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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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27 生れる冷たい感情





「よーし、無事撃破だな」

「……は、はあ……本当に?」

「沈んでくのみりゃわかんだろ」




 アルベドは、そうぶっきらぼうに言いながら、私に下を見るように言った。

 私は、回らない頭で、下を見下ろせば、確かにレヴィアタンが沈んでいくのが見えた。串刺しにした光の槍はパラパラと光の粒子となって消えていく。私が倒したんだと改めて実感した。




(というか、ずっとこのまま!?)




 今になってアルベドにお姫様抱っこされていることに羞恥心が込み上げてきた。あの状況で、抱き留められて、彼がこうやって支えてくれたから、魔法が完璧に発動したわけだけど。




「お、下ろして」

「落ちてえのかよ、お前は」

「そうじゃなくて……あー、えっと、恥ずかしいから?」

「何度お前をこうやって抱きかかえたと思ってんだ。今更だろ」




 聞く耳も持ちませんみたいな言い方をされて、私はムッとしたが、その通りだとも思ってしまった。これが初めてじゃないし、アルベドにとって背が小さくて、細い私は抱きかかえた方が動きやすいと思ったんだろう。実際、私もその方が体力を消耗しなくて良いから、Win-Winなのかも知れないけれど。

 でも、この年になってお姫様抱っこ……とは、やはり恥ずかしい。女の子の夢だと言うけれど、ときめきはしない。ただ、ただ恥ずかしいという思いだけが渦巻く。

 けれどまあ、レヴィアタンが倒せたわけだし、お姫様抱っこ云々は置いておこう。




(本当に私が倒したの?)




 皆があれだけ、攻撃を当ててくれたからこその勝利だと分かっていても自分が、とどめを刺したんだという実感。魔法の使い方が今になってようやく分かってきたという感じだった。あの快感は、忘れられない。




(アルベドに教えて貰った、勝利のイメージ。それだけじゃないけれど……このグッと熱くなる気持ちは……)




 何だか恥ずかしいことを思っているのかも知れない。

 アルベドみたいな戦闘狂にはなりたくないなあと思いつつも、アルベドもきっとそうやって勝利を重ねてきたからこそ、自分に自信があるのではないかとも思った。

 どうでも良いけど。




「と、兎に角降りよう。下に行こうって言ってるの」

「ああ、そうだな。俺も無駄に魔力使いたくねえし」

「むかつく言い方」

「だって、そうだろ。魔力は温存しておかないとな」




と、アルベドはニヤリと笑った。


 アルベドにとって、レヴィアタンとの戦いは、イレギュラーでありながら、この後の戦いに備えて、そのことも視野に入れての戦いだったのだろう。どれだけ、先読みしているのか分かったものじゃない。やはり、攻略キャラだからスペックが他の人よりもずば抜けているというか……無駄に賢い設定を付け足されているというか。




(じゃあ、それに対応出来る私も、リースも凄いって事?)




 ふと、そんなことを思って一人舞い上がったが、きっとアルベドの読みには勝てない。そう思いながら、私はアルベドと共に船へと舞い降りた。




「エトワール」

「り、リース」




 降りた途端、すぐさま私の所に駆け寄ってきて、抱き付いたのは他の誰でもないあの黄金だった。リースは私をひしりと抱きしめて、大丈夫かと声をかける余裕もないぐらいに、心配の二文字を飛ばしながら私を抱きしめる。

 そんな心配しなくても、と思いながらも私はリースの背中を撫でた。皆に見られている前で恥ずかしいから、離れて欲しいという気持ちは強かったが。




「リース……あの、皆見てるし。リースの威厳も……」




 そろそろ、恥ずかしさが爆発しそうだったので、私がそう言うと、リースはようやく私を離してくれた。それでも、顔には不安の文字が浮かんでいる。




(どれだけ、私の事好きなんだ……)




 自惚れと言われればそれまでなのだが、そんな風に見えてならないのがリースだった。もう成人した男性にこんな顔されるとどんな風に接して良いか分からなくなる。

 初めから、リースとどう関われば良いか何て分からなかったけど。益々彼のことが分からなくなってきた。

 いいや、分かったからこそ、色んな表情を直接浴びて一杯一杯になってるのかも知れない。




「本当に大丈夫か、エトワール」

「うん、大丈夫。と言うか、指揮官様がそんなんじゃ、周りが大変じゃない?」




 私がそう言ってやれば、リースは、目を丸くした後、周りを見渡した。ようやくどういう状況下分かったみたいだ。これだからリースは。と私はため息をついて彼の胸を優しく押した。

