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39 追加キャラ




 私の魔法ではびくともしなかった大蛇を一発で倒した人物。


 目の前に落ちた大蛇の頭は今にも動き出しそうで怖かったが、それよりもこんな大蛇を一人で倒した男の方が私にはよっぽど怖かった。最終的に怖いのは人間だとよく言うが、全くその通りだと私は思う。

 まあこの場合は、そんなことよりも、意外さが増さって私は言葉が出なかった。




(なんで此奴がここに?)




 正義のヒーローのように颯爽と現われ、大蛇を討伐した人物。

 私は、一向に警戒心が解けずにいた。倒してくれた、恐怖から解放される……何てこと無かった。




「……何でアンタがここに?」

「酷い言いぐさ。助けてあげたのに」

「…………たすけてなんて言ってない」

「じゃあ、あのまま死にたかった?」




 クスクスと笑うものだから、余計に腹が立って私は拳をギュッと握った。殴ったところで返り討ちにされるのは目に見えているのに。

 そんな風に、怒りに耐えていれば憎たらしいウィンドウが現われ、絶望的なクエスト失敗を継げる。




【クエスト:大蛇を討伐しよう!失敗!! 

 攻略キャラ ラヴァイン・レイが助けに来たよ】




(……攻略キャラ)




 目を擦ることなく、かっぴらいて私はその文字を見つめた。そこには確かに「攻略キャラ」と書かれていたのだ。

 続いてこう表示された。




【条件を満たしたことにより隠しキャラが追加されたよ 追加キャラの詳細を確認しよう!】




(狂ってるの?このゲーム)




 運営に殴り込みにいきたい勢いだったが、次元を越えるのは出来ないだろうと、もう戻れないであろう世界に殺意を向けつつ、私は「追加キャラ」である、絶対に助けに来たわけではないであろう男の顔を見る。

 濁った満月の瞳に、くすんだ紅蓮の髪。隠しキャラというのなら、もっと格好いい人物にして欲しかったとつくづく思う。それに、同じ髪色の人間はいらないと、そこは違う髪色だろうと思った。例えば、銀髪とか。

 まあ、何を言っても現実がかわるわけじゃないし、追加キャラの髪色がどうだって構わない。まず、このゲームは恋愛をさせてくれないのだ。乙女ゲームという肩書きなのに。




(それに、よっぽど兄の方が綺麗な瞳と髪色をしている……)




 脳裏に焼き付いて離れない鮮やかな紅蓮は、それはもう目の前の男と比べようがなかった。母親も父親も同じだというのに、こうも変わるもなのかと不思議になるぐらい。




「何?見惚れちゃった?」

「なわけないでしょう」

「素直じゃないなあ、エトワールは」




 そう軽口を叩く、隠しキャラであり追加キャラのラヴァインは肩をすくめて、まるでこっちが悪いみたいにやれやれと首を横に振っていた。

 誰もたすけてなんて言っていないし、まさか此奴が助けに来るなんて思いもしなかった。本当に、なんで? という疑問しか浮かばない。本来であれば、アルベドかリースか……と思ったけれど、リースの線は薄いように思える。だったら、矢っ張りアルベドなんじゃないかって少し期待している部分はあった。彼も彼で、減らず口をたたくけれど、彼といて悪い気はしないからだ。それに、彼なら信頼できるし。そう思っていたのに、助けに来たのはラヴァインだった。いや、もう、全て此奴の手のひらの上のような気がしている。


 私は、警戒を一切解くことが出来なかった。彼が攻略キャラになったからと言って、敵という立場が変わるわけではないだろうし、そもそも、彼が何のためにここに来たのか、何故ここにいるのかすら分からない。



 ただ、もし私の予想が合っていたとするのなら――――




「ねえ、エトワール俺の話、聞いてる?」

「聞いてないわよ」

「ほんと、助けてもらったくせにさあ。別に良かったよ?エトワールがあれに食べられても。俺には何のデメリットもないし。泣き叫んで助けてーって言われたら、グッときちゃったかもだけど」

「じゃあ、なんで助けたの?」




 結局何が言いたいのか分からない、話の見えないラヴァインにいらけがさして睨んでやれば、彼は目を丸くさせた。こちらが何で怒っているか分かっていない様子だった。

 私だって彼のこと何にも分からない。お互い様だと思う。




(ラヴァインってだけで全部全部胡散臭く見えるし、思えるし、最悪)




 これがもし、他の攻略キャラだったらどうにかなっただろうし、ここまで気を張らなくても良かったのだろう。まだ、ラヴァインよりかは他の攻略キャラの事なら知っているつもりだし、関わってきた時間が違うため、多少は彼らのことを理解しているつもりだ。あっちがどう思っているかは分からないけれど、少なからず、私は彼らのことを信用している。


 リースやアルベドは勿論、負傷し先に返したブライトも、元護衛で今臨時で護衛に戻ってきてもらっているグランツも、あの双子のルクスとルフレも。それなりに理解しているつもりだ。

