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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第九章 変化、そして……

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18 新しい強化魔法



 それでも、戦況は劣勢だった。


 あのドロドロと溶けた肉の塊は、切っても切っても切りがなく、すぐに再生してしまうため、物理攻撃はほぼノーダメージと言っても過言ではなかった。だが、再生速度は初めに比べると、遅くなったような気がするため、攻撃をしても意味がない。とは一概には言えない。だが、こちらの体力の問題もあるのであまり得策ではないと思った。




「光の弓矢!」




 狙いを定め射る。跳んでいった矢は肉塊の身体に突き刺さるがすぐに消滅してしまった。魔法攻撃もそこまで効いている感じはなかった。

 魔法攻撃で、肉塊の表面に浮き出た顔に当たれば、もの凄いマンドラゴラのような悲鳴を上げて顔が歪んだ。元々絶望に歪んだ顔だったため、それが一層しわくちゃになり、この世の全てに絶望したと言わんばかりの顔になった。こういう状況じゃなくて、フィクションとか映画であったら笑ってしまっていたかも知れない。だが、これは現実だった。




「どうすれば……ブライト、核は見つかった?」

「いいえ」

「……ッ」




 反対側から攻撃をするブライトに、肉塊の核が見つかったかと尋ねたが、彼はまだ見つからないと、風魔法を付与しながら肉塊を様々な角度から観察していた。もし、あの肉塊の中に核があるとするなら、あの肉塊自体、表面は何でもかんでもとかす胃酸のようになっているため、触れただけでもおじゃんになってしまうだろう。それに、いつあの液体が飛んでくるかも分からない。


 会話をしつつ何とかかわしているが、こちらも体力の限界が近かった。

 界外から隔絶された教会の中で、逃げることも出来ずただ無様に走り回るだけ。肉塊の大きさは遥かに人を超えており、私達3人が並んでも飲み込まれるぐらいの大きさだった。ただ唯一の救いとすれば、あの肉塊の攻撃と動き自体は遅いことだけか。




(だからといって、必勝法があるわけでもないし……)




 どれぐらいあの化け物と交戦しているのだろうか。もう時間の感覚も手の感覚もなくなってきた。魔力は残っているものの、温存しなければと思いむやみやたらに撃つことは出来ない。




(本当にこのままずっとここから出られなくて、あの化け物と閉じ込められていないといけないって事?)




 そう考えただけでゾッとするし、あんなのと一緒にこの狭い空間に閉じ込められていたくないと思った。息苦しいし、あの肉塊はほんの少しだが生臭いにおいがする。人が腐ったような腐敗臭と言ったらいいだろうか。性根も腐っていれば、身体も腐っていると、本当に腐りきった人間の末路を表しているようだった。


 欲望を、負の感情を暴走させ、人ならざるものにする。


 それがヘウンデウン教が生み出した技術なのだろう。それを自分たちの手で促進させるという。ラヴァインもそれに関与しているだろうし、実際目の前であの化け物に変わるところを見てしまったから、此の世界って魔法があることにくわえて何が起るか分からない、本当にファンタジーの世界だと思う。でも生々しい汚い人間関係だったり政治はあるわけで。




(まあ、ラスター帝国は違うんだけど)




 ブライトに周りの国のことを聞くと、どうもそういう風に考えるしかないなあとかも思う。




「……どうすれば」

「エトワール様!」




 魔法攻撃を撃ち込みながら、他に策はないかと考えていると、不意に私の名前をグランツが呼んだ。何か言い策でも思いついたのかとみれば、グランツは私の方によってきて、ストンと私の隣に落ちる。




「ど、どうしたの?」

「もしかしたら、可能性の話なんですが、勝てる方法があるかも知れません」




 グランツは、予想はつかないが、もしかしたらいけるかも知れない。そんな顔をしていた。

 でも、全く私は彼の言いたいことや意図が理解できずに首を傾げるほかなかった。まあ、でも、思いついてくれてありがとうと感謝はしている。




「それで、どんな方法なの?」

「エトワール様の魔力を俺にわけてくれませんか?」

「へ?」




 グランツの言葉に思わず本音が漏れてしまった。


 言っている意味が分からなかった。グランツに魔力を注ぐとはどういうことなのだろうか。闇魔法ではないから、魔力の反発が起きることはないだろうけど、魔力のない人間に対して、魔力を注ぐのもまた身体に毒なのだ。それも視野に入れたとき、グランツの言っていることが分からなかった。彼もそれぐらい理解しているはずなのだが。

