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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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25 sideリュシオル





「ここって、私の部屋?なんで?」




 先ほどまで、あの世界にいたはずなのに。聖女殿の自室にいたはずなのに、何故かそこに広がっていたのは、中世ヨーロッパ風の部屋ではなく、現代の日本のワンルーム。可愛げも無い真っ白なベッドに、推しを愛でるために作った祭壇と黒いクッション。代わり映えのない死ぬ前の私の部屋が広がっていたのだ。

 いったいどういうことなのかと、状況把握のために近くにあったスマホを見る。つかないんじゃないかという不安も何もなくスマホは電源を入れればその黒い画面を白く発光させる。時刻は午後八時。そして、十二月の文字が……




(これって、私が死ぬ三日前……)




 バカみたいに同人誌を追っかけて川に飛び込む三日前の日付だったのだ。電子時計も通常通りに進んでいる。と言うことは、私は死ぬ前に戻ってきたんだと、自覚した。

 けれど、何故今なのか。その疑問は晴れないままだ。




「……取り敢えず、エトワールストーリーをやるしかない」




 もし、あの世界に戻れなかったら……何て一瞬考えたが、考えるより先に私はスマホのアプリ欄から、あの乙女ゲームを探し出し立ち上げる。

 エトワールストーリーがどんな結末をむかえるのか知る必要があったから。戻れたとき、どうにかしてエトワールを……巡を助けられればと思ったから。

 そんな簡単じゃないし、もうラジエルダ王国に向かって出航してしまった彼女を追いかけることは出来ないだろう。でも、彼女がこの先死ぬのか生きるのか。ただそれだけでも知れればと思ったのだ。




(でも、これはただのゲーム。あれは現実)




 早速ゲームを始めて見たものの、全く進める感じもしなくて、すぐにゲームオーバーになってしまった。最短、開始五分で終わる乙女ゲームとか聞いたことない。これを、私は、ハッピーエンドになると信じてやってきたのだと思うと本当に……




(実際、あっちの世界に行って分かったこと……容姿差別って言うのは、本当にあるンだって言う事ね)




 実際に起りうる話。そもそも、ブスとかイケメンとか言って容姿で人を差別するのは現実世界でも起っている。生まれ持ったものは仕方がないし、それがその人なんだと、容姿ではなくて中身を見てあげれば良いのに誰もそうしない。皆、外だけを見る。そりゃ目につくのが容姿だけれど、それでも実際にその現場を見てしまって、エトワールを目にして、良い気持ちにはならなかった。

 彼女が聖女の容姿と違ったから。だから、此奴は偽物だと、まわりにいわれていた。

 だからか、好感度が上がらない。偽物だと皆に言われて、エトワールは心を病んでいって。




「ダメだ、またやり直し」




 何度リセットをしただろうか。


 ハッピーエンドになるって、ハッピーエンドにさせてあげるって思いながら何度も何度も繰り返す。けれど、一向に前に進まないのだ。ゲームのバグでは無いかと思うぐらいに。

 選択肢も多いし、一人に絞ってもその人に拒絶されたらやり直し。こんなに鬼畜な乙女ゲームなんてあるのだろうか。

 どれだけの分岐があっても、ハッピーエンドになれる道は一つしかないというのだろうか。




「狂ってる!」




 思わず、スマホを投げてしまった。


 久しぶりに触るスマホなのに、こんなにゲームでイライラして。こんなことをするためにここに来たんじゃ無いと思いたいけれど。

 エトワールストーリーの結末を知りたい。その一心だった。しかし、ネットで幾ら調べてもまだ誰もクリアしていないようだった。描かれているのは批判の嵐で。私の欲しい情報は何一つ無かったのだ。

 クリアしてても、それを教えたらゲームが破綻するから、ネタバレはまだ禁止みたいで……




「こうなったら、問い合わせよ」




 ここまでヤケになっているのは、あっちの世界で待っているエトワールのため。彼女が死ぬエンディングなんて見たくない。誰かと幸せになれれば良い……それでいいと私は思っている。まあ、中身が巡だからそれは分からないけれど、どうなるのかだけ知りたい。だって、このゲームは六人の中から選んで、一応六人分のエンディングは用意されているのだから。

 だから私が知りたいのは、その大筋の部分。




(混沌をどうやって倒すの?トワイライトはどうなるの?)




