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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第九章 変化、そして……

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21 ラヴァインの思惑




 何でここに此奴がいるのか、嫌がらせか、夢かと色々考えたが、目の前に血のように赤黒い紅蓮をみていると、きっと夢ではないのだろうなと薄々気づいてしまう。




「久しぶりって言うほどじゃないよね、エトワール」

「……何で、ここにいるの」




 この世界にきて数日、聖女のためのパーティーがあると言って、皇族の別荘に行ったことがあった。そこで、休むために部屋を探していて、入った部屋の床に死体が転がっていた。それを今でも鮮明に覚えているし、そこでみた真っ赤な紅蓮も脳裏に焼き付いて離れない。

 そうして今、目の前で神父の命乞いもいいところに、ゴトンと切り落とされてしまった。悲鳴を上げるのも忘れ、目の前の男をみる。神父の為に悲鳴を上げてあげればよかったが、先ほどの肉塊や、それまでの戦いで結構な数の悲劇を目の当たりにしているため、言い方は悪いし、不謹慎極まり内の招致で言うが、またか。という感じだった。見慣れてしまった。だが、命が目の前で散ったというのは、儚いことだと思う。


 それはいいとして、目の前でそんな心ものないようなことをした人物を私は睨み付ける。

 ニッと細めた濁った満月の瞳は、私しか捉えていないようだった。

 グランツと、ブライトは私を守るように前に立ってくれ、私はそのまま後ろに下がる。


 ラヴァイン・レイ。もう顔を合わせるのも何度目かという感じで、彼の印象は強いし、ラヴァインの兄があのアルベドだというのだから、記憶にないわけなかった。この間も、北の洞くつで不本意ながら助けてもらった身。そして、今や攻略対象の一人。




(攻略対象とか、もうそういう次元じゃないのよ、此奴は)




 少しでも人を殺したことに罪悪感を覚えるような輩ならまだいいのに、損なのも絶対これっぽっちも思っていないだろうと、私はラヴァインのことを思っている。もしそんな心があるのなら、ヘウンデウン教に入っていないだろうし、今回のこれだって。




(そうよ、此奴が現われたことに驚いている場合じゃなくて、此奴がした事が原因なのよ)




 神父を唆したのは此奴かどうかは知らないが、この神父に力を分け与えたのはラヴァインだった。最後、捨て駒として、ゾンビのような人達に神父を襲わせたのもラヴァインだろう。かすかにあの時ラヴァインの魔力を感じた。




「初めまして、ですか。ラヴァイン・レイ卿……」

「どうだろ。ブリリアント卿とは、会ったことなかったかも知れないね。それに、俺はすこぶる光魔法の魔道士が嫌いだ」




と、ブライトが相手の出を伺いながらそんな質問を投げる。ラヴァインはあどうでもイイというように、サラリと受け流したが、最後語尾が少し強かったところをみると、光魔法の魔道士達に多少の恨みがあるようだ。元々、光と闇の魔法は仲が悪いから。


 そんなブライトとの会話もそこそこに、ラヴァインは私の方を見た。




「な、何」

「俺と会えたのが、そんなに嬉しいのかなあって、思って。そうやって、後ろに隠れてるって言うことは、恥ずかしいんじゃないかなって、ねえ、エトワール」

「なわけないでしょ!何でアンタなんかに!」




 口車に乗せられて感情をぶつけたら、このままずるずる流されるんじゃないかと思って、自分を落ち着かせる。苛立つこの言い方は、アルベドに似ているなと、本当に兄弟なのだと思い知らされる。悪巧みはラヴァインの方が上な気がするが、度が過ぎる。まあ口調敵には、ぶっきらぼうで無い為、柔らかみを感じるが、その真意は謎だ。


 私がブライトの後ろに隠れているのも、別に隠れたくて隠れているんじゃなくて、そうであったとしても、ラヴァインみたいな危険人物の近くに何ていたくない。




「そもそも、アンタのせいでこうなっているんだからね!」

「俺のせい?何が?」

「神父を唆して、力を貸して……沢山の犠牲者を出した」




 そう私が言うと、ラヴァインは考え込むような仕草をした後、「本当に俺のせい?」と私やブライト、グランツを値踏みするようにみた。




「犠牲者って、あの肉塊を殺さなければ、此奴らは死ななかったわけだし、俺のせいにされても困るなあ。俺は何もやっていない。ただ、力を与えただけ。そして、殺したのは君たちだ」




