんだと、私は思ってしまう。

 実際見せて貰ったら腰を抜かすかも知れない。




「体調がなんともないならよかった。その、髪色に合ってる」

「この白か?エトワールと似ていて俺も気に入ってるぞ」




と、リースは嬉しそうに笑った。


 何だかアルバとルーメンさんの前で惚気ているように見えてしまって私は咳払いをする。

 それから、リースはラジエルダ王国に着いてからの動きについて細かく教えてくれた。船を止める場所から、ラジエルダ王国の中心部までかなり時間がかかること。もしかしたら、転移魔法が使えないかも知れないことなども教えて貰った。と言うことは、徒歩。体力はかなり削られるなあ、と体力がない私は白目を剥きたい気分だった。

 そうして、リースは一通り喋り終えて息をついた。




「これが最後の戦いなんだな」

「どうしてそう思うの?」

「これは、そういうのだろ?」




と、リースは、此の世界がゲームの世界なんだ、と強調していった。私と彼氏か伝わらないその話。まあ、そうなんだろうけど……と私は思いながら本当にそうなのだろうかと、自分の胸に問いかけた。




(混沌がいなくなれば、争いがなくなる?そんな話……)




 そもそも、混沌という存在が……という所まで考えて、私はリースの話を一旦肯定することにした。考えても仕方がない。




「そうだね。もう少しで着くんだよね。じゃあ、その間休んでるから」

「ああ、そうしてくれ。この作戦のキーマンはお前だからな」

「任せてよ」




 私はそう言って笑い返した。大丈夫、だと何度も心の中で唱えて。

 窓の外を見れば、ラジエルダ王国と思しき島が目の前まで迫っていた。





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