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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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13 最後の晩餐じゃない





 広いダイニングに一人。


 目の前に置かれた長机に、誰も座っていない、白い高価な椅子。周りの装飾も心なしか虚しいレプリカに見えて仕方がなかった。

 コトンと置かれた食事を目の前にして、すぐに食べようという気持ちになれなかったのだ。




「どうしたの?食べないの?」

「いやあ……お腹減ってないというか。何というか」

「まるで最後の晩餐みたいね」




と、料理を持ってきたリュシオルはぼそりと呟いた。


 最後の晩餐とか、何というか物騒な事を言うなあと私はリュシオルを横目で見る。目を合わせてくれないのは、自分で言った言葉が不謹慎だと思ったからだろうか。それともまた別の理由があるのだろうか。どちらにしても、失言だったと思っているようだった。でも言われてみれば、最後の晩餐のようなものなのだ。




(明日……か。ラジエルダ王国に攻め込むのって)




 予告された日時。それが明日にまで迫っていた。未だ現実を受け止められずにいて、私は、食事が喉を通らない状態になっていたのだ。

 現実味が無い。言ってしまえば、宗教戦争のようなもので、戦争とついているだけで恐ろしい。戦争とは声を大にして言わないのだろうけど、周りは戦争に行くという感じで殺気立っていた。これが、国の、世界の命運をわける戦いになるだろうから。

 騎士達は皆混沌に自分たちが立ち向かおうとは思っていない。混沌を倒すのはあくまで聖女で、私の役目だと皆思っているのだ。期待、プレッシャーそれらに押し潰されそうだった。

 ガタガタと震える手でナイフを持とうとするが、震えた手では、ナイフを掴むことが出来ず、床にカランと音を立てて落ちてしまう。




「新しいの持ってくるわね」

「……え、あ、ありがとう……ごめん」




 いいのよ。とすかさずリュシオルが新しいナイフを用意してくれる。いつもなら、三秒ルールなら大丈夫とか言うんだけど、そういう言葉を発する気にもなれなかった。

 今までに感じたことの無い恐怖や焦りや不安。それが一気に押し寄せてきて、自分がままならないのだ。




「大丈夫?元気ない……わよね。明日、だから……」

「うん。ごめん。こんなんじゃいけないって思ってるのに、それでも今すぐに逃げ出したいって言う気持ちが勝っちゃって」

「可笑しいことじゃないわ。私だったら耐えられないもの。それを、エトワール様は耐えようと頑張ってる。それだけで凄いじゃ無い」

「リュシオル」




 私を慰めてくれているリュシオルの顔も曇っていた。リュシオルは戦場に行かないし、聖女殿で待っている係。だからこそ、余計に心配しているんじゃ無いだろうか。画工ではいつも一緒だったし、ここに来てからも、結構長い時間一緒にいた。だからこそ、いつ終わるか分からない戦争に行く私と離ればなれになる時間が長い。それは初めてのことじゃないだろうか。


 私も不安。


 聖女殿は復活したが、前の襲撃もあって警備が強化されただけでは無くて、新しいメイドがはいった。呪われているとかも言われたけど、このご時世だから仕方ないと、新しいメイド達も覚悟を決めた顔だった。だからか、顔が強ばっていたけれど、上手くやっているつもりだった。聖女殿のメイド達は皆優しくて、私が偽物か本物か分からなかったときから、優しくしてくれた大切な人達だ。名前と顔も一致するようになって。

 そんな人達を置いていくのも心許ないし、私も行かなくて良いならいきたくない。と言うのが本音なのだ。でも、聖女だからいかなければならない。そんな使命感にかられていた。

 この使命がなかったら、どれだけ楽だろうか。




「ああ、えっと何か違う話しよう!確かに、これ、最後の晩餐みたいだけど、最後にしないから。始まりの晩餐!」

「始まりの晩餐って何よ。変なこと言うのね」

「明るくしようと思ったのにその塩対応何なの!?私に喧嘩売ってるの!?」




 私がそんな風に噛みついて言えば、リュシオルはプッと吹き出した。

 そして、ツボったらしく、私の座っている椅子に手をついて笑いを必死に堪えるように、小刻みに震えていた。確かに変なことを言った自覚はあったけれど、そこまで笑うことかと思ってしまったのだ。

 別に笑っていても良いけどさ。

 そんな風に見ていれば、ようやく笑い収まったのかリュシオルが顔を上げた。目尻に涙を浮べてこちらを見ている。




「何か言いたい事でもあるの?」

「エトワール様って頭は良いのに、変なところで鈍感で可笑しいこと言うのよね」

「頭が良いとそれは別だと思うけど」




 頭が良いという言い方は好きじゃない。だって、皆はじめはゼロだったわけだし、そのゼロから頑張って一をプラスし続けていった結果が今の自分だから。かといって、リュシオルも自分が頭が良いのに私にそんなことを言うのだから、普通に口からでた言葉なのだろう。皮肉とかそう言うんじゃなくて純粋に。




