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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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20 船上にて、戦場にて




「聖女様!?」

「聖女様が何故!?」




 戦場に出れば、騎士達は皆、私が来たことに驚き一瞬振返った。そんな余裕があるのかと、冷たい目を向けてやれば、すぐに剣を持ち直し、レヴィアタンの攻撃を防ぐ。

 しかしまあ、何で私がここに来ちゃいけない見たいな顔するのか分からなかった。

 この後の戦いに備えて、魔力を補充して下さいとでも言いたいのだろうか。でも、見た感じ彼らだけで勝てないのは明白だった。それを見栄張って倒せるみたいな感じで言われても、全く説得力が無い。

 猫の手も借りたい状況だろうに、どうしてそこまで意地を張るのか。




(若しくは、まだ私のことを信用していない……とか)




 それも十分考えられた。


 混沌のせいで、善良な人々でさえ疑心暗鬼になって、自分さえ信じられない。まして、この間まで偽物だと言われていた聖女が本物で、自分たちを救ってくれるのか。そんな思いもあるだろう。私だって、偽物呼ばわりされたのに、今更人を助ける気にはならない。

 でも、私がこうして戦うのは自分のためと、それと……




(リース……)




 一番前で戦っている彼の姿がすぐに目に入った。攻略キャラだからか、それとも目立つ赤いマントと金髪のためか、何処にいても彼を見つけることが出来た。

 リースもあれだけ見栄を張っていたのに、苦戦を強いられているようだった。まあ、彼が幾ら強いと言え、リース一人でレヴィアタンを倒した……何てことになったらどれだけレヴィアタンが弱かったんだという話になる。本来であれば、ヒロインと攻略キャラが力を合わせて倒すのだから。


 まあ、それは良いとして……




(大分、レヴィアタンの動きが遅くなってる……でも、まだまだ倒せそうに無い)




 先ほどより勢いは無いが、逆に攻撃されて激昂しているのか無差別に攻撃をしてきている。誰かを狙ったものではなく、皆を巻き込んで、目に入ったものを全てこわさんとする勢いだった。このまま、船に攻撃が当たってしまえば、沈没の可能性もある。




(と言うか、船が激しく動きすぎて立っているのもやっと……!)




 体幹も無いし、船が激しく揺れるため、私は何かに捕まりながらでなければ前に進めなかった。私も戦いに行くと行ったくせにこの有様は恥ずかしい。




「エトワール様、無理なさらなくても」

「ああ、えっと、大丈夫!ちょっと体幹が……雨で足場が泥濘んでるだけだから!」




 アルバに心配されてしまったので、咄嗟にそんなことを言って誤魔化す。いっていることはあながち間違いじゃ無い。

 でも、アルバはと言うとしっかりと立って私を支えてくれていたのだ。やはり、鍛え方が違うと思い知らされる。さすが私の騎士。




「エトワール、やっときたか」

「リース!」




 ズザザ……と、後ろに飛んで甲板にたまった水を舞い上がらせながら私の横にリースが飛んできた。登場の仕方と良いヒーローみたいで格好いいと、平凡な感想を抱く。

 見た感じ怪我をしていないようでよかったと、私は胸をなで下ろした。しかし、いつも外に跳ねている髪は、濡れてしっとりとしている。いつもの威厳は擦れて、どちらかというと優しい印象を受けた。




「ほへえ……」

「何だ、その気の抜けた声は」

「ハッ!ううん、何でもないの。ただ、その……」

「その?」

「濡れた髪の推しを見るのもいいなって思って!」




 耐えきれずにそう言うと、リースはポカンとした顔で私を見た。この非常事態に何を言い出すんだと言わんばかりの顔。確かにそうだけど、耐えきれなかったのだ。言いたかったのだから仕方がないだろう。

 アルバは「推し?」と、私の言葉に深い意味があるのではないかと考えていたが、そんな深い意味があるわけでもないので何だか申し訳なくなってきた。

 それは良いとして、リースは呆れたと髪を掻上げる。




(だから、そういう所なんだってば!)




 自分の格好良さに、色気に気づいていない皇太子はこれだから……

 私がそんな風にリースを見ていると、彼はため息をついて剣を横に振った。




「まあ、お前のいつもの癖だろう……何も言わないが」

「そう?でも、怪我が無いようでよかった」

「エトワール?」

「何よ、そんな驚いた顔して。私の顔に何か変なものでもついてるって言いたいの?」




 リースが先ほどとは違って、驚いた表情を見せたので、私は首を傾げる。何も変なこと言っていないはずなのにと、自分の言葉を思い返してみる。




(さっきから、じっと見つめて……恥ずかしいじゃん)




 穴が空きそうなほど見つめられて私はふいっと顔を逸らした。それを見てリースはか細く微笑むと泥濘む、床を蹴ってレヴィアタンに向かって言った。結局何が言いたいのだろうか。




(でも、私もおちおちしてられない)




 未だに、立っているのがやっとなほど揺れているが、出航前にかけて貰った酔い止めの魔法が効いているのか、船酔いはしていない。ただ、立っていられないだけ。

 全く、アルバはどうやって踏ん張っているのか。




(エトワールの足って細すぎるからね……)




 女の子は足が細くなくちゃとか、運営や制作陣が思っているからなのか、二次元の女の子の足は細いことが多い。勿論、肉付きがよくて、ニーハイソックスの上に肉がのってるとかそういう描写もあるけれど、エトワールの足はただたんに細かった。それこそ、男性が力を入れれば折れてしまうぐらいに。こんな足で、踏ん張れ言われてもそりゃ出来ないだろうと。




(なら、今こそ、アルベドが教えてくれた風魔法を使う時じゃない?)




