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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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18 最強の剣





(敵襲!?)




 この視界の悪い中。雨が降り出し、甲板も泥濘んできたその時に、そんな声が響いた。カンカンと鐘が鳴らされ、その非常事態を周りに伝える。甲板には多くの人が集まっていき、目の前に現われた、大きな渦を見て何か叫んでいる。

 ラジエルダ王国からの敵襲かと思ったが、どうやらそういうわけでは無いらしい。周りに敵の船らしきものが見えない。ということは――――




(海の中に!?)




 嫌な予感がする。そして、それは、何処かで見た光景だった。

 渦巻きだした海のど真ん中、その渦の中心から姿を見せたのは大きなドラゴンだった。




(もしかして、レヴィアタン!?)




 青黒い鋼鉄の鱗に、長いひれのようなものが水から上がったというのに宙でひらひらと漂っている。蛇とドラゴンの間のようなその姿は、神々しくも恐ろしいものだった。明らかに船よりも大きく、その全長は計り知れない。




(……これって、本来ならヒロインストーリーのイベントじゃない)




 そういえば、船に乗って最終決戦に行く前に……何てものが、ヒロインストーリーのイベントにあったと言うことを思い出し、でもエトワールストーリーでは無いだろうと思っていたのに。ここにきて、そのイベントがすり替わったと。

 皆、既に攻撃態勢に入っており、乗っていた何人かの魔道士達は、すぐさま詠唱を唱え始めた。あんなのにタックルされたら、この船とは言え沈んでしまうに違いない。

 だけど、あんなのをどうやって倒せば良いのか。




(思い出せない、どうやって倒したんだっけ……?)




 もやがかかったように、レヴィアタンの倒し方を忘れてしまい、私はパニックに陥っていた。でも、これを倒さないことにはラジエルダ王国に到着させてもらえそうになかった。進行方向にいるのだから、退いて貰うしか無い。退いて下さいとかいって話が通じるアいてでは無いと思うけど。




「ほう、レヴィアタンか」

「リース知ってるの?」

「ああ、知ってるさ。有名だからな。それに、ここがゲームの世界であるなら尚更じゃないか?」

「それはどうでも良いのよ。確かに、レヴィアタンとか強敵にもってこいだと思うけど……私も、現実とゲームがごっちゃになるけど、今は現実だって捉えて、レヴィアタンを倒す方法を考えているの!」




 さっき私が言ったことを、笑い話に変えたかったのかリースはそんなことを言ったが、私はそんな話に面白い返答なんて出来るはずも無く、怒ってしまった。リースは肩をすくめていたが、どうしてこんなに余裕そうにしているんだろうか。




「何か策でもあるの?」

「いや、まだそれは考えている途中だ。だが、レヴィアタンに勝てないようじゃ、この先に待ち構えている混沌には勝てやしないだろう」

「確かにそうかもだけど……」

「まあ、レヴィアタンが物理も魔法攻撃もどちらも『一応』効くらしいからな。そこはよかったんじゃ無いか?」




 「一応」と言うことは、ダメージはそこまで入らないと言うことだろう。

 私がこれまで相手にしてきたのは、狼や、蛇や、あの肉塊。目視できる大きさだったが、今回はそのスケールが違う。前の敵で、大きい……とかいっていた自分がアホらしく思えるぐらいに大きなレヴィアタンを前にして、私達に何が出来るというのだろうか。




「怖いのか?」

「……怖いけど、リースの言うとおり倒せなきゃ、混沌なんて倒せないと思う」




 倒し方が違うけど、とは言えずにいたが、リースの言うとおりなのだ。

 これから相手にしていく奴は、人でもドラゴンでもないのだから。

とは、言ったものの、こんな大きなドラゴン、レヴィアタンを前にどう戦えば良いというのだろうか。




(徐々に記憶思い出してきたけど、レヴィアタンの討伐って、何か音ゲーだった気がするし、そうでなくても、ヒロインストーリーの大筋は、恋愛一筋って感じだったから)




 この何処に向かっているのか分からない、エトワールストーリーとは違って。

 さすがに、音ゲーでレヴィアタン見たいな大きなドラゴンが倒せたら何も言わない。でも、きっとこれはそんな簡単なものじゃ無い。




(だけど、ここで魔力を使いすぎたらどうなる?あっちについたとき、戦える?)