 彼らのことなら、きっとラヴァインよりも分かっている。

 ラヴァインという男のことはよく分からない。平気で嘘をついて、馬鹿にするような笑みを貼り付けて。かと思えば、私を助けるようなマネをして。何をしたいのだろうかと。




(でも、そもそも此奴のせいで今回こんなことになっているのに……助けてくれてありがとうなんて言えない)




 そもそも言っていないのだが。と思いつつ、私はラヴァインを見た。

 彼は、ヘウンデウン教の幹部で敵で、今回北の洞くつにいく原因になったのも、彼の部下か誰かしらないけれど、襲撃してきたからであって。




(それを確かめるチャンスでもある……けど)




 遠回しに言ってみようかと悩んでいると、ラヴァインの方から口を開いた。




「その顔、気になってるんじゃない?」

「な、何を……?」

「聖女殿襲撃のこと。俺の事疑ってるでしょ」




と、ラヴァインはニヤリと口角を上げる。


 その表情から、彼が関わっているのか、それとも関わっているのかは分からなかった。だが、話を切り出してくれたことで多少は聞きやすくなった。

 けれど、これが罠だという可能性もある。だとしたら、何の罠だという話になるのだけど……

 ここは乗るべきかと、私はふぅ……と息を吐いて呼吸を整えた。先ほどまで、大蛇と戦っていたため心拍数も、呼吸も上がっていたから、落ち着かせなければと思ったのだ。そうして、ようやく落ち着いたところで、私はラヴァインをみた。


 どうしても、アルベドと重なってしまう部分もあって、そして、なんとも言えない彼の雰囲気に押されているところもあり、少し逃げ腰になってしまう。出会った時からそうだったけれど、どうも苦手だ。




「……疑ってる。そりゃ、そうでしょ。ヘウンデウン教の中にアンタらの家紋が刻まれたナイフを持ってる奴らがいたんだから」

「それじゃあ、兄さんって言う線考えなかったの?」

「アルベド?」

「だって、兄さんもそれ使うじゃん」




 そうラヴァインに言われて返す言葉が見つからなかった。

 けれど、アルベドがヘウンデウン教と繋がっているわけはないし、それは百%とは言えないけれど、けれど、彼はそんなことしないだろうと思った。そもそも、聖女殿にいくのを嫌がるような人だし、結界が緩まっているというのを知っているのはラヴァインだけだと思った。


 彼が、あの式典の時に侵入したから。




(アルベドを、信じたいから……何だろうけど)




 どうせ、ラヴァインがかまをかけてきたに決まっている。アルベドはそんなことするはずがない。と心の何処かで思っていた。そうであって欲しいと。

 ラヴァインは「よっぽど兄さんのこと信用しているんだね」と嘲る。何が可笑しいのかと、睨めば、彼は睨まないでとでも言うように首を横に振った。




「そうだね、今回の場合俺の部下……とまでは言えないけど、あのナイフを渡したのは俺だ」

「じゃあ、矢っ張りアンタが」

「でも、別に指示を出しただけでやれとまではいってないよ。勝手に遂行したのは彼奴らだ」




と、屁理屈を言う。


 そんなの言い訳で、指示を出した時点で確信犯だと思った。そのつもりで襲撃させたのだと。自分の手を汚したくないからだろうか。彼の実力はこの間よく分かった。アルベドと互角。だから、彼が表に出れば勝てる相手は少ないだろう。

 でも、それを部下にやらせた理由は何だったのだろうか。

 少しでもリスクを減らすため? よく分からないけれど、彼が言いたいのは「自分は悪くない」という事だろう。全く子供だと、呆れてしまう。




「……アンタは自分が悪くないって言いたいの?」

「そう。俺は悪くない」

「じゃあ、指示を出した理由は?」

「一応、ヘウンデウン教のため。まあ、そういえば聞こえがいいからだね。俺は別にヘウンデウン教の事どうでもいいと思ってるから」

「はあ?」




 ほいほいとどこからそんな言葉が出てくるんだと言うほどに、良くまわる口だと私は呆れてものも言えなくなってしまった。


 やはりよく分からない。

 私は、彼の頭上に表示された好感度を見上げる。




(久しぶりに0とかみたな……)




 ラヴァインの上に表示されている好感度はまるにちかい楕円型の、いやもう0何だけど、0%と輝いており、いつぶりにみる好感度だろうと、私はぼんやりと思っていた。

 誰かさんのせいで、0%を一つ見逃しているが、マイナスまで下がった彼でさえ、今や80を越えているのだからたいしたものだと思う。

 ラヴァインはそんな風に見上げている私を不思議に思ったのか首を傾げた。




(いけない、彼らには見えないんだった)




「何よ」

「何って、こっちの台詞、何みてるの?」

「別に。頭にゴミ乗っけてるなあと思って」




 私は、そう言って顔を逸らした。

 すると、ラヴァインはプッと吹き出して、私の髪をすくいあげ、キスを落とす。




「矢っ張り、俺、エトワールの事好きかも」





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