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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第九章 変化、そして……

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33 信頼とは




「エトワール様大丈夫ですか!?」

「大丈夫に見える……?」

「見えないです。来てみて正解でした……まあ、急に呼び出されたので吃驚したんですが、エトワール様の呼び出しとあらば、来ないわけには行かないですからね」

「ブライト、ありがとう……」




 女神の庭園は、私の沈んだ心とは真逆に、晴れ晴れとしていた。それがむかむかしたというか、全くここは平和ボケしていると、いつ来ても思う。

 グランツがトワイライトと消えてしまい、それを誰にいうことでもなく、私はその日は皇宮の一室に閉じこもっていた。リースには心配されるし、リースが心配する空回りも心配する死で、迷惑かけた自覚はある。でも、誰かと顔を合わせることが出来なかったのだ。

 グランツに裏切られたような感じだったから、かなり心を抉られたというか、気持ちが晴れない。


 久しぶりに、自分は悪役聖女だから攻略キャラに裏切られるのだろうかと、もっともな理由をつけようとした。でも、理由を幾らつけようと思っても、つけきれなかった。

 そうして、次の日。さすがにこのまま閉じこもっていても仕方ないと、昨日のうちにブライトに手紙を出したので、女神の庭園で待ち合わせをしたのだ。

 リュシオルには全て話してある。彼女は同情してくれて、頑張ったねと言ってくれた。その言葉がどれだけ温かくて優しいものだったか。私は彼女に全てをぶちまけて、リース達に心配しないでと伝えてと言って皇宮を後にした。まあ、またどうせ戻ってくることになるけど、リースに心配をかけたくなかったからだ。




「それで、どうしたんですか?体調が優れないような顔していますが」

「……う、ブライト」




 どこから話せば良いだろうかと、私は会話の切り口を探した。

 ブライトはただ呼び出されただけで、その理由を知らない。私も証拠に残る物は出さないと決めて、ただ手紙には話したいことがあるから来て欲しいと書いた。それで、侯爵代理……ブライトを呼び出せるなんて本当に自分の立場がイマイチ分からなくなっていた。

というのは置いておいて、ブライトにどうやって説明すればいいか迷っていた。


 ブライトがこれを聞いたらどう思うだろうと思ったからだ。彼が、グランツを敵に回すと厄介だと言ったから、彼が今敵に回ったことを知ったら、絶望するのではないかと。でも、誰かに話さないと、と思っていたし、最もブライトには話しておかないと、と思ったのだ。




「何かあったんですよね。じゃなきゃ、こんな風にエトワール様が僕を呼び出すことはないので」

「わ、私のことなんだと思ってるの!?」

「どちらかと言えば、来てくださるので。なので、今回は珍しいと思ったんです。何かあった、だから僕もこうしてきたわけですし」




 ゆっくりでいいので、話してください。とブライトは優しく微笑んだ。安心させるような笑顔は、私の心を温かくする。

 ブライトなら全部聞いてくれると私は丸太に腰掛けて息を吐く。




「実は……昨日、グランツが」

「グランツさんが?」

「えっと、トワイライトと一緒に消えてしまって」




 私は口ごもりながら言った。別に私が悪いことしたわけでもないのに、責められそうで、私が悪いと自分で自覚しているからそんな風に言ってしまった。

 ブライトの顔は険しくなって、落ち着いたトーンで「そうですか」と呟いた。




「グランツさんが……それに、トワイライト様も」

「トワイライトは行動が制限されているって訳じゃなかったみたい。前も会ったし、自由に動き回る立場にいるって……何だか、グランツにもトワイライトにも裏切られたような気がして、私……どうしたら良いか分からなかった」

「エトワール様……」




 ボロボロと涙があふれ出した。泣かないと決めていたけれど、矢っ張り堪えたのだ。

 グランツの事を信頼していなかったわけじゃないし、心を入れ替えたんだと信頼していた部分があった。だからこそ、今回何でまたトワイライトについていったのか理解できなかった。私の敵にはならないけれど、敵側につくみたいな。よく別れないことを言っていた。何でこうなったのか、何処で間違ったのか、私には分からなかった。答えが欲しかった。