 レヴィアタンを倒さなければ前に進めないことは分かっている。でも、ここで魔力を消費してしまったら、ラジエルダ王国に着いたとき、私達はヘウンデウン教に対して手も足も出ないかも知れない。その状況は避けたいけれど。

 前を見れば、既にレヴィアタンに向かって攻撃を仕掛ける騎士と、魔道士の姿が見えた。皇族に使える魔道士であれど、攻略キャラとは比べるまでも無い魔力攻撃に私は落胆する。これじゃあ、モブ達に任せていても倒せないと分かってしまったからだ。




「やはり、手も足も出ないか」

「リースもそう思う?」

「優秀な部下ではあるが、相手が悪すぎるんだな。だが、ここで力尽きて貰っても困る」




 リースも状況を理解しているようだった。そりゃそうだ。こういうのは、リースの方が上手だから。

 その場の状況を瞬時に理解して、打開策を考えるのも、リースの得意分野の一つだから。

 でも、この状況をいったいどうやって切り抜けるというのだろうか。




(このままじゃ、船も持たないし、魔力も持たない)




 私も出来るだけ温存しておきたいからという理由と、「聖女様下がって下さい」と言われてしまっているため、前に出て戦うことが出来ない。この場の状況を滅茶苦茶にするのもよくないと。




(ブライトの所も、アルベドの所も攻撃は開始したようだけど……)




 残る船からも、レヴィアタンの腹や、背中に攻撃開始したが、その分厚い鱗は、物理攻撃を通していないように見える。攻撃が全く効いていないというわけじゃ無くて、その身にたどり着くまでどれほどの時間がかかるのか。

 そんなことを考えていると、隣でするりと鞘から剣を抜いたリースが一歩前に歩き出した。私は思わず、彼のマントを引っ張って止める。無意識的な行動だった。




「あ、アンタ、まさか戦いに行くの?」

「当然だろ。いって欲しくないのか?」

「そういうわけじゃ……でも、アンタは司令塔で、指揮官で……」

「そんなの、しながらでも戦えるだろ」




と、リースは、フンと鼻を鳴らす。当たり前の事を聞くなとでも言うその態度にムッとしつつも、矢っ張りリースが出ないといけない状況なのかと私はマントを握る手に力がこもった。


 雨も降り出し、ぐっしょりと濡れる髪。服は私もリースも防水魔法がついているため、濡れている感じはしないが、心なしか重く感じる。




(ぱぱっと倒して、次にいければ良いけど……そうじゃなかったら)




 リースは怖くないのだろうか。あんなにも大きなレヴィアタンを前に平然として。倒さないと前に進めないのは分かっていても、戦いたくないという気持ちが勝る。これじゃダメだと分かっているのに。




「心配するな。エトワール。俺は負けないからな」

「そういう問題じゃ無くて……って、その剣って前から使ってたっけ?」

「ああ、これか?国宝……らしいな」

「国宝!?そんなもの持ち出してきてよかったの?」

「勿論、許可は下りている。無断でもっていくわけないだろう。それに、非常事態だ。女神からの贈り物に頼るしか無いだろう」

「女神からの贈り物……」

「この間、メイドを直した万能薬や、他にも色々あるだろ……説明覚えてないのか?」




 確かにそんなこと言われたことがある気がすると、記憶の朧気な中からどうにか引っ張り出してこようと思った。そうして、ようやく、「女神からの贈り物」について思い出すことが出来た。




(確か、他に全回復させられる指輪とかもあったのよね……)




 各地に散らばったチートアイテムと言うべきもの。そして、リースが持っている黄金の剣はそのチートアイテムの一つらしい。確かに、ただならぬオーラを纏っているけれど。




「その、チートアイテムにはどんな効果が?」

「チートアイテムか……確かにそうかも知れないな。この剣は、まず折れることが無い、刃こぼれがしない。まあ、それだけでも利点なのだが、一番は所有者に幸運をもたらすという効果だな」

「曖昧な表現過ぎて分からない」




 リースの説明が下手なわけでは無いけれど、その幸運をもたらすという曖昧な表現にはイマイチピンとこなかった。折れることが無くて、刃こぼれもしないだけで他の剣とは一線を画すものなのは分かった。魔法で剣を作ったところで、途中で所有者の魔力が切れれば消えてしまうし、相手の攻撃を受け流すことが出来なくて消滅することだってある。だからこそ、リースのその最強の剣は、そういう心配が無いという大きな利点があるのだ。




「確かに表現は曖昧だな。まあ、簡単に説明すれば……エトワールの好きなゲームの言葉を借りるなら、回避率?と言うものが上がるのか。後は、致命的攻撃もかわすことが出来たり……そういうことだ」

「最後面倒くさくなってやめたでしょ!分かりやすかったけど!」




 今度はわかりやすすぎる説明をしてくれたリースは、これ以上自分の言葉で私の好きなゲームで例える事が出来ないと、言葉を途中で切った。

 つまり、幸運=回避率と言うことなのだろうか。それ以外にも、色々と特攻が付き添うなと頃はあるけれど、それを聞いただけで、最強の剣だと言うことは分かった。

 所有者を守る為の剣。その刃は人を傷付けることも出来るのに、守るという矛盾を生じた剣。




(でも、攻略キャラが持ってる武器としてはあってるのかも知れない……)




 そう思うと、私は安心してリースのマントから手を離した。




「そういうことだ。じゃあ、いってくる。エトワール」

「待って!」




 まだ何か? とリースは振返る。

 私は、覚悟を決めリースのルビーの瞳と目を合わせた。




「私も戦うから」





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