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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第九章 変化、そして……

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11 恐怖の対象




 ずんと、身体にのしかかるようなパイプオルガンの音が響く。

 教会という割には妙に辺りが黒っぽいと言うか薄暗さを感じた。




「エトワール様?」

「あっ、えっと、見てただけ!」




 辺りを初めてきた場所に落ち着かない子供のように見渡していると、先を歩いていたブライトが足を止めて、私の方を振返った。後ろからついてきていたグランツもいつの間にか隣を歩いているしで、周りをよく見ていなかったんだと思う。それぐらい、不思議な空間だと思ったのだ。

 あの神聖な雰囲気が漂う、神殿とはまた違う、確かに、ヘウンデウン教の混沌の気配がかすかにするように感じた。




(嫌な空気ってほどでもないけれど……)




 パイプオルガンの音や、歩くたびに、カツカツと地面を靴が叩く音が響くばかりでそれ以外の雑音がしなかった。こういう所は好きだが、一人では来ようと思わないなあ、などと思いつつ、私は開けた場所に出てもう一度辺りを見渡した。

 元々、女神を信仰していた教会だけあって、所々にそれが残っているように思えたのだ。悪しからず。




「ねえ、ブライト、もう一回さ……災厄について教えて貰える?」

「災厄についてですか?」

「そう。ちゃんと知っておかないといけないきがして……って、ああ、えっと、私の解釈が会っているかなあって言う話であって」




 私は、咄嗟に誤魔化した。一応聖女である為そういうのを知っていなければならないというか、知っているのが当たり前のはずなのにと思われてしまう気がしたからだ。今更な気がしたが、何となく、周りからの視線を感じるが為にそう言ってしまった。妙な視線を辺りから感じてしまう。

 本当のエトワールが何処まで知っていたかとか、ヒロインであるトワイライトが此の世界や災厄、女神、混沌についてどれだけ知っていたかは分からないが、もう一度深く知っておくべきだと思ったのだ。

 そんな風にブライトを見ていれば、ブライトは何を疑うわけでもなく「わかりました」といってくれた。




「災厄とは、混沌が転生し、この世に再び生まれ落ちるときから始まる現象です。数百年に一度なので多くはありませんが。災厄はそれはもう天災被害や戦争など多くの死者が出る異常現象です」




 災厄――――それは、人と自然が狂う災害のことだと。


 地震、津波、日照り、干ばつ、竜巻台風、洪水。場所によって天災は様々だが、自然災害が頻繁に起きるようになるとか。自然災害など人の手によって留められるものでもないし、災厄が始まると魔力が減るらしいため、自分の身を自分で守ることもままならなくなるのだとか。

 そして、魔物が凶暴化し、人々も異形の形に変わってしまう。これは、前の災厄の調査にて見た現象だ。誰かが手を加えることもあるが、人の形が、人ならざるものになってしまう危険性だってあるらしい。

 その上、災厄が始まると、人々は疑心暗鬼になり、誰一人として信じられなくなるために戦争が勃発するとか。紛争も、内戦も。兎に角、人々の弱い心を、マイナスの感情が膨れあがるのだとか。


 最後には、太陽が昇らない永遠の闇夜が広がると。


 ブライトはそう説明して、今その災厄が始まって閉まったといった。元々、ブライトの弟、ファウダーが生れた時点でその災厄は始まりだしたわけだが、この間、ファウダーがかなり力を蓄え復活したため、完全に引き金が引かれてしまったらしい。遠くの国だが、豪雨に見舞われ、水没寸前だと聞いたとか。

 私達の目に見えていないところで色々と起きているのだ。ラスター帝国も、前までは、昼間の時間が長かったのに、今は夜の時間が長いように感じる。すぐそこまで、災厄の影響は出ているのかも知れない。




「天災については、先人達の教えから、仕方の無いもの、抗えないものとして考えられているので……ですが、恐ろしいことには変わりませんし、僕はその災害が怖いです」

「……ブライト」




 ブライトは、母親を火事で失っているからか、そう言った現象が苦手なようだった。目の前でそれも子供の時にそんなことが起きてしまったら、トラウマになるに違いない。

 自然災害ほど怖いものなんてないだろう。自分たちが如何に惨めでちっぽけな存在かと教え込まれるようで、本当に言葉では言い表せないほどの恐怖に襲われる。幸い、私は一度も経験したことないが、これからそれが起きるかも知れないと思うと、事前に分かっていたとしても怖い。


 ブライトは、私の方を見た。




「でも、エトワール様がいるので安心しているところもあります」

「私が?」

「はい、エトワール様は聖女様ですから」

「あ、ああ……」




 久しぶりにその単語をと言うか、ブライトに聖女だと言われた気がするとぼんやり思いながら、何処か期待というか安堵感に満ちたその目で見られると、何て言えば良いか分からなくなる。