 アルベドは、自分の身体能力を上げるために風魔法を自分に付与し、身体を浮かせたり、身軽に動けるようにしたりしていた。その方法を教えて貰ったのだ。

 私は、ただイメージすれば魔法は使えると思っていた。でも、アルベド曰く、アルベドが強い理由は自分の勝利を信じているから。勝利のイメージを思い描いているからだという。

 だから彼は、いつも余裕そうなのだ。魔法のイメージを継続させるにはもってこいの作戦だと。

 私は、教えて貰ったとおり自分に風魔法を付与した。すると、身体が軽くなり、床に少し足がついただけで簡単に宙に浮くことが出来た。無重力に近い感じだろう。これなら、踏ん張る必要も何もない。




(まだ、不安定だけど……)




 自分のイメージとはやはり少し異なる。それはまだ、この魔法の使い方を自分の中に落とし込めていないからだろう。でも、これぐらいなら私にも使いこなせると。




「アルバ。いこう」

「分かりました。エトワール様」




 私は、アルバを引き連れて、レヴィアタンに向かって走り出した。

 近くに行けば行くほど、その大きさや、凶暴さを目の当たりにする。遠目で見たときよりも、レヴィアタンの鱗には無数の傷がついていた。何度か叩けばその肉に剣をブッ刺すことも可能なのでは無いかと……




(でも、それじゃあこっちの体力が……)




 私は一か八か、光の鎖を発動させ、レヴィアタンを縛り付けた。一瞬だけその動きが止り、レヴィアタンはその鎖を外そうと藻掻く。

 周りにいた騎士達は「聖女様だ!」と先ほどとは変わって、好奇の目を私に向けた。さっきまでは、何できたんだ見たいな、足手まといは邪魔だと言わんばかりの目を向けてきたというのに。

 考えないようにしよう。私は、そう割り切って、光の鎖に込める魔力を増やした。きっと暴れられて千切られるだろうけど、少しの足止めになるはず。

「いいな、エトワール。お前技術が前よりも上がってるぜ」




「あ、アルベド!?」




 天から声が振ってきたと思えば、アルベドが私の発動した光の鎖の上を走ってレヴィアタンに攻撃を仕掛けていた。彼も、きっと風魔法を付与しているからあんなに軽々と動けるんだろう。でも、アルベドの船は後ろにあったはずだ。と言うことは、あの船から飛んで渡ってきたと言うことだろう。




(本当に無茶する……)




 私が言えたことじゃないんだろうけど、アルベドには勝つビジョンが見えているに違いない。だから、恐怖も何もないのだと。




「うっ……ちぎられる……!」




 さすがに、暴れに暴れまくるレヴィアタンの動きを止めるのには限界があり、ぴきぴきという音を立てて、光の鎖がはじけ飛んだ。光の粒子となって、鎖達が消えていく。やはり、あの大きな図体を何分も繋いでおけるほどの強度は無いらしい。




(いいや、レヴィアタンが強いだけだと思う)




 でも、練習したせいかもあってか、無駄に魔力を使わずに魔法を発動させることが出来た。アルベドから言われたのは、魔力の使いすぎ、無駄が多いと言うことだったから。

 一つ一つのアドバイスを素直に落とし込むことで、どれだけでも伸びしろがあったのだ。私は、知らずにいた。それは、ブライトの教えが悪かったんじゃ無くて、実戦経験を積んでいるアルベドに教わったから。ブライトは、相手を傷付けない、自分を守れるような魔法の使い方を教えてくれた。用は優しかったのだ。

 それは良いとして、決定的な一手が欲しい。




(一撃とは言わずとも、魔力を込めて……致命傷を与えられるぐらいの……!)




 そんなの、魔力が足りなくなるに決まってる。だが、長期戦になれば成る程不利だ。そもそも、レヴィアタンは自分のテリトリー、海の中、私達は、陸では無く船上で戦っているのだ。船の耐久性を考えると、長期戦では……




「エトワール様危ない!」

「……ッ!」




 アルバの声で、反射的にレヴィアタンが放った攻撃を受け流すことが出来た。だが、私の足下には大きな鱗が刺さっている。レヴィアタンは自信の鋭くて堅い鱗を飛ばして攻撃を仕掛けてきたらしい。




(知能もあるの……厄介……)




 一筋縄ではいかないこと、それは目に見えて分かる。 

 私は、どうしても決定的な一手が欲しくて、ここにいる攻略キャラに助けを求めることにした。勿論、どちらも生き残ってどちらもの魔力を残せる方法を。




「リース、ブライト、アルベド――――!」




 大丈夫、反撃の手段はある。





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