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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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19 もっと早く気づいていれば




「何だと?」

「だから、私も戦うっていったの。ここで待っているなんて、守られているなんて嫌だ」

「だが、お前は聖女で……この後の戦いのことだって」

「分かってる。だからこそ、皆の負担を半分にするために、私も戦うの。それに、これまで練習してきたこと試したいし」




 ブライトやアルベドに教わった魔法の使い方。ヘウンデウン教と戦う前に練習が出来ると思えばおれはもうありがたい話だった。

 自分の実力がどれほど上がったか。それを試す良い機会だと。

 しかし、リースは顔を険しくして、よし、といってくれないようだった。




「ダメだ……お前を危ない目に合わせられない」

「もうこれまでに、一杯危ない目に遭ってきたし。ここでそんなこと言われても説得力無いのよ」

「……しかし」




 リースが渋る理由が分からなかった。どうせ、ヘウンデウン教と戦うことになったら、危ない目に遭うわけだし、レヴィアタンと戦ったところで大差ないだろうと。混沌みたいな、精神攻撃しかけてくる奴の方が危ない気がするんだけど。そう思いながら、私はリースを見る。

 私達がこうしている間にも、激しい攻防戦が甲板では繰り広げられている。早くいかなきゃと焦らされるほどに。




「リース!」

「エトワール、矢っ張りお前は――――」

「大丈夫です。皇太子殿下」




 そう、私達の間に割って入ってきたのはアルバだった。彼女は既に頬に傷を負っていたが、まだ戦えるといった感じに、私達に近付いてきたのだ。




「お前は……」

「私は、エトワール様の護衛騎士です。皇太子殿下、貴方様の気持ちもよく分かります。私も、出来るなら、エトワール様には前戦に出て戦って欲しくない。しかし、この状況を迅速に解決するためには、エトワール様の力が必要なのでは無いでしょうか」




と、アルバは意見した。


 リースはその意見を聞いて、ますます頭を悩ませているようだった。でも、この調子で押せばきっと折れてくれると。




「そうよ。アルバは凄く頼りになる護衛なの。だから、彼女が守ってくれるし、私は大丈夫。それに、こんな所で倒れているようじゃ、聖女失格じゃない」

「エトワール」




 リースは、私の方を見た。私の覚悟が揺らがないと分かったのか、大きなため息をついた後、私達に背を向けた。全てを吹き飛ばす勢いで吹き付ける風に彼の赤いマントが靡く。

 その後ろ姿に見惚れてた。




「分かった、許可しよう。だが、死ぬんじゃないぞ。危なかったら、すぐに下がれ」

「う、うん。分かった。リース……殿下も気をつけて」




 私が言い終わるのが先か、リースが走り出したのが先か。私の声は届いていただろうかと不安に成るほど、彼の背中はすぐに遠のいていった。

 リースが私のことを大切に思ってくれる気持ちは嬉しいし、感謝すべき事だと思う。誰かに思われるってこんなに温かいんだなって、そう気づかされる。




(……だからこそ、私もリースに傷ついて欲しくないって思うんだけどな)




 自己犠牲の塊じゃ無いかと、私は彼の背中を見て思った。


 私のことを考えてくれるのは嬉しいけど、そのせいで盲目になっていないかとか。周りが見えなくなる癖は直してほしいものだと思う。私の為じゃ無くて、自分自身のためにも。

 まあ、いったところで癖というものはすぐに治らないし、リースなら尚更だと思って、私は気合いを入れ直す。人の心配をしている場合では無いのだ。




「アルバ」

「はい、何でしょうか。エトワール様」

「ありがとね」

「え……いや、私は……殿下とエトワール様の間に割って入るような真似をして……あんなに強い言葉で意見してしまって。言い終わった後、首が飛ぶのでは無いかとヒヤヒヤしてます」

「今もって事?」

「はい。あのレヴィアタンを前にしても震えなかったのですが、殿下を前にしたら……」




 さっきはそんな怖い顔してなかったのになあと、リースのことを思い浮かべる。

 まあ、ただの騎士が皇太子に意見するのは勇気がいることだろう。でも緊急事態だったし、あそこでアルバが意見してくれて私は助かった。じゃなかったら、リースの頑固が私を離さなかっただろうから。




「私、アルバのそういう所好きだよ」

「え、え……エトワール様!?」

「アルバのその真っ直ぐなところ、私は好き。だから、こうして隣にいて欲しいって、護衛でいてって選んだんだと思う」

「ありがたすぎるお言葉です。私はそんな……」

「そんな謙虚にならなくて良いから。自信持って。アルバは私の騎士だよ」




 いつもありがとう。そんな意味も込めて言えば、アルバは嬉しそうに笑っていた。でも、すぐにいつもの格好いい顔に戻ってレヴィアタンと向き合う。いつもなら、もっと喜んでくれるんだけどなあと思っていると、アルバはふとこんなことを口にした。