(頭が良いとか……もっと頭がよかったらいいなって思うほどなのに)




 一瞬、家族のことが頭をよぎってまた嫌なことを考えちゃったって私は頭を横に振った。両親は完璧だった。そんな両親に認めて貰いたくて私は……

 そこまで考えて、私はあることを思いだした。




「ねえ、リュシオル。廻って知ってる?」

「廻?誰のこと?と言うか、その名前って、こっちの人じゃ無いわよね」

「う、うん。こっちの人じゃ無い……」




 こっちの人とかいう言い方が斬新で少し戸惑ってしまったが、私はサラリと流して話を戻すことにした。まあ、この様子じゃ知ってなさそうだけど。

 最近やたらと、廻って言う名前の子が……というか、名前だけなんだけど出てきて、一体誰なんだろうと謎が謎を呼ぶ状態になっていたのだ。分かれば何か変わるというわけでも無いけれど。でも、誰か分かってくれとでもいっているようにも思えたから。




「知らない?リュシオルの知り合いに同じ名前の人いたとか」

「聞き覚えが無いわね……というか、何でその子を探しているの?そもそも、此の世界にいないでしょう。私達みたいに転生者なら兎も角」

「そうだけど……転生している可能性だってある訳じゃん」

「どんな確率よ」




と、リュシオルに呆れられてしまった。確かにそうなのだが、何故だか此の世界にいる気がするのだ。女の子か男の子かもよく分からないし、聞いたこともないのに……いいや、聞いたことはあるんだろうけど、顔が思い浮かばないというか。




「その子が、何か関係あるの?」

「え、いやあ……夢に出てくるから、もしかして探して欲しいのかなあとか思って。でも、此の世界にないんじゃどうしようもないよね。あはは」

「……会えるかも知れないのに?」

「さっき、会えないか持っていったじゃん。訂正早くない!?」

「そうね。貴方が、夢の中で何度も何度持って言ったのを聞いて、考え直したのよ。もしかして、エトワール様の言うとおり、探して欲しいんじゃ無いかって……思い始めているわ。私は全く聞き覚えのないけどね。エトワール様の家族だったりして」

「家族?」

「ほら、名前の響きが一緒じゃ無い」

「いやあ、でも……」

「巡と廻って同じ呼び方出来たりしない?」




 言われてみればそうかもだけど、と私は思いながらも、そんな偶然あってたまるかとも思った。あまりにも出来すぎている。




(巡と廻……響も漢字の作りも似てるし……分からなくはないけれど、こじつけ感もあるしなあ……)




 リュシオルの仮説を否定したいわけじゃ無いけれど、その偶然さに驚きが隠せなかったのだ。私の思わぬ視点から突っ込んでくれたのはありがたかったけれど。

 そして、家族。と言われて、私は一人っ子なのに、もう一人いるとでも言うのだろうか。両親に聞こうにもここにはいないわけだし……

 もしも、此の世界に転生していたら、会える可能性はあるわけで。もしかしたら、今回この戦争で会えたりもするかも知れない。分からないけれど。




「まあ、エトワール様はその子を探すよりも重要な任務があるんだから。そっちに集中しなさいよ」

「う、うん……そうだね」

「私は、プレッシャー掛けてるつもりないけれど、重荷になっていたらごめんなさいね」

「あ、ううん。そんなことないよ。でも、リュシオルと離れるのは嫌かなあとかそういう……うん。だから、大丈夫」

「その顔を見てると、大丈夫そうじゃ無いのよ」




と、リュシオルは、またも不安げな顔で私を見つめる。不安そうな顔には、不安そうな顔でしか返せない。


 私は何とかはにかみつつ、リュシオルを見た。




「大丈夫だって。一応、ストーリーからは外れちゃってるけど、何とかなると思ってる!だって、此の世界はハッピーエンドを迎えるじゃん」

「だから、ストーリーから外れてるって言うのよ」

「大丈夫、大丈夫」




 私は自分に言い聞かせるつもりで、リュシオルに言う。私の頑固なところを知っている為か、リュシオルは首を横に振った。もう、何も聞かないとでも言うように、スッとその人実を私にむけて。




「約束覚えてるわよね」

「勿論。世界救ってくるから、ちゃんとお留守番しててよね」

「誰に向かって言ってるんだか」




 そう、リュシオルは呆れたように笑っていた。





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