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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第一章 悪役に転生なんて聞いてない!

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35 殺人現場




「広すぎ……!」




 別荘にある屋敷の中は兎に角広く、廊下の端は分からないほど長かった。私は疲れ果てた身体を引き摺りながら長い廊下を歩いた。

 赤いカーペットはシミ一つなく、金色の装飾が施されており踏みつけるのをためらうぐらい美しかった。しかし、この廊下……異常なまでに扉があり、どの扉が正解なのか全く見当もつかない。


 あの時、リースにどの部屋に入ればいいのか聞けば良かったと今更ながらに後悔した。

 彼を待とうにも、かなり入り口から歩いてきてしまったため戻るのも辛い。かといって、廊下に座っているのもどうかと思い、取りあえず近くにあった部屋にでも入ろうかと考えた。

 何処に入ったとしても、きっと怒られないだろう。それに、別荘の敷地内にいれば見つけてくれるだろうし……

 私はそう思って、適当に一番近くの部屋のドアノブに手をかけると、ガチャリと音がして中に入ることが出来た。

 どうやら鍵はかかっていなかったらしい。




「お、お邪魔します……」




 恐る恐る、誰もいない部屋にそう言うと私は足を踏み入れた。そこは、客室のような場所らしくベッドや机、ソファー等があった。しかし、暗くてよく見えない。

 暗闇に包まれた部屋には静寂が漂っており、私の息遣いだけが響いていた。




(暗すぎ、静かすぎ、無理……!何か出そう!)




 私はそう思いつつも、とりあえず電気を付けようと思って壁を探したが見当たらない。

 仕方ないので、月明かりがほんの少し漏れている窓の方へと向かいカーテンを開けようと手を伸ばした。

 その時だった。後数歩で窓に手が届きそうと言うところで、足下に違和感を感じた。暗くてよく見えないがそこには何かが横たわっていた。躓きそうになった為、後ろに一、二歩下がる。




「……な、何?」




 倒れている何かの隣を歩くと靴に、ねっとりとした感触を感じ、私は思わず飛び跳ねそうになる。しかし、どうにか我慢し、意を決して隣を見るとそれは人間だと分かった。

 足下に広がっている水たまり……色は見えずとも、それがきっと血であることを私は悟った。

 足下に転がっているのは、人……死体なのだろうか。そう考えると、途端に恐怖が襲ってくる。




(うそ、嘘…嘘……ッ!)




 心臓が激しく脈打ち、呼吸が荒くなる。私は震える手で口を覆い必死に落ち着こうとしたが、一向に収まる気配はなかった。

 早くここから立ち去らなければ、と本能的に思い一歩ずつ後退していく。すると突然、後ろから口を塞がれ、抱き締められるようにして何者かに拘束された。

 パニックになった頭では、状況が全く理解出来ずにいたが、次第に自分が誰かに捕まったということだけは分かってきた。

 抵抗しようにも、恐怖で手足が思うように動かない。




(もしかして、暗殺者……?でも、何でここに?)




  私を抱きしめている人物の顔を確認するために振り返ろうとすると、耳元で低い声が聞こえてきた。




「動くな」




 そして、その声は聞き覚えのある声で一瞬のうちのサァ……と血の気が引いていく。

 こんな時なのに妙に冴えた頭が数日前のリュシオルとの会話を思い出させた。




『まっ、誰でも良いけどさ。私が攻略するわけじゃないんだし。ああ、でもアルベドは注意ね』

『どうして?』

『ヒロインストーリーでは、公爵家の公子として出会うけど、エトワールストーリーでは暗殺者として出会うからよ』




 そうだ、あの時、確かに彼女は言っていた。


 もしこれが、アルベドと出会う為に用意されたメインストーリーであれば納得がいく。 

 現に、こうして彼……だと思う、後ろの人物は私を殺さない。目撃者なんて殺して当たり前だろうから。


 目の前には倒れた人が、そして後ろには暗殺者と思われる人物が。

 私は自分の命が狙われていることに気付くと、これから起こるであろうことに身震いした。

 私が、ゲームのメインキャラデある以上簡単に殺されはしないだろうが、余計なことを言えば殺される可能性は十分にある。

 本来なら、公子としてヒロインである聖女に挨拶に来る筈のアルベドと会うのはまだ先だと思っていたが、もうそんな悠長なことは言っていられない。今はこの状況をどう切り抜けるかだ。




(……んなの無理に決まってるでしょう!嫌だ、助けてリース様!)