 そうして、ふと顔を上げれば、グランツは真剣そのものな目を向けていて、これはマジだと思った。ちゃんと策あってのことだろうけれど、イマイチ何がしたいのか分からない。




「ええっと、何で?」

「何でとは?」

「い、いや、グランツの言っていることがちょっと理解できないというか」




 そう言うと、私の後ろからブライトがやってき、肉塊の攻撃を防ぎながら、説明を付け加えた。




「以前、エトワール様が僕に魔力を分け与えてくれたことあったじゃないですか。ほら、あのドラゴンとの戦いで」

「う、うん……」

「聖女の魔力を注がれた人間、若しくは魔力を分け与えられた人間は一時的ですが覚醒します。多分、グランツさんはそれをいいたかったんだと思います」




と、ブライトはわかりやすすぎる説明をする。


 確かに、そんなこともあったなあとぼんやり思い出しつつ、それをグランツにやって欲しいと言うのだ。あの時、現場にはブライトしかいなかったため、グランツがそれを知っていることに不思議に思ったが、ブライトに聞く、と言うことも可能なわけだし、知っていても何も不思議なことはなかった。私が無知すぎるだけに。




「で、でも、大きな魔力は身体に影響が出るし、グランツは魔力がない訳じゃん。だったら……」

「――――俺は、大丈夫です」




 ビシッと、グランツはそう告げた。


 勢いよくグランツの方を見て、私はいあんぐり口を開けるほかなかった。何が大丈夫なのか分からない、出もその顔を見ていると、少しだけ光の灯った翡翠の瞳を見てみると、賭けてみる価値はあるような気もしてきた。でも、これをしたとしてグランツがもし倒れてしまったら。そう考えると、リスクがある気がする。




(でも、その人の力を一時的に底上げ出来るのなら、聖女の魔力と自分の魔力を混ぜてあの肉塊にぶち込むことが出来るのなら、そりゃ、勝ち目があるかも知れないけれど……)




 本来聖女がどういう立ち回りで力を持っているか、まだ理解しえていないところもある。だからこそ、周りの意見を聞いて、少しでも有効活用できればいいと思っている。けれど、実際やってみて失敗したらと、リスクを恐れてしまう。

 まあ、混沌に対しては特攻だけれど、他の敵に対してはどうかは分からないし、覚醒というぐらいだから、それはもう凄い力が出せるに違いない。人間の潜在能力を底上げする力が、聖女にあるとするのなら。


 私は迷った後、グランツを見た。グランツは覚悟を決めたような顔をしていて、何だか頼もしかった。




「わ、分かった。でも、絶対に倒れないでね」




 魔力の注ぎ方は、治癒魔法をかけるときと殆どやり方は一緒だろう。魔力もまだ、二人にあげられるぐらいは残っているし、余るぐらいあるから……

それでもそんなことを考えていると、ブライトがスッと手を挙げた。




「エトワール様」

「な、つ、次は何?」

「もしよければ、僕にも貰えませんか?」

「ぶ、ブライトにも!?」




 確かに、二人分残っていると自分の中で計算は出来たが、ブライトまで言ってくるとは思わなかった。でも、悪用しそうな顔もしていないし、ブライトもその方がいいと分かっているのだろう。ブライトは、一度一時的にだが覚醒をしている訳だし、ブライトの方が慣れているというのもある。

 でも、ブライトはあの後完全に疲れたみたいな様子だったから、覚醒後はかなり体力がいるのだろう。



(はあ……訳わかんない)




 心の中でため息をつけば、あの憎たらしいウィンドウがヴンと現われた。




【聖女の魔法『覚醒』が使えるようになったよ! 攻略キャラに魔力を注いでみよう!】




(タイミングがいつもよく分からないのよ!)




 というか、前にも一度やったことがあるんだけど? とツッコミを入れたい気持ちを抑えながら、完全に自分のものとして使えるようになったことだろうと、取り敢えずそのままの意味で飲み込んだ。これからは頻繁に、魔力の余力があれば、攻略キャラのステータスを底上げできるのだと思うと、確かにこの魔法は使えると思う。いよいよ聖女らしい力だと、私は少しだけ楽しくなってきた。


 私は、グランツとブライトを交互に見て、二三回頷いた。


 そうして、彼らの胸に手を当て、魔力を彼らに分け与えることをイメージ、念じる。魔法の発動にはイメージが必要となってくる為だ。




(……うっ、気を抜いたら持っていかれそう)




 二つの魔法を同時に使うことは未だになれていない。だから、それと同じで二人に一気に魔力を注ぐことにも慣れていないのだ。私は、意識が持っていかれそうになりながらも、二人に注げるだけ魔力を注ぎ込む。

 すると、彼らの身体は彼らの瞳の色と同じオーラを纏い始める。そして、フッと彼らの内側から力が湧いて出てき、風が吹いた。




「……っ」




 目を開けば、ブライトとグランツの髪色は仄かに変化していた。ブライトは艶やかな黒髪の先がアメジスト色に、グランツは亜麻色の髪の毛先が翡翠色に。そうして、私と同じように目を見開いた彼らの瞳は、宝石のように爛々と輝いていた。





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