 私は、実際エトワールの身体を乗っ取っている転生者な訳だし本来であれば、エトワールは闇落ちしてラスボスになるわけだし、本物の聖女は今闇落ちしているし。


 私に何か出来るのかと、不安になってしまう。


 期待されるのも、ブライトから聖女だって頼りにされるのは勿論嬉しいし、此の世界にきてから、私のことを信用してくれたり、信頼してくれたりしてくれるのは攻略キャラや本当に私の周りにいてくれる人だけだったから。その人達以外からはもの凄い罵倒やら何やらを受けて精神がすり減っていたのだから。

とはいえ、聖女だから。貴方がいるから大丈夫と言われても、私だって怖いし、何か出来るのか本当に分からない。だからこそ、ブライトに色々と教えて貰っている最中なんでけど。




「ぐ、グランツも!矢っ張り、災厄って怖い?」




 私は話を逸らすために、グランツにそんな話題を振った。話題的に可笑しくないため、ブライトも、興味があるといった感じにグランツを見ていた。

 因みに、今回今現時点で正式な私の護衛騎士であるアルバを置いてきたのは、彼女にリュシオルの事を守ってもらおうと思ったからだ。アルバは一緒にいきたいと言っていたが、この間の事もあってリュシオルの事を、私の世話をしてくれたメイド達を守って欲しいと頼んできた。もうあんな目に遭いたくないし、何の罪もない彼女たちが無惨に殺されるのを見たくないと思ってしまったから。何もなければ良いのだけれど。だからこそ、アルバに任せたと言うこともあるのだけど。




(グランツはどうなんだろう。顔に出ないし……)




 実のところ、グランツの返答には私も興味があった。

 これまで、聖女の護衛になればとか、平民上がりの騎士だ……とか、人間くさいグランツ、でも顔にはそれが一切出ないグランツだったけれど、やはり、災厄に対する恐怖というか、そういうのがあるのではないかと思ったのだ。

 いってくれないし、騎士だからそういう弱音は吐いていけないのだろうと思っているのだろうかと。

 そんな風に見ていれば、グランツは、少し考えた後にゆっくりと口を開いた。




「災厄は勿論恐ろしいですし、自分が生れたこの時代で起きるのだと思うと実感がありません。自然災害はブリリアント卿のいったとおり、どうにもならないものですが……俺はそれよりも、人間が怖いです」




と、そこまで淡々と言って目を伏せるグランツ。


 意外というか、予想外の答えに私とブライトは顔を見合わせた。まあ、予想できなかったわけではないが、流れてきに自然災害の方が怖いと思っていたため、その角度から言われるとどう反応するべきか分からなかった。




「人間が……」

「はい。現に、ヘウンデウン教に占領された国、ラジエルダ王国も、一人の裏切りによってヘウンデウン教に乗っ取られてしまったわけですし、そういう人の汚い部分が、誰かを陥れて自分だけ幸せになろうとするその思いが怖いと思いました。これは、俺の意見ですけど」




 そう言って、グランツは目を開き、空虚な翡翠の瞳を私達に向けてきた。

 ラジエルダ王国というのは、元々ラスター帝国の友好国だったが、数年前に裏切りによってヘウンデウン教の手に堕ちてしまった国なのだ。今や、ヘウンデウン教の拠点はラジエルダ王国といっても過言ではない。そこに、トワイライトもいる。


 だが、グランツの口からその国についての話が出るのは意外だった。確かに、アルバも知らないような事も知っていたし、何かとラジエルダ王国について知っているらしいけど、その話題を私達以外にもしているのだろうかと。




(うーん、私達の前だけだと思うんだけど、何だろう……)




 彼の口からそれを聞くたびに、と言っても二回目だけど、何か不思議な気持ちになる気がした。故郷を懐かしむようなそれに、私はどうも引っかかりを覚えてしまう。





「ラジエルダ王国ですか……」

「そうです、ブリリアント卿」




 口を開いたのはブライトで、ブライトはグランツを下から上へ見て、一度何かを確かめるように頷いた。グランツは、相変わらずの無表情だったが、二人だけに分かる会話をしているような気もして、置いてけぼりを喰らってしまった。




「確かにそうですね。人間の弱い心というのは、つけ込まれやすい、利用されやすいものですから」




 ブライトはそう話を終わらせて、いきましょうか。また歩き出した。どうも、無理矢理話を終わらせたような気がして鳴らなかったのは気のせいではないだろう。

 私は、私の後をついてくるグランツにこそりと耳打ちした。




「グランツ、何かあるの?」

「何かとは?」

「だから、ラジエルダ王国の事……前もその話よく知っていたというか、食いつきが良かったからと言うか」




 私がそういえば、グランツは少し立ち止まり首を横に振った。否定の意味なのだろうが、私にはそう見えない。何かを知っているけど、何も言えないような、そんな表情をしている。




「気にしないでください。エトワール様。どうせ、昔のことです」

「……グラン――――」

「エトワール様行きましょう」




 そう言って、私の手を引いてグランツは歩き出した。

 ああ、矢っ張りそうなんじゃないかって……でも、確証が持てなくて、どうにか彼の口から言葉を聞きたいと思った。




(だからといって、どうと言うことはないけど……全部それで繋がる気がしたから)




 自分はよくある、鈍感主人公じゃないと言い聞かせて私はグランツとブライトの後に続いて足を進めた。




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