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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第九章 変化、そして……

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35 不法侵入と共犯





 怖い夢を見た。そう言ってしまえれば、どれだけ楽になったか。




「な、何でお前泣いてんだよ」

「泣いてなんかいない……から」

「いや、それ、どう見ても」




と、アルベドは珍しくおどおどしながら言った。


 私の頬を伝って冷たいものが流れ落ちる。涙が流れているんだろうなって自分でも分かったけれど、それを否定したかった。でも、アルベドがいったせいで、事実を認めるしかなくなった。

 泣いている。怖い夢を見たから。でも、それだけじゃなかった。

 グランツの事とか、トワイライトの事とか、精神が参ってしまって、それが貯めていたものが決壊したんじゃないかなあとも自分で思う。みっともないというか、こんな姿見せたくなかった。アルベドは、カーテンが靡く部屋にスッと入って私の涙を指で拭った。




「泣くなよ。俺が泣かした見てえじゃねえか」

「そうだって、言ったらどうするのよ」

「……いや、んなのなあぁ」




 アルベドは、どう返せば良いか分からないというように頭をかいていた。風に揺れる紅蓮を見ていると、矢っ張り綺麗だなあって何か深い意味もあるわけじゃないのに思ってしまう。燃えるような紅蓮に、いつもこうやって目を惹かれている。




(というか、本当に何で此奴がここにいるのよ?盗み?)




 少しだけ落ち着いた頭が、アルベドが何故ここにいるのか不思議で仕方がないと言い始めた。アルベドが何で皇宮にいるのか。まあ、この感じを見ると完全に不法侵入以外の何ものでも無いんだろうけど、それにしても、こんなリスクを冒してまで、ここに来る理由が分からなかった。




「何で、ここにいるのよ、アンタが」

「別に理由はどうだっていいだろう……」

「何で言い淀むのよ」




 アルベドは、何かを隠すように口を閉じた。私が何かと問い詰めても、口を一向に開かないので、肺一杯に酸素を取り込んで私はその場で叫ぼうとした。それを見てか、アルベドはぎょっと目を剥いて、私の口を覆う。




「お、おい。んな大きな声出して誰か来たらどうすんだよ」

「じゃあ、アンタがここに来た理由教えなさいよ」

「それ聞いてどうすんだよ」

「スッキリするだけ」




 そういえば、アルベドは、はあ……と大きなため息をついて頭が痛いと言うように額を押さえた。頭が痛いのはこっちだ。

 色々問題があるから、こんな些細な事でも気になってしまう。全部が全部怪しい行動に見えて仕方がない。目に見えるもの全てを疑ってしまうのだ。

 アルベドが口を開いてくれるまで待っていると、彼はようやく観念したように両手を挙げた。




「お前にこの間の事伝えに来たんだよ」

「この間って……教会でのこと?あれってもう、済んだ事じゃん。それに、色々報告もしたし、報告も聞いたしで全部……」

「ラヴァインのことだよ。知りたくねえのか」




と、アルベドは少しきつい口調で言った。どうして、そこでラヴァインが出てくるのか。と言うか、手紙で伝えてくれればいいのに、何でこんな所まできているのかが不思議で仕方がない。


 でも、きっとアルベドの事だから直接言わないといけない理由があるのだろう。




(教会の事って、けっこうまえのようにかんじるのにな……)




 数日前の事なのに、もうとおの昔のことに感じてしまう。今は、一日一日が早いせいか。時間の感覚も忘れてしまうほどだった。

 アルベドは「それで、聞くのか、聞かねえのかよ」と脅すように言ってきたため、私はちらりと彼を見た。満月の瞳が私を覗いている。




「……聞きたいって、何を話してくれるの?」

「そりゃあ、色々。ヘウンデウン教の情報とかな」

「何で、アンタが知ってるのよ。まさか、アンタもヘウンデウン教の……」

「なわけねえだろ。つか、何だよ『も』って、他に誰かいたって言うのか?」




 アルベドはそう聞いて、首を傾げた。

 完全に口が滑ったと思って私はハッと口を塞ぐ。でも、それは遅くて、アルベドは「誰かいたのか?」と追求してきた。

 本当はいわないつもりだったし、アルベドのせいもあるのかも知れないから、とグランツの事を話すか迷った。別に彼は自分の意思でヘウンデウン教の方に、トワイライトについていったんだし、裏切り者であることは確かだったんだけど。