 推しのリースの顔が浮かんだ。あの眩い金髪に赤い瞳。私の理想の皇子様はきっと助けに来てくれるはず。と……それまで、何とかしないと。

 しかし、そう思ってはいても私の心は完全に大地震が起き震え立っているのさえやっとであった。


 二次元のヒロインなら、こんな状況でもしっかり二本足で立って「貴方は誰?」的なことを恐れ知らずに言うのだろうが私は違う。

 私はただの一般人で、ヒロインでも何でもない。ただの二次元オタクである。

 勿論、血なんて見慣れているわけないしまずこんな暗い部屋に一人という状況すら怖いのだ。なのに……




「……んぅー!」




 首に当たる冷たく鋭い何かに私は小さく悲鳴を上げる。それがナイフか剣か何かは分からないが、殺傷性のある物体であることに気づくにはそう時間がかからなかった。

 少しでも動いたら刺されるんじゃないかと思うと、私は生きた心地がしなかった。

 すると、私を抱きかかえていた腕が緩み口元にあった手が離れた。


 私は自由になった瞬間、勢い良く振り返り距離を取ると、相手を見据えた。

 暗闇に慣れた目にはぼんやりとだが、相手の姿が見えた。しかし、相手は妙な仮面を付けていて顔まではわからない。分かるのは、長い髪に高身長と言うことぐらいだろうか。

 私はもう少し距離を取ろうと後ろに下がるが、床に倒れていた人物に躓きその場に倒れてしまう。




「……いたた、ひぃッ!」




 水たまり……いいや、この場合血だまりか。血だまりに倒れ込んだ私は急いでその場から離れようとしたが、足がもつれて上手く立ち上がることが出来ない。

 手にねっとりと粘着質な液体が付着し思わず悲鳴を上げる。

 私は必死に立ち上がろうと手をつくが、中々足が言う事を聞かない。焦れば焦るほど、身体が重くなっていく。




「誰だ、お前」




 そう言いながら、男は私に向かって歩いてくる。逃げなければ、そう思うが足が鉛のように重い。




「ひっ、こ、来ないでぇ……」

「あ?何だって?」




 男の問い掛けを無視し、私は必死に足を動かす。

 近づいていくる男の頭上を見上げれば、やはりあった好感度の表示。好感度は0であった。




(やっぱり、アルベド……ッ!アルベド・レイ!)




 これで確信は持てたのだが、今更気付いたところで意味はない。

このままでは私は死ぬ。しかし、足は一向に動かず私は涙目になりながらも、どうにかしてこの場を切り抜けようと頭をフル回転させる。




(どうしよう……どうしよう!)




 考えている間にも、刃物片手に彼は近づいてくる。




「おい、聞いてんのか」

「聞いてます、聞いてます。だから、殺さないでください、痛いのもグロいのも無理です!やるならひと思いに……!って死にたくないですけど、出来るのであれば殺さないでいただきたく、まだ私やり残したこと一杯あるので……!」




 私は泣きべそをかきながら叫ぶように言った。口から漏れに漏れた本音は止ることなく溢れ流れ、命乞いなのか何なのか、自分でも分からない言葉ばかりを吐き出した。

 兎に角死にたくない。殺さないで欲しいと必死に訴えた。


 すると、目の前の男がピタリと動きを止めたかと思うと、笑い始めた。

 それはもう大爆笑。お腹を抱えて笑う男の姿に、私は目を丸くするしかなかった。

 暫く笑った後、息を整えた男はようやく私を見て口を開いた。

 そして、その言葉に今度は私が固まる番だった。




「鍵……閉め忘れたっけな」

「はい!開いてました!」




 私は、即座に答えた。


 そもそも、ここは皇太子であるリースの別荘で許可された人以外入れないはずだ。外でパーティーが催されていても、関係者以外立ち入り禁止なはずだ。この倒れている人がどういう経緯でここにいるのか、倒れているのか、使用人なのか関係者なのかは分からないが、そうでなければ不法侵入である。


 そして、何故アルベドがいるのか。それが一番の疑問である。

 今日のパーティーには光魔法を扱える貴族しか出席していないとリースが言っていたはずだが……




「フッ……ハハハッ!」




 すると、目の前の男は再び声を上げて笑い出す。


 さっきまで、あんなに恐ろしかったというのに今は何故だか恐怖を感じなくなっていた。

 私を殺そうとしていたはずの人物は、今では何故か楽しそうに私の目の前にいる。

 一瞬自分に向けられていた殺意が消えたため、ほっとしたのもつかの間、彼の目は鋭く尖り私を射貫いた。




「まあ、でも目撃者は殺すってのが定石だよなぁ」

「へ?」

「俺も、こんなことしたくねぇよ。でも、お前が勝手に入ってきたんだ。仕方ねぇよな」

「待って、待って……!」




 私の前で屈み、ナイフをちらつかせる。

 殺される、そう思った時、脳裏に浮かび上がったの好感度の三文字。




(そうだ、好感度を上げればいいんじゃない?)




 先程からずっと思っていたこと。

 しかし、どうやって?と言う問題が浮上してくるのだ。当たり前だ、この状況で2や3あげたところで状況は変わらないだろう。それに今、私にそんな余裕はない。だが、ここで好感度を稼いでおかなければ私は確実に死ぬ。


 それこそ、バッドエンド一直線まっしぐらだ。

 私は意を決して口を開く。まずは、彼の名を聞くところから始めよう。


 私はゆっくりと深呼吸をして、吐いて……




「アルベド」




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