と、屁理屈のようなことを言う。


 だが、それは私達に大きなダメージを与えた。罪の意識を植え付けられた感じがして、心地が悪い。

 目をそらしちゃいけないと思いつつも、目を逸らそうとしていた。それが途端に引き戻されて、現実をみろというように突きつけてくる。やり手だとは思うけれど、相変わらず悪趣味だ。




(そうかも知れないけれど、その原因を作ったのはアンタだっていってんの) 




 何を言っても論破されそうな気がして、私は口にしなかったが、ラヴァインは私の心中を察するようにニタリと口を開いた。




「まあ、エトワールは何もやっていないだろうけど、そっちの二人はどうだろうね。何が悪か正義かなんて、その人次第じゃん。現に、その神父は自分が正義だと思って動いていたわけだし。正義とは違うかもだけど、自分が優先、自分のためにって動いていたわけだし」

「確かにそうかもだけど」




 正義と悪なんて立場が曖昧なものだ。正義と正義がぶつかるわけだから戦争が起きるわけだし、その人の主張だってあるはずだ。自分は周りに迷惑をかけていないと思っても、かけていることだってある。そう言いたいのは分かるけれど。

 ブライトとグランツの顔はよく見えなかった。でも、罪の意識を抱いているに違いないだろうし、でも、此奴の言葉に耳を傾ける必要はないからとも言いたかった。そのせいで、傷つく必要なんてないから。




「どっちでもいいけどさ。俺には関係無いし。けど、此の男が勝手にエトワールに触れようとしたのは許せなかったな」

「アンタに別に頼んでない」

「あっそう?でも、エトワールちょっと嬉しかったんじゃない?」

「誰が!?」




 ラヴァインはクスクスと笑っていた。からかわれているのは分かっているけど、文句を言いたくて口を開く。すると、押さえて下さい。とグランツに止められた。




(あったまくるのよ、此奴!)




 そう思っていると、ピコンと機械音とともに好感度が上昇した。人をからかって、怒らせてそれで好感度が上がるなんて本当に性格が最悪である。

 此奴の好感度が上がっても嬉しく何てないのに!




「……ふーん、で、まあいいけどさ。珍しいね」




と、ラヴァインは目を細め、グランツの方を見た。グランツはそんなラヴァインの言葉にも行動にも何も興味を示さなかった。私を守るようにずっと剣を構えて、その神経を研ぎ澄ましている。




「何が、珍しいの」

「エトワールの事じゃなくて、そっちの君。何で、エトワールの護衛なんてやってんの?」

「エトワール様を守ると誓ったので」




 ラヴァインの質問に対し、グランツはばっさりと切り捨てるようにそう答えた。ラヴァインは、そうじゃないんだよ、とでも言うように頭を押さえた。




「俺が言いたいのはそうじゃなくて……」

「貴方のような人が、エトワール様に話し掛ける何て非常識にもほどがあります。そんなお方じゃないんです。エトワール様は」

「……あー面倒くさいタイプだ」




と、ラヴァインはグランツの事を言う。


 グランツは怒りも何もしなかったが、ぼろくそ言われて良いのだろうかと。

 でも、ラヴァインが他の人に関心を持つなんて珍しくて、何か裏があるのではないかと思った。ブライトは、心配そうに私の方を見ていた。心配してあげて欲しいのはグランツなんだけど……そう思って、グランツに顔を向ければ、彼の翡翠の瞳が鋭くなっていた。


 ブライトもグランツもその髪色はまだグラデーションがかっており、覚醒の効果が続いていることが分かる。これなら、ラヴァインにも二人がかかりだし勝てるんじゃないかと思った。けれど、手を出さないのは、相手の出を伺っているからか。




「俺と話したくないって言うのは、でも分かるかも」

「……はい、貴方と話す理由も何もありません。その汚い口で、エトワール様に話し掛けにこないで下さい」

「エトワールにご執心って所か……まあいいや。でも俺に余計なこと言われたくないって感じにも受け止められるけど?」




 そうラヴァインは言って三日月型に口を開く。

 ゾッと背筋に冷たいものが走る。それは、ラヴァインの不気味さではなく、グランツの殺気だった。どうにか押さえようとしているのだろうけれど、漏れ出たそれは留まることなく漂っている。




「グランツさん……?」




 ブライトも彼の様子に気がついたのか、ようやくグランツの心配をする。グランツが握りしめている剣はガタガタと振るえている。




「闇魔法の奴らを恨んでいる。それも、尋常じゃないほどの殺意を。でも、それってさ、俺じゃないよね。グランツ・グロリアス」

「黙れ、貴様の兄、アルベド・レイだけは、俺は絶対に許さない」




 そういったグランツは、私の知るいつも無表情な彼じゃなかった。





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