「そう言って貰えるのは嬉しいですし、一生ものの言葉です。ですが、グロリアスのことも大切にしてあげて下さい」

「グランツの事?」




 何故、アルバから彼の名前が飛び出したのか分からず首を傾ければ、アルバは少しだけ悲しそうに目を伏せた。哀愁漂っているという感じで、近付きがたい雰囲気だ。




「はい。グロリアスは、私よりも前にエトワール様の護衛になりました。彼は、私以上にエトワール様の事を思っていると思います」

「……何でそう思うの?」

「だって、グロリアスの口からはいつもエトワール様の話ばかり何ですよ?口を開いたと思ったらエトワール様の事ばかりで。本当に好きなんだなって言うのが伝わってきました。私もエトワール様のこと大好きですよ?でも、勝てないなあってくらいに」




 そう、アルバは言うと悔しい、と口にしながら笑った。

 そんなこと何も知らなかった。また、自分の中の覚悟が揺らいでしまった気がして、私は辛かった。本当に、彼の口からそんなこと一度も聞いたことなかったら。




(でも、誰よりも従順で私のことを見ていてくれたのは確かかも……それを私は裏切ったって、彼を切ったから?だから、怒ってるの?) 




 好きな人に拒絶されることは耐えがたいことだろう。それが、恋愛であっても親愛であっても、信仰心であっても。そこに愛があったのなら、拒絶されることは苦しい事だと。

 けれど、私にはグランツが何を考えているかさっぱりだったから。

 勝手に行動して、勝手にあんなこと言って。だから私も怒ったのに。

 今の話を聞いたら、私が悪いように思えてしまったのだ。別に、アルバがそういったわけじゃない。でも私が勝手にそう思った。




(……はあ、嫌だ。ようやく決心がついたと思ったのに)




 いいや、初めから決心とか、覚悟とか無かったのかも知れない。出会ってしまったら戦うしか無い。この間だって私の言葉は通じなかったわけだし、今回グランツと対峙することがあったら、今度こそ彼と……




「アルバ……私、そんなことグランツに言われたことない」

「彼は、口下手ですから。それに、自分の身分を考えて、エトワール様にそういう思いを伝えるのはダメだと思ったんじゃ無いでしょうか」

「じゃあ、アルバは?」

「私は……エトワール様に甘えさせて貰っているだけです」




と、アルバは照れくさそうに言う。


 確かに、私は普通の令嬢とか、高い身分の人達が考えないような言動をしていると思う。私の暮らしてきた世界がそうだったから。だからこそ、皆平等……みたいな思想が何処かにあったのかも知れない。その影響で、アルバにもグランツにも接していた。


 でも、グランツはその私の甘えに乗っからなかった。

 素直じゃないと思うと同時に、もしグランツが本音を早いうちにぶちまけてくれていたら。私も彼のことを理解してあげられたかも知れない。取り返しのつかなくなる前に。

 けれど、グランツの性格上きっとそれはあり得なかったんだろうなって思う。無口だし、化といってやることは大きいし。




(どっちにしても、こうなる運命だったんじゃ無いかなって……)




 もっと、早く知りたかった。




「エトワール様」

「何?アルバ」

「もし、グロリアスにあったらエトワール様はいつも通り接してあげて下さい。私にして下さるように、優しく……言葉をかけてあげれば、彼も喜ぶと思います」

「アルバは……」




 アルバは、グランツの何を知っているの?

 そう言いかけて、私はやめた。彼女が、グランツが裏切ってヘウンデウン教の方にいっていることを知っているかも分からない。知っていたとしてこの言葉をかけているのか、同じ境遇だった彼のことを気にして言ってるのかは分からなかった。

 分かることは何もないけど。

 確かに、態度を変えずに向き合えばグランツの囚われた心もどうにかなるんじゃないかと思った。




(……考え改めなきゃ)




 でもまずは、レヴィアタンを倒すことから考えなきゃいけない。




「アルバ、いこう。私達も加戦しなきゃ」

「はい!そうですね。エトワール様がいけば、一発で倒せますよ」

「そ、それは私でも無理かなあ……」




 私にどれだけ期待するんだ! と言わんばかりにキラキラとした目を向けてきたアルバに苦笑いを返しながら、私は目の前で暴れているレヴィアタンを見据えた。

 本当に倒せるのだろうかという不安はあるけれど。ここまで来たんだ、やるしかない。


 私はそう言って一歩前に踏み出した。





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