 抱きしめられると、身体に力が入らなくなるから。




(……けど、本当に凄い。魔力がまだしっかり残っている)




 レヴィアタンを倒せるほどの一撃を放ったというのに、私の身体にはまだ魔力が残っているようだった。というか、全然残っているという方が正しい。

 これも、アルベドの言っていたイメージによるものなのか。形だけ槍を作り、レヴィアタンにぶつける寸前で魔力と重力を込める。その事で、魔法に無駄がなくなるのだ。魔力の放出も最小限に抑えられて。

 出航前に、アルベドの所を尋ねてよかったと私はようやく身をもって実感する。あれがなければ、また魔力を使うだけ使って倒れてしまうところだったから。お礼を言いたかったが、アルベドはすぐに自分の船の方に戻って行ってしまったため、言いようがない。まあ、あったときに言えば良いからと私は流して、こちらに向かって走ってきたアルバに手を振った。




「え、エトワール様、大丈夫でしたか!」

「アルバ、心配しすぎ」

「ですが、海に落ちて……ああ、でもエトワール様の一撃見てましたから。あれは、並の人間には真似できません!」

「でしょ。私、強くなったの」




 アルバに誉められて純粋に嬉しくなったので、私はそうやって帰した。アルバは、ほっと息をついて、凄かったです。と再び言って笑う。

 こんな風に誉められるのは嬉しかった。

 両親は誉められたことがなかったから、誰でも良いから私を認めて誉めて欲しいという願いが加速していたのだろう。でも、それをやんわりと皆がほどいてくれて。




(過去の事なんてどうでも良いじゃん。何で、そんなに気にするの?)




 あっちの世界に戻っても良いことないし、そもそも戻りたいとは思わなかった。でも、どうしても過去に植え付けられた苦しみは、たまに顔を出すわけで。

 不快だなあ、何て今になって、あの頃のことを思い出して顔が歪んだのが分かった。

 アルバに、大丈夫ですか? と聞かれて、ようやく自分を取り戻せたが、誉めて貰った事実を忘れるぐらいに、過去の苦しみを思い出していたのだ。




(こんなんじゃいけない)




 ここに来るまで何度も夢を見た。


 両親に認められなかった過去、虐められた過去。そんな嫌な記憶ばかりが、夢に現われては、私を苦しめた。誰かが、意図的に見せているように。忘れるなと釘を刺すように。そうして、眠りに覚める前に、エトワールとしてこれまで差別されてきた、嫌われてきた記憶も夢に出てくる。

 それは、私がエトワールに憑依したものとは違うものもうつっていて、気味が悪かった。まるで、ゲームを見ているような感覚だった。クリアできないエトワールストーリーを見せられているような不思議な感覚。




「エトワール様?」

「あ、えっと、何?アルバ」

「いえ、顔色がよくなかったので。魔力の使いすぎかと……」

「あ、ああ、大丈夫。魔力は全然残ってるし、船酔いとか、疲れたとかじゃなくて」

「では?」

「えーっと」




 説明しようがない。アルバは大丈夫かと顔を除いてくるので、私は大丈夫だと、念を押して笑顔を取り繕った。何だか、取り繕う笑顔も上手くなってきた気がして、何だか申し訳ない気持ちになる。

 人を騙して、自分を騙して生きているような感覚に息が詰まるのだ。

 アルバは「それなら良いですけど」と、まだ不安げに私を見て、それから大事そうに剣の柄を撫でる。アルバの癖なのだろう。自分の心を落ち着かせるための。

 私はそんなアルバを見ながら、心の中でごめんと呟いて前を見る。

 レヴィアタンは倒せたが、他の騎士や魔道士の状態はよくないように思えた。さすがに死人は出ていなかったけれど、それに相応する致命傷を受けた人もいた。それを、魔道士が治癒魔法でどうにかしている状態。

 私が行かなきゃと思ったけれど、足が動かない。こんな時、トワイライトなら駆け寄って助けただろうに。




(私自身、彼らが信用出来ないから?)




 これまで私を疑って、傷付けた人もいるかも知れない。そう思ってか、私は動けずにいた。動かなければ、彼らの傷を治さなければ、作戦に支障が出るかも知れないのに。

 最悪だ。

 自分の性格を呪う。一度心に傷を付けられたら一生その人を恨み続けるんだと、私は自分の冷たさを思い知る。

 こんなんじゃなかったのになあ、何て過去の弱い私を見ながら。




「ラジエルダ王国まで、まだ時間はかかる。その内に休めるものはやすめ。ここからが、戦いだからな」 




 そんな、リースの言葉を遠くで聞きながら私は、胸に生れた黒い感情をギュッと潰すように拳を握った。





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