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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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22 ぶつかり合い




(さて、どうしようかなあ……)




 荒れ狂う波、視界も白くて見えにくい。でも、その中からでも、あの紅蓮はすぐに見つけることが出来た。

 何処にいても目立つあの長い紅蓮を、私は有象無象の中から見つけられるんだ。




「アルベド!」

「エトワール、なんでここに?」




 アルベドは私の声に反応すると、ストンと横に降りてきた。風魔法を持続させながら、ナイフと魔法を駆使し、レヴィアタンと戦う姿は、芸術品だと思った。それほどまでに、魅せられる戦い方だと。

 こんな風になれたら良いけど、アルベドみたいになったら罪悪感が消えてしまいそうでそこは怖いとも思う。




(何て、本人には言わないけれどね)




 いったらどうなるか分からない。言うつもりも、ぽろっと零すつもりも毛頭無いけれど、本人にいったらキレられそうだなあと思いながら、私はアルベドを見た。防御魔法も使っているためか、目だった傷はない。綺麗な肌に、雨か、海水か分からない水滴がついている程度だった。

 不機嫌そうに私を見たアルベドに、私も少し苛立ちながらアルベドの方を見る。




「ンだよ。なんでここにいるんだよ」

「ここにいちゃダメな理由でもあるの?良いじゃない。別に私が何処にいても」

「よくねえよ。今回は、イレギュラーなことが起ってこうなってるが、お前は、魔力を温存しておかねえと」

「皆そう言うけど、だったら、私なしでレヴィアタンと倒せるって言うの?」




 横暴だと自分で思った。でも、こうでもいわないと、押し切られそうな気がしたからだ。アルベドは、黙った。口を閉じてふいっと顔を背ける。そうして、その目線はレヴィアタンへと移された。

 大分弱ったというのは目で見て分かった。けれど、さすがは最強のドラゴンと言うだけある。海の中にいるレヴィアタンを陸に引きずりあげられれば変わるのだろうが、生憎近くに打ち上げられるような島はない。だからこそ、このまま相手の有利の地形で勝たなければならないのだ。




「確かに、勝てるかどうかは五分五分だが、お前を失っちまったら意味ねえだろ」

「私がそんなに弱く見えるの?」

「そういうわけじゃねえし……つか、この言葉多分他の奴らにも言われたんだろ。お前、苛立ちすぎだ」

「そんなことないもん」




 きっと、自分が気づいていないだけでそうなのだろう。アルベドの言うとおりだ。でも、それを悟られたくなくて、私は見得を切る。アルベドは、そんな私を無視して目を細めた。

 レヴィアタン何て歩いていて出てくるような魔物じゃない。だからこそ、この災害レベルの魔物を倒す方法なんて普通の人間は知らない。戦場に出ることがある人間でも、レヴィアタンを一人で相手するのは難しい。アルベドだってそうだ。いくら、攻略キャラ補正がかかっていても、一人で倒せる相手じゃない。


 それは、リースとブライトがいてもまだ倒せないって言う現状が伝えている。




「まあ、お前がどんな理由で出てきたかは知らねえけど、俺の邪魔だけはするな」

「苛立ってるのは、アルベドもじゃん」

「当たり前だろ。こんなイレギュラー想像しねえよ、普通は」




 アルベドが苛立っているのも、すぐに分かった。

 私を見つけたとき、その目は少しだけ余裕がなさそうだった。いつもよりも魔法が乱れているように感じていたし、幾らアルベドであっても、暗殺者に命を狙われ続けてきたアルベドであっても、イレギュラーに対応するのは難しいと言うことだ。

 イレギュラーがありすぎて、きっと頭で対処しきれていない。




「そう……だからこそ、私がきたの」

「お前が?何しに?このまま、場の空気乱すようだったら戻って見物していれば……」

「『覚醒』って知ってる?」

「ああ?」




 完全に気性が荒い。


 私の言葉一つにも苛立ったように反応するアルベド。そう見えるけど、実は、レヴィアタンと戦うのが楽しいんじゃないかとも思ってしまう。アルベドは、何だか戦うとき楽しそうなかおをするときがあるから。

 異常者とかいったらそれまでなんだろうけど、それともまた違うような気がする。表しにくい男ではあるけれど。

 アルベドは、私の言葉にピクリと眉を動かした。聞いたことはあるのか、その眉をひそめる。




(凄く、怖い顔してる)




 理解しているからそんな顔なのか、知らなくてそんな顔なのかは知らないけれど、前者なら、その顔をしても可笑しくないなあと私は思った。だって、覚醒とは、聖女の魔力を他者に分け与えて、その他者が自分の力を最大限に引き出すことだから。




(だから、闇魔法と、光魔法じゃ……って言いたいんだよね)