 アルベドが話せというように見てくるので、私は話を少し逸らすことにした。




「と、というかアンタ何でベランダからは行ってきてんのよ」

「正面から入れるわけねえだろうが。ちったあ、考えろよ」

「何よ、私が悪いみたいに!後、ベランダから勝手に入ってくるって、ほんと兄弟揃って同じことするのね」

「兄弟揃って……って、ラヴァインの野郎も同じことやったのか?」




と、アルベドは信じられないというように顔を歪ませた。それは、自分がラヴァインと同じ事をしていることにたいしてだったのか、ラヴァインが勝手に入ってきたことにたいしてだったのかは分からないが、許せないというような、あり得ないというような複雑な顔をしていた。


 そういう所は、兄弟らしくないけれど、やっていることは兄弟一緒だった。




(差別するわけじゃないけど、闇魔法の人達って不法侵入することに罪悪感とか無いのかなあ……)




 そう疑ってしまうほどに、不法侵入が多い気がする。

 アルベドは、まだ信じられないというように頭を抱えていた。アルベドがもし、これを無自覚でやっているのなら直した方がいいと思う。不法侵入は犯罪だから。




「……はあ、彼奴と一緒のことやってたのか」

「何でそんな、嫌そうなのよ」

「嫌だろ。一緒のことやってんだぜ?」

「確かにそうかもだけど。あっちがやっていないにしろ、これは立派な犯罪だからね?私が目撃者だったからいいけど、違ったらきっと通報されてるわよ」

「と言うことは、エトワールは俺と共犯って事か」

「何でそうなるのよ!」




 声がでけえって、とアルベドに再度口を塞がれつつ、私はアルベドを睨み付けた。アルベドは、何故か嬉しそうに笑っていたが、人が来ていないか確認しているようだった。




(何で共犯なの?可笑しくない?)




 いや、普通なら通報するようなって話だから、それをみすみす見逃している私は、確かに共犯と言われれば共犯なのかも知れない。でも、私を巻き込まないで欲しい。




「まあ、それはいいとして、話戻していいか?」

「戻さないで欲しいんだけど」

「気になるだろ……まあ、お前の表情から察するに、『誰が』っていうのは分かってんだけど」

「じゃあ、聞かなくてもいいじゃない」

「聞きたいだろ。お前の口から……つか、話したいって顔してるんだから、吐いちまえよ」

「犯罪者に自主させるみたいな言い方……何でよ」




 誘導尋問だ。と思いながら、私はアルベドをちらりと見る。彼なら、話を真面目に聞いてくれそうではあった。そして、大方予想がついているのなら、少しはなしを省略しても大丈夫だと。




(まあ、そういう問題じゃないんだけど……でも、話を聞いて貰いたいのは確か)




 リュシオルやブライトにも話したけれど、それでもまだ誰かに聞いて欲しいと思った。彼女たちには、状況や何でそうなったか、とだけしか伝えていないから、裏切られたショックとか、どうすれば良いか分からないという不安とか……そういうのを聞いて欲しいと思っていたのだ。誰でもよかったわけじゃないけれど。

 私が黙っていても、アルベドは何も言わなかった。私が言うまで待ってくれる……そんな顔で私を見ていたのだ。


 しばらくの間沈黙が流れて、私はやっと言う決心がついた。




「……裏切られたの。グランツが……トワイライトについて……何でかな。私、ちゃんとしていたはずなんだけどな」

「そうか」

「本当は辛かったし、行かないでって言えればよかった。でも、言えなかった。足がすくんで。グランツの目が怖かった。私、何も知ってなかったんだなあって……どうすればいいか不安で」




 またじわりと涙が滲んできた。泣きたくないと思っても溢れて零れそうな涙は、止ってはくれない。




「そうか、よく耐えたな。エトワール」

「ある、べど……」




 ふわりと、頭に温かいものを感じた。顔を上げれば見たこと無いぐらい優しい顔で私を見るアルベドの顔があり、私の頭には手袋を取った手を置いて優しく撫でていたのだ。

 アルベドは少し腰を折って私と目線を合わせた。何だか、泣いている子供に優しくする保育園の先生みたいで笑えてきてしまう。子供扱いされていると言うことに関して少し腹が立ったが。




「おっ、泣き止んだか?」

「泣いてない」




 そう返せば、アルベドは意地悪に笑った。笑えること何て一つもないのに……そう思っていると、アルベドは激しく頭を撫でた後フッと私から離れていった。

 空に浮かぶ月を目を細めて見ながら、ぽつりと零した。




「じゃあ、俺も言った方がいいな。俺と、お前を裏切った騎士との関係を」





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