 きっと、あの世界は巡がエトワールに転生したことによって大きくシナリオが変わっている。そもそも、リース・グリューエンが朝霧君の時点で破綻。けれど、物語はきっと、最終的には綺麗に収まるのだろう。

 私は、原作者のTwitterを見つけた。DMは開いており、DMを送れる状態になっていた。こういう時、本当に作者が返すのか、それとも別の人が返すのか分からなかったけれど、一か八か私は「エトワールストーリーの結末を教えてください」とダイレクトに書込んだ。こんなんじゃ、弾かれるに決まっているし、相手にもされないだろう……だから、私は付け加えたのだ。もっと相手にされないことを承知で。




『友達がエトワールに転生したんです。彼女を幸せにしてあげたい』




「我ながら馬鹿げてるわ……」




 ゲームに本気になりすぎている気持ち悪いオタクと思われるかも知れない。でも、ただ結末を教えてくださいだったら、頑張ってプレイしてください何て返ってくるだろうし。

 すると、以外にもすぐに既読がついた。




(几帳面なのかしら……)




 既読がついて、返信をしているという表示がされる。相手にしてくれたのか。それとも、問い合わせないでくださいみたいなものなのか……私は、早まる気持ちを抑えて、返信を待った。




(きっと何かの縁。そして、運……これを逃したら、きっと何も出来ない)




 メイドとして転生した私が、彼女にしてあげられることはこれぐらいだと思った。私はそれぐらい巡の事が好き。私みたいな、堅い女なんて相手にされないと思っていたけれど、彼女は私を受け入れて親友になってくれた。

 巡には、顔に出ないと言われているけれど、私は凄く感謝してるの。




「きた……!」




 待ちに待った返信が来た。


 そこに書いてあったのは、私が想像したものとは全く違うもので、作者本人が書いているような……そんな気がしたのだ。




『こんばんは、DMありがとうございます。友人が転生した……と言う話が気になるので、明日実際に会えないでしょうか』

「この作者、大丈夫かしら」




 実際に会えないか、と書いてあったのだ。もの凄く話がぶっ飛んでいる気がするし、これが詐欺なんじゃ無いかとも思ってしまった。本当に、こんなことがあり得るのだろうか。

 けれど、このチャンスを逃すわけにはいかないと、私はすぐさま返信をする。

 勿論、明日会うという約束を取り付けて。




「よし、これで何とかなりそう……でも、思った以上に反応が……というか、本当に転生とか信じるのかしら」




 いくら、転生系の話を書いている作者でも、現実と小説をわけて考えているだろうし、転生なんて空想上の……と私は思っている。けれど、作者にとっては聞きたい話なのだろう。それか、彼女自身も……

 そう考えながら私は、明日のために荷造りする。荷造りと言ってもこれまで起った出来事をノートにまとめるなど簡易的なもので、大事なのは気持ちだった。寝て起きたら、元の場所に戻っていたら……何て考えたけれど、きっとこの作者と話すまではあの世界には戻らないだろうという根拠のない確信があった。


 そうして、次の日待ち合わせのカフェに私は早くつき、指定された席で待っていた。テラス席の一番奥。静かで木漏れ日が温かい席。特等席だな、と思っているとコツコツ……とヒールの音が聞えた。

 あの乙女ゲームの原作者。まさか本当に来るとは想ってもいなくて、私は背筋を伸す。プロフィールや、彼女の作家歴などみていると年上と言うことは分かった。そこまで年齢は離れていないけれど。




「初めまして、貴方が昨日DMをくれた人?」




 そこに現われたのは、黒髪ショートヘアの綺麗な女性だった。少し冷たそうなアイオライトの瞳は冬を連想させる。けれど、それよりも綺麗という印象が強かった。

 見惚れていて、挨拶が遅れ、私は遅れて立ち上がり頭を下げた。




「はい。そうです。昨晩はすみませんでした。いきなりDMを……」

「いいの変なDMじゃなかったし」

「でも、転生なんてあんなこと書いて……まさか来てくださるとは思っていなくて」




 何て言えば良いか。早速本題に……とは思わなかったけれど、彼女の独特な雰囲気に当てられる。

 連城冬華。それが、あの乙女ゲームの原作者の名前だった。

 冬華さんは、椅子に座るとふうと息を吐く。その姿さえ美しかった。何をしても絵になるなあと、売れている作家は皆こんなものなのかとも思ってしまう。私は、取り敢えず座り直し、彼女と向き合った。




「転生ね……私も驚いたけど、そんなこと送ってくる人が初めてで。気になったの」

「は、はい」

「嘘じゃないのよね」

「はい……でも、信じてもらえるなんて思って無くて」

「まあ、それはそうよね……普通なら信じない」




と、冬華さんは言うと目を閉じる。


 まるで、自分は転生したことがあるみたいに口ぶりに違和感を覚えつつも、彼女なら色々聞いてくれそうだと、私は胸を高鳴らせる。

 チャンス到来とはこのことだと、私は冬華さんに早速……と口を開いたとき、ふわりと赤い薔薇が舞うような空気を感じ取った。




(黄金の髪……まさか)




 目は一瞬にしてその人に惹かれる。

 でも、彼がここにいるはず無いと頭では理解しているのに。




「リース・グリューエン?」




 レッドベリルの瞳は、私を捉え、その黄金の髪は日の光を浴びて輝いていた。





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