 アルベドは、私をじっと見つめた。この提案をのまない気なのだろうか。




「知ってる?」

「知ってるに決まってるだろ。俺を何だと思ってるんだ」

「返事がなかったから心配だったの。知ってるなら良いの。だから、手を出して」

「お前、本気で言ってるのか?」




 アルベドはそう言って私を睨み付けた。本当に鋭くて怖い顔をしている。久しぶりに見るその苛立った、人を殺しそうな目に、私はゾッと背筋を振るわせる。

 でも、ここで逃げたらいけないと、私は向き合う覚悟を決める。私に足りないのは、踏み込む力なんじゃ無いかと思った。




(確かに、これは合理的じゃないかも知れない。アルベドは、リスクを嫌う。イレギュラーを嫌う。だからこそ、自分が一番ベストを出せる、自分のペースで動くことが大切だと思ってるんだ……でも)




 それじゃあ、戦況は変わらないだろう。




「本気。それに、さっきリース……殿下にも、ブライトにも分け与えてきたの」

「じゃあ、それでいいじゃねえか。何で、俺まで」

「覚醒したら……その後も魔力が一定時間高まるって聞いた。だからこそ、この後の戦いにも」

「確かにそうだが、リスクがありすぎるだろ。分かってるだろ。俺が嫌がってる理由」

「分かる。でも、やってみる価値があるって私は思ったから」




 私がそう、真剣に言えば、アルベドは諦めたようにため息をついた。




「譲れねえのか」

「譲らない。それに、光魔法と闇魔法が手を取り合える世界があるなら、ここから始めればいいと思ったから」

「何だそりゃ」

「アンタの思想」




 そう言うと、アルベドは可笑しそうに笑った。でもそれは、自分を認められて嬉しいという風にも捉えられて、少しくすぐったくも感じた。

 アルベドのこういう所が私は好きだ。




「良い提案だと思うんだけど、どう?乗る?」

「乗るに決まってるだろ。そんなの」




 アルベドはニッと笑って、私の手を掴んだ。その瞬間、私達の手のひらの間に凄まじい電撃のようなものが走る。黒い稲妻と白い稲妻がバチバチとぶつかり合って、互いを蹴落とそうとしているように。

 熱かった。燃えるように暑い。痺れて、指の感覚がなくなるようだった。




(闇魔法、光魔法の反発……痛い……!)




 手のひらの皮がめくれているんじゃないかと思うぐらいの衝撃と熱さ。ただ痛みと、しびれが身体に駆け巡る。

 耐えろ、耐えろ。と私は額から流れる汗を感じながらアルベドに魔力を送るのに集中した。イメージするんだ。アルベドに魔力が渡っていくのを。

 顔を上げれば、アルベドも苦しそうに顔を歪めていた。痛いのは私だけじゃない。そりゃあ、反発だから、こちらもあちらもどちらにもその反動は来る。

 繋がっている手に目線を落せば、先ほどまで混ざり合うことをよしとせず、ぶつかり合っていた二つの稲妻が、溶け合うようにして絡み合っていた。黒と白、それが混ざり合ってグレーの稲妻が生れる。




(もしかして……)




 ようやく魔力が行き渡ったという所で、アルベドから手を離した。

 私は乱れた呼吸を整えながらアルベドを見上げる。彼の紅蓮の髪は毛先に近付くにつれて白くなっていた。途中はあのピンク色のチューリップを連想させる仄かなピンク色になっていて、赤い薔薇の中に咲く白い薔薇のようだと思った。ただ単純に綺麗だと。




「おお、成功したんだな」

「みたい……だね」

「大丈夫か、エトワール」

「何が?」




 私を気遣うように、先ほどまで苦しんでいた顔は何処に行ったのかという感じのアルベドは私の肩を抱いた。ふわりと意識が飛びそうになっていたのを起こされて、私は首を横に振る。

 さすがに、三人に魔力を分け与えたのは身体に応えたかと、やめておけと言われたときにやめておくべきだったかとも思った。でも、これで、かなり私達が有利に立てることは間違いないだろう。




(私に出来ることはこれぐらいだから)




 まだ魔力は残っている。ただ、魔力と体力が比例していないため、ここまで消耗しているのだと思う。少し休めば、呼吸も落ち着くだろうし大丈夫だとは思うけど。




「お前は休んでろ、エトワール」

「嫌だ、私も行く」

「足手まといになるだろうが。いいから休んでろよ。お前のおかげで、勝てるビジョンが見えた。こりゃいい。お前の魔力が俺の中にあるって感じがして」

「そりゃ、魔力を上げたから」

「そうだったな」




と、アルベドは嬉しそうに笑った。


 その笑顔の意味は分からなかったが、先ほどの怖いかお寄りかは幾分かマシだと私も笑う。アルベドは「じゃあな」と言って飛んでいってしまった。そのスピードは前見たときよりも遥かに速かった。




「エトワール様、大丈夫ですか」

「うん、大丈夫アルバ。私達も反撃しに行かなきゃ」

「ですが……エトワール様、身体は」

「大丈夫。信じて。私だって強くなったんだから」




 見栄じゃない。


 心配するアルバをよそに、私も出来る、やってやると、ニッと笑って見せた。





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