 ブライトはいきなり泣き出した私におどおどしながらも、側に来て背中を撫でてくれた。子供をあやすようなその優しい手つきに、少しずつ冷静さを取り戻す。でも、その心の痛みは消えることなかった。




「そんなことがあったんですね。僕が側にいることが出来れば……もしかしたら」

「ブライトのせいじゃないし、ブライトがいてもどうなったか分からない。グランツ、前から心は決まっていたみたいな顔してたから……」




 私も引き止められなかった。私の言葉ですら届いていないような、そんな感じだったから。




「どうしよう。グランツが敵側につくって大変なことなんだよね。あのユニーク魔法とか、第二王子っていう元身分とか、その他にも色々」

「落ち着いてください、エトワール様。まずは、一旦落ち着きましょう」

「落ち着けないよ!」




 頭では冷静にならないといけないことは分かっている。ブライトの言うことはもっともだ。でも、あふれ出したら止らなくて、私は胸が張り裂けそうだった。




(はあ、もうイライラする!)




 泣きたい気持ちが、だんだんとイライラと怒りに変わって来て、私はその場で発狂してしまう。ブライトは、とうとう壊れたか、見たいな顔をして肩をふるわせていた。




(ああ、もう何!?裏切られたなら、グランツの事切ればいいじゃない!今に始まったことじゃないし、そもそも期待も何もしていない!)




 この世界が、乙女ゲームの枠から外れてるんじゃないかと思ったときから、恋愛なんて期待していなかった。リースぐらいしかオープンにしている恋愛感情向けている攻略キャラを知らない。向けていてくれたとしても、わかりにくい。恋愛経験遥輝のをノーカウントとするなら、ゼロに等しい私が、わかりにくい好意に気付くわけないのだ。


 本当に腹立ってきた。




「え、エトワール様?」

「ブライト、私、どうすればいい?もう、あの裏切った護衛騎士のことは仕方ないとして、これから魔法の特訓をしていって、ヘウンデウン教を倒せると思う?」

「そ、それは、何とも……努力次第かと」




 もの凄く答えにくい質問をしてしまった事に対して謝罪したかったが、生憎今そんな余裕はなかった。グランツへの怒りがたまっているから。

 そうでなくとも、元々口下手で何をしたいか分からなかったのに、今になってやりたいことがあるから一旦離れますとか意味が分からない。私を舐めているとしか思わなかった。

 それに、まだ何処か彼への信頼が捨てきれていない私がいるのも、自分で腹が立つ。

 いつか戻ってきてくれるんじゃないか。そんな淡い期待を抱いてしまっているのだ。

 そうして、あっちにはトワイライトとグランツと、復活間近の混沌がいる。あっちの戦力は相当なものになってしまっているのだ。ラヴァインや、ブライトの父親のことも考えると、かなり、こちら側が不利なのは見て分かる。こちらは相当策を立てないといけないと。




(どうにか出来るのは、私達だけ……)




 シナリオはもう破綻している。だから、どう動けば良いか何て分からない。皆混乱しているし、状況を正しく整理できないだろう。だとしても……

 自分でも情緒不安定になっているのは分かっていた。言っていることが支離滅裂で、しっちゃかめっちゃかしている。私こそ冷静にならないといけないのに、其れができていない。




「ブライト」

「はい、何でしょうか」

「アンタが味方でいてくれてよかったって思ってる。前はね、信頼してなかったけど、今は信頼できる大切な人だって」

「エトワール様」




 ブライトの瞳が揺れた。


 私はそんな美しいアメジストを見ながら思う。グランツよりブライトの方が信頼できなかったのに、今は逆になってしまっているのだ。それに、彼らはこの間まで共闘していた仲。本当に、ブライトの方も辛いと思う。皆辛いのだ。

 だからこそ、グランツを説得させてこちら側に戻すことも、トワイライトを取り戻すことも、世界を救うことも、全部視野に入れないといけない。

 勿論、私の力だけでは出来ないと思うけど。




「ブライト、力を貸して。きっと、私一人じゃ無理だろうから」

「勿論です。エトワール様一人に無茶などさせませんから。何処までもついて行きます」




 そう言ってブライトは膝を折ってまるで、騎士が忠誠を誓うように頭を垂れた。

 それは、本当に自分の信頼を相手に示すようだった。




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